大腸憩室症

健康診断で「大腸に憩室(けいしつ)がありますね」と言われたことはありませんか? これは大腸の壁が外側に袋のように飛び出した状態で、実は日本人では約4人に1人が持っているとされ、決して珍しいものではありません。多くは無症状のため、あなたも気づいていないだけかもしれません。

しかし、この小さな袋を放置すると、ある日突然、激しい腹痛や出血を引き起こすことがあります。特に、炎症が悪化して腸に穴が開く「穿孔」は命に関わる危険な状態です。以前は緊急手術が一般的でしたが、最近の研究では、状態によっては手術なしでの成功率が約93%にのぼることもわかってきました。

この記事では、大腸憩室症の基本的な知識から、危険なサイン、そして手術を回避できる可能性のある最新の治療法までを詳しく解説します。自分は大丈夫と思わず、正しい知識でご自身の体を守りましょう。

大腸憩室症の概要

大腸の壁の一部が、外側に向かってポコッと袋のように飛び出すことがあります。 この小さな袋を「大腸憩室(だいちょうけいしつ)」と呼びます。 そして、この憩室がいくつもできている状態が「大腸憩室症」です。

これは決して珍しいことではなく、日本人では約4人に1人が持っているとされます。 特に、年齢を重ねるごとに憩室ができる割合は高くなる傾向にあります。 40代では10%以下ですが、80代以上になると約半数の方に見られます。

ほとんどの場合、憩室があるだけでは何も症状は起こりません。 そのため、ご自身が憩室症だと気づかず、健康診断などで偶然見つかる方が大半です。 しかし、この袋に便が詰まり細菌が繁殖すると、炎症(憩室炎)や出血(憩室出血)を起こすことがあります。

特に注意が必要なのは、憩室炎が悪化して腸に穴が開く「穿孔(せんこう)」です。 以前は、穿孔が起きると緊急手術が必要だと考えられてきました。 しかし、最近の研究によって治療法は進歩しています。

ある研究では、お腹の中に漏れ出た空気の場所で治療成績が変わることが報告されました。 憩室のすぐそばにだけ空気が漏れた場合、手術なしで治る成功率は約93%と高いです。 一方、憩室から離れた場所まで空気が漏れると、成功率は約71%でした。 このように、状態を正確に評価し、手術をせずお薬で治療できるケースが増えています。

大腸憩室症の種類

大腸憩室症は、憩室ができる場所によって大きく2つの種類に分けられます。 ご自身のタイプを知ることは、症状や治療方針を理解するうえで重要です。

種類

できる場所

特徴

右側型

盲腸〜上行結腸

日本人を含むアジア人に多いとされています。

左側型

S状結腸

欧米人に多いタイプです。

近年は食生活の欧米化で、日本人にも増えています。

また、憩室が炎症を起こす「憩室炎」が悪化した場合も、重症度で分類されます。 憩室炎が重くなると、腸に小さな穴が開いてしまう「穿孔(せんこう)」が起こります。 このとき、漏れ出た空気の場所によって治療の難しさが変わることがわかっています。

  • 腸管周囲の遊離空気 憩室のすぐそばにだけ、空気が漏れている状態です。 最近の研究では、この場合、手術をしない治療の成功率が約93%と報告されています。
  • 遠隔の遊離空気 憩室から離れた場所にまで、空気が漏れてしまっている状態です。 これはより重症なサインであり、手術なしで治る成功率は約71%まで下がります。 このため、治療がより難しくなることが示唆されています。

このように、憩室症は場所だけでなく、合併症の状態によっても細かく分類されます。 それぞれの状態で治療方針が大きく異なるため、正確な診断が非常に大切です。

大腸憩室症の原因

大腸の壁にできる「憩室」は、主に2つの理由で発生すると考えられています。 それは、腸の中の圧力が高くなることと、年齢による腸の変化です。 これらが複雑に絡み合って、憩室は作られていきます。

まず、腸の中の圧力についてです。 便秘などで強くいきむと、腸の中の圧力は非常に高くなります。 すると、腸の壁の中でも血管が通っている部分は構造的に少し弱いため、その圧に負けて外側へポコッと押し出されてしまうのです。

次に、年齢による変化が挙げられます。 歳を重ねると肌の弾力が失われるように、腸の壁も硬く、もろくなりがちです。 また、便をスムーズに送り出す腸の動きも衰えるため、憩室ができやすくなります。

これらに加え、憩室ができるリスクを高める生活習慣もあります。 ご自身の生活に当てはまるものがないか、一度チェックしてみましょう。

  • 食物繊維の少ない食事 便が硬くなり、排便時にいきむ原因になります。
  • 赤身肉の多い食事 腸内環境の変化などを通じて、リスクになる可能性があります。
  • 運動不足や肥満、喫煙 これらは腸の動きや血流に影響を与えると考えられています。

一度できてしまった憩室は、残念ながら自然になくなることはありません。 憩室に便が詰まると、憩室炎という炎症を起こし、重症化すると腸に穴が開いてしまうことがあります。 最近の研究では、腸から漏れ出た空気の場所によっては、手術をしない治療の成功率が約71%に下がることも報告されています。 このような事態を防ぐためにも、原因となる生活習慣を見直すことがとても大切です。

大腸憩室症の症状

大腸に憩室があるだけでは、ほとんどの場合、何も症状は感じません。 そのため、多くの方はご自身に憩室があるとは気づかずに生活しています。 しかし、憩室が原因で合併症が起こると、体に危険を知らせるサインが現れます。

特に注意が必要な合併症は、「憩室炎」と「憩室出血」の2つです。

1. 大腸憩室炎(だいちょうけいしつえん)

憩室という小さな袋の中に便が詰まり、細菌が増えて炎症が起きた状態です。 主な症状には、以下のようなものがあります。

  • 腹痛 特に左下のお腹に痛みを感じることが多いです。
  • 発熱 細菌と体が戦っているサインとして、熱が出ます。
  • 吐き気 お腹の不快感から、吐き気を感じることもあります。

炎症がひどくなると、憩室の壁に穴が開いてしまう「穿孔(せんこう)」が起こることがあります。 これは腸内のガスがお腹の中に漏れ出る危険な状態で、激しい腹痛や高熱を伴います。 最近の研究では、漏れたガスの場所によって治療の難しさが変わることがわかってきました。 憩室のすぐ近くにだけガスが漏れた場合、手術なしで治る成功率は約93%と高いです。 しかし、憩室から離れた場所までガスが広がると、成功率は約71%まで下がると報告されています。

2. 大腸憩室出血(だいちょうけいしつしゅっけつ)

憩室の中にある細い血管が、何らかの理由で傷ついて出血した状態です。

  • 突然の血便 真っ赤な血や暗い赤色の血が便に混じります。 腹痛や熱は伴わないことが多いのが特徴です。

多くの場合、出血は自然に止まりますが、繰り返し出血することもあります。 また、一度に大量に出血して貧血が進むと、命に関わることもあるため注意が必要です。

これら以外にも、たくさんの憩室ができることで腸が硬くなり、慢性的な腹痛やお腹の張り、便秘といった症状を感じる方もいます。 気になる症状があれば、自己判断せずに必ず医療機関へご相談ください。

大腸憩室症の検査・診断

腹痛や血便などの症状がある場合、原因を詳しく調べる検査が必要です。 これらの検査は、病気の重さや状態を正確に把握するためには欠かせません。 そして、あなたに合った最適な治療法を決めるための重要な手がかりになります。

主な検査には、以下の3つがあります。

  • 血液検査 体の中で何が起きているかを知るための、最初のステップとなる検査です。 憩室炎が起きていると、炎症を示す数値(白血球やCRP)が高くなります。 出血がある場合は、貧血がどのくらい進んでいるかを数値で確認します。
  • 腹部CT検査 お腹の中を輪切りにしたような画像で、詳しく状態を把握する検査です。 憩室の周りに炎症が広がっていないか、膿がたまっていないかを確認できます。 特に重要なのは、腸に穴が開いて空気が漏れていないかの評価です。 最近の研究では、漏れた空気の場所で治療の難しさが変わると報告されています。 憩室のすぐそばにだけ空気が漏れている場合、手術なしで治る成功率は約93%です。 しかし、憩室から離れた場所まで空気が漏れると、成功率は約71%まで下がります。 このようにCT検査は、手術の必要性を判断する上で非常に重要な検査です。
  • 大腸カメラ(大腸内視鏡検査) おしりから小さなカメラを入れ、大腸の中を直接観察する検査です。 憩室の場所や数を正確に把握し、診断を確定するために行われます。 血便がある場合は、出血している場所を見つけ、その場で止血もできます。 ただし、お腹の痛みが強い急性期には、すぐには行いません。 検査の刺激で腸に穴が開く危険があるため、まずは安全を最優先します。 CT検査や薬で炎症を抑え、状態が落ち着いてから検査を行うのが一般的です。

大腸憩室症の治療

大腸に憩室があるだけでは、基本的に治療の必要はありません。 しかし憩室炎や憩室出血といった合併症が起きた場合は、適切な治療が必要です。 症状や重さに合わせて、治療法は大きく変わります。

1. 大腸憩室炎(だいちょうけいしつえん)の治療

憩室にばい菌が感染して炎症が起きた状態です。 治療の基本は「腸を休ませる」ことと「ばい菌を抑える」ことです。

  • 軽症の場合 腹痛や熱が軽い場合は、ご自宅で治療ができます。 ばい菌を抑えるための飲み薬(抗菌薬)を使い、食事を制限します。
  • 中等症〜重症の場合 症状が強い場合は、入院が必要です。 食事を完全に止め(絶食)、点滴で水分や栄養を補給します。 同時に、抗菌薬を点滴で投与し、腸をしっかり休ませます。
  • さらに重症化した場合 炎症がひどくなると、腸に小さな穴が開く「穿孔(せんこう)」が起こることがあります。 以前は緊急手術が必要と考えられていましたが、最近の研究で治療法は進歩しています。 CT検査で腸から漏れた空気の場所を確認し、手術を避ける治療が可能か判断します。

空気が漏れた場所

手術をしない治療の成功率

憩室のすぐそば

約93%

憩室から離れた場所

約71%

このように、憩室から離れた場所まで空気が漏れると治療が難しくなります。 状態によっては、お腹にたまった膿を外に出す処置や、緊急手術が必要になります。

2. 大腸憩室出血(だいちょうけいしつしゅっけつ)の治療

憩室の中の血管が傷ついて出血した状態で、突然の血便がサインです。

  • まずは安静に 憩室からの出血は、多くの場合自然に止まります。 そのため、まずは絶食で腸を休ませ、慎重に様子を見ます。
  • 出血が続く場合 おしりからカメラを入れ、出血している場所を直接クリップなどで止めます。 それでも止まらない場合は、足の付け根の血管から細い管を入れる治療や手術を検討します。

これらの治療で症状が落ち着いた後は、一度大腸カメラ検査を受けることが大切です。 炎症や出血の裏に、大腸がんなどの病気が隠れていないかを確認するためです。