肺外結核

「結核」と聞いて、多くの方は長引く咳や肺の病気を想像するかもしれません。しかし、そのイメージは結核という病気の全体像の一部に過ぎないとしたら、どうでしょうか。原因となる結核菌は血液の流れに乗り、脳や背骨、腎臓など、肺以外のあらゆる場所で静かに病巣を作ることがあるのです。

「肺外結核」と呼ばれるこの病気は決して稀ではなく、日本の統計では新たに結核と診断される患者の約5人に1人が該当します。咳といった典型的な症状が出にくいため、原因不明の微熱や腰痛が、実は結核のサインである可能性も。発見が遅れると重症化する危険性も潜んでいます。

この記事では、見過ごされがちな「隠れた結核」の正体に迫ります。その種類や症状、最新の治療法までを詳しく解説しますので、ご自身の体調と照らし合わせながら読み進めてみてください。

肺外結核の概要

「結核」と聞くと、多くの方が咳が続く肺の病気を想像するかもしれません。 しかし、原因となる結核菌は、肺の中だけにとどまるとは限りません。

菌が血液やリンパの流れに乗って全身に運ばれ、肺以外の場所で病巣を作ることがあります。 これを「肺外結核(はいがいけっかく)」と呼びます。

肺外結核は、結核と診断された方全体の約1〜2割を占めています。 日本の2016年の統計では、新規の結核患者さん約17,600人のうち、約4,000人が肺外結核であり、決して珍しい病気ではありません。

  • 発生する場所
  • 肺を包む膜(胸膜)、首のリンパ節、背骨、腸、腎臓、脳など、体のあらゆる場所で起こる可能性があります。
  • 症状の特徴
  • 発生する場所によって症状が全く異なります。そのため、肺結核のような長引く咳や痰が出ないことも多く、診断が難しい場合があります。

特に、他の病気などで体の抵抗力(免疫力)が落ちている方は注意が必要です。 例えば、HIVに感染している方が結核にもかかると、重症化しやすくなります。

ある研究では、HIVと結核の両方に感染した患者さんの死亡率を高める要因の一つとして、肺外結核が挙げられています。 このように、結核は肺だけの病気ではないことを知っておくことが大切です。

肺外結核の種類

結核菌はとても冒険好きで、肺の中だけにとどまらず、血液やリンパの流れに乗って全身の様々な場所へ「お引越し」することがあります。 お引越しした先で病気を起こすのが「肺外結核」です。 感染した場所によって、病気の名前や症状が異なります。

発症する場所

病気の名前

こんな特徴があります

胸膜

結核性胸膜炎

肺を包む膜に炎症が起きて、胸に水がたまることがあります。肺外結核で最も多い種類です。

リンパ節

リンパ節結核

首やわきの下、足の付け根にあるリンパ節が腫れます。痛みを感じないことも多いのが特徴です。

骨・関節

脊椎結核

(カリエス)

背骨に感染することが多く、長引く腰痛の原因になります。進行すると骨が変形することもあります。

脳・脊髄

結核性髄膜炎

脳や脊髄を覆う大切な膜に炎症が起きます。頭痛や発熱など、重い症状が出やすい危険な種類です。

おなか

腸結核

小腸や大腸に感染し、腹痛や下痢、体重が減るなどの症状が出ます。

腎臓

腎結核

おしっこを作る腎臓に感染します。血尿や頻尿といった症状が出ることがあります。

全身

粟粒結核

結核菌が血液で全身に運ばれ、多数の小さな病巣を作る重い状態です。

これらの肺外結核は、体の抵抗力(免疫力)が落ちている方で重症化しやすいことが知られています。 ある研究では、HIV感染などで免疫力が著しく低下した状態の方が肺外結核にかかると、命に関わる危険性が高まることが報告されています。

また、肺外結核の治療で使われるお薬(イソニアジドなど)が、まれに膵炎(すいえん)という副作用を起こすことがあり、その報告は肺外結核の患者さんで多くみられるという研究結果もあります。

肺外結核の原因

肺外結核は、「結核菌」という目に見えない小さな菌が原因で起こります。 しかし、結核菌が体に入ったからといって、誰もが病気になるわけではありません。 発症するかどうかは、体を守る「免疫力」という力の強さが大きく関わっています。

結核菌は、まず呼吸と一緒に肺の中に入り込みます。 多くの場合、体の免疫力が働いて菌の活動を抑え込みますが、一部の菌は生き残ります。 そして、血液やリンパの流れに乗って全身へと旅立ち、肺以外の場所に静かに隠れます。

ふだんは隠れている菌も、何かのきっかけで体の免疫力が弱まると、再び元気に活動を始めます。 これが、肺外結核が発症する基本的な仕組みです。

免疫力が低下する主な要因

ご自身の状態に当てはまるものがないか、確認してみましょう。

  • 病気による影響
  • 糖尿病、がん、腎臓病などの病気にかかっている
  • HIV感染症など、免疫の働きが弱くなる病気にかかっている
  • お薬の影響
  • ステロイドや免疫抑制剤など、免疫を抑える作用のある薬を使っている
  • その他の要因
  • 加齢にともなって、体を守る力が自然に弱まっている
  • 栄養が十分に摂れていない
  • 疲れや強いストレスが続いている

特に、HIV感染などで免疫力が著しく低下している状態は注意が必要です。 ある海外の研究では、HIVと結核の両方に感染した場合、肺外結核であることが命の危険を高める一つの要因になると報告されています。 また、同じ研究で44歳以上であることもリスクを高める可能性が示されており、年齢とともに体を守る力が低下することの重要性がわかります。

肺外結核の症状

肺結核の主な症状が咳であるのに対し、肺外結核ははっきりしない症状が多いのが特徴です。 微熱や体のだるさ、食欲がない、体重が減るといった、風邪や疲れと間違えやすいサインが続きます。

肺外結核の症状は、結核菌がどの場所に感染したかによって、全く異なる「顔」を見せます。 ご自身の体調と見比べてみましょう。

感染した場所

主な症状の例

リンパ節

首や脇の下、足の付け根にあるリンパ節が腫れます。痛みを感じることも、感じないこともあります。

胸膜(肺をおおう膜)

胸の痛みや咳、息苦しさを感じます。これは、肺の周りに水(胸水)がたまることが原因です。

骨・関節(特に背骨)

背中や腰に長引く痛みがあらわれます。進行すると、足のしびれや筋力低下につながることもあります。

腎臓

血尿や頻尿といった症状が出ることがあります。しかし、初めのうちは自覚症状がない場合も多いです。

腸

なかなか治らない腹痛や下痢、お腹の張り、体重減少などがみられます。他の腸の病気と間違えやすいです。

脳・髄膜

頭痛や発熱、吐き気がみられます。進行すると意識がもうろうとすることもあり、命に関わる危険な状態です。

このように、症状は感染した場所によって様々で、他の病気と見分けるのが非常に難しい場合があります。

特に、糖尿病やHIV感染などで体の抵抗力(免疫力)が落ちている方は注意が必要です。 ある海外の研究では、HIVなどで免疫力が著しく低下した方が肺外結核になると、命に関わる危険性が高まることが報告されています。

原因がわからない体調不良が2週間以上続く場合は、自己判断せず、必ず医療機関を受診してください。

肺外結核の検査・診断

肺外結核は症状がはっきりしないため、診断は簡単ではありません。 まるで体の中に「かくれんぼ」している結核菌を見つけ出すようです。 そのため、色々な検査を組み合わせて慎重に診断を進めていきます。 基本は、病気が疑われる場所に結核菌がいる証拠を見つけることです。

診断には、以下のような検査の結果や症状を総合的にみて判断します。

検査の種類

どんなことを調べるの?

画像検査

X線(レントゲン)やCTを使い、結核菌が作った病気の「影」がないか体の中を探します。

細菌学的検査

病気が疑われる場所から組織や体液を採り、結核菌そのものがいるかを直接調べます。菌を育てる「培養検査」や、菌の遺伝子を見つける「PCR検査」があります。

血液検査

インターフェロンガンマ遊離試験(IGRA)という検査で、体が結核菌と戦ったことがあるか、その「証拠」を血液で調べます。

生検

組織の一部を顕微鏡で観察し、結核菌によって引き起こされる特徴的な変化がないかを確認します。

ツベルクリン反応検査

結核菌の成分を皮膚に注射して反応を見ます。過去の感染やBCG接種でも陽性になることがあります。

特に、体の抵抗力(免疫力)が落ちている方は注意が必要です。 ある研究では、HIV感染などで免疫力が低下した方が肺外結核になると、命に関わる危険性が高まることが報告されています。 また、糖尿病だけでなく、その手前の段階である「前糖尿病」の方も、結核の治療がうまくいきにくくなる可能性が研究で示唆されています。 これらのことから、早期に検査を受けて正確な診断につなげることが、その後の治療において非常に重要になります。

肺外結核の治療

肺外結核の治療は、肺結核と同じお薬を使うことが基本です。 目的は、体の中に隠れている結核菌を完全にやっつけることです。 複数の薬を組み合わせて、長い期間飲み続けることが大切になります。

治療の中心は、抗結核薬という飲み薬です。 標準的な治療では、以下の流れで薬を服用していきます。

治療のステップ

飲むお薬の種類

最初の2ヶ月間

イソニアジド、リファンピシンなど4種類のお薬を飲みます。

その後の4ヶ月間

イソニアジドとリファンピシン、2種類のお薬を続けます。

合計で約6ヶ月間、毎日お薬を飲むことが基本のコースです。 ただし、結核性髄膜炎など病気が重い場合は、治療が1年以上になることもあります。

治療中は、いくつか大切な注意点があります。

  • お薬を最後まで飲みきること 症状が良くなっても、菌がまだ体内に隠れていることがあります。 自己判断で薬をやめると、薬が効かない菌に変化する危険があります。 医師の指示通り、必ず最後までお薬を飲みきることが最も重要です。
  • お薬の副作用 抗結核薬で、肝臓の機能が少し悪くなることがあります。 また、まれに「膵炎(すいえん)」という副作用が起こる可能性も報告されています。 これは、お腹の中にある「すい臓」が炎症を起こす病気です。 ある研究では、特に肺外結核の患者さんで報告が多いとされています。 治療を始めて12日から45日くらいの間に急な腹痛が出たら、すぐに医師へ相談しましょう。
  • 持病との関係 糖尿病や、その手前の段階である「前糖尿病」の方は注意が必要です。 血糖値が正常な方と比べて、結核の治療がうまくいきにくい可能性がある、という研究結果があります。 結核の治療とあわせて、血糖値の管理もしっかり行うことが大切です。

お薬の治療で改善が難しい場合や、骨の変形が強い時などには、手術が検討されることもあります。 治療は長期間にわたりますが、医師と一緒にゴールを目指しましょう。