カーニー複合

顔や唇に現れる、ほくろやシミのような黒い斑点。もしそれが、心臓のできものやホルモンの異常といった、体の内部で起きている深刻な問題のサインだとしたら…。これは「カーニー複合」という、世界で約700例、国内ではわずか50例ほどしか報告のない、非常に希少な遺伝性の病気かもしれません。

平均20歳前後で診断されるこの病気は、体の様々な場所に症状が出るため診断が難しいとされています。できる腫瘍は多くが良性ですが、心臓の働きを妨げ、脳梗塞の原因になることも。この記事では、指定難病でもあるカーニー複合について、その多彩な症状から原因、診断方法までを詳しく解説していきます。

カーニー複合の概要

カーニー複合は、体の様々な場所に腫瘍ができる遺伝性の病気です。

腫瘍の多くは良性ですが、体の機能に影響をおよぼすことがあります。

1985年に提唱された比較的新しい病気で、日本では指定難病です。

世界で700例ほど、国内では約50例の報告しかない希少な疾患です。

この病気の主な特徴として、以下の3つが知られています。

・粘液腫(ねんえきしゅ)

ゼリー状のできものです。特に心臓にできやすく、良性ですが、

心臓の働きを妨げ、心不全や脳梗塞の原因になることもあります。

・皮膚の色素斑(ひふのしきそはん)

顔や唇、まぶたなどに、シミやそばかすのような黒い斑点が現れます。

・内分泌(ないぶんぴ)の異常

ホルモンを作る臓器に腫瘍ができ、ホルモンが過剰になる状態です。

カーニー複合は、ホルモンの異常がきっかけで見つかることが少なくありません。

例えば、副腎の病気で起こる「クッシング症候群」がその一つです。

ある研究では、若い女性でクッシング症候群と皮膚のシミのような斑点がある場合、

カーニー複合の可能性があると指摘されています。

このように、体の様々な場所に症状が出るため、診断が難しい病気です。

カーニー複合の種類

カーニー複合は、原因となる遺伝子の場所によって、

主に2つのタイプに分けられることが知られています。

現在、報告されている患者さんの多くは、

「CNC type1」と呼ばれるタイプです。

それぞれのタイプの特徴は、以下の表のとおりです。

タイプ | 原因となる遺伝子の場所 | 見つかっている原因遺伝子

CNC type1 | 17番染色体 | _PRKAR1A_

CNC type2 | 2番染色体 | まだ特定されていません

「CNC type1」は、_PRKAR1A_という遺伝子の異常が原因です。

この遺伝子は、細胞が増えすぎないよう調整する働きを持っています。

そのため、この遺伝子に異常が起きると腫瘍ができやすくなります。

また、カーニー複合と非常に関係の深い病気があります。

それは「原発性色素性結節性副腎皮質疾患(PPNAD)」です。

副腎に腫瘍ができ、ホルモンが過剰になることで起こります。

ある研究では、このPPNADの患者さんのうち、

約31%がカーニー複合を合併していたと報告されました。

特に、PPNADの患者さんで顔や唇にシミのような斑点がある場合、

_PRKAR1A_遺伝子の異常との関連が強いことが分かっています。

副腎の病気と皮膚の症状は、カーニー複合を考える重要なサインです。

カーニー複合の原因

カーニー複合の原因は、主に遺伝子の変化にあると考えられています。

私たちの体の細胞が、いつ、どのように増えるかは、

体の設計図である遺伝子の情報によって厳密に管理されています。

特に重要視されているのが「_PRKAR1A_」という遺伝子の異常です。

この遺伝子は、細胞がむやみに増えすぎないように調整する、

いわば「細胞のブレーキ役」という大切な働きを持っています。

しかし、この遺伝子に異常が起こるとブレーキがうまく効かなくなります。

その結果、細胞が際限なく増え続け、体のあちこちに腫瘍ができます。

ある研究では、関連性の深い病気(PPNAD)の患者さんのうち、

約8割の方で、この_PRKAR1A_遺伝子の異常が見つかりました。

特に皮膚にシミのような斑点がある方は、関連が強いことが分かっています。

カーニー複合が起こるパターンは、主に以下の2つです。

・遺伝によるもの(家族性)

親から子へ遺伝子の変化が受け継がれるケースです。

「常染色体優性遺伝」という形式で、

お子さんへ50%の確率で伝わる可能性があります。

・突然変異によるもの(孤発例)

ご家族に同じ病気の方がいなくても、

その方自身に初めて遺伝子の変化が起こり発症します。

このように原因遺伝子の一つは分かっていますが、まだ全てが解明されたわけではなく、現在も研究が進められています。

カーニー複合の症状

カーニー複合は、体の様々な場所に症状があらわれる病気です。

症状の出方やタイミングは人によって大きく異なり、

診断される平均年齢は20歳前後と報告されています。

あらわれる症状は多岐にわたりますが、

主に以下の3つの特徴が知られています。

1. 皮膚の症状

皮膚には、病気を発見する手がかりとなるサインが出ることがあります。

・皮膚の色素斑(ひふのしきそはん)

顔や唇、まぶたなどに、ほくろやそばかすのような

黒っぽい点状のシミがたくさん現れます。

・皮膚粘液腫(ひふねんえきしゅ)

皮膚にできる、ぷにぷにしたゼリー状のできものです。

2. 心臓の症状

心臓には「心粘液腫」という良性のできものができることがあります。

良性ですが、大きくなると心臓の働きを邪魔して心不全を起こしたり、

できものの一部がはがれて血管に詰まる危険性(塞栓症)があります。

これが脳の血管で詰まると、脳梗塞という重い病気の原因になります。

ある国内の調査では、患者さんの約6割にこの心粘液腫が見つかりました。

3. ホルモンの異常(内分泌の症状)

ホルモンを作る臓器にできものができ、ホルモンが過剰になる状態です。

特に、副腎という臓器にできる腫瘍(PPNAD)は重要です。

これにより「クッシング症候群」という状態になることがあります。

ある研究では、このPPNADがある患者さんのうち、

約94%が骨がもろくなる骨粗しょう症を伴っていたと報告されました。

若い方、特に皮膚にシミのような斑点がある女性でクッシング症候群がある場合、

カーニー複合を考える大切なきっかけになります。

ほかにも、以下のような症状があらわれることがあります。

・先端肥大症

手足やあご、額などが大きくなる

・思春期早発症

通常より早く大人の体に変化し始める

・女性化乳房

男性の胸が女性のようにふくらむ

カーニー複合の検査・診断

カーニー複合は、体の様々な部分に症状があらわれます。

そのため、一つの検査だけで診断を確定できません。

いくつかの検査を組み合わせ、総合的に判断することが大切です。

主な検査には、次のようなものがあります。

・画像検査

心臓の超音波(エコー)検査や、CT・MRI検査などです。

体の内部を画像で見て、心臓や副腎、甲状腺などに、

腫瘍ができていないかを確認します。

・ホルモン検査

血液や尿を調べて、ホルモンの量が異常でないかを確認します。

特に、若い女性で「クッシング症候群」という状態が見つかり、

さらに皮膚にシミのような斑点がある場合は重要なサインです。

ある研究では、このような特徴を持つ方は、

カーニー複合と関連の深い病気の可能性が指摘されています。

・病理検査

手術などで取り出した腫瘍の一部を、顕微鏡で詳しく調べます。

腫瘍がどのような性質のものなのかを確定するための検査です。

・遺伝子検査

原因となることがある「PRKAR1A遺伝子」の異常を調べます。

この検査で異常が見つかれば、確定診断につながります。

症状だけでは診断が難しい場合でも、この検査が助けになります。

そのため、手術の前に遺伝子検査を行うことが勧められることもあります。

これらの検査結果や症状、ご家族の病歴などを総合的にみて、

専門の医師が最終的な診断を下します。

カーニー複合の治療

カーニー複合を根本から治す治療法は、残念ながらまだ確立されていません。

そのため、あらわれる症状一つひとつに対応していくことが治療の基本です。

これを「対症療法」と呼び、治療の柱は主に2つあります。

・外科手術

・薬物療法

外科手術

体の様々な場所にできた腫瘍は、手術で取り除くことが一般的です。

・心臓の粘液腫

命に関わることもあるため、手術で取り除くことが検討されます。

・副腎の腫瘍

ホルモンが過剰になる「クッシング症候群」の原因となっている場合、

副腎を取り除く手術が行われます。

特に、将来妊娠を希望する女性では、ある研究によって、

片方の副腎のみを摘出する手術が、

安全な出産につながる選択肢となる可能性が示されました。

・その他の腫瘍

皮膚や乳房、脳の下垂体などにできた腫瘍も、

症状に応じて手術で取り除きます。

薬物療法

ホルモンの分泌が過剰になっている場合は、薬で働きを抑えます。

例えば、成長ホルモンが過剰になる「先端肥大症」という状態には、

お薬でホルモンのバランスを整える治療が行われます。

一度治療が終わっても、また新しい腫瘍ができる可能性があるため、

定期的に検査を受けて体の状態を見守ることがとても大切です。

また、遺伝が関わるため、専門家による遺伝カウンセリングも選択肢です。