大腿骨頭すべり症

思春期のお子さんが訴える足の痛み。「また成長痛だろう」と、つい軽く考えてしまっていませんか?しかし、その痛みが股関節や太もも、時には「ひざ」にあらわれる場合、注意が必要です。実は、股関節に起きた異常が、全く別の場所の痛みとして感じられることがあるのです。

この症状は、10代の男の子に多く、特に肥満傾向のお子さんに見られる「大腿骨頭すべり症」のサインかもしれません。日本では10万人に1〜2人という比較的まれな病気ですが、発見が遅れると生涯にわたる深刻な後遺症につながる可能性があり、早期発見が何よりも重要になります。

この記事では、見過ごされがちな初期症状のチェックリストから原因、そして手術を中心とした治療法までを詳しく解説します。お子さんの大切な未来を守るため、まずはこの記事で正しい知識を確認し、少しでも気になる点があればすぐに専門医へ相談しましょう。

大腿骨頭すべり症の概要

大腿骨頭すべり症とは、太ももの骨(大腿骨)の先端部分がずれてしまう、成長期のお子さんに特有の病気です。 骨の先端にある丸い「骨頭」という部分が、骨が成長するための軟骨の層である「成長軟骨板」を境目にして、後ろ側へ滑るようにずれてしまいます。

この病気には、以下のような特徴がありますので、お子さんの状態と見比べてみてください。

  • かかりやすい年齢 骨が急激に成長する10歳〜14歳くらいの思春期に多いです。 この時期は成長軟骨板が構造的に弱くなるため、ずれやすくなります。
  • 性別による違い 男の子に多く見られ、女の子の約3倍といわれています。
  • 体型との関係 肥満の傾向があるお子さんに多いことが知られています。 近年の小児肥満の増加に伴い、この病気の発生率も増加傾向にあります。
  • 発生する頻度 日本では10万人に1人〜2人程度とされており、比較的まれな病気です。

この病気は思春期に起こるため、その後の生活に長く影響を及ぼす可能性も考えられます。 放置すると生涯にわたる深刻な後遺症につながることもあるため、早期に発見し、適切な対応を始めることが非常に重要です。

大腿骨頭すべり症の種類

大腿骨頭すべり症は、症状のあらわれ方でいくつかの種類に分けられます。 この分類は、今後の治療法を決めるうえで非常に重要な手がかりとなります。 分類方法は、主に「症状があらわれてからの期間」と「歩けるかどうか」の2つです。

症状があらわれてからの期間による分類

いつから症状が出始めたかによって、以下の3つのタイプに分けられます。 急に痛くなったのか、それともずっと前から痛かったのかがポイントです。

  • 急性型 症状が出てから3週間以内のものです。 突然、股関節に強い痛みがあらわれ、歩くのが難しくなります。
  • 慢性型 症状が3週間以上続いているものです。 軽い痛みが長く続き、歩き方が少しおかしい状態が続きます。
  • 慢性急性転化型 軽い症状が続いていたところに、転ぶなどのきっかけで急に悪化します。 慢性的な痛みに、急な激しい痛みが加わった状態です。

歩けるかどうかによる分類

痛みの強さによって、体重をかけて歩けるかどうかで分ける方法です。 この分類は、その後の合併症のリスクを考える上で特に重要視されます。

  • 安定型 痛みはありますが、松葉杖などを使えば歩ける状態です。
  • 不安定型 痛みが非常に強く、足に全く体重をかけられない状態を指します。 骨への血流が悪くなるリスクが高く、より慎重な治療が求められます。

分類のしかた

種類

特徴

症状の期間

急性型

3週間以内。急な激しい痛みで歩きにくい。

慢性型

3週間以上。軽い痛みが続く。

慢性急性転化型

慢性的な症状に急な激痛が加わる。

歩けるか

安定型

痛みはあるが、松葉杖などを使って歩ける。

不安定型

痛みが強く、体重をかけられない。

大腿骨頭すべり症の原因

大腿骨頭すべり症がなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 いくつかの要因が、まるでパズルのピースのように複雑に組み合わさって発症すると考えられています。

主な要因として、以下の3つが関係しているとされています。

  • からだつき(特に肥満) 体重が増えると、股関節にある成長軟骨板に大きな負担がかかります。 成長軟骨板は骨が成長するための柔らかい部分なので、強い力でずれやすくなるのです。
  • ホルモンのバランスの変化 急激に身長が伸びる思春期は、成長ホルモンなどのバランスが大きく変わります。 この変化が成長軟骨板の強度を一時的に弱くし、ずれやすい状態にすると考えられています。
  • 骨の形や角度 生まれつきの大腿骨の形や、成長軟骨板の傾きなども、発症のしやすさに関係します。

最近の研究では、発症しやすい季節があることも分かってきました。 複数の研究を分析した結果、北半球では夏から秋にかけて発症が多くなることが報告されています。

また、男の子に多いこともこの病気の特徴です。 さらに、症状が3週間以内に急にあらわれる「急性型」や、骨のずれが大きい場合は、合併症のリスクも高まるため、特に注意深く経過をみる必要があります。

大腿骨頭すべり症の症状

大腿骨頭すべり症のサインは、主に「痛み」と「歩き方の変化」です。 これらの症状は、お子さんの体が発しているSOSのサインかもしれません。 ささいな変化を見逃さず、早期発見につなげることが非常に大切です。

痛みの場所と特徴

この病気で特徴的なのは、股関節の異常にもかかわらず、痛む場所が股関節だけではない点です。

  • 痛む場所 股関節の付け根はもちろん、太ももやひざの痛みを訴えることが非常に多いです。 これは「関連痛」と呼ばれ、脳が痛みの発生源を勘違いして起こります。
  • 痛みの性質 痛む場所がはっきりとせず、「このあたりが何となく痛い」と感じることも特徴です。
  • 痛みが強くなる動き しゃがんだり、自転車をこいだりするなど、股関節を曲げる動きで痛みが強くなります。

はじめは軽い違和感だけでも、徐々に痛みが強くなることもあります。

歩き方や体の動きの変化

痛みによって、無意識のうちに歩き方や体の動きが変わることがあります。

  • 歩き方の変化 痛い方の足をかばうように、足を引きずって歩くようになります(跛行)。 お尻を左右に振るような、特徴的な歩き方(Trendelenburg歩行)が見られることもあります。
  • 足の向きの変化 骨がずれている影響で、歩くときや仰向けで寝たときに、つま先が自然と外側を向いてしまいます。
  • 動きの制限 股関節の動きが悪くなり、特に足を内側にひねる動きが難しくなります。 そのため、あぐらをかいたり、自分で靴下をはいたりする動作がしにくくなります。

お子さんの様子で気になることがあれば、以下のリストで確認してみてください。

【大腿骨頭すべり症の症状チェックリスト】 □ 最近、足を引きずるように歩くことがある □ 股関節の付け根、太もも、ひざの痛みを訴える □ しゃがんだり、長く座ったりすると痛がる □ 歩くとき、片方の足がガニ股のように外を向く □ あぐらをかきにくくなった、または痛がる □ 靴下をはくなど、股関節を曲げる動作がしづらそう

これらのサインが一つでも当てはまるなら、できるだけ早く整形外科を受診しましょう。

大腿骨頭すべり症の検査・診断

お子さんの足の痛みの原因を探るため、いくつかの検査を行います。 お医者さんは、パズルのピースを組み合わせるように情報を集めます。 問診、身体診察、画像検査の3つのステップで診断を確定させます。

1. 問診(お話を聞くこと)

まず、いつからどんな症状があるのか、詳しくお話を聞かせてください。 股関節だけでなく、ひざや太ももの痛みについても教えてもらうことが大切です。 なぜなら、股関節の異常がひざの痛みとして感じられることがあるからです。

2. 身体診察(体を動かしてみること)

次にお子さんの体の状態を、実際に見て、触って確かめます。 歩き方や足の向きに、この病気特有のサインがないかを確認します。

  • ドレーマン徴候 大腿骨頭すべり症でよく見られる、とても大切なサインです。 あお向けに寝て股関節を曲げると、太ももが自然と外に開きます。 骨頭が後ろにずれているため、まっすぐ足を曲げにくくなるのです。
  • 動きの制限 股関節を内側にひねる動きが、特にやりにくくなります。 骨のずれが、正常な関節の動きを邪魔してしまうためです。

3. 画像検査(レントゲンで骨の写真を撮ること)

問診と身体診察で病気が疑われたら、レントゲン検査を行います。 この検査で骨のずれを直接確認し、診断を確定させる大切な検査です。

  • 撮影の方法 骨盤全体を正面から撮る写真と、股関節を開いた姿勢で撮る写真があります。 カエルの足のような格好で撮る「frog-leg撮影」は、ずれを見やすくします。
  • 側面像の重要性 ずれが軽い場合、正面の写真だけでは見つからないことがあります。 そのため、横からの写真(側面像)を撮り、小さなずれも見逃しません。

これらの検査で診断が確定したら、すぐに治療を始めることが重要です。 これ以上骨がずれるのを防ぐため、すぐに足に体重をかけないようにします。 そして、専門の医師による治療を速やかに開始する必要があります。

大腿骨頭すべり症の治療

大腿骨頭すべり症は、安静にしているだけで自然に治ることは少ないです。 そのため、基本的には手術による治療が必要になります。

手術の目的は、主に次の2つです。 お子さんの将来の歩行機能を守るために、とても大切な治療となります。

  • すべりの進行を防ぐこと これ以上、骨がずれてしまわないように、しっかりと固定します。
  • 合併症を防ぐこと 骨の先端部分に血液が届かなくなる「大腿骨頭壊死」を防ぎます。 これは骨が栄養不足で死んでしまう、最も避けたい合併症です。

主な手術の方法

手術では、ずれた大腿骨頭を金属のネジ(スクリュー)で固定します。 骨のずれの程度によって、主に2つの方法から最適なものが選ばれます。

手術方法の種類

特徴

その場でのピンニング固定術

ずれた骨を無理に元の位置に戻さず、そのままの位置でネジを使って固定する方法です。

観血的整復固定術

皮膚を切開して、ずれた骨をできるだけ元の位置に戻してから、ネジで固定する方法です。

どちらの方法を選ぶかは、患者さんの状態によって慎重に判断されます。 ある研究では、骨を元の位置に戻す方法のほうが良い結果を示すようです。 将来的に再手術や、関節が変形して人工股関節の手術が必要になるリスクを、減らせる可能性があると報告されています。

手術のあとの流れ

手術が終わっても、すぐに体重をかけて歩くことはできません。 固定した骨が安定するまで、しばらくの間は松葉杖などを使います。 足に体重をかけない期間(免荷)を経て、リハビリを開始します。 体の状態に合わせて、少しずつ体重をかける練習をおこないます。