歯の治療や虫歯の放置、あるいは皮膚の小さな切り傷。そんな日常に潜む些細なきっかけが、「感染性心内膜炎」という心臓の重大な病気を引き起こす可能性があることをご存知でしょうか。この病気は、血液中に入り込んだ細菌が心臓の弁などに感染して発症し、時には風邪に似た症状から始まるため発見が遅れることもあります。
しかし、その危険性は決して低くなく、ある分析では子どもの心臓手術後に約17.7%が発症したとの報告も存在します。この記事では、身近な原因から見逃しやすい初期症状、そして診断や治療法について詳しく解説します。ご自身と大切なご家族を守るため、この病気の正しい知識を身につけましょう。
感染性心内膜炎の概要
感染性心内膜炎は、心臓の内側をおおう膜や弁に細菌が感染する病気です。 普段、私たちの血液の中は細菌がいない清潔な状態に保たれています。 しかし、ささいなきっかけで血液中に細菌が入り込むことがあります。
- 歯の治療や歯周病、口の中のケガなどが原因になります。
- 皮膚の傷や感染症、医療で使うカテーテルという管も原因となり得ます。
血液中に入った細菌は、心臓まで運ばれることがあります。 健康な心臓では細菌が定着しにくいですが、注意が必要な方もいます。
特に、以下のような方は感染のリスクが高いと考えられています。
- 心臓の弁を人工のものに交換する手術を受けた方です。
- 心臓の壁に穴があるなど、血液の流れが乱れやすい方です。
また、心臓の手術後も注意が必要です。 ある信頼性の高い分析(メタ分析)では、子どもの心臓手術後のリスクが示されました。 カテーテルで肺動脈弁を交換する手術を受けた子どものうち、約17.7%が感染性心内膜炎を発症したと報告されています。 発症までの期間は手術後、平均して約2.18年でした。 このことからも、手術後の感染症は臨床的にとても重要な合併症と考えられています。
感染性心内膜炎の種類
感染性心内膜炎は、いくつかの視点から種類分けされます。 症状の進み方や、細菌が感染する心臓の状態で分類されます。 ご自身の状態を正しく理解するため、主な種類を知っておきましょう。
症状の進み方による分類
症状が現れるスピードによって、主に2つのタイプに分けられます。 急に悪化するのか、じわじわ進行するのかで対応が変わります。
- 急性感染性心内膜炎 数日のうちに症状が急激に現れる、とても危険なタイプです。 39℃以上の高熱や悪寒、急な息切れなどが特徴です。 健康な心臓の弁にも感染することがあり、進行が速いです。 そのため、一刻も早い治療が命を救う鍵となります。
- 亜急性感染性心内膜炎 症状がゆっくりと現れるタイプです。 微熱やだるさ、体重減少といった症状が数週間から数ヶ月続きます。 風邪と間違えやすいため、発見が遅れることもあります。 もともと心臓に病気がある方に起こりやすいとされています。
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種類
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症状の進み方
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主な症状の例
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急性
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急激(数日単位)
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39℃以上の高熱、悪寒(強い寒気)、急な息切れ
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亜急性
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ゆるやか(数週間~数ヶ月単位)
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微熱、だるさ、体重減少、食欲がない
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感染する場所による分類
心臓のどの部分に細菌が感染するかによっても分類されます。 もともとのご自身の弁か、手術で入れた人工物かで分けられます。
- 自己弁心内膜炎 ご自身の心臓にもともとある弁に感染が起こるタイプです。
- 人工物関連心内膜炎 心臓手術で入れた人工弁やペースメーカーなどに感染するタイプです。 最近では、カテーテル治療(TEERなど)の後に起こることもあります。 TEERは、体への負担が少ない新しい心臓弁の治療法です。 この治療後の感染はまれですが、命に関わる重大な合併症です。 そのため、治療方針は専門家チームで慎重に話し合う必要があります。
感染性心内膜炎の原因
感染性心内膜炎は、心臓の中に細菌などが住み着いてしまう病気です。 原因となる菌を特定することが、治療の方針を決めるうえでとても大切です。 研究でも、原因菌の特定は重要なテーマとして注目されています。
原因菌として特に多いのは、黄色ブドウ球菌などです。 では、細菌はどのような経路で体の中に入り込むのでしょうか。 主な入り口は、私たちの身の回りにひそんでいます。
【細菌が体に入る主な入り口】
- 口の中のトラブル 虫歯や歯周病をそのままにすると、口の中の細菌が血管に入り込みます。 歯磨きをすると血が出るような場合も、注意が必要です。
- 皮膚のけがや病気 小さな切り傷やすり傷、アトピー性皮膚炎なども細菌の入り口になります。 皮膚のバリア機能が弱っていると、細菌が侵入しやすくなります。
- からだの他の場所の感染症 体のどこかで起きた感染が、血液に乗って心臓に届くことがあります。
- 病院での治療 歯の治療や手術、点滴で使うカテーテル(細い管)からも入ることがあります。
健康な心臓の弁はツルツルしていて、細菌はなかなかつきません。 しかし、弁に傷があったり、人工の弁が入っていたりすると表面が少しザラザラします。 そのザラザラした部分に、血液中の細菌が引っかかってしまうのです。
もともと心臓に病気がある方や、体の抵抗力が落ちている方は特に注意しましょう。
感染性心内膜炎の症状
感染性心内膜炎の症状は、とても分かりにくいことがあります。 症状の出方が人によって様々で、風邪や疲れと間違えやすいのです。 そのため、専門家の間でも診断が難しい病気として知られています。
症状は、急激にあらわれる「急性」とゆっくり進む「亜急性」で異なります。 ご自身の状態を知るため、それぞれの特徴を確認しましょう。
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タイプ
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主な症状の例
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急性
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・39℃以上の急な高熱<br>・心臓がドキドキする(頻脈)<br>・急な息切れや強い疲労感
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亜急性
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・37〜38℃台の微熱が続く<br>・なんとなく体がだるい(倦怠感)<br>・食欲がなくなり体重が減る
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これらの症状のほかにも、体には特徴的なサインが出ることがあります。 ご自身でチェックできるポイントもあるので、ぜひ覚えておきましょう。
- 悪寒や関節の痛み インフルエンザのように、強い寒気や体の震えを感じます。
- 顔色が悪くなる、寝汗をかく 貧血が進んだり、体の消耗が激しくなったりするためです。
- 皮膚や白目の小さな赤い点(点状出血) 細い血管がもろくなって出血することで起こるサインです。
- 指の爪の下にできる線状の出血 こちらも血管のもろさを示す、特徴的な症状の一つです。
心臓にできた細菌のかたまり(疣贅:ゆうぜい)が血流に乗り、全身へ飛ぶと大変危険です。 脳の血管が詰まれば脳梗塞に、心臓なら心筋梗塞につながります。 気になる症状があれば、自己判断せず早めに医療機関を受診してください。
感染性心内幕炎の検査・診断
感染性心内膜炎は、症状が他の病気と似ているため診断が難しい病気です。 実際、動物の心内膜炎に関する研究でも、診断の難しさがテーマとなっています。 そのため、いくつかの検査を丁寧に行い、診断を確定させることが重要です。
検査は、主に次の2つの目的で行われます。
- 原因となっている細菌を特定する検査
- 心臓の状態を調べる検査
この2つの情報を組み合わせ、治療の方針を慎重に決めていきます。
原因となっている細菌を特定する検査
診断と治療において、最も重要となるのが血液を調べる検査です。
- 血液培養 腕の血管から血液を採り、時間をかけて細菌を育てる検査です。 原因となっている菌の種類を特定し、どの薬が効くか調べます。
原因菌を正確に特定することは、治療の成功に直接つながります。 菌の種類によっては、使うお薬の量を調整する必要があるためです。 ある研究では、薬の量を増やすことで治療成功率が高まると報告されています。 的確な診断が、効果的な治療への大切な第一歩となるのです。
心臓の状態を調べる検査
心臓の弁に細菌のかたまり(疣贅:ゆうぜい)がないかなどを画像で確認します。
- 心エコー(超音波)検査 胸の上から超音波をあてて、心臓の動きや弁の状態を観察します。 痛みもなく、体への負担が少ない基本的な検査です。
- 経食道心エコー検査 口から細いカメラを入れ、食道側から心臓をより詳しく観察します。 体の表面からでは見えにくい、小さな細菌のかたまりも見つけやすいです。
- CT検査、PET検査 心臓以外の場所に感染が広がっていないかを調べるために行われます。
これらの検査結果を総合的に判断し、感染性心内膜炎の診断が下されます。
感染性心内膜炎の治療
感染性心内膜炎の治療目標は、心臓内の細菌を完全に取り除くことです。 治療の基本は、抗菌薬(抗生物質)を長期間にわたり点滴で投与します。 治療期間は2週間から8週間にも及ぶため、入院して専念するのが一般的です。
治療の成功は、原因菌に合った適切な抗菌薬を選べるかにかかっています。 しかし、薬の使い方は単純なものではなく、専門的な判断が必要です。 例えば、黄色ブドウ球菌の一種が原因の場合を考えます。 ある研究では、薬を複数組み合わせても治療効果は改善しませんでした。 それどころか、副作用のリスクが高まる可能性が報告されています。 そのため、薬の種類や組み合わせは、慎重に検討されるのです。
また、抗菌薬の「量」も治療の成否を分ける重要な要素です。 重症な心内膜炎に対しては、通常より多い量の薬を使うことがあります。 ある研究では、「ダプトマイシン」という薬を増量することで、治療成功率が高まったと報告されました。 ただし、薬の量が増えれば、筋肉に影響が出るなどの副作用にも注意が必要です。
薬による治療だけでは難しい場合や、心臓へのダメージが大きい場合には、手術という選択肢も考えられます。
- 心臓の弁が細菌によって大きく壊され、心不全を起こした場合
- 抗菌薬を使っても、心臓の細菌のかたまりが消えない場合
- 手術で入れた人工弁に感染が起きてしまった場合
治療と並行して、細菌の侵入口となった虫歯などを治療することも重要です。 体のどこかに感染源が残っていると、再発の原因になるためです。