慢性肺アスペルギルス症

肺結核やCOPDの治療歴があり、長引く咳や原因不明の体重減少に悩んでいませんか。その症状は、ごく身近なカビが原因で起こる「慢性肺アスペルギルス症」のサインかもしれません。この病気では、患者さんの約94%に体重減少が見られると報告されています。

この記事では、慢性肺アスペルギルス症の詳しい原因や特徴的な症状、診断から治療に至るまでの流れを解説します。進行は年単位とゆるやかですが、徐々に肺の機能が損なわれる可能性のある病気といえます。

ご自身の症状と照らし合わせて読み進めることで、病気への理解が深まります。適切なタイミングで専門医へ相談するための知識を得て、今後の治療に向けた次の一歩を踏み出すきっかけになるはずです。

慢性肺アスペルギルス症の概要

慢性肺アスペルギルス症(CPA)は、肺に古い病巣がある方に、アスペルギルスというありふれたカビ(真菌)がすみ着くことで、数カ月から数年かけてゆっくりと進行する呼吸器の感染症です。

健康な人がアスペルギルス菌を吸い込んでも、通常は免疫の働きによって排除されます。

しかし、過去にかかった結核の跡やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などによって、肺の中に空洞や傷ついた部分があると、そこがカビの温床となってしまうのです。

この病気は、カビが肺の組織を直接壊して侵食するわけではなく、主に傷んだ部分で栄養を摂りながら増殖する(腐生する)のが特徴です。

進行は年単位と比較的ゆるやかで、症状が落ち着く「寛解(かんかい)」と、悪化する「増悪(ぞうあく)」を繰り返しながら、徐々に肺の機能を損なっていきます。

また、CPAの患者さんの約4割は、アスペルギルス菌に対してアレルギー反応を起こしやすい「感作(かんさ)」という状態にあることがわかっています。

この感作があると、アレルギー反応で息の通り道が狭くなる「気流閉塞」が起こりやすくなるほか、病気の再発率が高まる傾向が指摘されています※。

このようにCPAは、単なるカビの感染症というだけでなく、患者さん自身の肺の状態やアレルギー体質などが複雑に関わり合って病状が変化していく疾患といえます。

慢性肺アスペルギルス症の種類

慢性肺アスペルギルス症(CPA)は、病気の進み方や肺の中でのカビの状態によって、主に3つのタイプに分けられます。

この分類は治療方針を考える上での一つの目安となりますが、実際にはタイプがはっきりと分かれず、境界が曖昧なケースも少なくありません。代表的なタイプの特徴は下表のとおりです。

タイプ名 | 主な特徴

単純性肺アスペルギローマ (SPA) | ・肺にもともとある空洞の中に、カビが集合して「アスペルギローマ」という菌の塊(真菌球)を作るタイプ ・多くの場合、進行はゆるやかで無症状のこともあります

慢性空洞性肺アスペルギルス症 (CCPA) | ・肺に新しい空洞ができたり、もともとあった空洞がじわじわと広がったりするタイプ ・空洞の周りに炎症を伴い、数カ月から数年かけてゆっくり進行します

慢性壊死性肺アスペルギルス症 (CNPA) | ・肺の組織が比較的速いペースで壊れていくタイプ ・CT画像では結節(しこり)や影として現れ、CCPAよりも進行が速い傾向があります

実は、診断の段階でこれらのタイプを正確に見分けることは、必ずしも簡単ではありません。

CPAの診断で重要な手がかりとなるのが、アスペルギルス菌に対する体の反応を見る血液検査(特異的IgG抗体)です。この抗体の数値が高いとCPAの可能性が高まりますが、抗体の数値だけで「どのタイプか」を特定する能力は限定的であることがわかっています。

ある研究では、CPAのタイプが異なっても、この抗体の数値には統計的に明確な差は認められなかったと報告されています※。

ただし、空洞が広がりやすい「慢性空洞性肺アスペルギルス症(CCPA)」では、他のタイプに比べて抗体の値が比較的高くなる傾向があることも示唆されました※。

このように、血液検査はあくまで診断材料の一つです。ご自身の状態を正しく把握するためには、CTなどの画像検査の結果や症状の移り変わりを、専門医が総合的に判断することが不可欠といえます。

慢性肺アスペルギルス症の原因

慢性肺アスペルギルス症は、土やホコリの中など、ごく身近な環境にいる「アスペルギルス」というカビ(真菌)の胞子を吸い込むことが原因で起こります。

健康な人の体では、たとえ胞子を吸い込んでも免疫の働きによって速やかに排除されるため、病気につながることはありません。

しかし、肺にもともと病気による傷や空洞があると、そこがカビにとって格好の“すみか”となり、免疫力が正常であっても定着・増殖してしまうのです。

アスペルギルス菌がすみ着きやすいのは、主に以下のような肺の状態です。

・肺結核の治ったあと(陳旧性肺結核)

・慢性閉塞性肺疾患(COPD、肺気腫)

・気管支拡張症

・肺線維症や間質性肺炎

・肺がんの手術後 など

特に注意が必要なケースとして、間質性肺炎に「非定型抗酸菌症」という別の感染症を合併している場合が挙げられます。

ある研究では、こうした患者さんのおよそ4人に1人(24.1%)が、慢性肺アスペルギルス症も発症していたと報告されており、注意深い経過観察が求められます※。

このように、体の免疫力そのものに問題がなくても、肺の“土台”となる部分の状態が発症の引き金になるのが、この病気の大きな特徴といえます。

慢性肺アスペルギルス症の症状

慢性肺アスペルギルス症の症状は、数カ月から数年という長い時間をかけてゆっくりと現れるため、ご自身では気づきにくいことがあります。

カビ(アスペルギルス)が肺にすみ着くことで持続的な炎症が起こり、風邪や他の呼吸器疾患と似た症状が1カ月以上続くのが一つの目安です。

特に多くみられる症状を以下にまとめました。

・理由のはっきりしない体重減少(患者さんの約94%)

・長引く咳(約78%)

・血痰や喀血(血が混じった痰や、血を吐くこと)

・体を動かしたときの息切れ(呼吸困難、約50%)

・全身の倦怠感(約28%)

・微熱(約11%)

なかでも「体重減少」は、ほとんどの患者さんに見られる重要なサインです。これは、体の中で続く慢性的な炎症によって、気づかないうちにエネルギーが消耗されていることを示しています。

また、「血痰」や「喀血」は、肺の中で増殖したカビが血管を傷つけることで起こります。少量でも注意が必要ですが、もし大量に出血した場合は命に関わる危険があるため、ただちに救急車を呼ぶか、救急外来を受診してください。

これらの症状に加えて、患者さん自身の体質が病状に影響を与えることもわかっています。

慢性肺アスペルギルス症の患者さんのおよそ4割は、原因となるカビに対してアレルギー反応を起こしやすい「感作(かんさ)」という状態にあると報告されています。

この感作があると、アレルギー反応によって息の通り道が狭くなる「気流閉塞」が起こりやすくなります。

さらに、感作がある患者さんはない患者さんと比べて、

・呼吸器症状による生活の質(QOL)の低下がより大きい

・病気が再発するまでの期間が短くなる傾向がある

といった点も指摘されています※。

このように、症状の現れ方は一人ひとり異なります。もし肺結核やCOPDなどの持病をお持ちの方で、上記のような症状が1カ月以上続く場合は、決して自己判断せず、呼吸器内科の専門医にご相談ください。

慢性肺アスペルギルス症の検査・診断

慢性肺アスペルギルス症の診断は、単独の検査で確定するものではなく、症状の経過、画像検査、血液検査などの結果を総合的に評価して慎重に行われます。

まず、咳や原因不明の体重減少といった症状が1カ月以上続いていないか、そして肺結核やCOPDなどの持病がないかを詳しくお伺いします。その上で、診断をより確実にするために、以下のような検査を進めていきます。

・画像検査(胸部X線・CT)

肺の状態をすみずみまで観察し、病気の広がりやタイプを見極めるための重要な検査です。肺の中にカビのすみかとなる空洞ができていないか、空洞の壁が炎症で厚くなっていないか、あるいは「アスペルギローマ」と呼ばれる特徴的なカビの塊がないかなどを確認します。

・血液検査

体内でアスペルギルス菌に対して起きている免疫反応を調べる、診断の要となる検査です。特に「アスペルギルス特異的IgG抗体」は、体が菌に反応していることを示す有力なサインとなります。ただし、抗体の数値だけで病気の詳しいタイプまでを正確に見分けるのは難しいとされています。とはいえ、空洞が広がりやすいタイプでは抗体の値が比較的高くなる傾向も報告されています※。その他、カビの細胞壁に含まれる「β-Dグルカン」という成分を測定することもあります。

・検体検査(喀痰・気管支鏡検査)

痰(たん)や気管支鏡(細いカメラ)で採取した液体から、アスペルギルス菌そのものが存在するかを直接調べる検査です。ただし、この検査で菌が見つかる確率は高くなく、菌が見つからなくてもこの病気の可能性を否定できるわけではありません。

近年、より手軽に調べられる迅速検査キットも登場しています。しかし、従来の精密な検査法に比べて病気を見つけ出す精度(感度)が低い場合があるとの報告もあり、結果の解釈には注意が必要です。診断の補助として、他の検査と組み合わせて用いられます※。

これらの検査結果と、1カ月以上続く特徴的な症状、そして細菌に効く抗菌薬では改善しないといった経過を総合的に評価し、最終的に慢性肺アスペルギルス症と診断されます。

慢性肺アスペルギルス症の治療

慢性肺アスペルギルス症の治療は、肺にすみ着いたカビの増殖を食い止める「抗真菌薬」を用いた薬物療法を軸に進めます。

ただし、病気の進行は年単位とゆるやかである一方、一度すみ着いたカビを完全に取り除くのは簡単ではないため、治療は長期戦になることがほとんどです。

治療の基本となるのは、アスペルギルス菌の増殖を抑えるための飲み薬(経口抗真菌薬)です。ボリコナゾールやイトラコナゾールといった薬が主に使われます。

治療期間は最低でも6カ月以上におよび、根気強く薬を飲み続けることが重要になります。

全身の状態が思わしくない場合や、飲み薬だけでは効果が不十分な場合には、点滴による治療から始めることもあります。

点滴薬の一つとして、リポソーム型アムホテリシンBを週に1回投与する方法も、有効な選択肢となる可能性が報告されています※。

薬物療法で症状が十分に改善しない場合や、特定の重い症状がある場合には、以下のような外科的な治療を検討します。

・外科的治療

菌の塊(アスペルギローマ)が肺の一部に限られており、薬では止められない血痰や喀血(かっけつ)を繰り返す場合など、手術によって病巣ごと切除することを検討します。

・気管支動脈塞栓術(そくせんじゅつ)

喀血がひどく、命の危険がある場合に緊急で行われる処置です。足の付け根などからカテーテルという細い管を入れ、出血している血管を内側から塞いで止血します。

治療は年単位の長期にわたることが多いため、定期的に効果や副作用を確認しながら、粘り強く治療方針を調整していくことが大切です。

また、この病気は肺結核の後遺症やCOPDといった、もともとある肺の病気が土台となっています。そのため、抗真菌薬による治療と並行して、これらの基礎にある病気の管理をしっかりと行うことも、症状を安定させ、再発を防ぐ上で欠かせません。