気管支肺異形成症

予定より早く、小さく生まれた赤ちゃん。その命を守る治療の過程で「気管支肺異形成症」という肺の病気を発症することがあります。呼吸を助けるための治療が、かえって未熟な肺に負担をかけてしまうのです。大切なお子さんの苦しそうな呼吸に、将来への不安を感じているご家族も多いのではないでしょうか。

最近の研究では、この病気の影響が長期にわたる可能性も分かってきました。特に重症だったお子さんは、学齢期になっても肺の機能が低い傾向にあると報告されています。「いつまで酸素が必要なの?」「大きくなっても影響は残るの?」そんな疑問や不安に答えるため、この記事があります。

本記事では、気管支肺異形成症の詳しい原因や症状、そして現在の治療法から、肺の成長そのものを促す未来の根本治療の研究までを分かりやすく解説します。お子さんの健やかな未来のために、正しい知識を一緒に学んでいきましょう。

気管支肺異形成症の概要

気管支肺異形成症(きかんしはい いけいせいしょう)は、 主に予定より早く生まれた赤ちゃんに起こる肺の病気です。

生まれたばかりの赤ちゃんの肺は、まだ成長の途中です。 特に小さく生まれた赤ちゃんは、呼吸を助ける治療が必要です。 この治療の影響などで肺の成長がうまくいかずにダメージを受け、 呼吸の問題が長く続いてしまう状態を指します。

具体的には、肺が十分に発達していないため、 次のような特徴がみられます。

  • 酸素をからだにうまく取り込めない 肺の働きが弱く、血液に十分な酸素を送れません。
  • 呼吸が速くなったり、苦しそうになったりする 少ない酸素を補おうとして、呼吸の回数が増えます。
  • 酸素吸入などのサポートが長く必要になる 自力での呼吸だけでは酸素が足りない状態です。

最近の研究で、この病気の長期的な影響が分かってきました。 重症の気管支肺異形成症だったお子さんは、学齢期になっても 肺の働きが低い傾向にあると報告されています。

特に息を吐き出す力が弱くなる「閉塞性(へいそくせい)」と いう状態が多くみられます。 この将来への影響は、「どれだけ早く生まれたか」よりも、 「病気そのものの重さ」が関係していると考えられています。

気管支肺異形成症の種類

気管支肺異形成症は、生まれた赤ちゃんの肺の状態によって、 いくつかの種類に分けられます。

この分類は、将来どんなケアが必要かを知るための大切な指標です。 主に「重症度」と「合併症の有無」の2つの視点で分類されます。

1. 重症度による分類

赤ちゃんの肺がどのくらい酸素を必要としたかによって、 重症度が「軽症」「中等症」「重症」の3段階に決まります。

最近の研究では、この重症度が将来の肺の健康に 大きく関わることがわかってきました。 中等症や重症と診断されたお子さんは、軽症のお子さんに比べ、 小学校に上がる年齢になっても肺の働きが低い傾向にあります。

特に、息を吐き出す力が弱くなる「閉塞性(へいそくせい)」 という状態になりやすいことが報告されています。

重症度

分類

将来の肺機能への影響

軽症

1度

影響は少ない傾向

中等症

2度

機能が低い傾向あり

重症

3度

機能が低い傾向あり

この違いは、どれだけ早く生まれたかということよりも、 病気そのものの重さが影響していると考えられています。

2. 合併症の有無による分類

気管支肺異形成症は、肺の発達がうまくいかない病気のため、 他の病気を合併することがあります。

特に注意が必要なのが「肺高血圧症」です。 これは心臓から肺へ血液を送る血管の圧が高くなる病気です。 肺高血圧症を伴う場合は、心臓に大きな負担がかかります。

そのため、治療には小児科の中でも呼吸器、循環器、新生児科など 様々な専門の医師がチームを組んで対応することが重要です。 ご家族への丁寧な説明やサポートも治療の一環となります。

気管支肺異形成症の原因

この病気が起こる一番の理由は、肺が育ちきる前に生まれることです。 特に、予定日よりずっと早く、体が小さい赤ちゃんに多く見られます。

本来、赤ちゃんの肺はお母さんのお腹の中でじっくり成長します。 しかし早く生まれると、肺がまだ柔らかく未熟な状態です。 酸素を取り込む「肺胞(はいほう)」という袋の数が少なかったり、 形が整っていなかったりします。

この未熟な肺に、生まれた後の様々な負担が加わることが、 正常な発達を妨げる原因となります。 最近の研究でも、生まれる前と後の複数の要因が、 肺の発達を止めてしまう可能性が指摘されています。

主な原因とリスク要因

具体的にどんな負担が原因になるのか、見ていきましょう。

時期

要因

生まれる前

・早産(特に1000g未満での出生)<br>・お母さんの感染症(絨毛膜羊膜炎など)<br>・お腹の中での発育がゆっくりだった場合

生まれた後

・人工呼吸器による肺への刺激<br>・高濃度の酸素による肺へのダメージ<br>・肺炎などの感染症<br>・栄養が十分に摂れない状態

呼吸を助ける人工呼吸器や酸素の投与は、命を守るために不可欠です。 しかし、その刺激が未熟な肺には負担となり、ダメージを与えます。

これらの要因が重なると、肺の血管や肺胞がうまく育ちません。 現在の治療は、こうした状況で呼吸を楽にすることが中心です。 ですが、肺の成長自体を促す根本的な治療ではありません。 そのため、肺の発達をもう一度進める新しい治療法の研究が期待されています。

気管支肺異形成症の症状

この病気の症状は、肺の未熟さからくる呼吸の問題が中心です。 しかしその影響は肺だけにとどまらず、成長や発達など、 赤ちゃんの体全体に及ぶことがあります。

症状のあらわれ方には個人差がありますが、 主に次のようなサインが見られます。

1. 呼吸にあらわれる症状

肺の働きが不十分なため、呼吸に関する様々な症状が出ます。

  • 呼吸が速く、苦しそうになる 少ない酸素を補おうとするため、呼吸の回数が多くなります。 息を吸う時に胸がペコッとへこむ「陥没呼吸」も特徴です。
  • 「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という呼吸音 これは喘鳴(ぜんめい)と呼ばれ、空気の通り道が狭いため、 息をするたびに音が鳴ってしまう状態です。
  • チアノーゼ 血液の中の酸素が不足し、唇や手足が青紫色に見えます。 これは体が酸素不足に陥っているというサインです。
  • 感染をくり返しやすい 肺の防御機能が弱いため、風邪から肺炎や気管支炎など、 重い病気につながりやすい傾向があります。

2. 全身にあらわれる影響

呼吸に多くのエネルギーを使うため、全身にも影響が出ます。 最近の研究では、大きくなった後も影響が続くことがわかっています。

  • 成長がゆっくりになる 呼吸だけで疲れてしまい、ミルクを飲む量が減ることがあります。 そのため、体重が増えにくく、身長の伸びも緩やかになります。
  • 運動すると疲れやすい 心臓や肺の機能が十分に発達していないことがあります。 少し動いただけでも息切れしやすく、疲れやすい傾向にあります。
  • 発達への影響 病気そのものや、長期の入院生活などの影響も考えられます。 言葉や運動能力など、神経面での発達がゆっくりになることも 報告されています。

気管支肺異形成症の検査・診断

気管支肺異形成症の診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 赤ちゃんの生まれた時の状態や、その後の経過を丁寧に観察します。 そしていくつかの検査結果を総合的にみて、慎重に判断されます。

診断のために行われる主な検査には、次のようなものがあります。

  • 画像検査(レントゲン・CT検査) 肺の成長の様子や、特徴的な変化が起きていないかを、 画像でくわしく確認します。
  • 血液ガス分析 血液の中に含まれる酸素の量をはかる検査です。 肺が体に十分な酸素を取り込めているか、呼吸の状態を評価します。
  • 心臓超音波(エコー)検査 肺への負担が心臓に影響をあたえていないかを確認します。 特に、合併症である肺高血圧症の有無を調べるために重要です。

これらの検査結果と、「生後28日を過ぎても酸素の助けが必要か」 といった赤ちゃんの経過をあわせて、診断がくだされます。 最近では、遺伝的な要因が肺の発達に関わることもあり、 必要に応じて遺伝子の評価が行われることもあります。

診断や治療は、小児科の中でも様々な専門家がチームで協力します。 ご家族の不安に寄り添い、丁寧に説明することも大切な治療の一環です。

気管支肺異形成症の治療

気管支肺異形成症の治療は、赤ちゃんの肺が成長するまでの間、 呼吸を助けて体の負担を軽くすることが中心になります。 いわば、肺が育つための「時間稼ぎ」をサポートする治療です。

しかし、最近の研究により新しい治療法への期待が高まっています。 現在の治療と、未来の治療について見ていきましょう。

現在の主な治療(対症療法)

現在の治療は、主に今ある症状を和らげるためのものです。 赤ちゃんの状態に合わせて、いくつかの方法を組み合わせます。

  • 呼吸のサポート 鼻からのチューブで酸素を送ったり、人工呼吸器を使ったりします。 楽に呼吸できるよう助け、体力の消耗を防ぐことが目的です。
  • 栄養の管理 肺や体が成長するには、多くの栄養が必要です。 ミルクの量を調整したり、点滴で栄養を補ったりします。
  • お薬による治療 肺にたまった余分な水分を出すお薬(利尿薬)や、 空気の通り道を広げるお薬(気管支拡張薬)を使います。

これらの治療は、赤ちゃんの苦しさを取り除くために不可欠です。 しかし、肺の成長が止まってしまったという根本的な問題や、 肺胞や血管の構造そのものを治すものではありません。

未来の治療(根本治療)

この課題を乗り越えるため、新しい治療法の研究が進んでいます。 それは、止まってしまった肺の成長を「再スタートさせる」 という、これまでにない画期的なアプローチです。

具体的には、体の元になる細胞(幹細胞)などを用いて、 肺の組織や血管を新しく作り出すことを目指しています。 この研究が進むことで、肺の構造と働きそのものを回復させ、 病気の根本的な解決につながる可能性があります。