がん薬物療法
がんと診断され、これから「薬物療法」を受ける方やそのご家族は、大きな不安を抱えているかもしれません。しかし、薬物療法は手術や放射線治療と並ぶ、がん治療における「3つの大きな柱」の一つです。薬が血液の流れに乗って全身を巡るため、転移したがんや、目に見えないほど小さながん細胞にも効果が期待できる、非常に重要な治療法なのです。
薬物療法と一言でいっても、その種類は「化学療法」から「分子標的療法」「免疫療法」まで多岐にわたります。この記事では、がん薬物療法の4つの主な種類と、それぞれがどのような仕組みでがんと戦うのかを詳しく解説します。ご自身の状況と照らし合わせ、治療への理解を深める一助となれば幸いです。
がん薬物療法の概要
がん薬物療法は、薬の力でがん細胞の増殖を抑えたり、攻撃したりする治療法です。手術や放射線治療と並ぶ、がん治療の3つの大きな柱の一つとされています。
手術などが「局所療法」と呼ばれるのに対し、薬物療法は「全身療法」に分類されます。これは、薬が血液の流れに乗って全身を巡るため、体の広範囲に効果を及ぼすからです。この特性により、転移したがんや、目に見えないほど小さながん細胞にも対応できます。
この治療は、がんを治すことだけが目的ではありません。患者さんの状態に合わせて、以下のような様々な目的で行われます。
- がんを治す、進行を抑える 薬の力でがんを小さくしたり、完全に消し去ることを目指します。
- 手術の効果を高める 手術の前にがんを小さくしたり(術前補助療法)、手術後に残っているかもしれない、目に見えないがん細胞を叩いたりします(術後補助療法)。
- 症状を和らげる(緩和ケア) がんによる痛みや息苦しさなどのつらい症状を和らげ、生活の質(QOL)を保ちます。
薬物療法には、がん細胞へのアプローチ方法が異なる、主に以下の4つの種類があります。
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治療法の種類 |
どのような治療か |
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化学療法(抗がん剤治療) |
細胞が分裂して増える仕組みに働きかけ、がん細胞を攻撃します。活発に増殖する細胞に作用するのが特徴です。 |
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分子標的療法 |
がん細胞だけが持つ特別な「目印」を精密に狙い撃ちし、がんの増殖を止めます。 |
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ホルモン療法 |
がんの成長に関わるホルモンの働きを妨げることで、がんをおとなしくさせる治療法です。 |
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免疫療法 |
もともと体に備わっている免疫の力を強めて、がん細胞を攻撃するように促します。 |
これらの治療は、点滴や注射、飲み薬として体に取り入れられます。どの治療法を選ぶか、または複数をどう組み合わせるかは、がんの種類や体の状態、がん細胞が持つ特徴などを詳しく調べた上で、担当の医師とよく相談しながら慎重に決めていきます。
がん薬物療法の種類
がんの薬物療法は、がん細胞への攻撃方法によっていくつかの種類に分かれます。どの治療法を選ぶかは、がんの種類や体の状態などを総合的に判断して決まります。
化学療法(抗がん剤治療)
細胞が分裂して増える仕組みに働きかけ、がん細胞を攻撃する治療法です。 特に、活発に分裂する細胞に強く作用するという特徴があります。 がん細胞だけでなく、私たちの髪の毛や口の中、腸の粘膜などの正常な細胞も 活発に分裂するため、影響を受けやすいです。 そのため、脱毛や口内炎、吐き気、だるさなどの副作用が出ることがあります。 副作用は、投与後1〜2週間で現れる吐き気やだるさ、 2週間以降にみられる脱毛など、時期によっても異なります。
分子標的療法
がん細胞だけが持つ特有の「目印(分子)」を精密に狙い撃ちする治療法です。 治療を始める前に、薬の標的となる目印があるかを検査で確認します。 正常な細胞への影響を少なくすることを目指した治療ですが、 皮膚の発疹や下痢、だるさなどの副作用が起こることがあります。 まれに間質性肺炎といった重い副作用が起こる可能性もあります。
ホルモン療法(内分泌療法)
特定のホルモンを栄養にして増えるタイプのがんに対して行われる治療です。 主に乳がんや前立腺がんなどが、この治療法の対象となります。 がん細胞を直接攻撃するのではなく、ホルモンの働きを抑えることで、 がんの成長を止めたり、進行を遅らせたりします。 ほてりや関節のこわばりなど、更年期症状に似た副作用が出やすいです。
免疫療法
人が本来持っている免疫の力を利用して、がんと戦う治療法です。 がん細胞は、免疫細胞の攻撃にブレーキをかけることがあります。 このブレーキを外す「免疫チェックポイント阻害薬」という薬を使い、 免疫細胞が再びがんを攻撃できるように手助けします。 免疫が活発になりすぎることで、皮膚障害や大腸炎などが起こることがあります。
がん薬物療法の原因
がん薬物療法で体に様々な変化が起こるのには、理由があります。それは、お薬ががんと戦う仕組みそのものに深く関係しています。治療法によって、その原因は異なります。
化学療法(抗がん剤治療)
化学療法は、細胞が分裂して増える働きを止める治療法です。がん細胞は無秩序に分裂を繰り返すため、この治療の良い標的になります。
しかし、お薬はがん細胞と正常な細胞を見分けられません。そのため、がん細胞と同じように分裂が活発な正常細胞も攻撃してしまいます。これが副作用の主な原因です。
- 髪の毛をつくる細胞(毛母細胞) 常に分裂して髪を伸ばしているため、影響を受けやすく脱毛が起こります。
- 血液をつくる細胞(骨髄) 影響を受けると白血球などが減り、感染への抵抗力が弱まります。
- お口や腸の粘膜の細胞 新陳代謝が速いため、口内炎や吐き気、下痢の原因となります。
分子標的療法
分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わる特定の「目印」を狙います。そのため、正常な細胞への影響は化学療法より少ないとされます。
しかし、狙った目印が一部の正常な細胞にも存在することがあります。例えば、皮膚の細胞の成長に関わる目印を標的にすると、皮膚に発疹などの副作用が出ることがあります。
ホルモン療法
ホルモン療法は、体内のホルモンバランスを意図的に変える治療です。がん細胞を直接攻撃するわけではありません。
乳がんや前立腺がんのように、特定のホルモンを栄養にして増えるがんに対し、そのホルモンの働きを妨げます。このホルモン環境の変化が、ほてりや関節痛など更年期症状に似た症状を引き起こす原因となります。
免疫療法
免疫療法は、ご自身の免疫細胞が、がんを攻撃する力を強める治療です。がん細胞は、免疫の働きにブレーキをかけることで攻撃から逃れています。
この治療は、そのブレーキを外すことで免疫を再活性化させます。しかし、時に免疫が過剰に働き、正常な細胞まで攻撃してしまうことがあります。これが免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれる副作用の原因です。
がん薬物療法の症状
がん薬物療法では、お薬ががんと戦う過程で、体に様々な変化(副作用)が現れることがあります。どのような症状がいつ頃から現れるかは、使うお薬の種類や、患者さんご自身の体質によって大きく異なります。
ここでは、治療法ごとに現れやすい主な症状について解説します。
化学療法(抗がん剤治療)
活発に分裂する細胞に作用するため、正常な細胞にも影響が出やすいのが特徴です。 症状は、お薬を使い始めてからの時期によっても変化します。
- 投与から1〜2週間ごろ 吐き気や食欲の低下、だるさなどが現れやすい時期です。 口内炎や下痢といった、お口や腸の粘膜の症状も起こります。 また、体を守る白血球が減少し、感染症にかかりやすくなります。
- 投与後2週間以降 髪の毛をつくる細胞が影響を受け、脱毛が始まることがあります。 治療が終われば、多くの場合3〜6ヶ月ほどで再び生え始めます。 手足のしびれや、皮膚の色素沈着や乾燥なども見られます。
分子標的療法
がん細胞の特定の「目印」を狙うため、化学療法とは異なる症状が出ます。 皮膚にできるニキビのような発疹や、下痢、高血圧、だるさが主な症状です。 まれですが、咳や息切れを伴う間質性肺炎(かんしつせいはいえん)が起こることもあります。
ホルモン療法(内分泌療法)
ホルモンのバランスを変化させるため、更年期障害と似た症状が出やすいです。
- 主な症状 急に体が熱くなる「ほてり」や「のぼせ」(ホットフラッシュ)。 関節や筋肉の痛み・こわばり、気分の落ち込みなどがあります。
- 骨への影響 長期間の治療では、骨がもろくなる骨粗しょう症のリスクもあります。
免疫療法
ご自身の免疫が活発になることで、様々な症状が出ることがあります。 これを「免疫関連有害事象(irAE)」と呼びます。
- 比較的多い症状 皮膚のかゆみや発疹、下痢や腹痛(大腸炎)などがみられます。
- 注意が必要な症状 息切れや咳(間質性肺炎)や、甲状腺機能の異常なども起こりえます。
これらの症状は、全ての人に同じように現れるわけではありません。吐き気止めなど、症状を和らげるお薬も進歩しています。つらい症状は我慢せず、医師や看護師、薬剤師に伝えることがとても大切です。
がん薬物療法の検査・診断
がんの薬物療法を始める前には、とても大切な検査が行われます。 あなたのがんに、どの薬が最も効果的かを見極めるためです。 一人ひとり顔が違うように、がん細胞の性質も人それぞれです。 そのため、まずがんの「個性」を正確に知ることが治療の第一歩です。
検査の大きな目的は、薬の効果をあらかじめ予測することです。 そのために、以下のような検査を段階的に行っていきます。
- 画像検査(CT、MRIなど) がんの大きさや体のどこにあるか、他の場所に広がっていないか、 といった情報を写真で確認します。
- 組織検査(生検) がんの一部を針などで少しだけ採取し、顕微鏡で詳しく観察します。 これにより、がん細胞の「顔つき」を見て、がんの種類を確定します。
- バイオマーカー検査 薬の効果を予測する「目印」を調べる、非常に重要な検査です。 採取したがん細胞を使い、その遺伝子やたんぱく質を分析します。
治療法ごとに異なる検査
どの薬物療法を選ぶかによって、調べる「目印」も変わります。 お薬の標的となる目印があるかを確認することが重要です。
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治療法の種類 |
どんなことを調べるの?(検査の例) |
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分子標的療法 |
がんが増える原因となる特別なスイッチ(例:HER2遺伝子)があるか調べます。 |
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ホルモン療法 |
がんがホルモンを栄養にして大きくなるタイプか(ホルモン受容体の有無)を調べます。 |
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免疫療法 |
免疫の働きにブレーキをかける物質(例:PD-L1)が出ているかを調べます。 |
これらの詳しい検査結果をパズルのように組み合わせます。 そうすることで、あなたに合わせた最適な治療計画を立てていきます。
がん薬物療法の治療
がんの薬物療法には、いくつかの方法があります。 がんの種類や個性、患者さんご自身の体の状態は様々です。 そのため、治療は単独で行うことも、複数を組み合わせることもあります。 どの治療法が最適か、医師とよく相談して決めていくことが大切です。
- 化学療法(抗がん剤治療) 細胞が分裂して増える仕組みを妨げるお薬を使います。 このお薬は「細胞障害性抗がん薬」と呼ばれています。 活発に分裂するがん細胞によく効きます。 しかし、分裂が活発な正常な細胞にも影響が出ることがあります。 髪の毛や口の粘膜、血液をつくる細胞などがこれにあたります。 そのため脱毛や口内炎、白血球の減少などが起こります。 近年は吐き気を抑えるお薬なども進歩しています。
- 分子標的療法 がん細胞の増殖に関わる、特定の物質(分子)だけを狙います。 この「目印」を狙い撃ちにするお薬を使う治療法です。 治療前には、目印の有無を調べる検査(バイオマーカー検査)が必須です。 正常な細胞への影響は少ないですが、特有の副作用があります。 化学療法とは違う、皮膚の発疹やだるさなどが出ることがあります。
- ホルモン療法(内分泌療法) 特定のホルモンを栄養にして増えるタイプのがんに行われます。 主に乳がんや前立腺がんなどがこの治療の対象です。 ホルモンの働きを妨げることで、がんの増殖を抑えます。 副作用として、ほてりやのぼせなど更年期障害に似た症状が出ます。
- 免疫療法 人がもともと持っている免疫の力を利用してがんと戦います。 がん細胞は、免疫の働きにブレーキをかけて攻撃から逃れます。 このブレーキを外すお薬(免疫チェックポイント阻害薬)を使います。 これにより、免疫が再びがんを攻撃できるようになります。 時に免疫が活発になりすぎ、正常な臓器に炎症が起こることもあります。





