便秘症
お腹が張って苦しい、排便後もすっきりしないなど、便秘の症状に悩んでいませんか。便秘は60歳を過ぎると悩む方が急増しますが、生活の質を損なう「便秘症」という病気の可能性があり、誰にでも起こりえます。
この記事では、便秘症の種類や原因を詳しく解説します。食事などのセルフケアから医療機関での検査、専門的な治療法まで、研究報告を交えながら網羅的に紹介します。
ご自身の状況と照らし合わせることで、不調の背景にある原因がわかります。「いつものこと」と諦めずに、快適な排便を取り戻すための具体的な次の一歩が見つかるはずです。
便秘症の概要
便秘症とは、単に便が出ない状態ではなく、便を快適に出せないことで生活に支障が出ている「病気」です。
医学的には「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。
排便回数が週に3回未満であることに加え、以下のような症状が複数当てはまる場合、便秘症が考えられます。
・排便時に強くいきむ必要がある
・便がウサギのフンのように硬く、コロコロしている
・排便後もまだ便が残っている感じがする(残便感)
・お腹が張って苦しい(腹部膨満感)
便秘症は、特に60歳を過ぎると悩む方が急に増える傾向がありますが、年齢にかかわらず誰にでも起こりうる身近な症状といえます。
なかでも、ご自身で症状をうまく伝えられないお子さんや、特定の病気をお持ちの方にとっては、より深刻な問題となることがあります。実際に、脳性麻痺のお子さんの約75%が便秘に悩んでおり、マッサージなどのケアが症状の改善に役立つ可能性も報告されています。※
このように、ただ便が出ないだけでなく、不快な症状によって生活の質(QOL)が下がっている状態を「便秘症」と捉え、適切な対処を始めることが大切です。
便秘症の種類
便秘症は、その原因によって「原発性便秘症」と「続発性便秘症」の2つに大きく分けられます。
ご自身の便秘がどちらのタイプに近いかを知ることは、適切な対策への第一歩です。
原発性便秘症(機能性便秘)
大腸がんのような特別な病気がないにもかかわらず、大腸や直腸の働き(機能)に問題が生じて起こる便秘です。
一般的に「便秘症」といわれるケースの多くが、この機能性便秘にあたります。機能性便秘は、さらに腸の動き方の特徴によって3つのタイプに分類されます。
・大腸通過時間遅延型
大腸のぜん動運動が弱く、便を先に送り出すのに時間がかかってしまうタイプです。便が腸内にとどまる時間が長くなるため、水分が過剰に吸収されて便が硬くなりやすい傾向があります。
・大腸通過時間正常型
腸の動き自体は正常ですが、食事量の不足や食物繊維の摂取量が少ないことで、十分な量の便が作られないタイプです。便意を感じにくくなったり、排便後もスッキリしない残便感につながったりします。
・便排出障害型
便が直腸(肛門のすぐ手前)まで問題なく下りてきているのに、うまく排出できないタイプです。これは、排便時に使う骨盤底筋群の力が弱かったり、うまく連動しなかったりすることが一因と考えられています。小児を対象とした研究では、この骨盤底筋群を鍛える運動(ケーゲル体操)を治療に加えたところ、排便時間が5分未満になった子の割合が約37%から88%へと大幅に増加し、腹痛や排便時の痛みも有意に改善したと報告されています。※
続発性便秘症
何らかの病気や、服用している薬の副作用が原因となって起こる便秘です。
・器質性便秘
大腸がんや手術後の癒着などによって、腸管が物理的に狭くなり、便が通りにくくなることで生じます。
・症候性便秘
糖尿病による神経障害や、甲状腺機能低下症による全身の代謝低下など、他の病気の症状の一つとして便秘が現れる状態です。
・薬剤性便秘
鎮痛薬(特に医療用麻薬)、一部の抗うつ薬や降圧薬など、特定の薬の副作用として腸の動きが鈍くなることで起こります。
便秘症の原因
便秘症は、生活習慣から病気、薬の副作用まで、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こります。原因は一つとは限らず、複数の要素が重なっているケースも少なくありません。
ご自身の生活や体調を振り返り、思い当たる原因がないか確認してみましょう。
・食事・運動・排便の習慣
・食事: 便の材料となる食物繊維や水分が不足すると、便は硬く、量も少なくなります。また、腸内環境の乱れも大きな原因です。最近の研究では、アカシア由来の食物繊維や特定のプロバイオティクス(ビフィズス菌など)を摂取することで、便秘を伴う過敏性腸症候群(IBS-C)の方の排便頻度が改善したという報告もあります。※
・運動不足: 腹筋が弱いと排便時に十分いきむことができません。また、日中の活動量が少ないと、腸のぜん動運動(便を前に押し出す動き)への刺激が減り、動きが鈍くなる原因となります。
・排便習慣の乱れ: 便意を感じても、仕事や家事で後回しにしていませんか。便意を我慢する習慣を続けると、直腸の神経(便を感じるセンサー)が鈍くなり、便が直腸に下りてきても便意を感じにくい「鈍感な直腸」になってしまうことがあります。
・加齢や性別の影響
・加齢: 年齢を重ねると、食事量の減少、筋力の低下、腸の運動機能の低下などが複合的に影響し、便秘になりやすくなります。
・女性ホルモン: 女性は、排卵後から月経前にかけて増える黄体ホルモン(プロゲステロン)の影響を受けます。このホルモンには、腸の動きを緩やかにしたり、体内に水分を溜め込んだりする働きがあるため、便が硬くなりやすい傾向があります。また、閉経後の女性では、骨盤底の機能が低下することが便秘の一因となる場合も。骨盤底の機能を鍛える「バイオフィードバック療法」によって、便秘症状が改善したという研究結果も出ています。※
・ストレスや神経の問題
腸は「第二の脳」ともいわれ、自律神経を介して脳と密接につながっています。そのため、精神的なストレスは自律神経のバランスを崩し、腸の機能を直接低下させてしまうのです。また、前述のように便意を我慢し続けることで直腸の感覚が鈍くなることも、神経系の問題といえます。こうした自律神経や直腸感覚の不調に対しては、体の外から電気で神経を刺激する「非侵襲的電気神経調節」といったアプローチが、便秘症状の緩和に有効である可能性が示唆されています。※
・病気や薬の影響
思い当たる生活習慣がないのに便秘が続く場合、背景に病気や薬の副作用が隠れている可能性も考えられます。
・病気: 大腸がんやポリープで腸の中が物理的に狭くなるほか、糖尿病による神経障害、甲状腺機能低下症による代謝の低下、パーキンソン病など、全身の病気が原因で腸の動きが悪くなることがあります。
・薬の副作用: 一部の降圧薬、抗うつ薬、鉄剤、医療用麻薬(オピオイド)などの痛み止めは、副作用として便秘を引き起こすことがあります。何か薬を飲み始めてから便秘が気になるようになった場合は、自己判断で中止せず、かかりつけの医師や薬剤師にご相談ください。
便秘症の症状
便秘症の症状は、単に「便が出ない」ことだけを指すわけではありません。むしろ、お腹の不快感から心の不調まで、生活の質(QOL)を大きく左右するさまざまなサインとして体に現れます。
医学的には、以下のうち複数の症状が慢性的に続く場合に便秘症が考えられます。ご自身の状態と比べてみましょう。
・排便が週に3回未満しかない
・便の水分が奪われ、硬くコロコロしている
・排便時に、強くいきまないと出せない
・排便後も、まだ便が残っている感じがする(残便感)
・ガスがたまってお腹が張って苦しい(腹部膨満感)
・排便の前後に腹痛がある
これらの症状は、一つひとつは些細に感じるかもしれません。しかし、放置することで痔(じ)や食欲不振、吐き気を引き起こすだけでなく、心身の健康全体に影響を及ぼすことがあります。
特に、年齢や性別によって症状の現れ方には特徴があります。
お子さんの場合
自分から「便秘だ」と訴えることはまれです。「お腹が痛い」「おしりから出すのが痛い」といった訴えが、実は便秘の重要なサインであることも少なくありません。実際に、排便時の痛み(疼痛性排便)や腹痛は、小児の機能性便秘でよく見られる症状として報告されています。※
閉経後の女性の場合
慢性的な便秘が、単なる身体の不快感にとどまらず、不安や気分の落ち込みといった精神的な不調につながることもわかっています。ある研究では、便秘の治療によって不安や抑うつの症状も改善したことが示されており、腸と心の密接な関係がうかがえます。※
お腹の不調を繰り返す場合
便秘に加えてお腹の張りや痛みが繰り返し起こるなら、過敏性腸症候群(IBS)の可能性も考えられます。特に便秘がちになるタイプ(IBS-C)では、アカシア由来の食物繊維や特定のプロバイオティクス(ビフィズス菌 BLa80など)を摂取することで、症状の重症度が和らぐ可能性があるという研究結果もあります。※
もし、ここに挙げたような症状が気になるようでしたら、「いつものこと」と見過ごさずに、一度専門の医療機関へご相談ください。
便秘症の検査・診断
便秘症の検査・診断で最も重要なのは、大腸がんをはじめとする重大な病気が隠れていないかを確認することです。「いつものこと」と自己判断で市販薬を使い続ける前に、一度は医療機関で原因を調べることが、安心して治療を進めるための第一歩になります。
特に、以下のような「危険なサイン(アラームサイン)」がみられる場合は、大腸がんなどの病気が隠れている可能性も否定できません。速やかに専門医の診察を受けるようにしてください。
・便秘が急に始まった、または悪化した
・便に血が混じっている(血便)
・原因がわからないのに体重が減ってきた
・50歳を過ぎてから便秘が気になるようになった
・ご家族に大腸がんになった方がいる
実際の検査は、まず詳しい問診から始まります。排便の頻度や便の硬さ、生活習慣、服用中のお薬などを丁寧にお伺いしたうえで、お腹の張り具合をみたり、聴診器で腸の音を確認したりする身体診察を行います。
これらの診察で何らかの病気が疑われる場合、必要に応じて次のような検査に進みます。
検査の種類 | この検査でわかること
血液検査 | 甲状腺機能の低下や糖尿病など、便秘の原因となる全身の病気がないかを調べます。
腹部X線検査 | 腸内にどれくらい便やガスが溜まっているかを、目で見て客観的に評価します。
大腸内視鏡検査 | 肛門からカメラを挿入し、大腸の内側を直接観察します。 大腸がんやポリープ、炎症など、便の通り道を妨げる異常がないかを確認するために最も重要な検査です。
これらの検査で大腸がんのような器質的な病気が見つからなかった場合、「機能性便秘」と診断されます。
ここからが、ご自身の便秘のタイプに合わせた本格的な治療のスタートです。
たとえば、自律神経の乱れや直腸の感覚低下が便秘の原因となっている方には、体の外から電気で神経の働きを整える「非侵襲的電気神経調節」というアプローチも選択肢の一つです。この方法は、便秘の重症度を和らげ、生活の質(QOL)を高める効果が報告されています※。
このように、正確な診断を受けることは、単に下剤を選ぶだけでなく、ご自身に本当に合った治療法を見つけ出すための、きわめて重要なプロセスなのです。
便秘症の治療
便秘症の治療は、まずご自身の生活を見直すことから始まり、必要に応じて薬物療法や専門的なアプローチを組み合わせて進められます。治療のゴールは、単に便を出すことではなく、「快適な排便」を取り戻すことです。
はじめに取り組むべきは、食事や運動といった生活習慣の見直しです。
・食事療法: 便のカサを増す食物繊維と、便を軟らかくする水分を十分に摂ることが基本となります。特に、便秘に加えてお腹の不快感を伴う過敏性腸症候群(IBS-C)の方を対象とした研究では、アカシア由来の食物繊維や特定のプロバイオティクス(ビフィズス菌 BLa80など)を摂取することで、排便の回数が有意に増えたと報告されています※。
・運動・セルフケア: ウォーキングなどの適度な運動は、腸の動きを活発にする助けになります。加えて、ご自身でできるケアを取り入れることも有効です。
・腹部マッサージ: お腹を「の」の字に優しくマッサージすることは、腸のぜん動運動をサポートします。特に、ご自身で症状を訴えるのが難しい脳性麻痺のお子さんにおいて、マッサージが排便回数を増やし、便の硬さを改善したという報告もあります※。
・ケーゲル体操: 骨盤の底にある「骨盤底筋」を意識的に締めたり緩めたりする運動です。小児の機能性便秘では、この体操を治療に加えたところ、排便時間が5分未満になったお子さんの割合が約37%から88%へと大幅に増加し、腹痛や排便時の痛みも改善したという報告があります※。
これらの対策で十分な改善がみられない場合は、薬を使った治療や、より専門的なアプローチを検討します。
・薬物療法: 便を軟らかくする薬(浸透圧性下剤)や、腸の動きを活発にする薬(刺激性下剤、分泌性下剤)など、作用の異なるいくつかの種類があります。なかでも刺激性下剤は効果を実感しやすい反面、長く使い続けると腸の神経が鈍くなり、かえって効きにくくなることがあるため、医師の指示のもとで適切に使うことが重要です。
・専門的な治療: 特定のタイプの便秘には、以下のような専門的な治療法が有効な場合があります。
治療法 | どのような治療か | このような方におすすめ
バイオフィードバック療法 | 肛門周りの筋肉の動きをモニターで確認しながら、排便時にうまく筋肉を協調させて使えるように練習するリハビリテーションです。 | ・便が直腸まで来ているのに、いきんでもうまく出せない方 ・特に閉経後の女性では、便秘症状だけでなく不安や抑うつといった気分の落ち込みも改善したというデータもあります※
非侵襲的電気神経調節(NEN) | お腹の表面からごく弱い電気で神経を優しく刺激する治療法です。自律神経の働きを整え、腸の機能をサポートします。 | ・生活習慣の改善や薬物療法で効果が不十分な方 ・下剤の使用量を減らしたり、便秘による生活の質の低下を防いだりする効果が期待できます※
便秘症は慢性化しやすく、治療には根気が必要なことも少なくありません。ご自身の判断で薬をやめてしまったりせず、医師と相談しながら、ご自身に合った治療法を一緒に見つけていきましょう。










