慢性閉塞性肺疾患
坂道や階段での息切れ、長引く咳や痰を「年のせい」と片付けていませんか。その症状は、日本の40歳以上の約12人に1人が該当すると考えられている慢性閉塞性肺疾患(COPD)のサインかもしれません。
この記事では、COPDの主な原因や症状、診断方法を解説します。喫煙が他の病気の治療薬の効果を弱める可能性など、肺以外の全身への影響についても詳しく説明します。
ご自身の状態と照らし合わせることで、症状の背景にある原因がわかり、病気の進行を緩やかにするための具体的な対処法が見えてきます。早期発見・治療への第一歩としてお役立てください。
慢性閉塞性肺疾患の概要
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、主にタバコの煙などの有害物質を長期間吸い込むことで、肺に慢性的な炎症が起こり、呼吸機能が徐々に低下していく病気です。
空気の通り道である気管支が炎症で狭くなったり、酸素を取り込む「肺胞(はいほう)」という組織が壊れてしまったりすることで、息切れや咳、痰といった症状が現れます。一度破壊された肺の組織は元には戻らないため、病気の進行を食い止めるには早期の診断と治療が欠かせません。
日本では40歳以上の約12人に1人、推定530万人以上がCOPDであると考えられています。しかし、多くは「年のせいだろう」と思い込み、診断や治療を受けていないのが実情です。
また、COPDは肺だけの問題にとどまらず、全身に影響を及ぼす疾患として捉えられています。最大の原因である喫煙は、他の病気の治療効果を弱めてしまう可能性も指摘されています。タバコの煙に含まれる化学物質が、肝臓で薬を分解する特定の酵素(CYP1A2など)の働きを過剰に活発にするためです。
その結果、精神神経疾患の治療薬や一部の抗生物質、抗がん剤などが体内で通常より速く分解され、血中濃度が低下。期待される効果が得られにくくなることがあります。※ このように、喫煙はCOPDを引き起こすだけでなく、他の病気の治療をも妨げるリスクをはらんでいます。
慢性閉塞性肺疾患の種類
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺のどの部分が主にダメージを受けているかによって、大きく2つのタイプに分類されます。
以前は「肺気腫」と「慢性気管支炎」として別々に扱われていましたが、現在はこれらをまとめてCOPDと呼びます。
実際には、どちらか一方だけということは稀で、多くの患者さんで両方の病態が混在しているのが特徴です。
2つのタイプの違いを下表にまとめました。
病態タイプ | 肺気腫(はいきしゅ)型 | 慢性気管支炎(まんせいきかんしえん)型
主な障害部位 | 酸素を取り込む「肺胞(はいほう)」 | 空気の通り道である「気管支」
肺の中で起きていること | ・肺胞の壁が壊れ、ブドウの房が大きな袋のようになる ・肺が弾力を失い、息を吐き出しにくくなる | ・気管支の壁が炎症で腫れて厚くなる ・痰の分泌が増え、気道が狭くなる
主な症状 | 労作時の息切れ(体を動かしたときの息苦しさ) | 慢性の咳や痰(1年のうち3カ月以上続くなど)
肺気腫型では、肺胞という組織が破壊されることで酸素と二酸化炭素の交換(ガス交換)効率が低下するため、少し動いただけでも息切れを感じやすくなります。
一方、慢性気管支炎型では、気道そのものが狭くなるため、しつこい咳や痰が長く続くのが特徴です。このような気道の炎症に対しては、一部の薬剤が肺機能の改善に役立つ可能性も研究されています。※
このようにCOPDは、患者さん一人ひとりで症状の現れ方が異なります。そのため、呼吸機能検査や画像検査でご自身のタイプを正確に把握し、最適な治療方針を立てることが重要です。
慢性閉塞性肺疾患の原因
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症に最も深く関わっているのが、長年の喫煙習慣です。
COPDと診断された方の8~9割に喫煙歴があり、喫煙者の約15~20%が将来的にこの病気を発症すると報告されています。タバコの煙に含まれる数千種類もの有害物質が、空気の通り道である気管支や、酸素を取り込む肺胞の組織を繰り返し傷つけ、慢性的な炎症を引き起こします。
喫煙の影響は、肺だけに留まりません。特に見過ごせないのが、他の病気の治療薬の効果を弱めてしまうという問題です。
タバコの煙に含まれる化学物質は、肝臓で薬を分解する特定の酵素(CYP1A2など)の働きを過剰に活発にしてしまいます。その結果、以下のような薬が体内で通常より速く分解され、血中濃度が低下。期待される効果が得られにくくなることが指摘されています※。
・精神神経疾患の治療薬
・一部の抗生物質や抗がん剤
このように、喫煙はCOPDを引き起こすだけでなく、他の重要な治療の成功率をも下げてしまう可能性があるのです。
また、喫煙が最大の危険因子であることは間違いありませんが、COPDの発症には以下のような要因も関わると考えられています。
・受動喫煙
ご自身の喫煙歴がなくても、家庭や職場で日常的に他人のタバコの煙を吸い込む環境はリスクを高めます。
・大気汚染・職業曝露
工事現場の粉じんや化学物質、農薬などを長期間吸い込む仕事に従事していた方も注意が必要です。
・呼吸器感染症の既往
小児期の肺炎など、重い呼吸器の感染症を繰り返した経験が、将来の肺の機能に影響することがあります。
・遺伝的な要因
まれに、「α1-アンチトリプシン」というタンパク質が生まれつき不足している体質の方は、若くしてCOPDを発症しやすくなります。
慢性閉塞性肺疾患の症状
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状は、ごくありふれた不調に似た形で、ゆっくりと生活の質(QOL)をむしばんでいくのが特徴です。
初期の段階では、多くの人が「年のせい」「運動不足のせい」と思い込んでしまうような、ささいなサインとして現れます。
COPDの初期症状
・労作時の息切れ
坂道や階段を上る、少し急いで歩くなど、体を動かしたときに息が切れる。
・慢性の咳・痰
風邪でもないのに、咳や痰が長く続く。
・喘鳴(ぜんめい)
呼吸をするときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がする。
・感染症の長期化
風邪をひきやすく、一度ひくと咳や息苦しさが治りにくい。
これらの症状は、タバコの煙などの有害物質によって気管支に慢性の炎症が起きたり(慢性気管支炎)、酸素を取り込む肺胞が壊れてしまったりする(肺気腫)ことで生じます。
病気が進行すると、症状はさらに深刻になります。
着替えや入浴といった日常の何気ない動作でさえ息苦しくなり、やがては黙って座っているだけでも息切れを感じるようになります。
また、呼吸そのものに多くのエネルギーを消費するため、食欲が落ちて体重が減少したり、全身の筋力が低下したりすることも少なくありません。
しかし、これらのつらい症状は、適切な治療によって改善が期待できます。近年の研究では、一部の薬剤が肺機能や全身の炎症に働きかけることで、息切れなどの自覚症状を評価するスコア(CAT)や、6分間で歩ける距離が改善したとの報告もあります※。
「これくらいは仕方ない」と諦めてしまう前に、気になる症状があればぜひ一度、専門の医療機関へご相談ください。
慢性閉塞性肺疾患の検査・診断
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断では、問診や呼吸機能検査などを通して、肺の状態を多角的に評価します。
この病気はゆっくりと進行するため、自覚症状だけで判断するのは簡単ではありません。客観的な検査で肺の状態を正確に把握することが、病気の進行を食い止めるための第一歩になります。
診断のプロセスで主に行われる検査は、以下のとおりです。
・問診:診断の手がかりを探る対話
症状の出方や喫煙歴、過去の職業など、一見ささいに思える情報が診断の重要な手がかりになります。
また、現在服用中のお薬についてもお伺いします。
なぜなら、喫煙習慣は他の病気の治療薬の効果を弱めてしまうことがあるからです。例えば、精神神経疾患の薬や一部の抗生物質は、喫煙によって体内で速く分解され、期待される効果が得られにくくなることが報告されています※。
安全で効果的な治療計画を立てるために、普段の生活について詳しくお聞かせください。
・呼吸機能検査(スパイロメトリー):COPD診断の決め手
COPDの診断において最も重要な検査です。
鼻をクリップでつまみ、マウスピースをくわえて「思いきり息を吸い、力いっぱい吐き出す」という簡単な動作で、空気の通り道(気道)が狭くなっていないかを調べます。
このとき、吐き始めの1秒間でどれだけの空気を吐き出せるかの割合(1秒率)を評価します。この数値が70%を下回ると、COPDが強く疑われます。
・画像検査(X線・CT):肺の中を「見る」検査
胸部X線(レントゲン)やCT検査で、肺の状態を直接画像で確認します。
これらの検査は、肺気腫によって肺胞(酸素を取り込む袋)がどれくらい壊れているかを見るだけでなく、肺がんなど、似た症状を引き起こす他の病気がないかを確認する上でも欠かせません。
・全身状態の評価:肺以外の合併症もチェック
COPDは肺だけの病気ではなく、全身に影響を及ぼすことがわかっています。
そのため、心臓病や骨粗鬆症、糖尿病といった他の病気(併存症)を合併していないか、栄養状態は良好かなどもあわせて評価します。
実際に、心血管疾患の治療に使われる薬が、COPD患者さんの息切れや肺機能を改善する可能性も研究で示唆されており、全身を管理することの重要性が増しています※。
これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりの状態に合わせた治療方針を立てていきます。
慢性閉塞性肺疾患の治療
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療は、一度壊れてしまった肺の組織を元に戻すのではなく、病気の進行をできる限りゆるやかにし、今ある症状を和らげることを目標に進められます。
そのためには、原因へのアプローチと症状へのアプローチを、車の両輪のように同時に行っていく必要があります。
治療の絶対的な土台となるのが「禁煙」です。その上で、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、以下の治療法を組み合わせていきます。
・薬物療法
気道を広げて呼吸を楽にする「気管支拡張薬」の吸入が治療の中心です。症状に応じて、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬などを併用することもあります。
・非薬物療法
薬以外の方法で呼吸をサポートする治療です。口をすぼめてゆっくり息を吐く「口すぼめ呼吸」などの呼吸トレーニングや、筋力を維持するための運動療法(呼吸リハビリテーション)、適切な栄養管理などを行います。病状が進み、体内に十分な酸素を取り込めなくなった場合には、ご自宅で酸素を吸入する「在宅酸素療法」も選択肢となります。
・感染症の予防
風邪やインフルエンザ、肺炎といった呼吸器の感染症は、COPDの症状を急激に悪化させる最大の引き金になります。そのため、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンなどを接種し、増悪のリスクを下げることが重要です。
また、COPDは肺だけでなく全身に炎症が及ぶ病気であるため、全身の炎症を抑えるアプローチも注目されています。
例えば、本来はコレステロールを下げる薬として使われる「スタチン」が持つ抗炎症作用について、COPDの症状を和らげる可能性があると示唆する研究報告があります。
この研究では、スタチンを服用した患者さんにおいて、以下の改善がみられたとされています※。
・肺機能の改善:呼吸機能検査の指標(FEV1%)が向上した
・炎症の抑制:体内の炎症を示す数値(CRP)が低下した
・運動能力の向上:6分間で歩ける距離が伸びた
・自覚症状の軽減:息切れなどのつらさを評価するスコア(CAT)が改善した
このように、治療法は多岐にわたります。どの治療が最適かは、患者さんの肺の状態や全身の状態によって異なりますので、主治医とよく相談しながら、ご自身に合った治療を根気強く続けていきましょう。









