ジアルジア症

海外旅行やキャンプを楽しんだ後、原因不明の下痢や腹痛に悩まされていませんか。「きっと食べ物があわなかっただけ」と自己判断しているその不調、実は目に見えないほど小さな「寄生虫」が原因かもしれません。

ジアルジア症は、主に水や食べ物を介して感染するお腹の病気です。世界的に見ると決して珍しいものではなく、ある調査ではアフリカの子どもの約5人に1人が感染しているという報告もあります。日本では衛生環境が整い感染者は減りましたが、海外渡航などをきっかけに誰でも感染する可能性があるのです。

この記事では、ジアルジア症の具体的な症状や感染経路、そして正しい治療法について詳しく解説します。ご自身の体調と照らし合わせ、不安を解消するための一助としてください。

ジアルジア症の概要

ジアルジア症は、目に見えないほど小さな寄生虫が原因で起こるお腹の病気です。

この寄生虫は「ランブル鞭毛虫(べんもうちゅう)」といい、主に小腸に感染します。

感染すると、下痢やお腹の痛み、吐き気などの症状があらわれることがあります。

この病気は世界中で見られ、特に衛生環境が整っていない地域で多く報告されています。

ある調査では、アフリカの子どもたちのうち約18.3%が感染しているとのデータもあります。

これはおよそ5人に1人という高い割合であり、公衆衛生上の重要な課題です。

日本では衛生環境が良くなったため、感染者の数は大きく減りました。

しかし、海外の流行地域へ旅行した際に感染するケースは今でも見られます。

ジアルジア症は感染症法で「五類感染症」に分類されており、インフルエンザなどと同じ扱いです。

そのため、診断した医師は地域の保健所に届け出る決まりになっています。

項目 | 内容

病気の名前 | ジアルジア症

原因の生き物 | ランブル鞭毛虫という小さな寄生虫

主な症状 | 下痢、お腹の痛み、吐き気、お腹の張りなど

法律での分類 | 感染症法にもとづく「五類感染症」

ジアルジア症の種類

ジアルジア症の原因は「ランブル鞭毛虫」という1種類の小さな寄生虫です。

しかし、私たち人間に個性があるように、この寄生虫にも遺伝子の違いがあります。

専門的には「アセンブラージュ」と呼ばれ、現在AからHまでのグループに分類されます。

このグループの違いによって、どの動物に感染しやすいかといった特徴が異なります。

ヒトに感染する主な種類

数あるグループのなかで、主にヒトへの感染が報告されているのは2種類です。

「アセンブラージュA」と「アセンブラージュB」がそれにあたります。

遺伝子型(グループ) | 主に寄生する相手

アセンブラージュ A | ヒト、いろいろな哺乳類

アセンブラージュ B | ヒト、いろいろな哺乳類

アセンブラージュ C, D | イヌの仲間

アセンブラージュ E | ウシやヒツジの仲間

アセンブラージュ F | ネコの仲間

アセンブラージュ G | ネズミの仲間

アセンブラージュ H | 海の哺乳類

種類による症状の違い

最近の研究では、感染した寄生虫のグループによって症状の現れ方が違う可能性がわかってきました。

特にアセンブラージュBは、Aに比べて症状が重くなったり、治りにくかったりする傾向が報告されています。

同じジアルジア症でも、どのタイプに感染したかで経過が変わることがあるのです。

ジアルジア症の原因

ジアルジア症は、「ランブル鞭毛虫」という寄生虫が原因です。

この寄生虫は「シスト」という硬いカラに守られた卵のような姿で、人の体の中に入り込みます。

シストはとても小さく、顕微鏡を使わないと見えません。

しかし、とても丈夫で、水道水の消毒に使われる塩素にも強い性質を持っています。

そのため、水や土の中で長い間生き続けることができるのです。

感染の主な原因は、このシストが何らかの形で口から入ることです。

感染経路には、主に以下の3つのパターンがあります。

・汚染された水

キャンプで川の水を飲んだり、消毒が不十分な井戸水やプールの水を飲んだりして感染します。

・汚染された食べ物

シストがついた生の野菜や果物を、よく洗わずに食べることが原因になります。

・人から人への感染

感染した人のおむつ交換後やトイレの後に、手が十分に洗えていないと感染が広がります。

特に、衛生環境が整っていない地域では感染が広がりやすいです。

ある研究では、鉄欠乏性貧血や他の病気を持つ子供で感染率が高いという報告もあります。

これは体の抵抗力が、感染のしやすさに関係している可能性を示しています。

ほんの少しのシストが口に入るだけで感染することもあるため、注意が必要です。

ジアルジア症の症状

ジアルジア症は感染しても、すぐには症状が出ないことが多いです。

1週間から2週間ほどの潜伏期間を経て、お腹の不調などが現れます。

しかし、全く症状が出ないまま、便の中に寄生虫を出す人もいます。

症状がある場合、主に以下のようなお腹の不調が見られます。

ご自身の状態と見比べてみてください。

【主な症状のチェックリスト】

・お腹の痛み

お腹が急にキューッと差し込むように痛みます。

・下痢

卵が腐ったような強いにおいのする、水のような下痢が出ます。

・お腹の張り

ガスがたまって、おならやげっぷが頻繁に出ることがあります。

・吐き気や食欲不振

胃のあたりがムカムカしたり、食欲がなくなったりします。

・だるさ

なんとなく体がだるい、疲れやすいといった全身の症状も特徴です。

これらの急な症状は、1週間から3週間ほどで自然に治まることが多いです。

インフルエンザなどと違い、熱が出たり血便が出たりすることはまれです。

しかし、一部の人では下痢などの症状が長引いてしまうことがあります。

慢性化すると、食べ物の栄養をうまく吸収できない状態になります。

これを「吸収不良」といい、体重が大きく減ってしまう原因になります。

特に子どもでは注意が必要で、ある研究ではアフリカの子どもの下痢の主な原因の一つであると報告されています。

成長に必要な栄養が足りなくなり、発育に影響が出ることもあります。

また、治った後でも一時的に牛乳などでお腹を壊しやすくなる「乳糖不耐症」という状態になることもあります。

ジアルジア症の検査・診断

お腹の不調の原因を突き止めるため、主に便を調べる検査を行います。

ジアルジア症を診断するための、代表的な検査方法をご紹介します。

顕微鏡で探す方法

便の中に、ジアルジアの虫そのものや、卵のような袋(シスト)がいないかを探します。

顕微鏡を使って直接目で見て確認する、基本的な検査です。

ただし、虫はいつも便と一緒に出てくるわけではありません。

そのため、1回の検査で見つからなくても、日を変えて何度か検査することがあります。

もっと詳しく調べる方法(抗原検査・遺伝子検査)

顕微鏡で見るよりも、さらに詳しく調べる方法もあります。

便に含まれる、ジアルジア特有の「手がかり」を見つけ出す検査です。

・抗原検査

ジアルジアの虫が出す、特別なタンパク質(抗原)を探し出します。

・遺伝子検査

虫の設計図である遺伝子(DNA)そのものを見つけ出します。

特に遺伝子検査は、とても感度が高く、少ない虫の数でも見つけやすいのが特徴です。

ある研究では「tpi」という遺伝子を調べると、感染を見つける精度が最も高いと報告されています。

さらに、遺伝子検査では感染しているジアルジアの種類までわかることがあります。

「gdh」や「bg」といった遺伝子を調べると、症状が重くなりやすいタイプかどうかの判断にも役立ちます。

このように詳しい検査は、より正確な診断や治療方針を決める上でとても重要です。

検査の種類 | 調べるもの | 特徴

顕微鏡検査 | 虫(栄養型)や袋(シスト) | 基本的な検査。複数回行うことがある。

抗原検査 | 虫が出す特別なタンパク質 | 顕微鏡より見つけやすい。

遺伝子検査 | 虫の遺伝子(DNA) | 感度が高く、虫の種類までわかることがある。

ジアルジア症の治療

ジアルジア症の治療は、お腹の中にいる寄生虫を退治することが基本です。

下痢で体の水分が失われやすいため、脱水を防ぐための水分補給も大切になります。

治療の中心は、寄生虫に効くお薬を飲む「薬物療法」です。

患者さんの年齢や体の状態に合わせて、医師がお薬を選びます。

主な治療薬 | 特徴

メトロニダゾール | 日本でジアルジア症の治療に保険が使える代表的なお薬です。通常は5日から7日間飲み続けます。

チニダゾール | 1回の服用で治療が終わることが多いお薬です。メトロニダゾールより副作用が少ないとされます。

ニタゾキサニド | お子さんでも飲みやすい液体のタイプがあります。こちらは3日間、服用を続けます。

これらの薬を飲んでいる間は、アルコールの摂取は避けてください。

副作用が出やすくなるため、治療後しばらくもお酒は控える必要があります。

妊娠している方は使えない薬もあるため、必ず医師に伝えてください。

最近の研究では、ジアルジア症の原因となる寄生虫の種類によって、症状の重さや治りやすさが違うことがわかってきました。

特に「アセンブラージュB」というタイプは、症状が重くなったり、一度治っても再発しやすかったりする可能性が報告されています。

そのため、自己判断で薬をやめず、医師の指示通りに最後まで治療を続けることがとても大切です。

治療後も、牛乳などでお腹がゆるくなる症状が続くことがあります。

気になることがあれば、遠慮せずに医師に相談しましょう。