イレウス

突然の激しい腹痛や吐き気、お腹の張りを感じたことはありませんか。それは、食べた物や消化液の流れが腸で止まってしまう「イレウス」という危険な病気のサインかもしれません。「腸閉塞」という言葉で知られていますが、中には腸が壊死し、命に関わる緊急性の高いものも存在します。

実は、イレウスの最も多い原因は、お腹の手術後に起こる「癒着」であり、全体の5〜8割を占めるとも言われています。そのため、過去に手術経験のある方にとっては、決して他人事ではない、誰にでも起こりうる身近な病気なのです。

この記事では、イレウスの詳しい種類や原因、見逃してはいけない初期症状、そして手術後の回復を早める最新の治療法までを徹底的に解説します。ご自身や大切な人の体を守るために、正しい知識を身につけましょう。

イレウスの概要

イレウスとは、食べた物や消化液などが、腸の中をうまく流れなくなってしまう状態を指します。「腸閉塞」という言葉で知られていますが、医学的には少し意味が異なります。

イレウスは、原因によって大きく2つの種類に分けられます。

  • 機械性イレウス(腸閉塞) がんや、手術後にお腹の中で腸同士がくっついてしまう「癒着(ゆちゃく)」が原因で、腸が物理的にふさがってしまう状態です。
  • 機能的イレウス 腸自体はふさがっていませんが、動き(蠕動運動)が麻痺したり、けいれんしたりして、内容物を先へ送れなくなる状態です。

イレウスの最も多い原因は、お腹の手術の後に起こる癒着です。そのため、手術はイレウスの主な原因の一つとなりえます。

しかし、近年の医療技術の進歩により、手術の方法を工夫する研究が進んでいます。例えば、お腹の手術で腸をつなぎ合わせる際に、お腹の中で行う方法があります。この方法は、術後に腸の動きが鈍くなる「麻痺性イレウス」の発生を減らす可能性があると報告されています。

イレウスは、腹痛や吐き気といったつらい症状を引き起こします。どのような病気かを知り、適切に対処することが大切です。

イレウスの種類

イレウスは、腸の内容物が流れなくなる原因によって、大きく2つの種類に分けられます。

腸の通り道が物理的にふさがってしまう「機械性イレウス」と、腸の動き自体が悪くなる「機能的イレウス」です。

機械性イレウス(腸閉塞)

腸が実際にふさがったり、ねじれたりする状態です。 このタイプで最も重要なのは、腸への血の流れが保たれているかどうかです。

  • 単純性イレウス(閉塞性イレウス) 血流は保たれていますが、がんや胆石、手術後の癒着などが原因で、腸の中がふさがってしまう状態です。
  • 複雑性イレウス(絞扼性イレウス) 腸がねじれて締め付けられ、血流が悪くなる状態です。 腸の細胞が死んでしまう(壊死)危険があり、緊急手術が必要になることが多い、非常に危険なタイプです。

機能的イレウス

腸そのものはふさがっていませんが、動きに問題が起きて内容物が流れなくなる状態です。

  • 麻痺性イレウス 腸の筋肉が麻痺し、動きが鈍くなる状態です。 お腹の手術後によく見られますが、最近では予防や改善のための研究が進んでいます。
    手術後の回復を促すプログラム(ERAS)を導入したり、手術前に腸を刺激したりすることで、麻痺性イレウスの発生を抑えられると報告されています。
  • 痙攣性イレウス 腸の一部が異常に収縮し、けいれんを起こすことで内容物が先に進めなくなる状態です。

大分類

小分類

どんな状態?

機械性イレウス

単純性(閉塞性)

腸がふさがるが、血流は保たれている

複雑性(絞扼性)

腸がねじれて血流が悪くなる(緊急性が高い)

機能的イレウス

麻痺性

腸の動きが止まってしまう(手術後など)

痙攣性

腸がけいれんしてしまう

イレウスの原因

イレウスが起こる原因は、大きく2つに分けられます。 一つは、腸の通り道が物理的にふさがってしまう場合です。 もう一つは、腸の動き(蠕動運動)が悪くなる場合です。

1. 腸が物理的にふさがってしまう「機械性イレウス」

食べ物の通り道が、実際に何かで妨げられる状態です。

  • お腹の手術による癒着(ゆちゃく) 最も多い原因で、イレウス全体の5〜8割を占めます。 お腹の手術の傷が治る過程で、腸同士がくっついてしまい、 食べ物の通り道を狭めたり、ねじったりします。
  • がんなどの腫瘍 大腸がんなどが大きくなることで、腸を内側からふさぎます。
  • 腸のねじれやヘルニア(脱腸) 腸自体がねじれたり(腸捻転)、お腹の壁の弱い部分から 腸が飛び出して締め付けられたりして起こります。

2. 腸の動きが悪くなる「機能的イレウス」

腸自体はふさがっていませんが、動きが鈍くなる状態です。

  • お腹の手術後 手術のストレスや麻酔、痛み止めの影響で、 腸の動きが一時的に麻痺することがあります。 特に「オピオイド」という種類の医療用麻薬が、 腸の動きを鈍くさせる原因の一つと考えられています。
    そのため近年、手術後の回復を促す工夫が進んでいます。 例えば「ERAS(術後回復促進プログラム)」では、 オピオイドの使用をできるだけ控え、早期に食事や 運動を始めることで、腸の回復を助けます。 また、手術前に腸を刺激しておくことで、 術後のイレウスが減るという研究報告もあります。
  • 薬の副作用 一部の痛み止めや咳止め、精神疾患の薬なども、 腸の動きを弱める原因となることがあります。
  • お腹の中の炎症や病気 虫垂炎(いわゆる盲腸)や腹膜炎などの強い炎症や、 血液中のカリウムが減るなどの体の変化も、 腸の動きを麻痺させる原因となります。

イレウスの症状

イレウスになると、腸の動きが止まってしまいます。 食べ物や消化液が行き場を失い、体にサインを送ります。 どのような症状が出るかを知り、早めの対応につなげましょう。

とくに代表的な症状は、次の4つです。

  • お腹の痛み
  • 急にギューッと強い痛みが襲い、少し楽になっては、 また痛くなる、という波のある痛みが特徴です。
  • 腸が無理に内容物を送ろうとすることで起こります。
  • ただし、痛みが途切れず続く場合は要注意です。
  • 腸がねじれて血の流れが悪くなる危険なサインです。
  • 吐き気・嘔吐
  • 腸の中身が先に進めないため、口の方へ逆流します。
  • はじめは食べた物ですが、次第に胃液や胆汁を吐き、 最終的には便のような臭いのものを吐くこともあります。
  • お腹の張り(腹部膨満感)
  • 腸の中にガスや消化液、便などがどんどん溜まります。
  • そのため、お腹が風船のようにパンパンに張ります。
  • 外から見てもお腹がぽっこりと膨らんで見えます。
  • 便やおならが出なくなる
  • 腸の動きが完全に止まると、便もガスも出ません。
  • とくにおならは、腸が回復してきたかを知る重要なサインです。
  • 手術後におならが早く出るように、食事を早期に始めたり、 腸を刺激したりする工夫が有効という研究報告もあります。
  • それほど「おならが出るか」は回復の指標として大切です。

【イレウスかも?症状チェックリスト】 ☐ 強いお腹の痛みが波のようにやってくる ☐ 吐き気があり、実際に吐いてしまう ☐ お腹がパンパンに張っている ☐ 便もしくはおならがまったく出ない ☐ 熱が出たり、脈が速くなったりする

これらの症状は、イレウスの危険なサインかもしれません。 一つでも当てはまれば、すぐに医療機関を受診してください。

イレウスの検査・診断

イレウスが疑われる場合、まずはお話を聞く問診から始めます。 いつからどのような症状があるか、痛みの強さなどを伺います。 過去のお腹の手術歴や、服用中のお薬も診断のヒントです。

特に手術後のイレウスでは、痛みを抑える薬が原因になることも。 「オピオイド」という種類の鎮痛薬は、腸の動きを弱めます。 そのため、薬の使用状況は診断において重要な情報となります。

次に聴診器でお腹の音を聞き、手で触れて状態を確かめます。 腸が動く音(腸蠕動音)や、お腹の張りを直接確認します。 これらの診察で、お腹の中で何が起きているか推測します。

主な画像検査

診察の後は、画像検査でお腹の中を詳しく調べます。 原因や緊急性を判断するために、非常に重要なステップです。

検査の種類

主に調べること

腹部X線検査

腸の中にガスや液体がどれだけ溜まっているかを確認します。<br>イレウスに特徴的な「ニボー像」という所見を探します。

CT検査

腸が詰まっている場所や原因を特定できます。<br>腸の血流が悪くなる緊急性の高い状態(絞扼性イレウス)かを見極めるため、最も重要な検査です。

CT検査で腸の血流に問題がないと判断されれば、治療に進みます。 最近の研究では、手術後に早く食事を始めることが推奨されます。 腸の回復を促し、合併症を減らす可能性があるとされます。 そのため、検査で安全性を確認しながら、食事再開も検討します。

イレウスの治療

イレウスの治療は、まず腸を休ませることが基本です。 食事を止め、必要な水分や栄養は点滴で補う「保存療法」を行います。 お腹がパンパンに張っている場合は、鼻から細い管を入れます。 腸に溜まった消化液やガスを抜き、腸の圧力を下げます。

一方で、腸がねじれて血の流れが悪くなる「絞扼性イレウス」や、 保存療法で改善しない場合は、緊急手術が必要になることがあります。 手術では、腸のねじれを直したり、癒着をはがしたりします。

進化する術後ケア「ERASプログラム」

近年、手術後の回復を早めるための工夫が注目されています。 「ERAS(術後回復促進プログラム)」と呼ばれる取り組みです。 昔は「手術後は安静第一」でしたが、今は考え方が変わりました。 積極的に体を動かし、早く回復を目指すのが今の主流です。

【手術後の回復を助ける主な取り組み(ERAS)】

項目

内容

食事の再開

手術後、なるべく早く食事を始めることで、腸の回復を助け、合併症を減らす可能性が報告されています。

痛みの管理

手術後の痛みを抑える薬の選択も重要です。「オピオイド」という種類の鎮痛薬は、腸の動きを弱めるため、使用を控える工夫がされています。

早期の運動

ベッドで安静にしすぎず、早めに起き上がって歩くことで、腸の動きも活発になり、回復を促します。

その他の工夫

手術前に腸を刺激する処置を行ったり、術後に下剤を早めに使用したりすることも、回復を助ける方法として研究されています。

これらの治療法は、イレウスの種類や患者さんの状態に合わせて、 医師が最適なものを選択します。気になることは相談しましょう。