先天性心疾患

もし、生まれてくる赤ちゃんに心臓の病気があると聞いたら、お父さんやお母さんはきっと大きな不安を感じるでしょう。先天性心疾患は、お母さんのお腹の中で心臓の形や構造に生まれつき異常がある病気ですが、決して珍しいものではありません。

実際、およそ100人に1人の割合で赤ちゃんに見られることが分かっています。しかし、医療の進歩は目覚ましく、専門的な治療や細やかなサポートにより、多くのお子さんが元気に日常生活を送れるようになっています。

この記事では、先天性心疾患の概要から原因、症状、そして最新の治療法まで、ご家族が知っておくべき情報を詳しく解説します。お子さんの健やかな未来のために、正しい知識を身につけましょう。

先天性心疾患の概要

生まれてくる赤ちゃんに、心臓の病気があると聞くと、お父さんやお母さんはとても心配になることでしょう。先天性心疾患は、お母さんのお腹の中で赤ちゃんが育つ過程で、心臓の形や構造に生まれつき何らかの異常がある病気です。

私たちの心臓は、全身に血液を送り出す大切なポンプのような働きをしています。この心臓の形や血管のつながりに、生まれつき少し違いがあることで、血液の流れが悪くなったり、心臓に余分な負担がかかったりすることがあります。

先天性心疾患と一口に言っても、心臓に小さな穴が開いているものや、血管のつながりが通常と違うもの、あるいは心臓の弁の形が整っていないものなど、その種類は本当にたくさんあります。それぞれの赤ちゃんの病気の状態や、どこに異常があるかによって、現れる症状はさまざまです。決して珍しい病気ではなく、およそ100人に1人の割合で赤ちゃんに見られることが分かっています。

私たち医療者は、生まれて間もない赤ちゃんが心臓の手術を受けることも少なくないことを知っています。手術を無事に終えて退院した後も、まだうまくおっぱいやミルクを飲めない時期には、赤ちゃんの栄養をしっかり摂るために、一時的に細い管(栄養チューブ)を使って食事をするなど、特別なケアが必要になるケースもあります。これは、赤ちゃんが元気に成長し、体力をつけるために欠かせない大切な医療の応援です。

医療の進歩は目覚ましく、現在では多くの赤ちゃんや子どもたちが、専門的な治療や細やかなサポートを受けながら、元気に日常生活を送れるようになっています。ご家族の皆さんが、お子さんの病気について正しく理解し、適切な医療を受けられるよう、私たち医師が全力でサポートしていきます。

先天性心疾患の種類

先天性心疾患は、生まれつき心臓や大きな血管の形に違いがある病気の総称です。その種類はとても多く、私たち医師も、お子さん一人ひとりの状態を丁寧に確認しながら、適切な治療法を考えていきます。心臓のどこに、どのような違いがあるかによって、現れる症状や必要になる治療は異なります。

大きく分けて、心臓の壁に穴が開いているもの、血液の通り道が狭くなっているもの、そして、心臓と血管のつながりが通常と異なるものの3つがあります。ここでは代表的な病気をいくつかご紹介しましょう。

  • 心室中隔欠損症(しんしつちゅうかくけっそんしょう)
  • 心臓の真ん中にある、左右の心室という部屋を隔てる壁に、穴が開いている状態です。
  • この穴から血液が余分な方向へ流れてしまい、心臓がいつもより頑張りすぎてしまうため、
  • 肺に血液がたくさん送り込まれてしまうことがあります。
  • 心房中隔欠損症(しんぼうちゅうかくけっそんしょう)
  • 心臓の上の部屋である左右の心房を隔てる壁に、穴が開いている状態です。
  • これも心臓の中の血液の流れに影響を与え、心臓に負担がかかることがあります。
  • 肺動脈狭窄症(はいどうみゃくきょうさくしょう)
  • 肺へ血液を送る血管(肺動脈)の出口が狭くなっている状態です。
  • 心臓は、狭い道に血液を押し出すために一生懸命働かなければならず、
  • そのため心臓に大きな負担がかかってしまうことがあります。
  • 大動脈縮窄症(だいどうみゃくしゅくさくしょう)
  • 全身に血液を送る大切な血管(大動脈)の一部が、細くなっている状態です。
  • 全身に十分な血液が届きにくくなるため、手足の冷えや血圧の異常が見られることもあります。
  • 完全大血管転位症(かんぜんだいけっかんてんいしょう)
  • 全身へ血液を送る大動脈と、肺へ血液を送る肺動脈が、通常とは逆の位置から心臓につながってしまっている状態です。
  • この病気は、生まれた直後から赤ちゃんの体に酸素が十分に届かないため、
  • 緊急の治療が必要になることがほとんどです。

これらの病気は、その重さもさまざまです。お子さんの成長とともに自然に良くなるものもあれば、早いうちから手術などの治療が必要になるものもあります。特にお子さんが新生児期に心臓の手術を受けた場合、退院後も体重をしっかり増やし、体力を回復させることがとても大切です。元気な心臓を育てるためには、十分な栄養摂取が欠かせません。そのため、一時的に栄養チューブ(胃に直接栄養を送る細い管)を使って、必要な栄養を補給するお子さんもいらっしゃることを知っておいてください。私たちは、お子さんがしっかりと栄養を摂れるよう、退院後もご家族と一緒に最善の方法を考えていきます。心臓の病気の種類を理解することは、お子さんを長く支えていく上で、とても重要な第一歩となるでしょう。

先天性心疾患の原因

赤ちゃんが、お母さんのお腹の中で元気に成長していく大切な途中で、心臓の形や働きに、生まれつき少し違いができてしまうことがあります。なぜこのような心臓の病気が起こるのかは、私たち医療者もまだすべてを完全に解明できているわけではありません。

しかし、いくつかの原因が考えられています。

  • お母さんの妊娠中の影響
  • たとえば、お母さんが妊娠中に風疹(ふうしん)という感染症にかかってしまうと、
  • 赤ちゃんの心臓の成長に影響を与えることがあります。
  • そのため、妊娠を考えている女性には、事前に風疹の予防接種を受けておくことをおすすめしています。
  • また、妊娠中には、医師と相談せずに飲んではいけないお薬もあります。
  • 特定の薬が、赤ちゃんの心臓の成長に影響を与える可能性も指摘されていますので、
  • 妊娠中のお薬は必ず医師や薬剤師に相談してください。
  • お母さんが妊娠前から糖尿病(とうにょうびょう)などの持病(ずっと持っている病気)を持っている場合も、
  • 赤ちゃんの心臓の形に影響が出やすくなることがあります。
  • 遺伝的な要因
  • ご両親から赤ちゃんに受け継がれる「遺伝子(いでんし)」や、
  • 「染色体(せんしょくたい)」という、体の設計図のようなものに、
  • 生まれつき少し違いがあることが原因になることもあります。
  • ダウン症候群など、染色体の異常が原因で心臓の病気を合併することも知られています。
  • しかし、遺伝子の異常が直接的に心臓の病気を引き起こすことは、実際にはあまり多くありません。

ほとんどの場合、先天性心疾患は、特定のひとつの原因だけではなく、いくつかの理由が複雑に絡み合って起こると考えられています。これを「多因子遺伝(たいんしいでん)」と呼びますが、簡単に言うと「たくさんの原因が重なって起こる」ということです。

大切なのは、お父さんやお母さんが「何かをしてしまったからだ」と、ご自身を責める必要は全くないということです。私たち医療者も、お子さんの心臓の病気の原因を完全に突き止めることが難しいと感じています。原因が特定できないことも少なくありませんが、この病気は特別なことではなく、まれに起こる生まれつきの体質のようなものとして、ご理解いただければと思います。

先天性心疾患の症状

お子さんの心臓に生まれつきの病気があると、どのように気づけるのでしょうか。赤ちゃんや小さな子どもたちは、自分の体のつらさを言葉で伝えることができません。そのため、お父さんやお母さん、そして周りの大人が、普段と違うお子さんの様子に気づいてあげることが、何よりも大切です。

私たち医師も、ご家族からの「いつもと違う」というサインを重視しています。健康な赤ちゃんは元気にミルクを飲み、すやすやと眠り、日々成長していくものです。しかし、心臓に病気があると、そのサインが体のあちこちに現れることがあります。

赤ちゃんや小さい子どもに見られやすい、心臓の病気の主なサインは次の通りです。

  • 唇や爪が青っぽい色になる(チアノーゼ)
  • これは、血液の中に酸素が足りなくなっているサインです。
  • 健康な血液は酸素をたくさん含んで赤色ですが、
  • 酸素が少ない血液は青みがかって見えます。
  • 心臓の病気で血液の流れがうまくいかないと、酸素が全身に十分に届かず、
  • 特に唇や爪、時には顔色全体が青紫色になることがあります。
  • 呼吸が速い、苦しそうに見える
  • 心臓がうまく機能しないと、肺に血液がたまりすぎたり、
  • 全身に十分な酸素を送ろうと心臓が頑張りすぎたりします。
  • そのため、息の回数が増えたり、息をするたびに胸が大きくへこんだり、
  • 肩で息をするような様子が見られることがあります。
  • 母乳やミルクを飲むのが苦手で、体重が増えにくい
  • ミルクを飲むことは、赤ちゃんにとってかなりの体力を使う行為です。
  • 心臓に負担がある赤ちゃんは、この「飲む」という行為が疲れやすく、
  • 十分な量を飲めないため、体重がなかなか増えないことがあります。
  • 新生児期に心臓の手術を受けた乳児の場合、退院後も栄養をしっかり摂るために、
  • 一時的に栄養チューブが必要となることもあります。
  • これは、病状が重いお子さんや、心臓の機能回復に時間が必要なお子さんに、
  • 見られる症状の延長線上にあるものです。
  • 汗をたくさんかく
  • 少し体を動かすだけで、心臓がとても頑張って働かなければならないため、
  • 全身に汗をかきやすくなることがあります。
  • 特に、ミルクを飲んでいる時に顔に汗をかいている場合は注意が必要です。
  • 疲れやすい、あまり遊びたがらない
  • 健康な子どもたちと同じように走り回ったり、遊んだりすることが、
  • 心臓に大きな負担をかけてしまうことがあります。
  • 動きが鈍かったり、すぐに座り込んでしまったりする様子が見られたら、
  • 心臓からのSOSかもしれません。

これらの症状は、病気の重さや種類によって、現れ方がさまざまです。ごく軽度であれば気づきにくい場合もありますが、少しでも気になる様子があれば、かかりつけの小児科医や専門医に早めに相談することが大切です。私たち医師は、お子さんの小さなサインを見逃さず、適切なサポートをしていきたいと考えています。

先天性心疾患の検査・診断

お子さんの心臓に生まれつきの病気があるかもしれないと聞くと、ご家族は大きな不安を感じると思います。私たち医師は、その不安を少しでも和らげ、お子さんが適切な治療を受けられるよう、病気を正確に早く見つけるための検査に力を入れています。

1. 赤ちゃんがお腹の中にいる時の検査

お子さんの心臓の異常は、生まれる前にお母さんのお腹の中で見つかることもあります。

  • 胎児超音波(エコー)検査
  • この検査は、お母さんのお腹の上から超音波を当てて、
  • まだ小さなお腹の赤ちゃんの心臓の動きや形を詳しく観察します。
  • まるで、お腹の中にカメラを入れて心臓を直接見ているかのような検査です。
  • 生まれる前に心臓の病気が分かると、
  • どのような心臓の病気なのかを前もって調べることができ、
  • 専門の医師がいる病院で出産する準備を整えることができます。
  • これにより、赤ちゃんが生まれてすぐに、
  • 必要な治療をスムーズに始めることが可能になります。

2. 生まれてからの検査

赤ちゃんが生まれた後、心臓の病気が疑われる場合には、様々な検査を行います。

  • 医師の診察
  • 私たちはまず、赤ちゃんの唇や爪の色が青っぽくないか(チアノーゼの有無)、
  • 呼吸が苦しそうではないか、心臓の音に変わった響きがないかなど、
  • 五感を使い、注意深く診察します。
  • 特に心臓の音は、通常の健康な心音と違う音が聞こえることがあります。
  • 心臓超音波(エコー)検査
  • 赤ちゃんの体に負担の少ない、とても大切な検査です。
  • 胸に小さな器具を当てて、心臓が動く様子や血液の流れをリアルタイムで確認します。
  • 心臓の部屋の壁に穴がないか、血管が狭くなっていないかなど、
  • 心臓の構造上の問題や、血液の流れの異常を詳細に調べることができます。
  • 心電図検査
  • 心臓が動く時には、微弱な電気信号が出ています。
  • この電気信号を体の表面から記録し、心臓のリズムが整っているか、
  • 心臓に負担がかかっていないかなどを調べます。
  • まるで心臓の頑張りをグラフで見ているような検査です。
  • 胸部レントゲン検査
  • 心臓の大きさや形、肺の状態を確認するために行います。
  • 心臓が大きくなりすぎていないか、肺に余分な水が溜まっていないかなど、
  • 胸全体の様子を見ることで、心臓の病気の影響を評価します。
  • 血液検査
  • 赤ちゃんの体全体の元気度や、他の病気がないかを確認します。
  • 貧血がないか、腎臓や肝臓の働きに問題がないかなど、
  • 心臓の病気と関連する可能性のある情報を調べます。

3. さらに詳しい検査(精密検査)

上記の検査で、より複雑な心臓の病気が疑われたり、詳しい治療方針を決めるために必要だと判断されたりした場合には、さらに精密な検査を行います。

  • 心臓カテーテル検査
  • 細い管(カテーテル)を血管から心臓に入れて、
  • 心臓の中の圧力や血液中の酸素の量を直接測定する検査です。
  • 心臓の形をより正確に把握したり、治療の一環として行われることもあります。
  • CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像診断)検査
  • これらの検査は、心臓や大きな血管を様々な角度から詳細な画像として捉え、
  • 立体的に構造を把握するために行われます。
  • 心臓の形や血管のつながりなど、複雑な異常をより正確に診断できます。

これらの検査は、お子さん一人ひとりの心臓の病気がどのような種類で、どれくらいの重さなのかを正確に把握し、お子さんに一番合った治療方法を決めるための大切な情報となります。私たちは、ご家族の不安な気持ちに寄り添いながら、検査や治療について丁寧に説明していきますので、ご安心ください。

先天性心疾患の治療

お子さんの心臓に生まれつきの病気があると診断された時、ご家族は大きな不安を感じることでしょう。私たちは、お子さん一人ひとりの状態をしっかりと見極め、最適な治療方法を一緒に考えていきます。先天性心疾患の治療は、病気の種類や重さによって大きく異なります。

すべてのケースで、すぐに積極的な治療が必要となるわけではありません。病気が軽度で、お子さんの成長とともに自然に良くなる可能性がある場合は、心臓の状態を注意深く見守る「経過観察」を行うこともあります。定期的な診察で、お子さんの様子を丁寧に確認しながら、治療が必要な時期を見極めていくことが大切です。

もし症状が進んだり、心臓への負担が大きくなったりした場合には、さまざまな治療法が検討されます。

治療法の種類

  • カテーテル治療
  • 足の付け根などの血管から、細い管(カテーテル)を挿入し、
  • 心臓の異常な部分を広げたり閉じたりする方法です。
  • この治療は、体への傷が小さく、負担が少ないという特徴があります。
  • 例えば、狭くなった血管を風船のようなもので広げたり、
  • 開いた穴を特殊な器具で閉じたりします。
  • 外科手術
  • 胸を開いて心臓の形を直接治す手術です。
  • 複雑な病気の場合や、カテーテル治療では難しい場合に選択されます。
  • 近年では、生まれたばかりの赤ちゃんでも安全に手術を受けられるよう、
  • 手術の技術は大きく進歩しています。
  • 手術後、特に新生児期に手術を受けたお子さんの場合、
  • 退院後も体重をしっかり増やし、体力を回復させることが非常に重要です。
  • 元気な心臓を育てるためには、十分な栄養摂取が欠かせません。
  • そのため、一時的に栄養チューブ(胃に直接栄養を送る細い管)を使って、
  • 必要な栄養を補給することが選択されるケースもあります。
  • 内科的薬物療法
  • 心臓の働きを助けたり、体に溜まった水分を減らしたりするお薬を飲む治療です。
  • 手術の前後や、手術が難しい場合に、心臓の症状を和らげるために用いられます。
  • 心臓の負担を軽減し、お子さんができるだけ快適に過ごせるようサポートします。

どの治療法を選ぶかは、お子さんの年齢、心臓の病気の具体的な内容、全身の状態などを考慮して、専門の医師がご家族と十分に話し合いながら決定します。ご家族の不安な気持ちに寄り添い、治療の選択肢やそれぞれのメリット・デメリットについて、一つひとつ丁寧に説明していきますのでご安心ください。

治療を受けた後も、心臓の健康を長く保つためには、定期的な検診や日々の生活習慣に気を配ることがとても重要です。心臓の専門医と長くお付き合いしていくことで、お子さんは安心して生活を送ることができます。