咽喉頭酸逆流症(LPRD)

喉の違和感や声枯れ、しつこい咳が続くものの、胸焼けや胃もたれはないため、原因がわからず悩んでいませんか?

それは、胃の内容物が喉まで逆流して炎症を起こす「咽喉頭酸逆流症(LPRD)」かもしれません。耳鼻咽喉科外来患者の5.0から58.3パーセントに診断例があるLPRDの原因、症状、検査・治療法について解説します。

この記事を通して、長引く喉の不調に隠されたLPRDの可能性を理解し、適切な対処法や専門医への相談のきっかけを見つけることができるでしょう。

咽喉頭酸逆流症(LPRD)の概要

咽喉頭酸逆流症(LPRD)は、胃の内容物が食道を逆流し、食道を越えて喉、声帯、気管といった上気道まで達することで、さまざまな不快な症状を引き起こす病気の総称です。一般的な逆流性食道炎(GERD)とは異なり、LPRDでは胸やけや胃もたれといった典型的な症状がみられないことが多く、患者さん自身が胃の不調と結びつけにくい点が特徴です。そのため、喉の違和感や声枯れ、しつこい咳などが主な症状として現れるため、耳鼻咽喉科を受診して初めてLPRDと診断されるケースも珍しくありません。

この病気の有病率は、診断方法や地域によって大きく変動すると報告されています。耳鼻咽喉科の外来患者では、5.0パーセントから58.3パーセントの範囲でLPRDの診断例が報告されており、特に中東や欧米諸国で高い傾向がみられます。一方で、中国では比較的低いというデータもあります※。この広範囲な有病率の差は、診断基準のばらつきや、生活習慣、食文化の違いなどが影響していると考えられています。

LPRDが社会に与える経済的な負担は、胃食道逆流症(GERD)を上回るほど甚大であるとの指摘があります。これは、LPRDの症状が必ずしも胃酸によるものではないにもかかわらず、胃酸分泌を抑える薬(PPI)が経験的に多く処方され、本来不要な医療費が増加していることが一因です※。

また、医療現場においても、LPRDの診断や治療に関する医師たちの知識や認識に大きな隔たりがあることが課題とされています。専門家を含め、適切な教育と診断基準の確立が急務であるといえるでしょう※。患者さんがご自身の症状を正しく理解し、適切な医療を受けるためには、この病気についての正確な知識を持つことが非常に重要です。

咽喉頭酸逆流症(LPRD)の種類

咽喉頭酸逆流症(LPRD)は、胃から逆流する内容物の違いによって、治療のアプローチが変わる特徴があります。一般的に逆流性食道炎(GERD)で知られる「胃酸の逆流」だけでなく、LPRDでは胃酸以外の消化液も喉や声帯まで達することで症状を引き起こします。

LPRDは、主な逆流物の性質から、次の二つのタイプに分けられます。

・酸性逆流が主体のLPRD

胃酸が中心となって喉や声帯に刺激を与えるタイプです。この場合、胃酸の分泌を抑える薬(PPI:プロトンポンプ阻害薬など)が症状の改善に役立つことがあります。

・非酸性逆流が主体のLPRD

胃酸だけでなく、弱酸性や胆汁性の胃液、食べ物の消化を助ける酵素であるペプシンなどが主な逆流物となるタイプです。この非酸性逆流が原因のLPRDでは、従来の胃酸を抑える薬(PPI)では効果が得られにくいことが指摘されています※。

非酸性逆流の場合、不要なPPIの処方が増え、医療費の負担が大きくなっている一因とも考えられています※。

このタイプを診断する際には、唾液中にペプシンが含まれているかを測定する「唾液中ペプシン検査(Peptest)」が役立つことがあります※。唾液中ペプシン濃度が45~50ng/mLを超えるとLPRDの可能性が高い、という診断基準が示されています※。

しかし、この検査で陰性だったとしても、LPRDが強く疑われる場合は、より精密な「24時間食道内インピーダンス・pHモニタリング検査」が必要になるケースもあります※。

LPRDでは、胸焼けのような胃の症状よりも、声枯れ、喉の違和感、しつこい咳、喉の痛みなどが主な症状として現れる特徴があります。これらの症状パターンも、LPRDの種類を理解し、適切な治療へと繋げるための重要な手がかりです。

咽喉頭酸逆流症(LPRD)の原因

咽喉頭酸逆流症(LPRD)は、胃の内容物が食道を逆流し、喉や声帯といった上気道(上部消化管のさらに上、喉頭・咽頭など)で炎症を起こすことで生じます。この病気は、通常、胃の内容物が逆流しないよう働く体の防御機構が、何らかの原因で機能不全を起こすことによって引き起こされます。

LPRDの原因は多岐にわたり、複数の要因が複雑に絡み合って発症することがわかっています。主な原因は次のとおりです。

・食道の括約筋機能不全

食道には、胃と食道の境にある「下部食道括約筋」と、食道と喉の境にある「上部食道括約筋」の二つの筋肉があります。これらの括約筋は、通常、胃の内容物が逆流するのを防ぐ「弁」のような役割を果たしています。

・下部食道括約筋が弱まったり、不適切に緩んだりすると、胃酸や消化酵素が食道へ逆流しやすくなります。

・上部食道括約筋の機能が低下すると、逆流物が喉や声帯といった咽喉頭部まで直接到達し、炎症を引き起こす可能性が高まります。

・食道のクリアランス機能の低下

食道には、逆流した胃の内容物を胃に戻す「クリアランス機能」という自浄作用が備わっています。唾液の分泌や食道の蠕動運動(ぜんどううんどう:食べ物を胃へ送る波のような動き)によって、逆流した刺激物を洗い流す働きです。この機能が低下すると、逆流物が食道内に長時間とどまり、咽喉頭部へ達しやすくなるため、炎症のリスクが高まります。

・胃酸の過剰分泌と逆流物の多様性

胃酸の分泌量が多い方は、逆流が起こった際に咽喉頭部への刺激が強くなる傾向があります。しかし、LPRDは必ずしも胃酸によるものだけではありません。弱酸性の胃液や、食べ物の消化を助ける「ペプシン」という酵素など、胃酸以外の成分が逆流することでも症状を引き起こします。これらの逆流物が咽喉頭粘膜に付着し、炎症を誘発することがわかっています。

・生活習慣や食生活

LPRDの発症や症状の悪化には、日々の生活習慣や食生活が深く関係しています。具体的には、胃に負担をかけ、逆流を誘発しやすくなる習慣が挙げられます。

要因 | なぜ悪影響なのか

脂肪分の多い食事 | 消化に時間がかかり、胃の滞留時間が長くなることで、逆流が起こりやすくなります。

過食・早食い | 胃に過剰な負担がかかり、逆流のリスクを高めます。

食後すぐに横になる | 胃の内容物が物理的に逆流しやすい姿勢になります。

アルコール | 食道の括約筋を緩め、胃酸の分泌を促進する可能性があります。

喫煙 | 食道の括約筋の機能低下や唾液分泌の減少を引き起こすと考えられています。

肥満 | 腹圧が高まることで、胃の内容物が逆流しやすくなります。

ストレス | 自律神経の乱れを通じて、胃の運動機能や胃酸分泌に影響を与えることがあります。

・診断・治療の遅れ

LPRDは、一般的な逆流性食道炎(GERD)と異なり、胸焼けや胃もたれといった典型的な症状がないため、患者さん自身が胃の不調と結びつけにくいという特徴があります。また、医療従事者の間でもLPRDに対する診断や管理に関する知識や認識に隔たりがあることが指摘されています※。

このため、適切な診断に至るまでに時間がかかり、症状の改善が遅れてしまうケースも少なくありません。特に、非酸性逆流が主体の場合、胃酸分泌を抑える薬(PPI)の効果が得られにくいにもかかわらず、経験的に多く処方され、不要な医療費の増大を招いているとの指摘もあります※。専門家を含め、適切な教育と診断基準の確立が急務といえます※。喉の不調が長引く場合は、専門の医師への相談をおすすめします。

咽喉頭酸逆流症(LPRD)の症状

咽喉頭酸逆流症(LPRD)では、胸焼けのような胃の症状よりも、喉や声の変化として不調が現れることが特徴です。胃から食道を通り、喉や声帯(声を出す器官)まで胃酸や消化酵素が逆流することで、さまざまな不快な症状が引き起こされます。

LPRDで多くみられる症状は、次のとおりです。

・喉の違和感や異物感

喉に何かが引っかかっているように感じたり、常に異物があるように思えたりします。これは、逆流した胃内容物が喉の粘膜を刺激し、炎症を引き起こすため、粘膜が腫れたり過敏になったりすることが主な原因と考えられています。

・声枯れ(嗄声)

声がかすれたり、出にくくなったりすることがあります。声帯はデリケートな器官であり、逆流した胃酸や消化酵素によって炎症を起こし、腫れると、声帯の振動が妨げられるためです。特に朝起きたときや、長時間話した後に症状を感じやすい傾向があります。

・慢性的な咳や喉の痛み

痰が絡まない乾いた咳が続くことや、喉がイガイガしたり、軽い痛みを伴うことがあります。これは、喉や気管の粘膜が逆流物によって繰り返し刺激されることで、防御反応として咳が出たり、炎症による不快感が生じるためです。

・痰が絡む感じや頻繁な咳払い

喉に粘り気のある痰が絡んでいるように感じ、それを除去しようと頻繁に咳払いをしてしまうことがあります。逆流物が喉に刺激を与え、粘液の分泌を過剰に促したり、粘液が喉に停滞しやすくなったりすることが背景にあると考えられます。

・飲み込みにくさ(嚥下困難感)

食べ物や飲み物を飲み込む際に、喉につかえるような感覚を覚えることがあります。喉や食道の炎症による腫れ、あるいは筋肉の動きの異常が原因で、食道の通り道が狭くなったように感じたり、飲食物がスムーズに通過しないような感覚が生じます。

・喘息に似た症状

ひどい咳や息苦しさが現れることがあり、喘息と間違われることもあります。これは、逆流物が気管に入り込むことで気管支が収縮したり、喉や気管の神経が刺激されることで、喘息と似た症状が誘発されるためです。しかし、一般的な喘息治療薬が効きにくい場合も少なくありません。

LPRDの症状は、その種類や、逆流物の性質によっても異なります。例えば、胃酸が主体の「酸性逆流」の場合は、刺激が直接的で症状が強く現れやすい一方、胃酸以外の成分が主体の「非酸性逆流」では、症状が曖昧で診断がつきにくい場合もあります。

これらの症状の程度は、「逆流症状指数(RSI)」と呼ばれる患者さんの自覚症状を評価する指標などで客観的に把握され、治療効果の判定にも用いられます※。また、喉への胃酸などの逆流を評価する方法として、唾液中に含まれる消化酵素「ペプシン」の濃度を測定する検査が有用な場合があることも報告されています※。

LPRDは、一般的な胃食道逆流症(GERD)でみられる胸焼けや胃もたれといった典型的な症状が少ないため、患者さん自身が胃の不調と結びつけにくいという特徴があります。このため、適切な診断に至るまでに時間がかかり、症状が長引いてしまうケースも少なくありません※。喉の不調が長く続く場合は、放置せずに耳鼻咽喉科など専門の医療機関へ相談することが大切です。

咽喉頭酸逆流症(LPRD)の検査・診断

咽喉頭酸逆流症(LPRD)の診断は、患者さんの症状の訴え、医師による診察、そして必要に応じた専門的な検査を総合的に評価して確定します。LPRDは典型的な逆流性食道炎とは異なり、胸焼けなどの症状が少ないため、診断には多角的な視点からアプローチすることが重要です。

診断の流れは、主に以下のステップで進められます。

・詳細な問診と診察

LPRDに特徴的な喉の違和感、声のかすれ、慢性的な咳といった症状は、患者さんごとに現れ方や程度がさまざまです。そのため、いつから、どのような症状が、どんな時に起こるのか、また生活習慣や食生活など、詳細にお話を伺うことが診断の第一歩となります。医師はこれらの情報から逆流の可能性やタイプ(酸性か非酸性か)を推測し、その後の検査方針を立てます。

・喉頭内視鏡検査

喉頭内視鏡検査は、細くしなやかなカメラを鼻から挿入し、喉(咽頭)や声帯(喉頭)の状態を直接観察する検査です。この検査によって、胃から逆流した内容物によって引き起こされる粘膜の赤み、腫れ、ただれ(びらん)といった炎症性の変化がないかを確認します。声帯のふち(声門後部)や喉の奥に見られる特定の所見はLPRDの診断の助けとなりますが、あくまで補助的な所見です。他の原因でも類似の変化はみられるため、内視鏡所見だけでLPRDと断定することはできません。

・唾液中ペプシン測定(Peptest)

より客観的に逆流の有無を評価する方法の一つに、唾液中のペプシン濃度を測る「Peptest(ペプテスト)」があります。ペプシンとは、胃液に含まれる消化酵素の一つです。通常は胃の中にありますが、胃酸とともに食道から喉まで逆流した場合、唾液中に検出されることがあります。この検査は唾液を採取するだけで行えるため、患者さんの負担が少ない簡便な検査として注目されています。

研究によると、唾液中ペプシンの濃度が45~50 ng/mL(ナノグラム/ミリリットル)を超えるとLPRDの診断精度が高まることが示されています。また、1回の唾液採取よりも、複数回採取することで検査の感度(病気を見つける能力)が有意に向上することもわかっています。例えば、16 ng/mLのカットオフ値で比較すると、1回採取時の感度0.33-0.63に対し、複数回採取では0.82に向上する可能性が報告されています※。

しかし、Peptestが陰性であっても、臨床的にLPRDが強く疑われる場合には、さらに精密な検査が必要となることがあります。これは、Peptestの陰性的中率(検査が陰性であった場合に、本当に病気ではないと判断できる確率)には限界があるためです※。

・24時間食道内インピーダンス・pHモニタリング(24時間MII-pHモニタリング)

LPRDの確定診断において「ゴールドスタンダード」とされているのが、この24時間食道内インピーダンス・pHモニタリング検査です。これは、鼻から細いチューブを挿入し、その先端を食道に留置して、24時間にわたって食道内のpH(酸性度)とインピーダンス(電気抵抗)の変化を測定する精密な検査です。

この検査の最大の利点は、胃酸による酸性の逆流だけでなく、胃酸以外の弱酸性や非酸性の内容物(例えば、胆汁や食物)の逆流も検出できる点にあります。また、日中の活動中や食事中、睡眠中など、様々な状況下での逆流の頻度、持続時間、上気道への到達度合いを詳細に記録できるため、患者さんそれぞれの逆流パターンを正確に把握することが可能です。この結果をもとに、最も適切な治療方針を決定していきます。

咽喉頭酸逆流症(LPRD)の治療

咽喉頭酸逆流症(LPRD)の治療は、喉の不快な症状を和らげ、患者さんの生活の質を高めることを主な目標とします。治療では、まず生活習慣の改善が基本となり、症状に応じて薬物療法や、さらには新しい治療法が検討されることもあります。

1. 生活習慣の改善

LPRD治療の土台となるのは、日々の生活習慣の見直しです。胃から喉への逆流を防ぎ、粘膜への刺激を減らすためには、食事内容や生活リズムの調整が重要と考えられています。

特に以下の点に注意することで、症状の軽減につながる可能性があります。

・食事内容の見直し: 脂質の多い食事、香辛料などの刺激物、カフェイン、アルコールは、胃酸の分泌を促したり、食道の括約筋を緩めたりする原因となることがあります。これらを控えめにすることで、胃への負担を減らし、逆流のリスクを下げることができます。

・食後の行動: 食後すぐに横になると、物理的に胃の内容物が食道へ逆流しやすくなります。食後数時間は体を起こして過ごし、就寝前の食事は避けるのが望ましいでしょう。

・適度な運動とストレス管理: 肥満は腹圧を高め、逆流を誘発する一因となります。そのため、適度な運動を取り入れることは重要です。また、ストレスは自律神経のバランスを崩し、胃腸の働きに影響を与えることがあります。リラックスできる時間を確保し、ストレスを上手に管理することも症状緩和につながるといえます。

2. 薬物療法

生活習慣の改善だけでは症状が十分に治まらない場合、薬物療法が検討されます。主に胃酸の分泌を抑える薬が用いられます。

・プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカー: これらの薬剤は、胃酸の分泌を強力に抑制し、逆流物の刺激性を弱めることで、喉の炎症を和らげる効果が期待できます。しかし、LPRDは胃酸だけでなく、胆汁や消化酵素であるペプシンといった胃酸以外の成分の逆流が原因となるケースも少なくありません。そのため、従来の胃酸を抑える薬だけでは十分な効果が得られないこともあります。

このような場合、漫然と胃酸を抑える薬を使い続けるのではなく、治療方針の見直しが必要となる可能性があります。

3. 新しい治療の選択肢

従来の薬物療法で効果が見られないLPRDの患者さんに対しては、近年、新しい治療法も研究され、その一つに「上部食道括約筋補助デバイス(UESAD)」があります。

・上部食道括約筋補助デバイス(UESAD): このデバイスは、外部から首の「輪状軟骨部」(喉仏のすぐ下にある軟骨部分)を優しく圧迫することで、胃からの逆流物が喉まで達するのを防ぐことを目的としています。

既存の抗分泌薬治療(胃酸の分泌を抑える薬による治療)で改善が見られないLPRD患者さんを対象としたランダム化比較試験(治療法を公平に比較するための研究デザイン)では、このデバイスが逆流症状を改善させることが示されています※。

この研究では、デバイスによる治療圧の強さに関わらず、患者さんの自覚症状を評価する「逆流症状指数(RSI)」の有意な低下と、胃液に含まれる消化酵素で逆流の指標となる「唾液中のペプシン濃度」の有意な減少が確認されました※。この結果から、UESADはLPRDに対し、安全で体への負担も少ない非侵襲的な治療法(体に傷をつけない治療法)となる可能性を示唆しているといえます※。

LPRDの治療は、患者さん一人ひとりの症状のタイプ、重症度、逆流物の性質によって最適な方法が異なります。自己判断で治療を中断したり、市販薬だけで済ませようとしたりせず、必ず医師と相談しながら、ご自身に合った治療法を見つけることが重要です。喉の不調が長引く場合は、耳鼻咽喉科など専門の医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることをおすすめします。