クローン病

原因不明の腹痛や下痢が続いたり、急に体重が減ったりしていませんか。その繰り返す不調は、単なる体調不良ではなく「クローン病」という病気のサインかもしれません。

クローン病は、消化管に慢性的な炎症が起こる国の指定難病で、特に10代から20代の若い世代での発症が多いことが知られています。なぜこの病気が起こるのか、その原因はまだ完全には解明されておらず、誰にでも起こりうる病気です。

この記事では、クローン病の具体的な症状から、遺伝や食生活といった考えられる原因、そして症状をコントロールするための治療法や医療費の助成制度までを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、病気を正しく理解する第一歩としてお役立てください。

クローン病の概要

クローン病は、食べ物の通り道である消化管に、長く続く炎症が起きる病気です。 口からお尻の穴(肛門)までの、どの部分にでも起こる可能性があります。 国の指定難病の一つで、炎症性腸疾患(IBD)という病気のグループに入ります。

この病気には、次のような特徴があります。

  • かかりやすい年代 10代から20代の若い世代に多く、男性の方がかかりやすい傾向にあります。
  • 炎症が起きやすい場所 消化管のどこでも起こりえますが、特に小腸と大腸に多く見られます。
  • 病気の広がり方 病気の部分と健康な部分が、飛び飛びに存在する特徴を持っています。

クローン病の大きな問題は、腸の炎症で栄養をうまく吸収できなくなることです。 例えば、脂肪の吸収が悪いと、ビタミンKという栄養素が不足しやすくなります。 ビタミンKは血を固める働きをするため、不足すると出血しやすくなるのです。

特に腸を切り取る手術を受けた方や妊娠中の方は、注意が必要とされています。 実際に、クローン病の妊婦さんでビタミンKが不足し、深刻な出血につながった例も報告されています。 この病気は国の指定難病のため、医療費の負担を軽くできる制度があります。

クローン病の種類

クローン病は、炎症が起こる場所で大きく3つのタイプに分けられます。 どのタイプかによって、症状の出方や治療の進め方が少しずつ変わります。 ご自身のタイプを正確に知ることが、適切な治療への第一歩となります。

  • 小腸型 小腸を中心に炎症が起こるタイプです。 小腸は栄養を吸収する大切な場所なので、腹痛や下痢のほかに体重が減りやすい特徴があります。
  • 小腸・大腸型 小腸と大腸の両方に炎症がみられます。 日本人のクローン病患者さんでは、このタイプが最も多いと報告されています。 腹痛や下痢、血便など、両方の特徴をあわせ持つことがあります。
  • 大腸型 大腸を中心に炎症が起こるタイプです。 大腸は便から水分を吸収する役割があるため、炎症が起きると下痢や血便などが主な症状として現れます。

どのタイプでも、腸の粘膜で続く炎症を抑えることが治療の基本です。 近年、食品に含まれるポリフェノールや多糖類などの成分が注目されています。 これらの成分は、炎症を和らげる働きや腸内環境を整える作用が期待されています。

腸内細菌のバランスを整え、体によい働きをする「短鎖脂肪酸」を増やす可能性も研究されています。 まだ研究段階ですが、将来的にクローン病の管理に役立つかもしれません。

クローン病の原因

クローン病がなぜ起こるのか、その原因はまだはっきりと解明されていません。 しかし、いくつかの要因が複雑にからみあって発症すると考えられています。 原因がわからないと不安に感じるかもしれませんが、現在わかっている要因を知ることが大切です。

現在、原因として考えられている主な要因は次のとおりです。

  • 遺伝的な要因 生まれつきクローン病になりやすい体質のことです。 親から子へ直接うつる病気ではありません。 ただ、ご家族に同じ病気の方がいると、発症しやすい傾向があります。
  • 環境の要因 食事や喫煙、薬の使用などが関係します。 食事:動物性の脂肪やたんぱく質を多くとる食生活が、発症に関わる可能性があります。 喫煙:タバコは病気を発症させやすく、症状を悪化させることがわかっています。 抗生物質:近年の大規模な研究分析により、抗生物質の使用が、 クローン病を含む炎症性腸疾患の発症リスクと関連することが示されています。 特に、抗生物質を使う回数が多いほど、そのリスクが高まる傾向があると報告されています。 これは、抗生物質が腸内の細菌バランスを変化させてしまうためと考えられます。
  • 免疫の異常な働き 体を異物から守る「免疫」という仕組みが、何かのきっかけで異常に働いてしまう状態です。 本来は体に害のない食べ物や腸内細菌を「敵」と勘違いして攻撃し、 腸に長く続く炎症を引き起こすと考えられています。

これらの要因がパズルのように組み合わさり、クローン病が発症すると考えられています。

クローン病の症状

クローン病の症状は、炎症が起きる場所によって人それぞれです。 お腹の症状が中心ですが、体の他の部分にサインが出ることもあります。

とくに多い症状は、お腹の痛みと下痢です。 病気の勢いが強い「活動期」には、痛みが強くなる傾向があります。 お子さんの患者さんでも、痛みを訴えることは決して珍しくありません。

最近の研究では、とても興味深いことがわかってきました。 病気の重さだけでなく、「自分で痛みをコントロールできる」という、 前向きな気持ちが、実際の痛みを軽くする可能性があると報告されています。 病気と向き合う上で、気持ちの持ちようも大切なのかもしれません。

クローン病の症状には、波があるのが特徴です。 症状が強く出る「活動期」と、症状が落ち着く「寛解期」を繰り返します。 自分の体調の変化に気づくために、以下のサインを確認してみましょう。

■主な症状のチェックリスト

<お腹にあらわれるサイン>

  • 腹痛 お腹が痛むのは、腸が炎症で腫れているサインかもしれません。
  • 下痢 炎症で腸が水分をうまく吸収できなくなり、下痢が起こります。
  • 血便 便に血が混じることがあります。
  • 体重の減少 栄養をうまく吸収できず、体重が減ることがあります。
  • お腹にしこりができる感じ
  • 全身のだるさ
  • 発熱

<お腹以外にあらわれるサイン(合併症)>

  • 関節の痛み(関節炎)
  • 目の充血や痛み(ぶどう膜炎)
  • 皮膚の赤いしこりや発疹(結節性紅斑)
  • おしりの周りのトラブル(痔ろうなど)

この他にも、腸に穴が開いたり(瘻孔)、腸が狭くなったり(狭窄)して、 食べ物の通りが悪くなることもあります。 気になる症状があれば、自分で判断せず専門の医師に相談してください。

クローン病の検査・診断

お腹の痛みや下痢といった症状からクローン病が疑われる場合、 まず問診で詳しいお話を聞き、血液検査で体の中の状態を確認します。 血液検査では、炎症の程度や貧血の有無などを調べることができます。

しかし、これだけでクローン病と診断することはできません。 診断を確定させるためには、体の内側を直接見る検査がとても重要です。 いくつかの専門的な検査を組み合わせて、慎重に診断を進めていきます。

■クローン病の診断で行われる主な検査

  • 内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ) 口やおしりから細いカメラを入れ、消化管の粘膜を直接観察します。 クローン病に特徴的な「縦走潰瘍」という細長い傷や、 「敷石像」という石畳のような見た目がないかなどを確認します。
  • 小腸の検査 クローン病は小腸にできやすい特徴があるため、詳しく調べます。 カプセルの形をしたカメラを飲む「カプセル内視鏡」や、 風船(バルーン)のついた内視鏡で小腸の状態を調べます。
  • 画像検査(CT・MRI) 体の外からお腹の中を撮影する検査です。 腸の壁が厚くなっていないか、膿がたまっていないかなどを確認します。

クローン病の診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 特に、内視鏡で採った組織を顕微鏡で調べる「病理検査」は、 専門家でも判断が難しいことがあり、診断に誤差が生じる可能性もあります。

そのため、さまざまな検査結果を専門家チームが総合的に判断します。 近年、この難しい診断を助けるために、AI(人工知能)の活用が注目されています。 AIが画像を自動で分析し、診断の精度や速度を高める研究が進んでいます。

このように、丁寧な検査を経て、最終的な診断がくだされます。 正確な診断は、あなたに合った治療を始めるための大切な第一歩です。

クローン病の治療

現在のところ、クローン病を根本的になくす治療法はまだありません。 そのため、治療の目標は大きく分けて2つあります。

  1. 腸の炎症を抑え、つらい症状がない「寛解(かんかい)」という状態を目指すこと
  2. その穏やかな状態を、できるだけ長く維持すること

この目標を達成するために、患者さん一人ひとりの体の状態に合わせて、 主に以下の3つの治療法を組み合わせて進めていきます。

  • 栄養療法
  • 薬物療法
  • 外科治療

栄養療法

食事の刺激から腸を守り、ゆっくり休ませるための大切な治療法です。 特に、お腹の痛みや下痢などの症状が強い「活動期」には中心となります。

  • 経腸栄養療法 脂肪分が少なく、体に吸収されやすい特別な栄養剤を使います。 口からドリンクのように飲んだり、鼻から入れたチューブで摂取したりします。
  • 完全中心静脈栄養 腸をしっかりと休ませる必要がある場合に用います。 口から食事をとらず、点滴ですべての栄養を補給する方法です。

薬物療法

クローン病の原因の一つである、免疫の異常な働きを抑える治療です。 腸で起きている過剰な炎症を、お薬の力で鎮めていきます。

薬の種類

主な役割

5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤

比較的軽い炎症を抑えたり、良い状態を保つための基本のお薬です。

副腎皮質ステロイド

強い炎症を抑える力がありますが、活動期の短期間だけ使います。

免疫調節薬

異常な免疫の働きを整え、ステロイドを減らしたり、良い状態を保つために使います。

生物学的製剤など

上記のお薬で効果が不十分な場合に使うお薬です。炎症を引き起こす特定の物質の働きをピンポイントで抑えます。

外科治療

お薬や栄養療法で改善しない場合や、合併症が起きた場合に手術を考えます。

  • 腸が狭くなり食べ物が詰まる(腸閉塞)
  • 腸に穴が開き、他の臓器とつながる(瘻孔)
  • 腸の周りに膿がたまる(膿瘍)

手術では、病気の部分だけを切り取り、健康な腸をできるだけ残します。 これにより、生活の質を保ちながら合併症を解決することを目指します。

最近の研究では、食品に含まれる成分の働きも注目されています。 果物や野菜に多い「ポリフェノール」や、きのこ類に含まれる「多糖類」などです。 これらの成分には、炎症を抑えたり、腸内環境を整えたりする可能性があります。

特に、これらの成分を組み合わせることで、お腹の良い菌が増え、 「短鎖脂肪酸」という体によい物質の産生を助けることがわかってきました。 まだ研究段階ですが、将来的に治療を助ける選択肢となるかもしれません。