慢性扁桃炎
年に何度も繰り返す高熱やのどの痛み、あるいは普段からのどの違和感や微熱に悩んでいませんか。その不調は、単なる風邪ではなく「慢性扁桃炎」が原因かもしれません。
この記事では、慢性扁桃炎の詳しい症状や原因、治療の選択肢について解説します。日本の430万人以上を対象とした研究では、この病気が腎臓の病気のリスクを2.72倍高める可能性も示唆されています。
ご自身の症状と照らし合わせながら読み進めることで、今の状態を正しく理解できます。保存的治療から手術まで、ご自身に合った治療法を見つけるための第一歩につながります。
慢性扁桃炎の概要
慢性扁桃炎とは、のどの奥にある扁桃(へんとう)というリンパ組織で、炎症が3カ月以上にわたってくすぶり続ける病気です。
この病気は、症状が比較的落ち着いている「慢性期」と、急に症状が悪化する「急性増悪期」を繰り返す点が大きな特徴です。それぞれの時期の症状は下表のとおりです。
時期 | 状態 | 主な症状
慢性期 | 炎症がくすぶっている | ・のどの違和感や乾燥感 ・微熱や倦怠感 ・口臭が気になる ・まったく症状がないこともあります
急性増悪期 | 炎症が急激に強くなる | ・38度以上の高熱 ・食べ物を飲み込むのもつらいほどの激しいのどの痛み ・全身のだるさ
普段は目立った症状がなくても、疲れやストレスをきっかけに急性扁桃炎のようなつらい症状がぶり返すため、生活の質(QOL)を大きく下げてしまうことも少なくありません。
さらに、慢性扁桃炎はのどだけの問題にとどまらないことがあります。
430万人以上を対象とした日本の大規模な疫学研究において、慢性扁桃炎がある人は、ない人と比べて腎臓の病気である「IgA腎症」を発症するリスクが2.72倍高まることが明らかになりました※。
このように、慢性扁桃炎は単なるのどの不調ではなく、全身の健康に影響を及ぼす可能性もはらんでいるため、適切な管理が求められます。
慢性扁桃炎の種類
ひとくちに扁桃炎といっても、その状態は一つではありません。症状の現れ方や続く期間によって、主に「急性」「復発性」「慢性」の3つの段階に分けられます。
ご自身ののどの不調がどの段階にあるのかを知ることは、適切な治療法を見つけるための大切な手がかりとなります。
それぞれの状態の特徴を、以下の表で比べてみましょう。
種類 | 状態のイメージ | 主な特徴
急性扁桃炎 | のどに急な火事が起きた状態 | ・細菌やウイルスの感染が原因 ・突然の高熱や激しいのどの痛みが起こる ・通常は1〜2週間で治まる
復発性扁桃炎 | 火事を何度も繰り返している状態 | ・急性扁桃炎を年に数回以上、繰り返す ・症状がないときは、のどの炎症も完全に治まっている
慢性扁桃炎 | 小さな火種がずっとくすぶり続けている状態 | ・のどの違和感や微熱、倦怠感といった軽い症状が3カ月以上続く ・症状がなくても、扁桃では常に弱い炎症が起きている
「復発性扁桃炎」と「慢性扁桃炎」は混同されがちですが、両者には明確な違いがあります。
ポイントは、症状がないときに炎症が完全に治まっているかどうかです。
復発性扁桃炎は、つらい症状を繰り返すものの、症状がない期間は扁桃の状態も正常に戻ります。一方、慢性扁桃炎は、普段は強い症状がなくても、扁桃の内部では常に炎症がくすぶり続けている状態です。
このくすぶっている炎症が、疲れやストレスをきっかけに再び燃え上がり、急性扁桃炎のような激しい症状(急性増悪)を引き起こすのです。ご自身の状態を正しく把握し、適切な治療につなげましょう。
慢性扁桃炎の原因
慢性扁桃炎は、急性扁桃炎が治りきらないことや、扁桃が持つ細菌を溜め込みやすい構造が主な原因となって発症します。
一度かかった急性扁桃炎の治療が不十分だったり、体の抵抗力が落ちていたりすると、原因となった細菌やウイルスを完全に排除できません。その結果、細菌などが扁桃の奥深くに潜り込み、弱い炎症を起こし続ける「火種」として残ってしまうのです。
また、扁桃の構造そのものにも、炎症が慢性化しやすい理由が隠されています。
扁桃の表面はツルツルではなく、実は「陰窩(いんか)」と呼ばれる、深くて複雑なくぼみが無数に開いています。このくぼみは、細菌やウイルスの死骸、食べかすなどが溜まりやすい構造をしています。
ここに溜まった汚れは「膿栓(のうせん)」(いわゆる“臭い玉”)と呼ばれる白い塊を形成します。この膿栓は細菌にとって格好の住処(すみか)となり、ここで菌が繁殖を続けることで、常に弱い炎症がくすぶり続ける原因となるのです。
慢性扁桃炎を引き起こす主な要因を以下に整理します。
・急性扁桃炎の慢性化:急性扁桃炎の治療が不十分で、細菌が扁桃内に残ってしまう。
・扁桃の構造:陰窩に細菌や食べかすが溜まり、膿栓が形成される。
・生活習慣:喫煙や過度な飲酒が、のどに継続的な刺激を与える。
・免疫力の低下:過労やストレス、栄養不足などで体の抵抗力が落ちる。
さらに、慢性扁桃炎はのどだけの問題にとどまらず、全身の病気につながる可能性も指摘されています。
430万人以上を対象とした日本の大規模な疫学研究では、慢性扁桃炎がある人は、ない人と比べて腎臓の病気である「IgA腎症」を発症するリスクが2.72倍も高まることが明らかになりました※。
この研究結果は、慢性扁桃炎がIgA腎症の発症リスクを高める可能性を示唆しており、単なるのどの不調として軽視すべきではないことを物語っています。
慢性扁桃炎の症状
慢性扁桃炎の症状は、炎症が静かにくすぶる「慢性期」と、急激に悪化する「急性増悪期」で大きく異なります。
普段の症状と、悪化したときの症状を比べてみましょう。
時期 | 状態のイメージ | 主な症状
慢性期 (炎症がくすぶる時期) | 小さな火種が常に残っている状態 | ・のどのイガイガ感、乾燥、異物感 ・原因不明の微熱や倦怠感(疲れがとれない) ・口臭が強くなる(膿栓が原因のことも) ・扁桃のくぼみに見える白い塊(膿栓) ・まったく症状を感じない人もいます
急性増悪期 (炎症が急に強まる時期) | 火種が燃え上がり、火事になった状態 | ・38℃以上の高熱や悪寒 ・食べ物も飲み込めないほどの激しいのどの痛み ・体中の関節が痛む、強いだるさ ・首のリンパ節の腫れと痛み
普段は「なんとなく調子が悪い」程度の軽い症状でも、疲れやストレスをきっかけに、年に数回、急性扁桃炎のようなつらい症状を繰り返すため、多くの方が生活の質(QOL)の低下に悩まされています。
さらに、慢性扁桃炎が厄介なのは、のどの不調だけでは終わらない可能性がある点です。
扁桃でくすぶり続ける炎症が体の他の部分に飛び火し、腎臓の病気である「IgA腎症」などを引き起こすことがわかっています。
実際に、430万人以上を対象とした日本の大規模な研究では、慢性扁桃炎のある人は、ない人と比べてIgA腎症を発症するリスクが2.72倍も高かったと報告されました※。
これは、扁桃の炎症が「火種」となり、遠く離れた腎臓にまで影響を及ぼす可能性を示唆しています。単なるのどの不調と片付けず、全身の健康を守る視点から向き合うことが大切です。
慢性扁桃炎の検査・診断
慢性扁桃炎の診断は、症状の経過を詳しくお伺いする「問診」と、のどの状態を直接観察する「視診」が基本となります。
問診では、のどの違和感や微熱といった症状がいつから続いているか、年に何回ほど高熱や激しい痛みを繰り返すか(急性増悪の頻度)などを詳しくお伺いします。続く視診では、ペンライトでのどを直接観察し、扁桃の腫れや赤み、膿栓(のうせん)と呼ばれる白い塊が隠れていないかなどを丁寧に確認します。
これらの所見をもとに、より詳しい情報が必要だと判断された場合、次のような検査を追加で行うことがあります。
検査の種類 | 検査方法 | この検査でわかること
細菌培養検査 | 綿棒で扁桃の表面をこすり、付着した粘液を調べる | ・炎症を引き起こしている細菌の種類を特定 ・どの抗菌薬が効きやすいかを判断する手がかりになる
血液検査 | 腕などから採血を行う | ・白血球数やCRP値などを測定し、体内の炎症の強さを客観的な数値で評価 ・感染症の重症度を把握
これらの検査は、単にのどの炎症の程度を調べるだけが目的ではありません。
慢性扁桃炎は、のどに留まらず、遠く離れた腎臓に「IgA腎症」という病気を引き起こすリスクを高めることが、430万人以上を対象とした日本の大規模な研究で示唆されています※。
そのため、血液検査や、場合によっては尿検査を通じて、腎臓への影響が出ていないかを確認することも、診断における重要な視点の一つといえます。「たかが扁桃炎」と軽視せず、全身の健康を守るためにも、まずは専門医による正確な診断を受けることが、適切な治療への第一歩となります。
慢性扁桃炎の治療
慢性扁桃炎の治療は、症状をコントロールする「保存的治療」と、炎症の根本原因である扁桃そのものを摘出する「手術治療」の2つの選択肢が基本となります。
普段の症状の程度や、高熱を伴う急性増悪を繰り返す頻度、そしてそれらが生活にどの程度影響しているかを考慮し、一人ひとりに合った治療法を選択することが重要です。
症状をコントロールする「保存的治療」
症状が比較的落ち着いている時期や、手術を希望されない場合には、炎症を和らげ、悪化を防ぐための保存的治療を行います。
ただし、これらの治療はあくまで対症療法であり、根本的な解決には至らないことも少なくありません。
具体的な治療法は以下のとおりです。
・薬物療法:のどの痛みや発熱といった急な症状(急性増悪)に対しては、抗菌薬や解熱鎮痛薬を使用します。また、普段の軽い炎症を抑える目的で、漢方薬などが処方されることもあります。
・うがい:うがい薬を使ってのどを清潔に保ち、細菌の増殖を抑えます。
・扁桃洗浄(扁桃吸引):扁桃のくぼみに溜まった細菌の塊である膿栓(のうせん)を、専用の器具で洗浄・吸引して取り除きます。
根本的な解決を目指す「手術治療」
保存的治療で十分な効果が得られない場合や、日常生活に大きな支障が出ている場合には、根本的な治療法として扁桃の摘出手術(口蓋扁桃摘出術)を検討します。
特に、以下のようなケースでは手術が強く推奨されます。
・年に3〜4回以上、高熱や激しい痛みを繰り返し、仕事や学校を休まざるを得ない
・扁桃が原因で、腎臓の病気(IgA腎症)などを発症している
・扁桃が大きすぎて、いびきや睡眠時無呼吸、飲み込みにくさの原因となっている
・扁桃の炎症が周囲に広がり、重い合併症(扁桃周囲膿瘍など)を起こしたことがある
・片側の扁桃だけが大きく腫れており、腫瘍が疑われる
手術と聞くと不安を感じるかもしれませんが、近年では体への負担を抑えた方法も登場しています。
複数の研究結果を分析した報告によると、低温のプラズマエネルギーを利用して組織へのダメージを抑えながら扁桃を摘出する「低温プラズマ手術」は、従来の手術と比較して患者さんの負担を軽減できる可能性が示されています。
具体的には、以下のようなメリットが報告されています。
・手術時間の短縮(平均で約12分短い)
・術後の痛みの軽減
・入院期間の短縮(平均で約0.7日短い)
・合併症が起こるリスクの低下※
どの治療法がご自身にとって最適なのかは、症状やライフスタイルによって異なります。まずは専門の医師とよく相談し、それぞれの治療法のメリット・デメリットを理解した上で、納得のいく選択をすることが大切です。













