心原性ショック
私たちの体を動かす大切なポンプ、心臓。もしこのポンプの力が急に弱まり、全身に血液を送れなくなってしまったら――。それは「心原性ショック」と呼ばれる、命に直接関わる非常に危険なサインです。
血圧が90mmHg以下にまで急低下し、意識がもうろうとするこの状態は、急性心筋梗塞で心臓の40%以上の機能が失われることなどが引き金となります。一刻を争う状況で、命を救うためにどのような治療が行われるのでしょうか。
この記事では、心原性ショックの恐ろしい症状や原因を詳しく解説するとともに、「Impella」や「VA-ECMO」といった最新の機械的循環補助装置を用いた治療の最前線に迫ります。万が一の時に命を繋ぐ選択肢を知るために、ぜひご一読ください。
心原性ショックの概要
心臓は、全身に血液という栄養を送り出す大切なポンプです。 心原性ショックとは、このポンプの力が急に弱くなり、体中に十分な血液を送れなくなってしまう状態を指します。 これは命に直接関わる、非常に危険なサインです。
ポンプの力が弱まると、脳や腎臓など、生きていくために不可欠な臓器がうまく働けなくなります。 具体的には、体から次のようなSOSサインが出ます。
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項目 |
具体的な状態 |
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血圧 |
上の血圧が90mmHg以下になるなど、著しく低下します。 (ポンプの力が弱いので、血液を送り出す勢いがなくなります) |
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意識 |
脳に酸素や栄養を運ぶ血液が足りなくなり、意識がもうろうとします。 |
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皮膚 |
大事な臓器に血液を集中させるため、皮膚への血流が減り、顔色が悪く冷たい汗をかきます。 |
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尿量 |
おしっこを作る腎臓に血液が届かなくなり、量が極端に少なくなります。 |
この危険な状態を乗り越えるため、お薬だけでなく特別な機械で心臓の働きを助ける治療が行われます。 これを「機械的循環補助」といい、「Impella(インペラ)」や「VA-ECMO(ブイエーエクモ)」という装置が使われます。
これらの装置は心臓の代わりに血液循環を助けますが、どちらを使うか、あるいは組み合わせて使うかは慎重な判断が必要です。 例えば、ImpellaはVA-ECMOに比べて脳卒中のリスクが低いという研究報告があります。 しかし、複数の装置を使うことで出血などの合併症が増える可能性も指摘されており、医師は常に最善の方法を検討しています。 どの治療が最も安全で効果的か、今も世界中で研究が続けられている分野です。
心原性ショックの種類
心原性ショックは、その原因によっていくつかの種類に分けられます。 原因が違えば、体で起きていることも治療法も変わるため、原因の特定は非常に重要です。
原因として最も多いのは急性心筋梗塞です。 その他、心臓の筋肉に急な炎症が起きる心筋炎や、心臓の弁がうまく働かなくなる心臓弁膜症などがあります。
これらの重い状態では、弱った心臓を機械で助ける治療が必要です。 この「機械的循環補助装置」にも種類があり、状態に応じて使い分けます。
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装置の種類 |
どんな働き? |
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Impella(インペラ) |
心臓の中に細いポンプを入れ、直接血液を送り出すのを補助します。 |
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VA-ECMO(ブイエーエクモ) |
体の外に血液を取り出し、酸素を加えてからポンプで全身に戻します。 |
どちらの装置を使うかは慎重に判断されます。 例えば、脳卒中のリスクはVA-ECMOよりImpellaの方が低いという研究報告があります。
また、この2つを組み合わせる「ECPELLA(エクペラ)」という治療法もあります。 しかし、出血などの合併症が増える可能性も報告されており、その効果は今も世界中で検証が続けられています。
さらに、治療を始めるタイミングも命に関わります。 急性心筋梗塞の場合、カテーテル治療の「前」にImpellaを使い始めると、治療後に始めるより助かる可能性が高まるという研究結果も出ています。
心原性ショックの原因
心原性ショックは、心臓のポンプ機能が急に働かなくなることで起こります。 その引き金となる病気は様々ですが、最も多い原因は「急性心筋梗塞」です。
急性心筋梗塞は、心臓の筋肉に栄養を送る血管(冠動脈)が詰まる病気です。 栄養が届かなくなった心筋は動けなくなり、ポンプの力が急激に低下します。 心臓のポンプ機能の中心である左心室の筋肉が40%以上も機能しなくなると、心原性ショックに陥るとされています。
この危険な状態を防ぐため、急性心筋梗塞の治療では工夫が凝らされます。 例えば、血を固まりにくくする薬(P2Y12阻害剤)を早めに使うことで、心原性ショックの発生率を下げられるという研究報告もあります。
急性心筋梗塞以外にも、以下のような原因が考えられます。
- 劇症型心筋炎 ウイルス感染などで心筋に急激な炎症が起こる病気です。 まれなケースですが、COVID-19ワクチン接種後に心筋炎や急性心筋梗塞が起こり、心原性ショックに至ったという報告もあります。
- 重い心臓弁膜症 心臓の中にあるドア(弁)が壊れ、血液の流れが悪くなります。
- 危険な不整脈 心臓の拍動リズムが極端に乱れ、血液を送り出せなくなります。
- 大動脈解離 心臓から出る最も太い血管(大動脈)が裂ける病気です。
- 急性薬物中毒 薬物の影響で、心臓の機能が著しく低下することがあります。
これらの病気は、心臓のポンプ機能を急激に低下させ、命に関わる心原性ショックを引き起こす可能性があります。
心原性ショックの症状
心臓のポンプ機能が急に弱まると、体は様々なSOSサインを出します。 これは命を守るためのとても大切な信号です。 初期には「少しふらつく」「胸のあたりが気持ち悪い」といった軽い症状のこともありますが、状態は急に悪化することがあります。
体に現れる特徴的な危険信号には、以下のようなものがあります。
- 意識がおかしい 脳に十分な酸素や栄養が届かなくなるため、呼びかけへの反応が鈍くなったり、意識がもうろうとしたりします。
- 皮膚の見た目が変わる 顔色が悪く青白くなり、じっとりと冷たい汗をかきます。命に関わる臓器へ血液を優先するため、皮膚への血流が減るからです。
- 手足が氷のように冷たくなる 体の隅々にある細かい血管(微小循環)の流れが悪くなるサインです。体の中心部を守ろうとする反応で、重要な情報です。
- 呼吸や脈の異常 息が速く浅くなり、苦しさを感じます。また、手首で触れる脈は、とても弱く速いのが特徴です。
手足が冷たくなるのは、体の末端にある微小循環という細かい血流が滞っている証拠です。 実際、集中治療室では舌の下の血流を特殊なカメラで観察し、ショックの状態を評価する研究も行われています。
これらの症状は、急性心筋梗塞や心筋炎といった病気が重症化した時に現れます。 まれなケースですが、ウイルス感染などが引き金となり心筋炎が起こり、心原性ショックに至ることも報告されています。 症状が進むと全身の臓器が働かなくなり、命に関わります。 一つでも当てはまる症状があれば、迷わず救急車を呼んでください。
心原性ショックの検査・診断
心原性ショックが疑われる場合、一刻も早い診断が命を救います。 時間との勝負になるため、診察と検査を同時に進めていきます。
まず、医師は患者さんの体のサインを素早く読み取ります。
- 意識の状態 呼びかけにきちんと反応できるか、意識がもうろうとしていないかを確認します。
- バイタルサイン 血圧、脈拍、呼吸の状態を測ります。特に血圧が90mmHgを下回るようなら、非常に危険なサインです。
- 体の様子 顔色が悪くないか、冷たい汗をかいていないか、手足が冷たくなっていないかなどを確認します。
これらと並行して、原因を突き止めるための詳しい検査を行います。 心臓の状態を様々な角度から調べることで、的確な治療法を決めます。
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検査の種類 |
何を調べるの? |
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心電図 |
心臓の電気的な活動を記録します。 心筋梗塞や危険な不整脈など、ショックの直接の原因がわかります。 |
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心エコー |
超音波で心臓の動きを動画のように見ます。 ポンプ機能の低下具合や、心臓の弁に異常がないかを評価します。 |
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血液検査 |
心臓の筋肉が壊れたときに出る物質(心筋逸脱酵素)を測定します。 腎臓や肝臓など、他の臓器への影響も確認します。 |
急性心筋梗塞が原因とわかった場合、心原性ショックの発生率を下げるために、血を固まりにくくする薬(P2Y12阻害剤)を早めに使うことの有効性が研究で示されています。
また、より専門的な評価として、舌の下の細かい血管の流れを特殊なカメラで観察することもあります。 体の隅々まで血液が届いているかを確認できますが、この検査情報を使うことで生存率が改善するわけではないという研究報告もあり、その有効性は現在も検証が続けられています。
心原性ショックの治療
心原性ショックは命に関わるため、一刻も早く治療を始める必要があります。 治療の目標は、まず血圧を安定させ、全身に血液がきちんと巡るようにすることです。 それと同時に、ショックを引き起こした原因そのものを取り除く治療も進めます。 治療は主に集中治療室(ICU)で、専門チームが24時間体制で見守ります。
心臓を助ける特別な機械
お薬だけでは血圧を保つのが難しい場合、心臓の働きを機械で助けます。 これを「機械的循環補助」といい、患者さんの状態に合わせて使い分けます。
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装置の種類 |
どんな働き? |
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IABP |
太ももの血管から大動脈に風船を入れ、心臓のリズムに合わせて膨らませたり縮めたりして、心臓の負担を軽くします。 |
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VA-ECMO |
体の外に血液を取り出し、酸素を加えてからポンプで全身に戻します。心臓と肺の代わりをする、いわば「人工心肺装置」です。 |
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Impella |
心臓の中にモーター付きの細い管を入れ、直接血液を吸い上げて全身に送り出します。心臓のポンプ機能を強力に補助します。 |
どの治療法を選ぶのか
どの装置を使うかは、患者さんの状態をみて慎重に判断されます。 例えば、VA-ECMOよりImpellaの方が、脳の血管が詰まる病気(虚血性脳卒中)のリスクが低いという研究報告があります。
また、治療を始めるタイミングも重要です。 急性心筋梗塞が原因の場合、カテーテル治療の「前」にImpellaで心臓を助け始めると、助かる可能性が高まるという研究結果も出ています。
VA-ECMOとImpellaを一緒に使う「ECPELLA」という治療もあります。 しかし、出血などの合併症が増える可能性も指摘されており、常に最善の方法が検討されます。 これらの治療と並行して、原因である心筋梗塞などに対する治療も行われます。









