心内膜炎

なかなか治らない熱やだるさ。「ただの風邪」だと軽く考えていませんか?その見過ごしがちな症状、もしかしたら心臓が発する危険なサインかもしれません。

心内膜炎は、虫歯など口の中の細菌が血液を通って心臓に感染し、炎症を引き起こす病気です。心臓の機能を低下させるだけでなく、細菌のかたまりが脳に飛んで脳梗塞を招くなど、命を脅かすこともあります。

日本では年間10万人に最大7人が発症し、特定の特徴を持つ方ではリスクが約12倍にも跳ね上がるとされます。この記事では、心内膜炎の知られざる原因や症状、治療法について詳しく解説します。

心内膜炎の概要

心臓は血液を全身に送り出す、大切なポンプの役割をします。 その心臓の内側をおおう「心内膜」という膜や、 血液が逆流しないためのドアである「心臓弁」に、 細菌が感染して炎症を起こす病気を、心内膜炎といいます。

多くの場合、口の中などから血液に入った細菌が原因です。 細菌が血の流れに乗って心臓にたどり着き、 心臓弁などにくっついて「疣贅(ゆうぜい)」と呼ばれる、 細菌のかたまりを作ってしまうのです。

このかたまりが心臓の機能を邪魔して心不全を起こしたり、 壊れて脳に飛んで脳梗塞を引き起こしたりすることがあります。 心内膜炎は命に関わるため、早期の発見と治療が重要です。

日本では1年間に10万人のうち3人から7人が発症します。 特に、心臓の弁の形が生まれつき違う方は注意が必要です。 例えば、大動脈弁が通常3枚のところ2枚しかない方がいます。 これを「二尖弁大動脈弁」と呼びます。 ある研究では、この特徴を持つ方は心内膜炎になるリスクが、 そうでない方と比べて約12倍も高くなると報告されています。

心内膜炎のポイント

  • どこに起こる? 心臓の内側の膜(心内膜)や血液の逆流を防ぐ弁
  • 何が起こる? 細菌がくっつき、「疣贅」という細菌のかたまりを作る
  • なぜ危険? 心不全や脳梗塞など、命に関わる状態になることがある

心内膜炎の種類

心内膜炎は、その原因によって大きく2つの種類に分けられます。 ポイントは「細菌がいるかどうか」で、それぞれ起こることが違います。 細菌が原因の「感染性心内膜炎」と、そうでない「非感染性心内膜炎」です。

感染性心内膜炎

血液の中に入った細菌やカビ(真菌)が心臓にたどり着き、 心臓の弁などにくっついて増えることで起こる病気です。 原因菌として最も多いのは、黄色ブドウ球菌という細菌です。 この細菌は、体の免疫から逃れる仕組みを持っているため、 心臓の中で増えやすく、やっかいな炎症を引き起こします。

非感染性心内膜炎

こちらは、細菌の感染が直接の原因ではありません。 リウマチ熱や、自分の体を間違って攻撃してしまう自己免疫疾患など、 他の病気が原因で心臓の弁が傷ついてしまうことで起こります。 傷ついた弁には、細菌のいない血の塊(血栓)ができます。

種類

主な原因

心臓でのできごと

感染性心内膜炎

細菌やカビなどの病原体

心臓の弁などに細菌のかたまりができる

非感染性心内膜炎

自己免疫疾患、リウマチ熱など

心臓の弁などに細菌のいない血の塊ができる

注意が必要なのは、非感染性心内膜炎でできた血の塊に、 後から細菌がくっついて、感染性心内膜炎に変わることです。 どちらのタイプも心臓の働きを妨げるため、注意が必要です。

心内膜炎の原因

心内膜炎の原因は、心臓に細菌がいるかどうかで区別されます。 細菌がいる「感染性」と、いない「非感染性」の2つです。 それぞれの原因を詳しく見ていきましょう。

細菌が原因となる「感染性心内膜炎」

感染性心内膜炎は、細菌などが血液の中に入り込むことで起こります。 原因菌として最も多いのは、黄色ブドウ球菌という細菌です。 この菌は、体を守る免疫の仕組みを逆手にとって増殖するなど、 非常に巧妙な生き残り戦略を持っているため注意が必要です。

細菌が体に入るきっかけで最も多いのは、虫歯や歯周病です。 歯を抜くなどの歯科治療で出血した際に、口の中の細菌が血管へ侵入。 そして血の流れに乗り、心臓まで運ばれてしまうのです。

特に、以下のような方は心内膜炎にかかりやすいとされます。

  • 心臓の形に生まれつき特徴がある方 心臓内で血の流れが乱れ、壁が傷つきやすいためです。
  • 心臓の弁の働きが悪い方(弁膜症) 傷ついた弁に細菌が付着しやすくなります。
  • 心臓に人工弁などが入っている方 人工物は、細菌にとって格好のすみかとなります。

細菌以外が原因の「非感染性心内膜炎」

一方、非感染性心内膜炎は、細菌の感染が原因ではありません。 リウマチ熱や自己免疫の病気などによって心臓の弁が傷つき、 そこに血のかたまり(血栓)ができてしまうことで起こります。

注意したいのは、この細菌のいない血のかたまりに、 後から細菌がくっついてしまうことがある点です。 その場合、感染性心内膜炎へと進行してしまいます。

心内膜炎の症状

心内膜炎の症状の現れ方は、人によって大きく異なります。 数週間かけてゆっくり進むこともあれば、数日で急に悪化することも。 特に、原因菌で最も多い黄色ブドウ球菌は注意が必要です。 この菌は体を守る免疫の仕組みを逆手にとり増殖するため、 症状が急に進みやすいという特徴を持っています。

かぜと間違いやすい初期症状

はじめは、かぜやインフルエンザによく似た症状が出ます。 そのため見過ごされやすく、発見が遅れることも少なくありません。 次のようなサインが続く場合は、ただのかぜではないかもしれません。

  • 続く熱 原因がはっきりしない38度前後の熱が何日も続きます。
  • だるさや疲労感 体が重く、何もする気が起きない状態になります。
  • 寒気やふるえ 急に強い寒気を感じ、ガタガタと体がふるえます。
  • 関節や筋肉の痛み 体のあちこしが痛むことがあります。
  • 食欲不振と体重減少 食欲がなくなり、体重が減っていきます。

進行すると現れる心臓の症状

病気が進むと、心臓の弁が細菌によって壊されてしまいます。 すると血液を送り出すポンプの力が弱まり「心不全」になります。 心不全になると、次のような体からのSOSサインが現れます。

  • 息切れ 階段を上るなど、少し動いただけでも息が苦しくなります。
  • 動悸 心臓がドキドキと速く、または不規則に打つ感じがします。
  • むくみ 特に足のすねなどを指で押すと、へこんだまま戻りにくくなります。

命に関わる危険なサイン「塞栓症」

特に危険なのは、心臓にできた細菌のかたまりの一部がはがれ、 血の流れに乗って体の血管を詰まらせてしまう「塞栓症」です。 詰まった場所によって、以下のような深刻な症状が突然現れます。

  • 脳の血管が詰まった場合 脳梗塞を起こし、手足の麻痺やろれつが回らないなどの症状が出ます。
  • 手足の血管が詰まった場合 指先に、痛みを伴う赤いしこり(オスラー結節)ができることがあります。

これらの症状に気づいたら、すぐに医療機関を受診してください。

心内膜炎の検査・診断

心内膜炎が疑われるとき、医師は2つの目的をもって検査を進めます。 1つは心臓の中で何が起きているか、その現場を確認することです。 もう1つは、病気を引き起こしている原因菌を特定することです。 これらの証拠を集めて、診断を正確に下していきます。

心臓の状態を調べる検査

まず、心臓の様子を直接のぞき見るための検査を行います。 ここで活躍するのが「心臓超音波(心エコー)検査」です。 この検査で、心臓の弁などにできた細菌のかたまり「疣贅」を探します。

  • 経胸壁(けいきょうへき)心臓超音波検査 胸の表面から超音波をあてて、心臓の動きや形を見ます。 体に負担が少なく、まず初めに行われる基本的な検査です。
  • 経食道(けいしょくどう)心臓超音波検査 胃カメラのような細い管を使い、食道から心臓を観察します。 心臓のすぐ裏側から見るため、より鮮明な画像が得られます。

原因菌を特定する検査

心臓の状態と同時に、原因となっている細菌を特定する検査も重要です。 原因菌の正体がわかれば、最も効果のある薬を選ぶことができるからです。 そのための基本となるのが「血液培養検査」です。 血液の中にいる細菌を specjal な環境で育てて、正体を突き止めます。

しかし、この血液培養検査だけでは原因菌が見つからないこともあります。 そこで近年、細菌の遺伝子を直接調べる新しい検査法が役立っています。 ある研究報告によると、この遺伝子検査の陽性率は約32%でした。 これは、従来の培養検査での陽性率約20%を上回る結果です。

この新しい検査によって、これまで見つけられなかった原因菌が判明し、 患者さんの約12%で治療薬がより効果的なものに変更されたとされます。 正確な診断が、より良い治療へと直接つながるのです。

検査の種類

目的

心臓超音波検査

心臓の弁などに細菌のかたまり(疣贅)がないか確認する

血液培養検査

血液中の細菌を育てて特定し、効果的な薬を選ぶ

遺伝子検査など

培養で菌が見つからない場合に、原因を特定する

これらの検査結果を総合的に判断して、心内膜炎の診断が下されます。

心内膜炎の治療

心内膜炎の治療は、原因が細菌かどうかで方法が大きく変わります。 「感染性」と「非感染性」、それぞれの治療法を見ていきましょう。 どちらのタイプでも、心臓を守るために大切な治療です。

細菌が原因の「感染性心内膜炎」

こちらは、心臓にすみついた細菌をやっつけることが治療の中心です。

  • お薬での治療 血液検査で特定した細菌に一番効く「抗生物質」を使います。 心臓の奥にいるしつこい菌を退治するため、数週間にわたり、 腕の血管から直接お薬を入れる「点滴」での治療が基本です。
  • 手術での治療 お薬だけでは菌を退治できない場合や、心臓の弁が壊れて、 心不全を起こしている場合には、手術で悪い部分を治します。 壊れた弁を修理したり、人工の弁に取り替えたりします。 このとき、心臓に栄養を送る血管の新しい道を作る手術も、 同時に行うことがあります。 ある研究では、この手術を追加しても命の危険性は、 大きく変わらないと報告されています。 ただし、手術後に脳の血管が詰まる「脳卒中」のリスクが、 少し高まる可能性も指摘されています。

細菌が原因ではない「非感染性心内膜炎」

こちらは細菌がいないため、治療の目的が変わります。

  • 血の塊を防ぐ治療 心臓の弁に血の塊ができるのを防ぐため、 血液をサラサラにするお薬を使います。
  • もとの病気の治療 心内膜炎を引き起こしている、もともとの病気(自己免疫疾患など)を、 しっかりと治療することが最も重要になります。