憩室炎

お腹の特定の部分がズキズキと痛み続ける、原因不明の熱も出てきた…。その症状、単なる食べ過ぎや胃腸炎だと軽視していませんか?実は、大腸の壁にできた「憩室(けいしつ)」というポケットが炎症を起こす「憩室炎」のサインかもしれません。

この病気は決して他人事ではなく、憩室を持つ人の約4人に1人が何らかの症状を経験すると言われています。さらに、年齢によって痛む場所が違うという特徴や、治った後に大腸がんが見つかる可能性も指摘されており、重症化すると腸に穴が開くこともあるため注意が必要です。

この記事では、憩室炎の知られざる原因からご自身で確認できる症状のチェックリスト、最新の治療法までを分かりやすく解説します。正しい知識を身につけ、適切な対処ができるよう備えましょう。

憩室炎の概要

おなかの消化管、特に大腸の壁の一部が外側にぽこっと飛び出し、 ポケットのようなくぼみができたものを「憩室(けいしつ)」と言います。 この憩室に便などが詰まり、細菌が増えて炎症が起きた状態が憩室炎です。

憩室があるだけでは、ほとんどの場合、症状はなく病気ではありません。 しかし、憩室を持つ人の約25%は何らかの症状を経験し、 そのうち約5%は急な腹痛を伴う「急性憩室炎」を発症します。

年齢によって、炎症が起こる仕組みが少し違うと考えられています。 高齢の方では、硬い便が憩室に詰まることが炎症のきっかけになります。 一方、比較的若い方では、腸の強い動きで血の流れが悪くなり、 憩室が傷ついて炎症が始まることもあるのです。

状態

説明

症状

憩室(けいしつ)

大腸の壁の一部が外側に飛び出したポケットのようなもの

ほとんどない

憩室炎(けいしつえん)

憩室に便などが詰まり、炎症が起きた状態

腹痛、発熱など

憩室炎になると、おなかの痛みや発熱などの症状が出ます。 特に60歳未満では右側、60歳以上では左側のおなかが痛む傾向があります。 重症化すると、腸に穴が開くこともあるため注意が必要です。 また、憩室炎が治った後に大腸がんが見つかることもあるため、 一度でも憩室炎になった方は、定期的な検査が大切になります。

憩室炎の種類

ひとくちに憩室炎といっても、いくつかの種類に分けられます。 炎症がどこで、どのような状態で起きているかによって分類します。 この分類は、治療の方針を決めるうえで非常に重要です。

まず、炎症の状態によって、大きく3つのタイプに分けられます。 「憩室病」という大きな枠組みの中に、これらのタイプが含まれます。

  • 急性憩室炎 急に強いお腹の痛みや熱が出る、最も一般的な憩室炎です。
  • 症状を伴う非合併症性憩室病 強い炎症はないものの、お腹の張りや不快な痛みが続きます。
  • 憩室関連分節性大腸炎 憩室の周りに、慢性的な炎症が続く特殊なタイプです。 他の腸の病気(炎症性腸疾患)と症状が似ていることがあります。

また、憩室ができる場所によっても、特徴が異なります。

種類

特徴

右側型憩室炎

・お腹の右側(上行結腸など)に起こります。

・比較的若い方(60歳未満)に多い傾向があります。

左側型憩室炎

・お腹の左側(S状結腸など)に起こります。

・ご高齢の方(60歳以上)に多い傾向があります。

・再発しやすく、重症化しやすいと言われています。

さらに、治療法を決める上で最も大切なのが合併症の有無です。 炎症が腸の周りにとどまっている「合併症のない憩室炎」。 そして、膿がたまったり(膿瘍)、腸に穴が開いたり(穿孔)する、 「合併症のある憩室炎」では、緊急性や治療法が大きく異なります。

憩室炎の原因

憩室炎の原因は、一つではありません。 「憩室ができる原因」と「憩室が炎症を起こす原因」の、 2つの段階に分けて考えると、とても分かりやすくなります。

まず、土台となる「憩室」は、腸の壁の強さと、 おなかの中の圧力のバランスが崩れることでできます。

  • 加齢 年齢とともに、腸の壁の弾力が失われ弱くなります。
  • 便秘 便を出すために強くいきむと、腸の中の圧力が上がります。

弱くなった腸の壁に、高い圧力がかかることで、 壁の一部が外側にぽこっと押し出されて憩室ができます。 この段階では、まだ病気ではありません。

次に、できてしまった憩室に炎症が起こる原因を見ていきましょう。 私たちの普段の生活習慣が、発症のリスクを高めることがあります。

リスクを高めるもの

なぜリスクになるのか

食生活

食物繊維が少なく脂肪の多い食事は、最初の憩室炎を引き起こす可能性があります。ただし、食事が再発にどう影響するかは、まだ研究中です。

肥満

体重が増加すると、憩室炎だけでなく、憩室から出血するリスクも高まることが分かっています。

喫煙

憩室炎のリスクを高めるだけでなく、腸に穴が開くといった重い合併症につながる危険性も高めます。

一部のお薬

痛み止め(非ステロイド系抗炎症薬)やステロイド薬などは、憩室炎のリスクを高めることがあります。

以前は、ナッツやとうもろこしを食べることが原因と言われていました。 しかし現在では、これらの食べ物が直接の原因になることはないとされています。

憩室炎の症状

憩室があるだけでは、ほとんどの場合、体に変化は起こりません。 しかし、憩室を持つ人の約25%は何らかの症状を経験します。 そして、そのうち約5%は急な腹痛を伴う「急性憩室炎」を発症します。 憩室に炎症が起こると、体は様々なサインを出して私たちに教えてくれます。

主な症状のチェックリスト

憩室炎のサインを見逃さないために、以下の症状がないか確認しましょう。 これらの症状は、風邪や胃腸炎と間違われやすいので注意が必要です。

  • 腹痛 最もよくみられる症状です。お腹の決まった場所が、 持続的にズキズキと痛むのが特徴です。
  • 発熱 憩室の中で増えた細菌と、体が戦っているサインです。 多くの場合、38度前後の熱が出ます。
  • 吐き気・嘔吐 腸の炎症の影響で、消化管全体の動きが鈍くなり、 吐き気をもよおしたり、食欲がなくなったりします。

痛む場所でわかること

憩室炎の腹痛は、年齢によって痛む場所に特徴が出ることがあります。 これは、炎症が起きるまでの仕組みが少し違うためと考えられています。

年齢

痛むことが多い場所

考えられる炎症のきっかけ

60歳未満の方

お腹の右側

腸の強い動きで血流が悪くなり、憩室が傷つく

60歳以上の方

お腹の左下

硬い便が憩室に詰まり、粘膜が傷ついて炎症が始まる

特にご高齢の方では、左側で起きた憩室炎は再発しやすく、 重症化しやすい傾向があるため、より一層の注意が必要です。 我慢できないほどの腹痛や発熱が続く場合は、憩室炎の可能性も考え、 自己判断せず、早めに医療機関を受診するようにしましょう。

憩室炎の検査・診断

おなかの痛みで病院を訪れたとき、憩室炎が疑われることがあります。 ただし、似た症状は虫垂炎や大腸がんなどでも起こるため、 きちんと見分けるために、いくつかの検査を組み合わせて診断します。

憩室炎の診断は、主に以下の3つのステップで進められます。

  1. お医者さんとのお話と、おなかの診察(問診・身体診察) まず、どのような症状がいつからあるかなどを詳しくお伺いします。 その後、おなかを直接触って痛む場所や強さを確認します。 これは、炎症が起きている場所を特定するための大切な手がかりです。
  2. 血液検査 体の中でどのくらい炎症が起きているかを調べる検査です。 白血球の数やCRPという炎症の数値を確認することで、 体が細菌とどのくらい戦っているのかを客観的に評価できます。
  3. 画像検査 おなかの中を写真で見て、診断を確定させるための検査です。 炎症の広がりや、膿(うみ)がたまるなどの合併症がないか、 詳しく調べるために、画像検査が非常に重要になります。
  • 腹部CT検査 おなかの断面を詳しく見ることができる検査です。 憩室の場所や炎症の程度、合併症の有無を正確に評価できます。
  • 腹部超音波(エコー)検査 体への負担が少なく、手軽に行える検査です。 CT検査と同じように、炎症の様子を確認することができます。

最近の研究では、必ずしも全員にCT検査が必要ではないと考えられています。 年齢や体温、吐き気の有無、血液検査の結果などを点数化し、 重症化するリスクを予測する試みが行われています。 この点数が低い方は合併症のリスクが少ないため、CT検査を省略できる可能性があります。 これにより、不要な検査を避け、体への負担や医療費を減らすことにつながります。

また、憩室炎の炎症が落ち着いた後(1〜3ヶ月が目安)に、 大腸がんなどの病気が隠れていないかを確認することも大切です。 そのために、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を行うことが勧められています。

憩室炎の治療

憩室炎の治療は、炎症のひどさや合併症の有無で決まります。 基本は腸を休ませて、お薬で炎症を抑える治療が中心です。 しかし、状態によっては手術が必要になることもあります。

軽症の場合:おうちでの治療

腹痛が軽く、熱もそれほど高くなければ、外来での治療が可能です。 お薬を飲み、食事に気をつけて安静に過ごすことが大切です。

  • お薬での治療 細菌を減らすための抗菌薬(抗生物質)を飲みます。 これでおなかの中の炎症を鎮めることを目指します。
  • 食事での工夫 おかゆやうどんなど、消化しやすいものを選びましょう。 腸に負担をかける脂っこいものや辛いものは避けます。

重症・合併症がある場合:入院での治療

高熱や我慢できない痛みがある場合は、入院して治療します。 おなかの中で、より深刻な問題が起きているサインかもしれません。

  • 絶食と点滴 食事を完全に止めて、腸をしっかり休ませます。 必要な水分や栄養、抗菌薬は点滴で補います。
  • うみがたまった場合(膿瘍) おなかにうみがたまったら、体の外から細い管を入れます。 この「ドレナージ」という処置で、うみを外に出します。

手術が必要になるとき

腸に穴が開く「穿孔(せんこう)」が起きても、すぐに手術とは限りません。 最近の研究では、手術をしない治療も安全に行えるとされます。

腸から漏れた空気が穴の近くにとどまっている状態であれば、 手術をしなくても約93%の人が回復すると報告されています。 遠くまで空気が漏れた場合でも、その成功率は約71%です。

しかし、おなか全体に炎症が広がる「腹膜炎」を起こしたり、 点滴などの治療で良くならなかったりした場合は手術が必要です。 手術では、炎症が起きている腸の部分を切り取ります。

治療で炎症が治まった後も、まだ終わりではありません。 1〜3ヶ月後に大腸カメラ検査を受け、大腸がんなどの病気が、 隠れていないかを確認することが、とても大切になります。