エプスタイン病

「エプスタイン病」という名前を聞いて、ウイルスが原因の病気を思い浮かべた方もいるかもしれません。しかし、これは生まれつき心臓の弁に異常がある先天性の病気であり、ウイルスとは全くの無関係です。およそ8,000人から10,000人に1人というまれな疾患のため、国の指定難病(指定難病217)ともされています。

症状は全くない方から、新生児期に重い心不全を起こす方まで個人差が大きく、学校の健康診断で初めて見つかるケースも少なくありません。この記事では、エプスタイン病の詳しい原因や症状、診断から治療法までを分かりやすく解説します。病気への正しい知識を得て、ご自身やご家族が抱える不安を解消する第一歩としてお役立てください。

エプスタイン病の概要

エプスタイン病は、生まれつき心臓に異常がある病気の一つです。 心臓の右側にある「三尖弁(さんせんべん)」という部分に問題が起こります。

三尖弁は、心臓の中で血液が一方通行で流れるようにする扉の役目をしています。 この扉がしっかり閉まることで、血液の逆流を防いでいます。 しかし、エプスタイン病ではこの三尖弁に次のような異常がみられます。

  • 弁の位置のずれ 本来あるべき位置よりも、心臓の下側の部屋(右心室)にずれてしまいます。
  • 弁の癒着(ゆちゃく) 弁の一部が心臓の壁にくっついてしまい、動きが悪くなります。

これらの異常により、三尖弁がうまく閉じず、血液が逆流してしまいます。 その結果、心臓に大きな負担がかかり、様々な症状を引き起こすことがあります。 この病気は、およそ8,000人から10,000人に1人の割合でみられるまれな病気です。 そのため、日本では国の指定難病(指定難病217)とされています。

なお、「エプスタイン病」という名前はウイルスとよく似ていますが、全くの別物です。 胃がんなどに関わる「エプスタイン・バーウイルス(EBV)」という病原体があります。 しかし、エプスタイン病はウイルスが原因ではなく、心臓の形の問題です。

エプスタイン病の種類

エプスタイン病と診断されても、その重症度は一人ひとり異なります。 特に生まれてすぐの赤ちゃんの時期は、治療方針を決める上で重要です。 心臓から肺へ血液を送る出口「肺動脈弁」の状態が、重症度の目安になります。

この肺動脈弁の状態によって、主に次の3つの種類(病型)に分けられます。

種類(病型)

肺動脈弁の状態と血液の流れ

正常または狭窄(きょうさく)型

肺動脈弁の機能は正常か、少し狭い状態です。<br> 血液は肺へ流れますが、流れにくいことがあります。

閉鎖(へいさ)型

肺動脈弁が完全に閉じてしまっている状態です。<br> このため、右心室から肺へ血液が流れません。

閉鎖不全(へいさふぜん)型

肺動脈弁がうまく閉じず、血液が逆流する状態です。<br> 肺高血圧症を伴うことが多く、重症になりやすいです。

この分類は、赤ちゃんの命に関わる治療をどう進めるか判断するのに役立ちます。

ところで、エプスタイン病は「エプスタイン・バーウイルス(EBV)」と名前が似ています。 しかし、これらは全く関係がなく、原因も異なりますのでご安心ください。 EBVは多くの人が感染するウイルスで、体の免疫機能から逃れる性質を持ちます。 そして、胃の細胞に感染し、胃がんの発生を促すことが報告されています。 また、ホジキンリンパ腫といった血液のがんの発症に関わることも分かっています。 エプスタイン病は心臓の形の問題であり、ウイルスが原因の病気ではありません。

エプスタイン病の原因

エプスタイン病の根本的な原因は、まだ完全にはわかっていません。 一つの原因だけでなく、複数の要因が複雑に重なって起こるとされます。

主に「遺伝的な要因」と「環境的な要因」の2つが関係すると考えられています。

1. 遺伝的な要因

私たちの体を作るための、いわば「設計図」にあたる遺伝子の変化です。 心臓を正しく作るために必要な遺伝子に変化があると、関連が報告されています。

– NKX2-5、MYH7など これらは心臓の筋肉や形を作るのに、大切な役割を持つ遺伝子です。

2. 環境的な要因

お母さんのお腹の中で、赤ちゃんが育つ環境も影響する可能性があります。

– 妊娠中の薬の影響 そう病などの治療に使われる炭酸リチウムという薬との関連が報告されています。

– 妊娠中のお母さんの状態 感染症や栄養の状態が、赤ちゃんの心臓形成に影響する可能性です。 例えば一部のウイルスは、人の免疫から隠れて体内に潜伏し続けます。 また、細胞の中にある鉄分のバランスを崩すウイルスも報告されています。 このような変化が、細胞の正常な働きを妨げることが考えられます。

これらの要因が妊娠のごく初期(最初の8週間ごろ)に影響します。 その結果、心臓の三尖弁がうまく作られないことが、病気に直接つながると考えられています。

エプスタイン病の症状

エプスタイン病の症状は、病気の重さや年齢によって大きく異なります。 全く症状がないまま過ごす方もいれば、生まれてすぐに現れる方もいます。 症状が現れる時期によって、注意すべき点が変わります。

生まれてすぐ〜赤ちゃんのうち

重症の場合、生まれてすぐに命に関わる症状が出ることがあります。 心臓のポンプ機能がうまく働かないことが主な原因です。

  • チアノーゼ 血液中の酸素が少なくなり、唇や皮膚が紫色になる状態です。 特に赤ちゃんが泣いた時などに、はっきりとわかりやすいです。
  • 呼吸困難 呼吸が速くなったり、息をするのが苦しそうに見えたりします。
  • 心不全の症状 ミルクの飲みが悪くなる、体重がなかなか増えないなどです。 これらは心臓に負担がかかっているサインの可能性があります。

子どものうち〜大人になってから

子どもの頃は無症状で、学校の健康診断で初めて分かることも多いです。 心臓の雑音や、心電図の異常(WPW症候群など)がきっかけとなります。 年齢が上がるにつれて、次のような症状が出やすくなります。

  • 動悸、息切れ、疲れやすさ
  • 不整脈(脈のリズムが乱れること)
  • 足や顔のむくみ(浮腫)

ここで、病気の名前について注意が必要です。 エプスタイン病は心臓の形の問題で、ウイルス感染症ではありません。 名前が似ている「エプスタイン・バーウイルス(EBV)」とは全くの別物です。

EBVは多くの人が感染するウイルスで、体の免疫から隠れる性質があります。 胃の細胞に感染し、胃の炎症や胃がんの発生に関わることがあります。 また、血液のがんであるホジキンリンパ腫などの原因にもなります。

このように、EBVはウイルスが原因で起こる病気です。 一方でエプスタイン病は、心臓の三尖弁の形の問題が原因です。 気になる症状があれば、自己判断せずに専門の医療機関にご相談ください。

エプスタイン病の検査・診断

エプスタイン病は症状が多様なため、診断のきっかけも人それぞれです。 赤ちゃんの時に心不全の症状で見つかることもあります。 また、学校の心臓検診や、大人の動悸などで気づかれることもあります。

診断は、まずお体の状態を詳しく調べることから始まります。 段階的に検査を進め、診断を確定していきます。

  • 聴診 医師が聴診器を使い、心臓の音を直接聞きます。 三尖弁の閉じ方が悪いために生じる、特有の雑音がないか確認します。
  • 胸部X線検査 胸のレントゲン写真を撮り、心臓の大きさや形を調べます。 血液の逆流で負担がかかり、心臓が大きくなっていないかを見ます。
  • 心電図検査 心臓が動く時の微弱な電気信号を記録し、不整脈がないか調べます。 特にこの病気に合併しやすいWPW症候群という波形がないか確認します。

これらの検査で疑いが強まった場合、心臓超音波(心エコー)検査を行います。 この検査で三尖弁の異常や血液の逆流を直接映像で確認し、確定診断します。

検査の種類

主にわかること

聴診

心臓の雑音の有無やその特徴

胸部X線検査

心臓の大きさや形

心電図検査

不整脈の有無、WPW症候群など

心臓超音波検査

三尖弁の異常、心臓の機能、血液逆流の程度(確定診断)

ところで、「エプスタイン」という名前がウイルスを連想させるかもしれません。 実際に「エプスタイン・バーウイルス(EBV)」というウイルスは存在します。 このウイルスは体の免疫から隠れる性質を持ち、胃の細胞に感染します。 そして、胃の炎症や胃がんの発生に関わることが報告されています。 また、細胞内の鉄のバランスを崩し、血液のがんに関わることもあります。

しかし、心臓の病気であるエプスタイン病は、このウイルスとは全く無関係です。 エプスタイン病は心臓の「形」の問題であり、ウイルス感染症ではありません。

エプスタイン病の治療

エプスタイン病の治療は、一人ひとりの状態に合わせて慎重に決まります。 症状の重さや年齢、心臓の大きさなどを総合的に判断して方針を立てます。 症状が軽い場合は、すぐに治療せず定期的な検査で様子を見ることもあります。

治療が必要な場合の選択肢は、大きく分けて3つです。 お体の状態に応じて、これらの治療法を組み合わせて行います。

治療法

主な目的

具体的な内容

お薬での治療

症状を和らげ、心臓の負担を軽くする

・心不全の症状(息切れ、むくみ)を改善する薬<br> ・不整脈(脈の乱れ)を整える薬<br> ・血の塊(血栓)ができるのを防ぐ薬

カテーテル治療

不整脈の原因を取り除く

足の付け根などから細い管(カテーテル)を入れ、<br> 不整脈を起こす異常な電気信号の通り道を治療します。

手術での治療

心臓の形を根本的に治す

・ご自身の弁を修理する「弁形成術」<br> ・人工の弁に取り替える「弁置換術」

手術は、症状が進んだり心臓が大きくなったりした場合の根本的な治療です。 どの手術を選ぶかは、弁の状態や年齢によって異なります。

ここで、医療研究の進歩について少しお話しします。 エプスタイン病とは全く別の病気ですが、名前が似ているウイルスがいます。 「エプスタイン・バーウイルス(EBV)」という、がんなどに関わる病原体です。

このウイルスが引き起こす病気に対し、新しい治療法の研究が進んでいます。 例えば、体の免疫の仕組みを使い、ウイルス関連のがんを攻撃する治療用ワクチンです。 また、ウイルスが細胞をがん化させるのを防ぐため、研究も行われています。 細胞が自ら壊れる「フェロプトーシス」という仕組みに注目した治療法です。

このような研究の積み重ねが、将来多くの病気の治療に役立つと期待されます。