虚血性大腸炎

突然の激しい腹痛や血便に驚き、不安を感じていませんか。虚血性大腸炎は主に50歳以上の女性に多いとされますが、近年は若い世代での発症も珍しくなく、誰にとっても身近な病気の1つです。

この記事では、虚血性大腸炎の原因や症状、重症度によるタイプの違いを詳しく解説します。ほとんど(約60〜70%)は軽症の一過性型であり、適切な治療で数日から1週間ほどでの回復が期待できます。

ご自身の状態を正しく理解し、適切な治療法や今後の生活での注意点を知ることで、過度な心配をせず、回復に向けた次の一歩が見えてくるはずです。

虚血性大腸炎の概要

虚血性大腸炎は、大腸への血流が一時的に不足すること(虚血)で、粘膜に炎症やただれ(潰瘍)が起こる病気です。

腸の血流障害が原因となる病気の中では最もよく見られ、解剖学的に血流が滞りやすい大腸の左側(下行結腸やS状結腸)に発症しやすい特徴があります。

主に便秘に悩む50歳以上の女性に多く見られますが、近年では若い世代での発症も珍しくありません。

また、大動脈瘤に対する血管内治療(ステントグラフト内挿術)といった特定の手術後には、女性のほうが虚血性大腸炎を発症するリスクが高まることも報告されています※。

この病気は重症度によっていくつかのタイプに分けられますが、ほとんど(約60~70%)は「一過性型」と呼ばれる軽症のものです。多くは腸を休ませる治療(絶食や点滴)によって、数日から1週間ほどで回復に向かいます。

虚血性大腸炎の種類

虚血性大腸炎は、血流不足による大腸粘膜のダメージの深さと、その後の治り方によって、主に3つのタイプに分類されます。ほとんどは最も軽症の「一過性型」で、適切な治療で回復に向かうため、診断されても過度に心配する必要はありません。

3つのタイプそれぞれの特徴と、おおよその割合は以下のとおりです。

タイプ | 特徴 | 割合の目安

一過性型 | ・腹痛や血便が一時的に現れる ・絶食や点滴で腸を休ませることで、数日から1週間ほどで回復が期待できる ・後遺症を残すことはまれ | 約60~70%

狭窄(きょうさく)型 | ・強い炎症が治った跡が硬くなり(線維化)、大腸の内側が狭くなる ・便秘やお腹の張り(腹部膨満感)が続く原因になることがある | 約20~30%

壊疽(えそ)型 | ・血流が完全に途絶え、腸の組織が死んでしまう最も重篤なタイプ ・強い腹痛が続き、腸に穴が開く(穿孔)危険性が高い ・緊急手術が必要になる | 約5%

ご自身の症状がどのタイプにあたるかは、発症後の経過を慎重に見て判断します。ちなみに、軽快する「一過性型」と後遺症の残る可能性がある「狭窄型」を合わせて、「狭義の虚血性大腸炎」と定義されることもあります。

また、大動脈瘤に対する血管内治療(ステントグラフト内挿術)の合併症として虚血性大腸炎が起こるケースでは、女性のほうが男性よりも発症リスクが高いという研究結果も報告されています※。

どのタイプであっても、ご自身の状態を正確に把握し、適切な治療方針を決めることが何より重要といえます。

虚血性大腸炎の原因

虚血性大腸炎は、大腸の血流が一時的に滞ることで起こりますが、その引き金は一つではありません。「血管そのものの問題」と「腸の環境による問題」が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

原因は、大きく2つの側面に分けられます。

1. 血管側の要因(血流そのものが滞りやすくなるケース)

加齢や生活習慣病によって血管自体がもろくなっている状態です。

・動脈硬化

高血圧や糖尿病、脂質異常症などがあると、血管が硬く狭くなる「動脈硬化」が進みます。これにより、大腸へ血液を送る血管の通り道が狭くなり、血流不足に陥りやすくなります。

・脱水

体内の水分が不足すると、血液中の水分も減って粘り気が増し、流れが悪化します。これも虚血を引き起こす一因です。

2. 腸管側の要因(腸の状態によって血管が圧迫されるケース)

血管に直接的な問題がなくても、腸の環境によって血流が妨げられることがあり、特に便秘は最大の誘因とされています。

・便秘と強いいきみ

便が腸内に長く留まると腸管の内圧が上昇し、壁を走る細い血管が圧迫されて血流が低下します。また、排便時に強くきばることで腹圧が急激に高まり、同様に血流が途絶えやすくなります。

・一部の下剤の乱用

腸を無理に動かす刺激性下剤を長期間使い続けると、腸の動きが過剰になり、血流のバランスが崩れることがあります。

その他、特定の治療がきっかけとなることも

上記に加えて、他の病気の治療が間接的な原因となるケースも報告されています。

例えば、大動脈瘤(どうみゃくりゅう)に対する血管内治療(ステントグラフト内挿術)の合併症として発症することがあり、特に女性は男性よりもリスクが高いことが複数の研究を統合・解析した結果からわかっています※。

また、心原性ショックのような重篤な状態の治療で使われる特定の昇圧剤(アンジオテンシンⅡ)が、副作用として虚血性大腸炎を引き起こす可能性も示唆されています。これは、血圧を維持するために血管を収縮させる薬の作用が、大腸の細い血管にまで影響を及ぼし、血流を低下させてしまうためと考えられます※。

このように、生活習慣や元々の体質、治療中の病気など、さまざまな要因が重なることで発症のリスクが高まるのが虚血性大腸炎の特徴といえます。

虚血性大腸炎の症状

虚血性大腸炎の症状は、多くの場合「突然の腹痛」「下痢」「血便」という3つのサインが、この順番で現れるのが特徴です。

症状が現れる典型的な流れは以下のとおりです。

1. ステップ1:突然の腹痛

主に体の左側にある大腸(下行結腸やS状結腸)で血流障害が起こりやすいため、左下腹部に突き刺すような、あるいは絞られるような激しい痛みが急に起こります。これは、血流が途絶えた大腸が悲鳴を上げ、痙攣(けいれん)することで生じる痛みです。

2. ステップ2:頻回の下痢

腹痛に続いて、何度もトイレに行きたくなる下痢が始まります。これは、虚血でダメージを受けた腸の粘膜から、水分や粘液が多く分泌されるために起こる反応です。

3. ステップ3:血便

下痢が数回続いた後、炎症やただれ(潰瘍)を起こした粘膜から出血が始まります。便全体が真っ赤になる鮮血便や、血液と粘液が混じった「いちごジャム」のような便が出るのが特徴的です。出血部位が肛門に近いため、比較的新しい鮮やかな色の血が出ます。

これらの主な症状のほかに、以下のようなサインが現れることもあります。

・吐き気

・お腹の張り(腹部膨満感)

・冷や汗

・強い痛みによる血圧低下や意識のもうろう(迷走神経反射)

便秘に続いてこれらの症状が現れるのが典型的なパターンですが、他の病気の治療がきっかけで発症するケースも報告されています。

例えば、大動脈瘤に対する血管内治療(ステントグラフト内挿術)の合併症として虚血性大腸炎が起こることがあり、特に女性は男性よりもそのリスクが高いことがわかっています※。

また、心原性ショックのような命に関わる状態の治療で使われる特定の昇圧剤(アンジオテンシンⅡ)が、副作用として大腸の血流を低下させ、虚血性大腸炎を引き起こす可能性も指摘されています※。

これらの症状に一つでも気づいたら、自己判断せずに速やかに医療機関を受診してください。

虚血性大腸炎の検査・診断

虚血性大腸炎の診断は、症状の詳しい聞き取り(問診)と診察を基本に、大腸内視鏡検査で腸の状態を直接確認することで確定します。症状が似ている他の病気と正確に見分けるため、複数の検査を組み合わせて慎重に判断することが重要です。

診断に至るまでの主な流れと、各検査で何を確認しているのかを解説します。

1. 問診と身体診察

まず、医師が患者さんから症状について詳しくお話を伺います。

・いつから、どのような腹痛が始まったか

・下痢や血便はあったか(便の色や性状)

・持病(高血圧、糖尿病など)や便秘の有無

これらの情報から、虚血性大腸炎の可能性を探ります。同時にお腹を直接触診し、痛みの場所や強さ(圧痛)を確認します。

特に、大動脈瘤の治療歴や心臓の病気で治療を受けている場合は、診断の重要な手がかりとなります。治療が発症の引き金になることもあるため、必ず医師に伝えてください※※。

2. 画像検査と血液検査

問診と診察で虚血性大腸炎が疑われた場合、診断を確定し、重症度を評価するために以下の検査を行います。

検査項目 | 主な目的・わかること

血液検査 | ・体内の炎症の強さ(白血球数、CRP値)を数値で評価 ・出血による貧血の有無を確認

腹部CT検査 | ・大腸の壁がむくんで厚くなっていないか(壁肥厚)を確認 ・重症な壊疽(えそ)型で起こる腸の穴(穿孔)がないか評価

大腸内視鏡検査 (大腸カメラ) | ・確定診断のための最も重要な検査 ・腸粘膜を直接観察し、特徴的な「縦走潰瘍(たてに走るただれ)」や粘膜の赤み、むくみを確認

緊急性が高い状態(激しい腹痛や意識障害など)では、まず腹部CT検査で命に関わる腸の穴(穿孔)や壊死がないかを確認することが多いです。

状態が落ち着いていれば、診断を確定するために大腸内視鏡検査を行います。これにより、感染性腸炎や潰瘍性大腸炎、大腸がんといった、症状が似ていて治療法が全く異なる病気と正確に見分けることができます。

虚血性大腸炎の治療

虚血性大腸炎の治療は、血流不足でダメージを受けた腸管を徹底的に休ませることが大原則です。多くの場合、入院のうえで絶食とし、点滴で水分や栄養を補給する「保存的治療」を行います。

ほとんどの症例を占める「一過性型」であれば、この保存的治療によって腸の炎症は数日から1週間ほどで落ち着き、回復に向かいます。ただし、重症度によっては治療方針が大きく異なります。

ご自身の状態に合わせた治療法は、以下の表でご確認ください。

タイプ | 治療方針

一過性型 (約60~70%) | ・保存的治療が中心 ・絶食と点滴で腸を安静に保つ ・通常、数日~1週間程度で回復が期待できる

狭窄(きょうさく)型 (約20~30%) | ・炎症が治った後に腸が狭くなり、便秘や腹部膨満感が続く場合に手術を検討 ・狭くなった部分の大腸を切除することがある

壊疽(えそ)型 (約5%) | ・緊急手術が必要 ・血流が完全に途絶え、腸の組織が死んでしまう(壊死)最も重篤なタイプ ・腸に穴が開く(穿孔)と命に関わるため、壊死した部分の腸管を切除する

また、他の病気の治療がきっかけで虚血性大腸炎が起こるケースもあります。

例えば、大動脈瘤に対する血管内治療(ステントグラフト内挿術)の合併症として発症することがあり、複数の研究を統合した解析では、女性のほうが男性よりも虚血性大腸炎を含む重篤な合併症のリスクが高いことがわかっています※。

さらに、心原性ショックのような命に関わる状態の際に使われる特定の昇圧剤(アンジオテンシンⅡ)が、副作用として腸の血流を低下させ、虚血性大腸炎を引き起こす可能性も報告されています※。

一度回復しても、虚血性大腸炎は再発しやすい病気です。報告によっては4人に1人程度が再発するともいわれており、退院後の生活習慣が非常に重要といえます。

再発の引き金となる便秘の解消や、動脈硬化の原因となる高血圧・糖尿病などの基礎疾患の管理を根気強く続けていくことが、健やかな腸を維持する鍵となります。