新生児乳児消化管アレルギー

ミルクを飲んだ後に赤ちゃんが何度も吐いてしまったり、オムツに糸くずのような血が混じっていたりして、不安に感じている方もいるのではないでしょうか。その症状、もしかすると「新生児乳児消化管アレルギー」という病気かもしれません。

この病気は、じんましんなどの皮膚症状が出ないためアレルギーと気づかれにくいのが大きな特徴です。ミルクなどを口にしてから数時間〜数日後に症状があらわれるため、原因が分かりにくいことも少なくありません。日本では年間2,000人以上の赤ちゃんが発症する、決して珍しくない病気です。

この記事では、新生児乳児消化管アレルギーの詳しい症状や原因、ご家庭でのチェックポイントについて解説します。大切な赤ちゃんからのサインを見逃さないためにも、ぜひ最後までご覧ください。

新生児乳児消化管アレルギーの概要

新生児乳児消化管アレルギーは、主にミルクなどが原因で、赤ちゃんの胃や腸に炎症が起こる病気です。「新生児乳児食物蛋白誘発胃腸炎」とも呼ばれます。

この病気の大きな特徴は、原因となる食べ物を口にしてから、症状が出るまでに時間がかかる点です。じんましんなど、すぐに症状が出る一般的な食物アレルギーとは、体の中の仕組みが少し異なります。

両者の違いを下の表にまとめました。

比較項目

新生児乳児消化管アレルギー

一般的な食物アレルギー

主に関わる免疫

T細胞

IgE抗体

症状が出るまでの時間

数時間~数日後

数分~2時間後

一般的な食物アレルギーは、体を守る「IgE抗体」という見張り番がすぐに反応して症状が出ます。一方、この病気では「T細胞」という別の免疫細胞が、時間をかけてゆっくり反応するため、症状が出るのが遅れるのです。

日本では、年間に2,000人以上の赤ちゃんが発症すると報告されています。多くは生後1ヶ月以内に症状が見られ、赤ちゃんのアレルギー疾患の中では、最も早い時期にあらわれる病気のひとつです。

多くの場合、赤ちゃんの成長とともに消化管の機能が発達し、自然に改善することが期待できます。2歳になる頃には約9割のお子さんが、原因となった食べ物を食べられるようになります。

新生児乳児消化管アレルギーの種類

新生児乳児消化管アレルギーは、症状のあらわれ方や、炎症が起きる場所によって、主に3つのタイプに分けられます。それぞれの特徴を詳しくみていきましょう。

1. 食物蛋白誘発性胃腸炎(FPIES)

(しょくもつたんぱくゆうはつせいいちょうえん) おう吐や下痢、血便が主な症状としてあらわれます。 口からおしりまでの食べ物の通り道全体に炎症が起きる可能性があり、症状が強く出やすいタイプです。

2. 食物蛋白誘発直腸大腸炎(FPIAP)

(しょくもつたんぱくゆうはつちょくちょうだいちょうえん) ネバネバした粘液と血液が混じった便(粘血便)が特徴です。 炎症が消化管の出口に近い大腸や直腸に限られているため、赤ちゃんの機嫌は良く、体重も順調に増えていることが多いのが特徴です。

3. 食物蛋白誘発胃腸症(FPE)

(しょくもつたんぱくゆうはついちょうしょう) 2週間以上続くような、なかなか治らない下痢がみられます。 主に小腸で炎症が起きるため、栄養の吸収がうまくいかず、体重が増えにくくなることもあります。

これら3つのタイプの特徴を下の表にまとめました。

種類

主な症状

炎症が起きる場所

食物蛋白誘発性胃腸炎(FPIES)

おう吐、下痢、血便

食べ物の通り道全体

食物蛋白誘発直腸大腸炎(FPIAP)

ネバネバした血便(粘血便)

直腸、大腸

食物蛋白誘発胃腸症(FPE)

長引く下痢、体重が増えない

主に小腸

このように、同じ病気でもタイプによって症状の重さや対応が異なります。気になる症状があれば、専門の医師による正確な診断を受けることが大切です。

新生児乳児消化管アレルギーの原因

新生児乳児消化管アレルギーは、赤ちゃんの免疫が特定の食べ物を異物だと誤って認識し、攻撃してしまうことで発症します。

その背景には、赤ちゃんの消化管がまだ発達途中であることが大きく関係しています。大人の腸には、体を守るための「バリア機能」が備わっています。

しかし、赤ちゃんの腸のバリア機能はまだ未熟です。そのため、食べ物に含まれるタンパク質が十分に分解されないまま体内に吸収されやすくなっています。

体の中に入ってきた未消化のタンパク質に対して、体の防衛システムである免疫細胞が過剰に反応し、胃や腸の粘膜を攻撃することで炎症が起きてしまうのです。

原因となる食べ物で最も多いのは牛乳由来のミルクですが、母乳や離乳食で口にする食べ物が原因となることもあります。

原因となりやすい食べ物

割合の目安

牛乳由来のミルク

約95%

母乳(※)

約20%

お米

約10%

大豆

約10%

卵

数%

その他

1%以下

※お母さんが食べたものが母乳に移行して原因となります。

牛乳由来のミルクが原因のほとんどを占めますが、母乳で育てている赤ちゃんでも発症することがあります。これは、お母さんが食べた牛乳や卵などの成分が、母乳を通して赤ちゃんに伝わるためです。

赤ちゃんの消化管は成長とともに成熟していきます。そのため、原因を正しく特定し、適切な期間だけ原因食物を避けることが、健やかな成長にとって非常に大切です。

新生児乳児消化管アレルギーの症状

新生児乳児消化管アレルギーの症状は、胃や腸などの消化管に集中してあらわれます。じんましんのように皮膚には出ないため、アレルギーだと気づきにくいのが特徴です。

ミルクなどを口にしてから数時間から数日と、少し時間をかけて症状が出てくるため、原因と結びつけにくいこともあります。赤ちゃんに、次のようなサインがないか確認してみましょう。

  • 繰り返し吐いてしまう(おう吐)
    飲んだミルクなどを噴水のように吐いたり、何度も吐いたりします。食後のげっぷと一緒に出る、少量の吐き戻しとは様子が異なります。
  • うんちが水っぽくなる(下痢)
    うんちの回数が普段より増え、お水のようにゆるくなります。腸で炎症が起き、水分をうまく吸収できなくなるために起こります。
  • うんちに血が混じる(血便)
    オムツに赤い糸くずのような血や、点々とした血が付着します。ネバネバした粘液が混じることも、この病気を疑う大切なサインです。
  • 理由なく機嫌が悪い(腹痛)
    お腹が痛いことで、いつもより激しく泣いたり、ぐずったりします。お腹が張っているように感じられることもあります。
  • 体重がなかなか増えない(体重増加不良)
    ミルクをしっかり飲んでいるのに、体重の増え方がゆるやかになります。腸の炎症で、栄養を十分に吸収できていないサインかもしれません。

これらの症状は、一つだけでなく複数が重なってあらわれることも少なくありません。特に、血便と体重増加不良は、見逃したくない重要な症状です。

赤ちゃんの「いつもと何か違う」という保護者の方の気づきが何より大切です。気になる症状があれば、自己判断せずに小児科やアレルギー専門の医療機関へご相談ください。

新生児乳児消化管アレルギーの検査・診断

この病気の診断は、一般的な食物アレルギーとは少し異なります。じんましんなどを起こすアレルギーで調べる血液検査(IgE抗体検査)では、異常が見つからないことがほとんどです。

そのため、赤ちゃんの症状や生活のご様子を詳しくお伺いしたうえで、いくつかの検査を組み合わせて慎重に診断を進めます。保護者の方からの「いつもと違う」という情報が、診断の最も重要な手がかりとなります。

主な検査は以下のとおりです。

検査の種類

検査でわかること

血液検査

アレルギー反応に関わる白血球の一種「好酸球」の数や、免疫細胞の活動性を示す「TARC」という値を確認します。

便検査

便の中に炎症のサインである「好酸球」がいないかを調べます。腸で炎症が起きているかどうかの直接的な手がかりになります。

食物経口負荷試験

医師の管理のもと、原因と疑われるミルクなどを少量から摂取し、症状の変化を観察します。診断を確定するための重要な検査です。

アレルゲン特異的リンパ球刺激試験

採血した血液を使い、体の外でアレルギー反応が起きるかを調べる特殊な検査です。原因食物を特定する助けになります。

内視鏡検査

症状が重い場合など、必要に応じて行います。胃や腸の粘膜を直接カメラで観察し、炎症の程度を詳しく評価します。

これらの検査は、赤ちゃんの状態に合わせて必要なものを選択します。特に食物経口負荷試験は、安全な環境で慎重に行います。気になる症状があれば、自己判断で食事制限などはせず、まずは専門の医療機関にご相談ください。

新生児乳児消化管アレルギーの治療

新生児乳児消化管アレルギーの治療の基本は、原因となる食べ物を食事から取り除く「除去食」です。原因となっているタンパク質を避けることで、胃や腸で起きている炎症を鎮めていきます。

赤ちゃんの栄養状態や症状の重さに合わせて、治療法を慎重に選ぶことが非常に重要です。

治療の選択肢には、主に以下のようなものがあります。

  • 原因食物の除去 最も多い原因である牛乳由来のミルクを中止することが、治療の第一歩となります。
  • 母乳への切り替え ミルクの代わりに、可能であればお母さんの母乳に切り替えます。
  • 特別なミルクの利用 母乳をあげられない場合や、母乳でも症状が改善しないときに使います。アレルギーの原因となるタンパク質を、あらかじめ細かく分解して作られたミルクです。 – 加水分解乳 牛乳のタンパク質を酵素で細かく分解したミルクです。 – アミノ酸乳 タンパク質を最小単位であるアミノ酸まで分解したミルクです。
  • お母さんの食事制限 母乳を飲んでいる赤ちゃんの場合、お母さんが食べたものが母乳を通して症状の原因になることがあります。その際は、お母さんにも原因食物を控えてもらうことがあります。
  • 入院による栄養管理 おう吐や下痢がひどく、体重が減ってしまうなど症状が重い場合は、入院が必要です。点滴で直接血管から栄養を補給する治療を行うこともあります。

どの治療法を選択するかは、赤ちゃんの状態によって異なります。自己判断でミルクや食事の内容を変更せず、必ず医師に相談しながら治療を進めていきましょう。