鉤虫症

疲れやすい、息切れがする…。その貧血症状、もしかしたら体の中に潜む寄生虫が原因かもしれません。鉤虫症は、小腸に寄生した鉤虫が血を吸うことで鉄欠乏性貧血を引き起こす病気です。衛生環境が整った日本では稀になりましたが、世界に目を向けると、今なお多くの人が苦しんでいます。

近年、特に深刻な問題となっているのが、薬が効きにくい「薬剤耐性」を持つ鉤虫の出現です。2019年には米国で、犬から人へもうつる「犬鉤虫」の多剤耐性が報告され、公衆衛生上の新たな脅威として懸念されています。この記事では、鉤虫症の原因や症状、そして私たちにも関わる最新のリスクについて詳しく解説します。

鉤虫症の概要

鉤虫症(こうちゅうしょう)は、その名の通り、 「鉤虫」という寄生虫が体の中に入ることで起こる病気です。 この寄生虫は口の部分が釣り針のようなカギ状をしています。 この特徴から「鉤虫」という名前で呼ばれています。

鉤虫は、主に小腸の壁にかみついて血を吸いながら生きます。 そのため、少しずつですが持続的に出血が起こり、 「鉄欠乏性貧血」を引きおこすのが大きな特徴です。 貧血がすすむと、次のような症状があらわれます。

  • 動悸や息切れ
  • 少し動いただけでも心臓がドキドキしたり、息が苦しくなったりします。
  • 疲れやすさ
  • 以前よりも疲れを感じやすくなり、だるさが続きます。
  • 顔色が悪くなる
  • 血の気が引いたように、顔が青白く見えることがあります。

衛生環境が整った日本では、鉤虫症の患者さんは少なくなりました。 しかし、世界に目を向けると、特に温暖で湿気の多い地域では、 今なお多くの人が感染に苦しんでいます。

近年の研究でも、この問題の難しさが示されています。 アフリカのエチオピアにおける2000年から2023年の調査では、 対策が進んでも鉤虫の感染者数は横ばいであったと報告されました。 衛生的な環境を保つことが、引き続き大切な課題なのです。

鉤虫症の種類

鉤虫症と一言でいっても、原因の寄生虫には種類があります。 どの鉤虫に感染するかで、症状や注意点が少しずつ異なります。

鉤虫は、主に人の体で生きるものと、 動物から人にうつってくるものに分けられます。 特に、人に影響を与える代表的な鉤虫は次のとおりです。

種類

主な特徴

ズビニ鉤虫

アメリカ鉤虫

人の小腸に寄生して血を吸うことで、

鉄欠乏性貧血の原因となります。

犬鉤虫

主に犬に寄生しますが、人にも感染します。

「人獣共通感染症」の一つです。

近年、世界的に大きな問題となっているのが「犬鉤虫」です。 犬鉤虫は、犬だけでなく人にも感染する可能性があります。 そのため、世界中のペットや野生動物、そして人の健康に 大きな影響を与えるとして、重要視されています。

さらに深刻なのが、薬が効きにくい「薬剤耐性」の問題です。 寄生虫の遺伝子が変化することで、 今まで効いていた駆虫薬の効果が弱まる現象を指します。

2019年には米国で、複数の駆虫薬が効かない 「多剤耐性」を持つ犬鉤虫の感染が報告されました。 この問題は特定の犬種に限らず、 あらゆる犬に広がる可能性が指摘されています。

犬鉤虫は人にも感染する可能性がある人獣共通感染症です。 そのため、この薬剤耐性の問題は、 獣医療だけでなく人の公衆衛生においても、 非常に重要な課題として認識されています。

鉤虫症の原因

鉤虫症は、鉤虫という寄生虫が体に入ることで起こります。 鉤虫の卵は、感染した人や動物の便と一緒に排出されます。 そして、温かく湿った土の中で幼虫へと成長するのです。

人が鉤虫に感染してしまう主な原因は、次の2つです。

  • 皮膚からの侵入(経皮感染) 幼虫がいる土の上を裸足で歩いたり、土いじりをしたりすると、 幼虫が皮膚を突き破って体の中に入り込みます。
  • 口からの侵入(経口感染) 幼虫に汚染された野菜などを、十分に洗わなかったり、 加熱が不十分なまま食べたりすることで口から感染します。

体内に入った幼虫は血液の流れに乗り、肺などを経由します。 最終的に小腸にたどり着き、成虫へと成長していくのです。

また、犬に寄生する「犬鉤虫」も人に感染することがあります。 これは「人獣共通感染症」と呼ばれ、注意が必要な問題です。 近年、この犬鉤虫の間で、薬が効きにくいタイプが増えています。

特に、複数の駆虫薬が効きにくい「多剤耐性」を持つ鉤虫は、 世界的な公衆衛生上の課題として深刻に受け止められています。 2019年に米国で初めて報告されて以降、今では犬種を問わず、 幅広い犬での感染が確認されているのが現状です。

犬鉤虫は人にもうつる可能性があるため、この薬剤耐性の問題は、 ペットの健康だけでなく、人の医療においても重要視されています。

鉤虫症の症状

鉤虫症の症状は、寄生虫が体のどこにいるかによって変わります。 感染しても無症状のことも多いですが、様々な不調が現れます。 症状は、主に次の3つの段階で現れることがあります。

  1. 幼虫が体に入ってきたときの症状 幼虫が皮膚を突き破って侵入した場所に、 かゆみや赤いブツブツが出ることがあります。 みみずが這ったような赤い線状の盛り上がりが、 皮膚に現れることもあります。
    その後、幼虫が血の流れに乗って肺に達すると、 体を追い出そうとする反応で咳が出たり、 ゼーゼー、ヒューヒューといった喘鳴が起きたりします。
  2. 成虫が小腸にすみついてからの症状 鉤虫症で最も特徴的な症状が現れる段階です。
  • お腹の症状 腹痛や吐き気、下痢、食欲がなくなるなどの、 消化器系の不調を感じることがあります。
  • 貧血の症状 鉤虫が小腸の壁にかみついて少しずつ血を吸うため、 体内の鉄分が不足し「鉄欠乏性貧血」になります。 これにより、次のような症状が出ます。
  • 顔色が悪くなる
  • 疲れやすくだるさが続く
  • 動悸や息切れがする
  • 爪がスプーンのように反り返る(スプーンネイル)
  1. その他の特徴的な症状
  • 異食症(いしょくしょう) 貧血が原因で、栄養のない土や粘土などを、 無性に食べたくなってしまうことがあります。
  • 発育への影響 特に子どもの場合、貧血や栄養不足が続くと、 体の成長や発達に影響をおよぼす可能性があります。
  • アレルギー反応 寄生虫の感染とアレルギー疾患の関連については、 様々な研究が行われています。 寄生虫がいると一部のアレルギーが抑えられる可能性も 報告されていますが、鉤虫の感染と喘息や アトピー性皮膚炎との関係は、まだ不明な点が多いです。

鉤虫症の検査・診断

鉤虫症が疑われる場合、体の中に鉤虫がいる証拠を探します。 主に「便検査」と「血液検査」という2つの検査を行います。 これらの検査で、鉤虫がいるかどうか、そして、 体への影響がどのくらいあるかを詳しく調べていきます。

便検査:虫の卵を見つける検査

鉤虫症の診断で、最も基本となるのが便の検査です。 成虫が小腸にいると、便の中に卵が混じって出てきます。 この目に見えない小さな卵を、顕微鏡で探すのです。

検査の方法には、主に次の2つがあります。

  • 直接塗抹法(ちょくせつとまつほう) 少量の便をガラスに直接ぬり、観察する基本的な方法です。
  • 集卵法(しゅうらんほう) 便の中から効率よく卵だけを集めてから観察します。 鉤虫の数が少ない場合でも見つけやすいのが特徴です。

ただし、便検査で卵が見つかっても、その形だけでは、 鉤虫の詳しい種類まで特定することは難しい場合があります。

血液検査:貧血の状態を調べる検査

鉤虫症の大きな特徴は、貧血を引きおこすことです。 鉤虫が小腸の壁にかみついて、少しずつ血を吸うためです。 そのため、血液検査で貧血の有無や程度を調べることが重要です。

検査項目

わかりやすく言うと…

詳しくわかること

血算(けっさん)

血の濃さや成分の検査

赤血球やヘモグロビン(血の赤い色素)の量を測り、

貧血があるかどうかを調べます。

血清鉄・フェリチン

体の鉄分の貯金の量

体に蓄えられている鉄分がどれくらい不足しているか

確認し、鉄欠乏の状態を評価します。

これらの検査結果と、海外渡航歴などの問診内容をあわせて、 医師が総合的に判断し、診断を確定します。 気になる症状があれば、早めに医療機関で相談しましょう。

鉤虫症の治療

鉤虫症の治療は、次の2つの柱で進めることが基本です。 体の中にいる鉤虫を直接やっつける「原因治療」と、 鉤虫によって起きた貧血などの症状を和らげる「対症療法」です。

まず、体の中にいる鉤虫を追い出すために、 「駆虫薬(くちゅうやく)」という虫下しの薬を飲みます。 主に、次のようなお薬が使われます。

  • アルベンダゾール
  • メベンダゾール
  • パモ酸ピランテル

これらのお薬は、医師の指示通りに正しく飲むことが大切です。 治療が終わってから2週間ほどあけて便の検査を行い、 虫の卵が体から完全になくなったかを確認します。

鉤虫症で特に問題となるのが、貧血です。 鉤虫が小腸で血を吸い続けることで、鉄分が不足します。 そのため、駆虫薬とあわせて鉄剤を飲み、鉄分を補います。 貧血が治ると、だるさや息切れなどのつらい症状も楽になります。

近年、注意が必要な問題として、薬が効きにくい鉤虫が 世界的に増えていることが報告されています。 特に犬に寄生する「犬鉤虫」で深刻な状況です。

犬鉤虫は、複数の駆虫薬が効かない「多剤耐性」を持つ タイプが見つかっています。 これは寄生虫の遺伝子が変化することで起こる現象です。 2019年に米国で初めて報告されて以降、今では犬種を問わず 感染が広がる可能性が指摘されています。

犬鉤虫は人にもうつる可能性がある「人獣共通感染症」です。 そのため、この薬剤耐性の問題は、ペットの健康だけでなく、 人の公衆衛生においても非常に重要な課題と考えられています。