膀胱頸部硬化症
前立腺の手術後、尿の出にくさや頻尿といった症状に悩んでいませんか。治療をしても症状がぶり返すことがあり、不安を感じている方もいるかもしれません。
膀胱頸部硬化症は、主に前立腺がんや前立腺肥大症の手術後に起こりうる合併症の一つです。この記事では、病気の原因や症状、診断方法に加え、内視鏡を用いた治療から再発リスクの低減が期待できる新しい選択肢まで詳しく解説します。
ご自身の状態と照らし合わせながら読み進めることで、病気への理解が深まり、治療の全体像を把握できます。医師と相談して納得のいく治療法を選ぶための、次の一歩を踏み出す一助となるはずです。
膀胱頸部硬化症の概要
膀胱頸部硬化症は、尿をためる袋である「膀胱」の出口(膀胱頸部)が、何らかの原因で硬く狭くなってしまい、排尿に支障が出る病気です。出口が狭くなることで、おしっこの勢いが弱くなったり、尿が出始めるまでに時間がかかったりします。
この病気は主に男性にみられ、特に前立腺の手術後に発症することがあります。例えば、前立腺肥大症の手術で用いたカテーテルや器具による圧迫が、のちに組織を硬くさせてしまうケースです。
また、近年ではロボット支援による前立腺がんの手術後に、合併症として起こる例も報告されています。これは、手術中に止血などの目的で使われた小さなクリップが、術後に膀胱内へ移動し、膀胱の出口を硬くしてしまうことがあるためです※。
手術から数カ月が経過した後に、
・排尿が困難になる
・血尿が出る
・尿路感染症を繰り返す
といった症状が新たにあらわれた場合、このような稀な合併症も考える必要があります※。
排尿に関する問題は生活の質(QOL)に大きく影響するため、気になる症状があればためらわずに泌尿器科へご相談ください。
膀胱頸部硬化症の種類
膀胱頸部硬化症には、病状の進行度などによる医学的に確立された分類はありません。
しかし、何が原因で発症したかによって、その後の治療方針を考える上で区別するのが一般的です。特に、前立腺の手術後に起こるものが大半を占めます。
具体的には、どの病気の治療で手術を受けたかによって、主に以下の2つのタイプに分けて考えられます。
・前立腺肥大症の手術後に起こるタイプ(BNC:Bladder Neck Contracture)
前立腺肥大症の内視鏡手術(経尿道的前立腺切除術など)の後に、膀胱の出口そのものが硬く狭くなる状態です。
・前立腺がんの手術後に起こるタイプ(VUAS:Vesicourethral Anastomotic Stenosis)
前立腺がんの摘出手術では、前立腺を切除した後に膀胱と尿道を再びつなぎ合わせます(吻合)。このつなぎ合わせた部分が、治る過程で硬く狭くなってしまう状態を指します。
このように、同じ「手術後」といっても、原因となる手術が異なるため、厳密には区別して扱われます。
これらの治療後には、まず内視鏡を用いた治療が選択されることが多いですが、近年では薬剤を塗布したバルーンで拡張するような、より体への負担が少ない治療法も報告されています※。
また、手術後以外にも、以下のようなまれな原因で発症することもあります。
・先天性:生まれつき膀胱の出口が狭い
・特発性:はっきりとした原因がわからない
このように、膀胱頸部硬化症は「なぜ起きたのか」という背景によって区別され、その原因に応じて治療法が検討されるとご理解ください。
膀胱頸部硬化症の原因
膀胱頸部硬化症が起こる原因の多くは、前立腺肥大症や前立腺がんなどに対する手術です※。
手術で膀胱の出口(膀胱頸部)にメスを入れたり、器具で組織を圧迫したりすると、その部分に傷ができます。この傷が治る過程で、線維組織が増えて硬く縮んでしまう「瘢痕(はんこん)」が作られ、尿の通り道を狭めてしまうのです。
具体的には、以下のような手術がきっかけになることがあります。
・前立腺肥大症の手術
経尿道的前立腺切除術(TURP)などの際に、手術器具による圧迫や電気メスの熱によって血流が悪くなり(虚血:きょけつ)、組織がダメージを受けることで硬化につながる場合があります。
・前立腺がんの手術
近年増えているロボット支援下での前立腺がん手術では、止血のために使われた「Hem-o-lokクリップ」という小さな器具が、術後に膀胱内へ移動してしまうことがあります。このクリップが異物として膀胱の出口を刺激し続けることで、組織が硬くなるケースも報告されています※。
手術以外にも、まれではありますが、以下のような原因で発症する可能性も考えられます。
・先天性のもの
生まれつき膀胱の出口が狭い
・慢性的な炎症
慢性前立腺炎や慢性膀胱炎が長く続くことで、炎症が膀胱の出口に及び、組織を硬くさせてしまう
このように、膀胱頸部硬化症はさまざまなきっかけで起こり得ますが、特に前立腺の手術を受けた後に排尿の調子が悪くなった場合は、この病気の可能性を考える必要があります。
膀胱頸部硬化症の症状
膀胱頸部硬化症の症状は、尿の通り道が物理的に狭くなることで生じる「尿を出しにくい症状」と、その影響で膀胱が過敏になり現れる「尿を溜めにくい症状」の2つに大別されます。
尿を出しにくい症状(排出症状)
膀胱の出口が狭くなることで、尿をスムーズに出せなくなります。
・尿の勢いが弱々しい
・トイレでいきんでも、すぐに出ない
・お腹に力を入れないと排尿できない
・排尿の途中で尿が途切れてしまう
・排尿後もスッキリせず、尿が残っている感じがする(残尿感)
尿を溜めにくい症状(蓄尿症状)
尿を出しにくい状態が続くと、膀胱に負担がかかって過敏になり、尿を溜める機能にも影響が出ることがあります。
・トイレの回数が異常に増える(頻尿)
・夜中に何度もトイレに起きてしまう(夜間頻尿)
・突然、我慢できないほどの強い尿意に襲われる(尿意切迫感)
・トイレに間に合わず、尿が漏れてしまう(切迫性尿失禁)
これらの症状は、日常生活に大きな支障をきたすことも少なくありません。
特に、前立腺の手術を受けてから数カ月が経過した後に、
・以前より尿が出しにくい
・血尿が出る
・尿路感染症を繰り返す
といった新しい症状があらわれた場合は注意が必要です。これは、手術が関連して起こる膀胱頸部硬化症の可能性があり、ためらわずに泌尿器科へ相談することが大切です※。
膀胱頸部硬化症の検査・診断
膀胱頸部硬化症の診断は、症状だけでは他の病気と区別が難しいため、問診で背景を詳しく伺い、尿の流れを客観的に評価する検査や内視鏡検査を組み合わせて行います。
まず、排尿困難や頻尿といった症状について詳しくお聞きします。特に、過去に受けた手術や治療の経緯は、診断だけでなく、その後の治療方針を決める上で極めて重要な情報になります。
例えば、前立腺がんに対する放射線治療の経験がある場合、組織が硬くなりやすく、治療の難易度が上がることがわかっています※。そのため、問診の段階でこれらの情報を正確に共有いただくことが、適切な治療への第一歩です。
症状だけでは前立腺肥大症や尿道狭窄などとの区別がつかないため、原因を特定するために以下のような検査を進めます。
検査名 | この検査でわかること | どのような検査か
尿流量測定・残尿測定 | 尿の勢いや、排尿後にどれくらい尿が残っているか | ・検査用のトイレで排尿し、尿の勢いや量を数値化します ・その後、超音波(エコー)で膀胱内の残尿量を測定します
膀胱鏡検査(内視鏡検査) | 膀胱の出口が本当に硬く狭くなっているか | ・尿道から細い内視鏡を挿入します ・膀胱の出口を直接カメラで観察し、狭窄の有無や程度を確認。診断を確定する上で中心となる検査です
膀胱造影検査 | 狭くなっている場所や程度を客観的な画像で評価 | ・尿道から造影剤を注入し、X線撮影を行います ・排尿時の膀胱や尿道の形を画像で確認します
これらの検査によって、症状の原因が本当に膀胱頸部硬化症なのか、あるいは症状が似ている他の病気なのかを正確に見極めます。原因を正しく特定することが、適切な治療を選択するための重要なステップとなるのです。
膀胱頸部硬化症の治療
膀胱頸部硬化症の治療は、硬くなって狭まった膀胱の出口を物理的に広げ、スムーズな排尿を取り戻すことを目指します。治療の基本は外科的なアプローチですが、患者さんの状態や再発のリスクに応じて、いくつかの選択肢が検討されます。
まずは、どのような治療法があるか、全体像を見てみましょう。
治療法 | 主な対象となる方 | 特徴
内視鏡による切開術 | ・初めて治療を受ける方 ・比較的軽症の方 | ・尿道から内視鏡を挿入し、硬い部分を直接切開して広げる ・第一選択となるが、傷が治る過程で再発する可能性がある
薬剤コーティングバルーン(DCB)拡張術 | ・内視鏡治療で再発した方 ・再発リスクを下げたい方 | ・薬剤を塗ったバルーンで狭窄部を拡張する新しい低侵襲治療 ・再発率が低いという報告がある※
再建手術 | ・内視鏡治療を繰り返しても改善しない難治性の方 | ・ロボット支援手術などで、狭窄部を切除し、つなぎ直す ・根治性が期待できるが、体への負担や尿失禁のリスクも考慮が必要※
薬物療法 | ・外科的治療の補助として | ・排尿を助ける薬や、手術後の再狭窄予防を目的とした漢方薬などが用いられる
以下で、それぞれの治療法について詳しく解説します。
内視鏡による切開術
最も一般的に行われるのが、尿道から内視鏡を挿入し、先端の電気メスで硬くなった部分を切開して広げる方法です。体への負担が比較的少なく、多くの場合で最初に選択される治療法といえます。
しかし、この治療には課題もあります。切開した部分が治る過程で再び硬くなり(瘢痕化:はんこんか)、症状が再発してしまうケースが少なくありません。手技による成功率にはばらつきがあるため、再発を繰り返す場合は、後述する別の治療法を考える必要があります※。
薬剤コーティングバルーン(DCB)拡張術
内視鏡治療の課題である「再発」を抑えるために登場した、新しい低侵襲治療が「薬剤コーティングバルーン(DCB)拡張術」です。
この治療は、2段階のアプローチで再発を防ぎます。
1. 物理的に拡張:バルーン(風船)で狭くなった部分を内側から押し広げる
2. 薬剤で再発を予防:組織が再び硬くなるのを防ぐ薬(抗線維化薬)を塗った特殊なバルーンで、病変部に薬剤を直接届ける
物理的に広げるだけでなく、薬剤の力で傷の治り方をコントロールすることで、従来の内視鏡治療と比べて再発のリスクが有意に低いことが報告されています※。
ある研究では、この治療を受けた方のうち、1年間再治療が不要だった割合は77.5%~100%と良好な結果が示されました※。
デバイスが原因で新たに尿失禁が起こることは報告されておらず、合併症も軽微なものがほとんどであるため、再発を繰り返す方にとって有望な選択肢です。ただし、過去に放射線治療を受けた方は組織が特に硬くなっているため、治療効果が出にくいことがあります※。
再建手術
内視鏡治療やDCB拡張術を繰り返しても改善しない「治療抵抗性」の症例に対しては、より根治的な再建手術が検討されます。
具体的には、ロボット支援手術などを用いて、硬くなった部分を一度完全に取り除き、健康な膀胱と尿道を再びつなぎ合わせる(再吻合する)方法などがあります※。
この手術は、尿の通り道をしっかりと確保できる可能性が高い一方、体への負担が大きく、手術後に尿失禁が起こるリスクも考慮しなくてはなりません。そのため、治療のメリットとデメリットについて、担当医と十分に話し合った上で慎重に判断することが大切です※。
補助的な薬物療法
これらの外科的治療と並行して、排尿状態を改善させるための補助として薬物療法が行われることもあります。
α1遮断薬などで膀胱や尿道の緊張を緩めて尿を出しやすくするほか、手術後の再狭窄を予防する目的で、漢方薬の「柴苓湯(さいれいとう)」などが用いられる場合もあります。










