シャーガス病

中南米の風土病と聞いて、どこか遠い国の話だと思っていませんか。しかし、人の国際的な移動が活発な現代において、「シャーガス病」は日本に住む私たちにとっても決して他人事ではありません。世界で600万人以上が感染していると推定されるこの病気の最も恐ろしい点は、感染してすぐには症状がほとんどないことです。

水面下で静かに進行し、数年から数十年という長い時を経て、心臓に深刻なダメージを与えます。研究では、シャーガス病の患者はそうでない人と比べて脳卒中のリスクが著しく高くなることが明らかになっており、まさに「静かなる時限爆弾」とも言える感染症なのです。

この記事では、気づかぬうちに命を脅かすシャーガス病の正体について、その症状や原因を詳しく解説します。

シャーガス病の概要

シャーガス病は、「クルーズトリパノソーマ」という寄生虫が、 体の中に入り込むことで起こる感染症の一種です。

主に中南米で見られる病気ですが、人の国際的な移動に伴い、 日本を含む世界中で感染者が確認されています。 この病気は、感染後の時間経過で2つの時期に分けられます。

  • 急性期 感染してすぐの時期です。 症状がまったくないか、あっても軽い発熱など、 風邪に似た症状がほとんどのため気づきにくいです。
  • 慢性期 感染から数年、時には数十年経って症状が出ます。 多くは無症状ですが、一部の人では心臓や消化器に、 深刻な合併症を引き起こすことがあります。

特に慢性期は心臓に大きな影響を及ぼすことが知られ、 脳卒中を引き起こす重要な原因の一つとされています。 研究によると、シャーガス病の患者さんはそうでない人と比べ、 脳卒中のリスクが著しく高いことがわかっています。

これは、心臓にできた血の塊が脳の血管へ飛んで詰まらせる、 「心臓塞栓性脳卒中」というタイプの脳卒中が、 起こりやすくなるためです。

世界では600万人以上が感染していると推定されており、 決して他人事ではない病気なのです。

シャーガス病の種類

シャーガス病は、感染してからの時間経過によって、 病気の「顔つき」が変わるという大きな特徴があります。 感染してすぐの「急性期」と、長い時間を経て現れる「慢性期」です。 それぞれの時期で、体に起こることは大きく異なります。

感染直後の「急性期」

感染してから数週間から数ヶ月の期間を指します。 この時期は、症状がほとんどないことが大半です。 症状が出たとしても、発熱やだるさといった、 軽い風邪のような症状で済むため、感染に気づきにくいのです。

時を経て症状が現れる「慢性期」

急性期を過ぎると、数年から、ときには数十年という長い間、 何も症状がない期間が続きます。 その後、一部の人に症状が現れる時期が「慢性期」です。 慢性期は、症状の有無によってさらに3つのタイプに分けられます。

種類

主な特徴

病型不定型(無症候型)

・体内に寄生虫はいますが、臓器の異常などの症状はない状態です。

・感染した人の多く(約7割)は、生涯このまま症状が出ずに過ごします。

心臓病型

・心臓に影響が出て、不整脈や心不全などを引き起こします。

・心臓にできた血の塊が脳に飛び、脳卒中を起こす危険性が、

感染していない人と比べて著しく高くなることが研究でわかっています。

消化器病型

・食道や大腸などの消化器官に影響が出るタイプです。

・食べ物が飲み込みにくくなる「巨大食道症」や、

重い便秘になる「巨大結腸症」などが代表的な症状です。

感染した人のうち、およそ20〜30%の人が心臓病型や、 消化器病型へ進行すると報告されています。 特に心臓への影響は命に関わることもあるため、 過去に中南米など流行地域での滞在歴があり、 気になる症状があれば、早めに専門医へご相談ください。

シャーガス病の原因

シャーガス病は、「クルーズトリパノソーマ」という、 目に見えないほど小さな寄生虫が原因で起こる病気です。 この寄生虫がどのようにして体の中へ入るのか、 いくつかのルート(感染経路)がわかっています。

最も多いのは、「サシガメ」という虫を介した感染です。

  • サシガメからの感染 サシガメは人の血を吸うカメムシの仲間です。 この虫が血を吸った後、近くにフンをします。 そのフンの中に寄生虫がいて、皮膚の傷口や、 目や口の粘膜から体の中へ侵入するのです。

サシガメ以外にも、次のような感染経路があります。

  • 母親から赤ちゃんへの感染 お母さんが感染している場合、お腹の中の赤ちゃんや、 出産時にうつることがあります(母子感染)。
  • 輸血や臓器移植による感染 感染した人の血液や臓器を介して感染します。
  • 食べ物からの感染 寄生虫に汚染されたサトウキビジュースなどを、 口にすることで感染するケースも報告されています。

この病気の特に注意すべき点は、心臓への影響です。 研究により、シャーガス病の人はそうでない人と比べて、 脳卒中のリスクが著しく高くなることがわかっています。 寄生虫が心臓に影響を与えると、心臓の中に血の塊ができ、 それが血の流れに乗って脳の血管を詰まらせるのです。 これを「心臓塞栓性脳卒中」と呼びます。

さらに、シャーガス病の患者さんは、他の原因で心臓が悪い人と比較しても、 脳卒中や死亡のリスクが高いことが示されています。 つまり、シャーガス病は脳卒中の重要な原因の一つなのです。

シャーガス病の症状

シャーガス病の症状は感染してすぐの「急性期」と、 長い時間が経ってからの「慢性期」で大きく異なります。 静かに体に忍び寄るため、気づきにくいのが特徴です。

急性期:感染してすぐの時期

感染から数週間〜数ヶ月の時期を「急性期」と呼びます。 この時期は、ほとんど症状が出ないことが大半です。 症状が出ても風邪と間違えるような軽いものが多く、 感染したことに気づくのは、とても難しいのです。

  • 主な症状
  • 発熱や体のだるさ
  • リンパ節の腫れ
  • 体の中のばい菌と戦う基地が腫れることです。
  • 食欲がなくなる、お腹をこわす

慢性期:静かに進む深刻な変化

急性期を過ぎると、数年、時には数十年も無症状です。 その後、感染した人の約2〜3割が慢性期へ移行し、 主に心臓や消化器に重い症状が現れます。

症状が出る場所

主な症状と危険性

心臓

・心臓が大きくなり、ポンプ機能が弱まる(心不全)

・脈のリズムがおかしくなる(不整脈)

・心臓の中に血の塊(血栓)ができやすくなる

消化器

・食道が広がり、食べ物が飲み込みにくくなる

・腸の動きが悪くなり、ひどい便秘になる

特に心臓への影響は、命に関わるため注意が必要です。 研究によると、シャーガス病の人は心臓に血の塊ができ、 それが脳の血管へ飛んで詰まる脳卒中を起こしやすいです。

これは「心臓塞栓性脳卒中」と呼ばれる危険なタイプです。 シャーガス病の患者さんはそうでない人と比べて、 脳卒中のリスクが著しく高いことがわかっています。 さらに、他の原因で心臓が悪い人と比較しても、 脳卒中や死亡のリスクが高いことも示されています。 シャーガス病は、脳卒中の重要な原因の一つなのです。

シャーガス病の検査・診断

シャーガス病は症状が出にくいことが多く、検査で初めてわかることも少なくありません。 特に心臓に影響を与え、脳卒中の重要な原因になることが研究で明らかになっています。 そのため、適切な時期に正しい検査を受けることが、将来の健康を守る上でとても大切です。

シャーガス病の検査は、感染してからの時期によって方法が異なります。

急性期:寄生虫そのものを探す

感染して間もない「急性期」は、血液の中にたくさんの寄生虫がいます。 この時期は、血液を調べることで寄生虫そのものを見つけることができます。

  • 寄生虫学的検査 血液を顕微鏡で観察して、寄生虫がいないか直接探す方法です。
  • 分子学的検査 血液の中から、寄生虫が持つ特有の遺伝子(DNA)を見つけ出します。

慢性期:体が戦った証拠を探す

感染から数年以上が経過した「慢性期」になると、血液中の寄生虫は非常に少なくなります。 そのため、寄生虫と体が戦った証拠である「抗体」という物質を血液検査で探します。

病気の時期

検査の目的

主な検査方法

急性期

血液中の寄生虫を直接見つける

・寄生虫学的検査

・分子学的検査

慢性期

体が作った「抗体」を探す

・血清学的検査

また、シャーガス病が心臓に与える影響を調べることも非常に重要です。 研究によると、シャーガス病の患者さんは心臓に血の塊ができやすく、 それが脳の血管に飛んで詰まる「心臓塞栓性脳卒中」のリスクが著しく高くなります。 そのため、心電図や心臓の超音波検査(心エコー)などで、心臓の状態を詳しく確認します。

シャーガス病の治療

シャーガス病の治療は、2つの大きな柱で進められます。 1つは病気の原因である寄生虫をたたく治療です。 もう1つは、心臓や消化器にあらわれている症状を和らげる治療です。

原因をたたく治療(原因療法)

体の中にいる寄生虫「クルーズトリパノソーマ」を、 お薬を使って直接やっつける治療法です。 主に、ベンズニダゾールやニフルチモックスという、 抗寄生虫薬という種類のお薬が使われます。

この治療は、感染してすぐの「急性期」に特に効果的です。 また、生まれつき感染している赤ちゃんや、 小さなお子さんの治療でも中心となります。 ただし、大人になってからの慢性期では、 お薬の効果と副作用を慎重に考える必要があります。

症状を和らげる治療(対症療法)

感染から長い時間が経つと、心臓や消化器に症状が出ることがあります。 その場合は、症状を和らげ、危険な状態を防ぐための治療を行います。 特に心臓への影響は、命に関わるため注意が必要です。

研究により、シャーガス病の患者さんは心臓に血の塊ができ、 それが脳の血管に飛んで詰まる脳卒中のリスクが、 著しく高くなることがわかっています。 この危険な脳卒中を防ぐためにも、 心臓の状態に合わせた治療を続けることがとても大切です。

症状が出る場所

あらわれる可能性のある症状

主な治療法

心臓

・脈のリズムが乱れる(不整脈)

・心臓のポンプ機能が弱まる(心不全)

・血のかたまり(血栓)ができる

・脈のリズムを整えるお薬

・心臓の働きを助けるお薬

・血をサラサラにして血栓を防ぐお薬

消化器

・食道や腸が異常に大きくなる

(巨大食道症・巨大結腸症)

・食事の工夫やお薬

・症状が重い場合は手術

治療計画は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて決まります。 ご自身の治療について気になることがあれば、遠慮なく医師にご相談ください。