腸重積症

お子さんが急な腹痛を訴え、いつもと違う様子だと、親御さんは不安でたまらないことでしょう。特に小さなお子さんに多い「腸重積症」は、望遠鏡が縮むように腸の一部がもぐり込む、緊急性の高い病気です。

突然の激しい腹痛、繰り返す嘔吐、特徴的なイチゴジャムのような血便は、お子さんが発する大切なサイン。この病気は時間との勝負であり、早期発見と適切な対応が何よりも重要です。

国際的な調査では約10人に1人(11.8%)が再発すると報告されていますが、85%以上は非手術で治療が可能です。この記事では、腸重積症のサインから原因、最新の治療法、そして再発への向き合い方まで、親御さんが知っておくべき情報を詳しく解説します。大切な我が子の笑顔を守るため、ぜひ最後までお読みください。

腸重積症の概要

お子さんが急に「お腹が痛い!」と訴えたり、いつもと違う様子だったりすると、親御さんはとても心配になりますよね。腸重積症は、特に赤ちゃんや小さなお子さんのお腹に起こる、緊急性の高い病気の一つです。

この病気は、例えるなら望遠鏡が縮むように、腸の一部が、その先の腸の中へもぐりこんでしまう状態を指します。腸が折り重なってしまうことで、普段はスムーズな食べ物の通り道がふさがれてしまい、さらに腸への血液の流れも悪くなってしまうため、様々な問題が起こり始めます。

腸重積症でよく見られるサインは、次の3つです。

・お腹が波のように痛くなる:

・突然、激しいお腹の痛みが襲ってきて、少しするとまた落ち着く、ということを繰り返します。お子さんが不機嫌になったり、泣いたり、顔色が青ざめたりすることもあります。

・何度も吐いてしまう:

・食べ物や胃液だけでなく、胆汁という緑色の液体を吐くこともあります。

・ゼリーのような血の混じったうんちが出る:

・イチゴジャムのような、赤っぽい色のうんちが出ることがあります。これは、腸の粘膜から出血しているサインです。

これらの症状は急に進むことが特徴です。お子さんの様子がおかしいと感じたら、迷わずすぐに病院を受診してください。早めに発見して治療を始めることが、お子さんの回復には非常に大切です。

再発は心配ない?国際的な調査からわかること

一度治った後も、まれに腸重積症が再び起こることがあります。これを「再発」と呼びます。再発と聞くと不安になるかもしれませんが、ご安心ください。世界中のたくさんの研究を調べた国際的な調査によると、腸重積症になったお子さんのうち、約10人に1人(11.8%)が再発することが分かっています。

また、この調査では、再発した腸重積症の85%以上が、手術ではない方法、つまり「お腹を切らずに治すこと」で成功していると報告されています。再発の原因になりやすいとされる、腸のねじれやポリープといった特別な場所(これを病理学的誘引点と呼びます)の有無は、実は再発自体とはあまり関係がないと考えられています。

もしお子さんが何度も再発を繰り返すような場合は、今後また起こらないように、手術でしっかり治すという選択肢もあります。お子さんの状態に合わせて、お医者さんと治療方針についてよく話し合い、最適な方法を選んでいくことが大切です。

腸重積症の種類

腸重積症は、腸が別の腸の中にもぐりこんでしまう病気です。この病気には、「腸のどの部分が、どのようにめり込むか」や、「お子さんと大人で原因が違うこと」によって、いくつか種類があります。それぞれの種類を知ることは、お子さんの状態を理解し、適切な治療へとつなげるために大切なことです。

お子さんに多い種類

お子さんの腸重積症で最もよく見られるのは、小腸の終わりの部分である「回腸(かいちょう)」が大腸の始まりである「盲腸(もうちょう)」や「結腸(けっちょう)」の中に入り込むタイプです。これは「回腸結腸型」や「回盲型」と呼ばれています。

・回腸結腸型・回盲型

・小腸と大腸がつながる場所で起こることがほとんどです。

・特に赤ちゃんや小さいお子さんに多く見られる種類です。

・腸重積症のほとんどがこのタイプにあてはまります。

・はっきりした原因が見つからないことも多いですが、風邪のウイルス感染などがきっかけになることがあります。

大人の方に多い種類

大人の方の腸重積症は、お子さんの場合とは特徴が異なります。大人の方で腸重積症が起こる場合は、ほとんどが腸に何か別の病気が隠れていることが原因となります。

・原因となる病気

・腸の中にできた「ポリープ」(イボのようなもの)や「腫瘍(しゅよう)」(できもの)がきっかけとなることがあります。

・まれに「メッケル憩室(けいしつ)」という、腸の一部が袋のように飛び出している部分が原因になることもあります。

・このメッケル憩室が原因となる腸重積症は、お子さんでは比較的よく見られます。

・しかし、大人の方では珍しい原因とされています

腸重積症の原因

腸重積症がどうして起こるのかは、お子さんと大人で少し違いがあります。

私たち医師は、原因を探る上で年齢をとても重要視しています。

それぞれの年齢でどんな原因が考えられるのか、一緒に見ていきましょう。

お子さんの場合

小さなお子さんの腸重積症では、多くの場合、はっきりとした原因が見つかりません。

しかし、いくつかのきっかけが考えられています。

例えば、風邪などのウイルスに感染すると、体の中で戦うためのリンパ節が腫れることがあります。

腸の中にあるリンパ節が腫れると、腸の壁の一部が盛り上がります。

この盛り上がりが、腸の動きが活発になりすぎたときに、他の腸の中にすべり込んでしまうことがあるのです。

健康な腸はスムーズに動きますが、このような変化があると、もぐり込みやすくなります。

大人の方の場合

大人の方の腸重積症では、ほとんどの場合、腸の中に何らかの「リードポイント」と呼ばれる、腸が入り込むきっかけとなるものがあります。

リードポイントは、腸の一部を引っ張ったり、押し込んだりする原因になるものです。

例えば、次のようなものがリードポイントとなることがあります。

・ポリープ

・腸の粘膜にできるイボのようなものです。

・腫瘍(しゅよう)

・良性のものも、悪性のもの(がんなど)もあります。

・憩室(けいしつ)

・腸の壁の一部が袋状に飛び出したものです。

特に注意が必要なのは、「メッケル憩室(けいしつ)」という、生まれつき腸の一部が袋状になっているものです。

お子さんの腸重積症では、このメッケル憩室が原因になることが比較的多く見られます。

しかし、大人になってからメッケル憩室が原因で腸重積症になるのは、とても珍しいことだと考えられています。

しかし、稀ではありますが、大人の方でもメッケル憩室が原因で腸重積症が起こることがあります。

中には、メッケル憩室が腸の中に逆さまに入り込んでしまい、腸重積症を引き起こす珍しいケースも報告されています。

私たち医師が大人の方の腸重積症を診断するときには、このような稀な原因であるメッケル憩室の可能性も慎重に考える必要があります。

気になる症状があれば、どんな原因であれ、早めに医療機関を受診することが大切です。

腸重積症の症状

お子さんの急な体調の変化は、親御さんにとって大きな心配事です。私たちは、お子さんの様子を注意深く見守る親御さんの気持ちをよく理解しています。腸重積症は、お子さんが私たちに助けを求める「サイン」を突然見せることが特徴です。

この病気の症状は、お子さんの腸に起こっている異変を具体的に示しています。お医者さんとして、特に注目するポイントは次のような症状の現れ方です。

・激しいお腹の痛みと不機嫌さ

・お子さんが突然、激しいお腹の痛みを訴えて泣き叫び始めます。

・急に不機嫌になり、普段なら泣き止むような場面でも、なかなか泣き止まないことがあります。

・特徴的なのは、痛みが「波のように」やってくることです。

・痛い時間と、一時的におさまって、まるで元気にみえるような時間が交互に現れます。

・この「元気になる時間」があるため、一安心してしまう親御さんもいらっしゃいますが、その後また痛みが戻ってくるため、注意が必要です。

・痛みは、腸がもぐりこむことで引き起こされる強い締め付け感によるものです。

・繰り返し吐く(嘔吐)

・お腹の痛みとほぼ同時に、食べたものや胃液を繰り返し吐いてしまいます。

・病状が進むと、胃液だけでなく、胆汁という緑色の液体を吐くこともあります。

・胆汁が混じった嘔吐は、腸の動きに深刻な問題が起きているサインの一つです。

・腸が詰まってしまうことで、消化されたものが先に進めずに逆流してしまいます。

・イチゴジャムのような便

・腸重積症が進行すると、見た目に特徴的な便が出ることがあります。

・それは、ゼリー状で赤っぽい「イチゴジャム」のような便です。

・これは、腸が重なり合うことで粘膜が傷つき、そこから出血していることを示しています。

・この便が見られたら、腸へのダメージが進んでいる可能性が高く、特に注意が必要です。

・お腹に触れるしこり

・お子さんのお腹を優しく触ってみると、ソーセージのような細長いしこりを感じることがあります。

・これは、もぐりこんだ腸の一部が塊になっているサインです。

・特に、おへその右上あたりからお腹の右下あたりにかけて感じやすいとされています。

・ぐったりと元気がなくなる

・激しい痛みや体力の消耗が続くと、お子さんはぐったりとして元気がなくなり、顔色も青白くなることがあります。

・意識が朦朧とするなど、ぐったり感が強くなる場合は、病状がかなり進んでいると考えられます。

・これは、腸への血流が悪くなり、全身にも影響が出始めているサインです。

これらの症状は、特に生後3か月から2歳くらいのお子さんで多く見られます。しかし、それ以外の年齢のお子さんでも起こる可能性はあります。

大人の腸重積症は、お子さんの場合とは少し症状の現れ方が異なります。お子さんのように急激で激しい症状が出ることが少なく、お腹の軽い痛みや不快感が長く続くなど、はっきりしない症状が多いことが特徴です。そのため、診断が遅れることもあります。

もし、お子さんに上記のような症状が一つでも見られたら、お子さんの体が助けを求めているサインだと考えてください。迷わずすぐに医療機関を受診してください。腸重積症は時間との勝負となる病気です。早く発見し、適切な治療を始めることが、お子さんの回復には非常に大切です。

腸重積症の検査・診断

お子さんが急な腹痛を訴えたり、いつもと違ううんちが出たりして、腸重積症が疑われる時、親御さんはとても不安になりますよね。私たち医師は、そのようなお子さんの大切なサインを見逃さず、できるだけ早く正確な診断を下すために、いくつかの検査を行います。

腸重積症の診断には、体の内側を見る画像診断が非常に重要です。小腸の病気は、内視鏡(胃カメラや大腸カメラのように、細い管を体に入れる検査)で直接見ることが難しい場合があります。そのため、外から詳しく腸の状態を調べる画像検査が診断のカギとなるのです。

特に小さなお子さんの腸重積症では、超音波検査(エコー検査)が最初に推奨される検査です。この検査は、体に放射線を当てず、痛みもほとんどないため、お子さんにも安心して受けてもらえます。ある国際的な調査でも、小児の腸重積症の診断において、放射線を使う検査よりも超音波検査の方が、非常に高い精度で病気を見つけられることが示されています。

超音波検査では、お腹の中で腸が重なっている様子をリアルタイムの映像で確認できます。一方、レントゲン検査も、お腹全体の様子を確認したり、お子さんに手術が必要になるかどうかを予測したりする上で役立つことがあります。

大人の方の腸重積症は、お子さんの場合と少し特徴が異なります。大人では、腸の中にポリープや腫瘍といった別の病気が隠れていることが原因となるケースが多いため、より詳しい情報が必要です。この場合、コンピュータ断層撮影(CT検査)が非常に重要な役割を果たします。ある報告では、成人の腸重積症ではCT検査が唯一、正確な診断を下せる画像診断法であるとされています。がんの一種である腺癌が原因となっているケースが最も多いことも分かっています。

最近では、超音波検査、CT検査、そしてMRI検査といった画像診断の技術がさらに進化しています。これらの新しい技術は、病気の種類をより正確に見分けるだけでなく、お子さんが受ける放射線の量をできるだけ少なくする可能性も広げています。病状をより詳しく識別できることで、より適切な治療へつなげることが可能になっています。

お子さんの急な体調不良は、親御さんにとって大きな心配事です。しかし、慌てずに、すぐに医療機関を受診することが大切です。私たち医師は、これらの検査を組み合わせ、お子さん一人ひとりに合った適切な診断と治療につなげていきますので、ご安心ください。

腸重積症の治療

お子さんの腸重積症は、お腹の中で腸が望遠鏡のように重なってしまう病気です。この病気は時間との勝負になることが多いため、早く気づいて治療を始めることが大切です。私たち医師は、お子さんの小さな体への負担をできるだけ少なくするため、慎重にいくつかの治療法を選びます。

お腹を切らない治療法(非手術的治療)

まず、多くの場合には「お腹を切らない治療法」から始めます。これは「高圧浣腸(こうあつかんちょう)」と呼ばれる方法です。

・高圧浣腸とは

・おしりから、空気やレントゲンに写る特別な液体(造影剤)を、ゆっくりと腸の中へ送ります。

・この空気や液体の力を使って、重なってしまった腸を元の正しい位置に戻します。

・メリット

・お腹を切る必要がないため、お子さんの体にかかる負担が非常に少ないです。

・多くのお子さんで、この方法だけで腸を元に戻すことができます。

この治療は、病気が見つかってからあまり時間が経っていないお子さんほど、成功しやすい傾向があります。お子さんの異変に気づいたら、早く病院に来ていただくことが、この治療を受けるチャンスを広げることにつながります。

お腹を切る治療法(手術)

もし高圧浣腸を行っても腸が元に戻らなかった場合や、腸が傷んでしまっている恐れがある場合には、「手術」が必要となります。手術では、重なっている腸を直接手で戻したり、残念ながら傷んでしまって元に戻せない腸の一部を切り取ったりします。

最近では、お子さんの腸重積症の手術において、「低侵襲(ていしんしゅう)手術」という方法がよく選ばれています。

・低侵襲手術とは

・お腹に数カ所、小さな穴を開けて、特別なカメラや細い手術道具を使って行う方法です。

・お腹を大きく切る手術と比べて、体の表面の傷が小さく、お子さんの負担が少ないのが特徴です。

・研究からわかったこと

・国際的な研究で、この低侵襲手術を受けたお子さんは、手術中や手術の後に大きな問題が起こることが少なかったと報告されています。

・また、手術後も長い期間にわたって安全で、良い経過をたどることが示されています。

・体への負担が少ないため、お子さんの回復も早い傾向があります。

ただし、手術で腸重積症が治った後も、まれに再び腸重積症が起こることがあります。これを「再発」と呼びます。先ほど触れた研究では、低侵襲手術を受けたお子さんのうち、約100人に7人(7.2%)が再発したことが分かっています。そのうち、さらに約100人に3人(3.3%)は、腸がくっついてしまう「癒着(ゆちゃく)」が原因で、再び手術が必要になる場合もありました。

再発の可能性はゼロではありませんが、低侵襲手術は、お子さんにとって安全で、体への負担も少なく、良い結果が期待できる治療法だと私たちは考えています。

お子さんの状態は一人ひとり異なります。どの治療法が最も適しているか、メリットやデメリットを含め、私たち医師が丁寧に説明いたします。不安なことや気になることがあれば、どんな小さなことでも遠慮なくご相談ください。一緒に、お子さんにとって最善の治療法を見つけていきましょう。