吸収不良症候群

しっかり食事を摂っているのに、なぜか体重が減り続ける。あるいは、原因のわからない下痢やだるさが長く続いている。そんな経験はありませんか?その気になる不調、もしかしたら食べた物の栄養をうまく吸収できていない「吸収不良症候群」のサインかもしれません。

吸収不良症候群は、単なる胃腸の不調ではなく、小腸や膵臓、肝臓といった様々な臓器のトラブルが原因で起こり得ます。便が白っぽく油っぽくなる「脂肪便」や、原因不明のむくみ、貧血なども、体が出している重要なSOSサインなのです。

この記事では、吸収不良症候群の隠された原因から、見逃しがちな症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら、長引く不調の正体を突き止めるヒントを見つけてみてください。

吸収不良症候群の概要

吸収不良症候群とは、食事から栄養をうまく吸収できない状態です。 食べたものがエネルギーや体を作る材料として十分に活用されません。 その結果、下痢や体重減少など、様々な不調が現れるのです。

私たちの体は、食べ物を次の3段階で栄養に変えています。

  • 消化
  • 胃や腸が、食べ物を消化液で細かく分解します。
  • 吸収
  • 主に小腸の壁から、細かくなった栄養素を取り込みます。
  • 輸送
  • 取り込んだ栄養を血液に乗せ、全身の細胞へ届けます。

吸収不良症候群は、このいずれかの過程で問題が生じると起こります。 栄養吸収の中心である小腸自体に異常がある場合もあれば、 消化を助ける肝臓や膵臓の病気が原因となる場合もあります。

また、影響を受ける栄養素も患者さんによって異なります。 炭水化物や脂質などほぼ全ての栄養素が吸収されにくくなる場合もあれば、 鉄分や特定のビタミンだけが不足する場合もあるのです。

吸収不良症候群の種類

吸収不良症候群は、原因によって大きく2つのタイプに分けられます。 栄養を吸収する「小腸」自体に問題がある場合と、 消化を助ける他の臓器が原因で起こる場合です。

これを専門用語では、それぞれ「原発性」「続発性」と呼びます。

1. 小腸そのものが原因のタイプ(原発性)

栄養を吸収する小腸の内側の壁に、直接的な異常がある状態です。 栄養を取り込む場所そのものがうまく働かないため、吸収ができません。 例えば、クローン病などの病気で小腸の壁が傷ついている場合がこれにあたります。

2. 小腸以外の臓器が原因のタイプ(続発性)

小腸自体は健康でも、他の臓器の問題が原因で起こるタイプです。 食べ物を細かく分解する「消化」の段階で問題が起きています。 消化を助ける液体を作る、膵臓(すいぞう)や肝臓の病気が原因となります。

2つのタイプの違いを表にまとめました。

種類

原因の場所

なぜ栄養を吸収できないの?

原発性

小腸そのもの

栄養を取り込む場所(小腸)の壁が傷ついているため。

続発性

膵臓・肝臓・胃など

食べ物をとかす液体が足りない、またはうまく混ざらないため。

また、どの栄養素が吸収されにくいかによっても分けられます。 炭水化物や脂質など、ほとんど全ての栄養素が不足する場合もあれば、 鉄分や特定のビタミンだけが不足する場合もあります。

ご自身の不調がどのタイプから来ているのかを正確に知ることが、 適切な治療への大切な第一歩となります。

吸収不良症候群の原因

吸収不良症候群の原因は一つではなく、実にさまざまです。 食べ物の消化や吸収に関わる臓器の病気や、過去の手術が関係します。 原因は、栄養吸収の中心である「小腸」に問題がある場合と、 消化を助ける「小腸以外の臓器」に問題がある場合に大別されます。

1. 小腸そのものに問題がある場合

栄養を吸収する場所である小腸に、直接的な原因があるケースです。 栄養を取り込む機能そのものが低下している状態といえます。

  • 小腸の切除
  • クローン病やがん治療などで小腸を広範囲に切除した場合です。
  • 栄養を吸収するための面積が物理的に足りなくなり、吸収不良が起こります。
  • 小腸の粘膜の病気
  • 栄養は、小腸の内側にある絨毛(じゅうもう)という壁から吸収されます。
  • セリアック病やアミロイドーシスなどの病気でこの粘膜が傷つくと、
  • 栄養を取り込む機能が大きく低下してしまいます。
  • 腸内細菌のバランスの乱れ
  • 小腸の中で特定の細菌が異常に増える病気も原因の一つです。
  • これは「小腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)」と呼ばれます。
  • 増えた細菌が、私たちが摂るべき栄養素を消費してしまいます。

2. 小腸以外の臓器に問題がある場合

小腸自体は健康でも、他の臓器の問題で消化がうまくいかないケースです。 食べ物を細かく分解する「消化液」が不足したり、うまく混ざらなかったりします。

原因となる臓器

関連する病気や手術の例

どのような影響があるか

胃

胃の切除手術

食べた物が消化液と十分に混ざり合わなくなります。その結果、消化が不十分なまま小腸へ送られます。

膵臓(すいぞう)

慢性膵炎、膵臓の切除手術

食べ物を分解する「消化酵素」が不足します。特に脂質やタンパク質の消化に影響が出ます。

肝臓・胆のう

閉塞性黄疸、胆のうの摘出

脂質の消化を助ける「胆汁(たんじゅう)」の分泌や流れが悪くなります。脂っこいものが消化しにくくなります。

このほか、リンパ管の異常で脂質の吸収経路が妨げられることもあります。 このように原因は多岐にわたるため、自己判断はせず、 気になる症状があれば専門医に相談することが非常に大切です。

吸収不良症候群の症状

食べた物の栄養をうまく吸収できなくなると、体は様々なSOSサインを出します。 お腹の調子が悪くなるだけでなく、全身に影響が及ぶのがこの病気の特徴です。 ご自身の体調と照らし合わせ、見逃していないか確認してみましょう。

お腹にあらわれるサイン

まず、お腹の不調として症状が出ることが多いです。 特に、長く続く下痢や、便の異常は重要な手がかりになります。 吸収されなかった脂肪が便に混じる「脂肪便」がその代表です。

▼これって脂肪便?セルフチェック

  • 便が白っぽく、油が浮いたような見た目をしている
  • いつもより量が多く、水に浮きやすい
  • 鼻につくような、酸っぱい独特の強いにおいがする
  • トイレの水を流しても、便器に脂がまとわりつく

これらは、食べた脂肪分が消化・吸収されずに、 そのまま便として体外に出ていることを示しています。

全身にあらわれるサイン

栄養不足は、体全体のエネルギー不足に直結します。 そのため、お腹以外にも次のような様々な症状があらわれるのです。

  • 体重の減少
  • 食事はしっかり摂っているつもりなのに、なぜか体重が減り続けます。
  • だるさ・疲れやすさ
  • 体を動かすためのエネルギーが足りない状態です。
  • 少し動いただけでも、ひどく疲れてしまいます。
  • むくみ(浮腫)
  • 血液中のタンパク質が不足し、血管から水分が漏れ出して起こります。
  • その結果、手足や顔がパンパンにむくんでしまいます。
  • 貧血
  • 血液の材料である鉄分やビタミンが不足して起こります。
  • めまいや立ちくらみ、動悸などの症状につながります。

不足する栄養素ごとのサイン

どの栄養素が特に不足しているかによって、さらに別の症状も現れます。

不足する栄養素

あらわれる症状の例

カルシウム、ビタミンD

骨がもろくなる、足がつる(筋肉のけいれん)

ビタミンK

ぶつけていないのに青あざができる、血が止まりにくい

ビタミンB群

口内炎ができやすい、舌が赤く腫れて痛む

これらの症状は、体が「栄養が足りない」と訴えているサインです。 もし一つでも当てはまる症状が続くなら、決して放置しないでください。 早めに専門の医療機関に相談することが、回復への大切な第一歩となります。

吸収不良症候群の検査・診断

長く続く下痢や、しっかり食べているのに体重が減るなどの症状は、 体が栄養をうまく使えていないという大切なサインかもしれません。 吸収不良症候群が疑われる場合、原因を突き止めるために、 お話を聞く「問診」と、いくつかの検査を段階的に行います。

まず、医師が症状について詳しくお話を伺い、全身の状態を丁寧に診ます。 その上で、栄養状態や原因を調べるため、次のような検査を進めていきます。

栄養が足りているかを調べる検査

体の中の栄養状態を客観的に知るための、基本的な検査です。 目に見えない体の変化を、数値として捉えることができます。

  • 血液検査
  • 体の栄養状態を知るための、いわば「成績表」のようなものです。
  • 血液中のタンパク質やコレステロール、鉄分などの量を調べます。
  • これらの数値が低い場合、栄養の吸収がうまくいっていない証拠となります。
  • 便検査
  • 消化・吸収がきちんと行われたか、「結果」を直接確認する検査です。
  • 便の中に消化しきれなかった脂肪がどれくらい含まれるかを測ります。
  • 一般的に、便に含まれる脂肪の量が1日で7gを超えると、
  • 脂肪の吸収に問題がある可能性が強く疑われます。

原因の場所を特定する検査

栄養状態の異常が確認されたら、次にその原因を探ります。 栄養を吸収する小腸や、消化を助ける他の臓器に異常がないか、 直接あるいは間接的に観察する検査です。

  • 画像検査・内視鏡検査
  • 栄養を吸収する小腸の状態を直接目で見て確認します。
  • 口や鼻から細いカメラ(内視鏡)を入れ、小腸の壁に傷や炎症がないか調べます。
  • 必要であれば、小腸の組織をほんの少しだけ採って顕微鏡で詳しく調べる検査(生検)も行い、病気の確定診断につなげます。
  • また、CT検査などで体の断面図を撮影し、膵臓や肝臓といった関連する臓器に原因がないかも探ります。

これらの検査結果を総合的に判断し、吸収不良症候群かどうか、 そしてその原因は何かを診断していきます。 原因を正確に突き止めることが、適切な治療への第一歩となります。

吸収不良症候群の治療

吸収不良症候群の治療は、2つの大きな柱で進められます。 1つは、不足している栄養を補給する「栄養療法」です。 もう1つは、栄養吸収を妨げている「原因への治療」です。 これらを同時に行うことで、体の回復を目指します。

1. 栄養を補う治療(栄養療法)

まず、体に必要なエネルギーや栄養素を補給します。 栄養補給の方法は、患者さんの状態に合わせて選びます。 基本的には、できるだけ腸を使って栄養をとる方法が優先されます。

栄養補給の方法

どのような状態の時に行うか

具体的な内容

口から栄養をとる<br>(経口栄養)

症状が比較的軽く、食事ができる場合

消化しやすい食事に変えたり、消化を助けるお薬(消化酵素)を飲んだりして、口から栄養を補います。

チューブで腸へ送る<br>(経腸栄養)

口から十分な食事がとれない場合

鼻から細いチューブを入れたり、お腹に作った小さな穴から直接、腸に栄養を送ります。腸の機能は保たれている時に使います。

点滴で血管へ送る<br>(中心静脈栄養)

症状が重く、腸を休ませる必要がある場合

体の中心にある太い血管に点滴を行い、高カロリーの栄養を直接血液に送り込みます。

2. 原因を取り除く治療

栄養状態の改善と並行して、原因そのものへの治療も大切です。 吸収不良を引き起こしている病気の種類によって、治療法は異なります。 例えば、クローン病が原因であれば、その炎症を抑える治療を行います。

原因を手術で取り除くことが難しい場合もあります。 その際は、下痢や痛みといった、つらい症状を和らげる治療が中心です。 これを「対症療法」と呼び、生活の質を保つことを目指します。

治療法は一人ひとりの原因や体の状態によって大きく異なります。 担当の医師とよく相談し、ご自身に合った治療計画を立てましょう。