膀胱憩室

排尿後もすっきりしない残尿感や、何度も繰り返す膀胱炎に悩んでいませんか。その不調は、膀胱の壁の一部が袋状に飛び出す「膀胱憩室」が原因かもしれません。初期は自覚症状がないため、気づかないうちに進行していることもあります。

この記事では、膀胱憩室の詳しい原因や特徴的な症状、診断に用いられる検査について解説します。さらに、薬物療法から、体への負担を考慮したロボット支援下手術といった外科的治療まで、さまざまな選択肢を網羅的に紹介します。

ご自身の症状と照らし合わせながら読み進めることで、病気への理解が深まります。どのような治療法があるかを知ることで、今後の見通しがつき、専門医に相談する際に役立ちます。

膀胱憩室の概要

膀胱憩室とは、膀胱の壁を構成する筋肉(平滑筋)の弱い部分から、内側の粘膜が外側に向かって袋状にポコッと飛び出した状態を指します。

初期には自覚症状がほとんどなく、別の目的で行った尿検査や超音波(エコー)検査などで偶然見つかるケースも少なくありません。

しかし、この袋状の憩室には筋肉の層がないため、排尿時にうまく収縮できず、中に尿が溜まったままになりがちです。この溜まった尿(残尿)が、以下のようなさまざまなトラブルの原因となる可能性があります。

・繰り返す尿路感染症:溜まった尿が細菌の温床となり、膀胱炎などを繰り返す。

・膀胱結石:尿の成分が結晶化し、憩室内に石ができてしまう。

・血尿:感染や結石、あるいは後述する腫瘍によって膀胱の粘膜が傷つき、尿に血が混じる。

・憩室内の腫瘍(膀胱がん):頻度は低いものの、慢性的な炎症の刺激などから、憩室内にがんが発生することがあります。

このため、症状がなくても定期的な経過観察が大切です。もし、排尿の異常(二段排尿など)や繰り返す膀胱炎、血尿といったサインが見られる場合は、憩室が原因となっている可能性を考え、精密検査を行う必要があります。

治療が必要と判断された場合、原因となっている病気の治療と並行して手術が検討されます。近年では体への負担を考慮した手術も選択肢となっており、例えばロボット支援下手術は精密な操作が可能です。特に、お腹にあける創(きず)が1つで済む単孔式というアプローチは、膀胱憩室切除術においてもその安全性が示唆されています※。

膀胱憩室の種類

膀胱憩室は、その成り立ちによって「先天性」と「後天性」の2種類に大別されます。

生まれつき膀胱の壁に構造的に弱い部分があるために生じるのが「先天性」、前立腺肥大症のように尿の通り道が狭くなる病気が原因で、排尿時の高い圧力によって後からできるのが「後天性」です。

それぞれの特徴を、下表に整理します。

項目 | 先天性膀胱憩室 | 後天性膀胱憩室

発生時期 | 生まれつき | 主に加齢にともなう病気が原因

原因 | 膀胱の壁の構造的な弱さ | 排尿時の圧力上昇 (前立腺肥大症、神経因性膀胱など)

好発年齢 | 小児期 | 高齢者(特に男性)

憩室の数 | 1つ(単発)が多い | 複数(多発)が多い

具体例 | ・Hutchの憩室 (傍尿管口憩室)など

先天性の憩室はまれで、尿管が膀胱につながる付近にできることが多く、小児期に発見される傾向にあります。一方で、後天性の憩室は高齢の男性に多くみられます。

どちらの種類であっても、憩室内に溜まった尿が原因で感染や結石などを引き起こす場合は治療の対象となります。治療法は憩室の場所や数によっても異なりますが、手術が必要なケースでは、体への負担を減らす方法も選択肢になります。例えば、お腹の創(きず)が1つで済む単孔式(SP)のロボット支援手術は、膀胱憩室の切除においてもその実現可能性や安全性が示唆されています※。

膀胱憩室の原因

膀胱憩室ができてしまう最大の原因は、排尿時に膀胱の内部にかかる圧力が高まることです。

膀胱から尿道までの通り道が何らかの理由で狭くなっていると、膀胱は尿をすべて押し出すために、通常よりも強い力で収縮しなければなりません。

この無理な状態が長期間続くと、膀胱の壁を構成する筋肉(平滑筋)の中でも特に弱い部分が圧力に耐えきれず、内側の粘膜が外側へ袋状にポコッと飛び出してしまいます。これが膀胱憩室の正体です。

膀胱内の圧力を高めてしまう代表的な病気には、主に以下のものが挙げられます。

・前立腺肥大症

・神経因性膀胱

・尿道狭窄

これらのなかでも、特に前立腺肥大症などによって膀胱の出口が塞がれ、尿が出にくくなる「膀胱出口閉塞(Bladder Outlet Obstruction: BOO)」は、後天性の膀胱憩室と非常に深く関連していることが研究で示されています※。

そのほか、頻度は高くありませんが、過去の手術やケガの影響で膀胱の壁にできた傷跡(瘢痕)が弱くなり、その部分が圧力に負けて憩室になることもあります。

膀胱憩室の症状

膀胱憩室の症状は、憩室内に尿が溜まることで引き起こされる排尿トラブルが中心です。憩室が小さい初期の段階では自覚症状がないことも多く、他の目的で行われた検査で偶然見つかるケースも少なくありません。

しかし、憩室が大きくなり、中に尿が溜まったままになると、以下のような特徴的な症状が現れ始めます。

・残尿感: 排尿後も、まだ尿が残っているようなスッキリしない感じがする。

・二段排尿: 一度排尿を終えたはずなのに、少し経ってから憩室に残っていた尿が膀胱内に戻り、再び尿意を感じてトイレに行くことになる状態。

・排尿困難: 尿の勢いが弱くなったり、お腹に力を入れないと尿が出にくかったりする。

・尿閉: 症状が進行し、まったく尿を出せなくなってしまうこともある。

特に、前立腺肥大症などで膀胱の出口が塞がれていることが原因の場合、深刻な排尿の悩み(下部尿路症状)や、排尿後も膀胱に多くの尿が残ってしまう状態(残尿量の増加)がみられる傾向にあります※。

さらに、憩室内に溜まった尿は、以下のような二次的なトラブルの原因にもなります。

・繰り返す尿路感染症: 溜まった尿が細菌の温床となり、膀胱炎などを何度も繰り返す。

・膀胱結石: 尿の成分が憩室の中で結晶化し、石ができてしまう。

・血尿: 感染や結石が粘膜を傷つけたり、まれに憩室内に腫瘍(膀胱がん)が発生したりして、尿に血が混じる。

・下腹部痛: 感染や結石にともなう痛みのほか、憩室自体が大きくなることで圧迫感や鈍い痛みを感じることもある。

膀胱憩室の検査・診断

膀胱憩室の検査では、憩室そのものの状態を画像で確認するだけでなく、排尿機能の評価も行い、治療方針を総合的に判断します。

「なぜ憩室ができたのか」という原因と、「憩室がどのような問題を引き起こしているか」という現状を正確に把握することが、適切な治療への第一歩です。

症状や診察で膀胱憩室が疑われる場合、主に以下の検査を組み合わせて評価を進めます。

・画像検査(超音波・CT・MRI検査)

体に負担の少ない超音波(エコー)検査で、憩室の有無や大きさ、結石がないかなどを確認します。手術を検討する場合など、より詳しい情報が必要な際にはCTやMRI検査を追加します。これらの検査は、憩室の正確な形や周囲の臓器との位置関係を立体的に把握するために役立ちます。

・膀胱鏡検査(内視鏡検査)

尿道から細いカメラを挿入し、膀胱の内部を直接目で見て観察する検査です。画像検査では判別しにくい憩室の入り口の状態や、内部に隠れた腫瘍(膀胱がん)・結石の有無を確かめるために行われます。

・排尿時膀胱尿道造影検査

膀胱に造影剤を注入し、排尿しながらレントゲン撮影を行います。排尿中の膀胱や憩室の形の変化、また腎臓への尿の逆流(膀胱尿管逆流現象)がないかなどを評価できる検査です。

・排尿機能の評価

憩室の根本原因である「排尿トラブル」の程度を客観的な数値で評価します。これらの結果は、手術の必要性や治療効果を判断する重要な指標です。

具体的な検査法を、下表に整理します。

検査の種類 | 検査内容 | なぜこの検査が必要か

尿流量測定 | 尿の勢いや量を測定する | ・膀胱出口閉塞(尿の通り道の塞がり)の有無や程度を評価するため※

残尿測定 | 排尿後に膀胱内に残った尿の量を測定する | ・残尿の多さが手術を検討する一つの目安となるため※ ・繰り返す尿路感染症の原因を評価するため

これらの検査結果を総合的に分析し、憩室の大きさや数、原因となっている病気、合併症の有無などを考慮して、一人ひとりの患者さんに合わせた最適な治療計画を立てていきます。

膀胱憩室の治療

膀胱憩室の治療は、憩室そのものへの対処だけでなく、根本原因となっている病気へのアプローチが基本となります。

症状がなく、尿路感染や結石といった合併症も起きていない場合は、すぐに治療を開始するのではなく、定期的な検査で慎重に経過を観察します。憩室ができてしまった原因(前立腺肥大症など)がはっきりしているなら、まずはその病気に対する薬物療法から始めます。

薬物療法で症状の改善が不十分な場合や、以下のような状況では、外科的な治療(手術)が検討されます。

・排尿困難や二段排尿(排尿後すぐにまた尿意を感じる状態)といった症状が強く、生活に支障が出ている

・膀胱炎などの尿路感染症を何度も繰り返してしまう

・憩室の中に結石や腫瘍(膀胱がん)が見つかった

手術には、尿道から内視鏡を入れて憩室の出口を広げる方法や、お腹を切開して憩室そのものを切除する方法などがあります。

近年、より体への負担を考慮した選択肢として、ロボット支援下手術が注目されています。この手術の大きな特徴は、憩室の切除と同時に、根本原因である前立腺肥大症などによる尿の通り道のつまり(膀胱出口閉塞)を解消する治療も行える点です。

ある研究では、この同時手術によって、排尿の悩みの程度を示すスコア(IPSS)が術前の24から術後には7まで大幅に下がり、排尿後に膀胱に残る尿の量も平均165mlから35mlへと大きく減少したと報告されています※。一度の手術で原因と結果の両方にアプローチできる、理にかなった選択肢といえます。

さらに、ロボット支援下手術の中でも、お腹にあける創(きず)が1つで済む「単孔式(SP)」というアプローチも登場しています。この方法では、出血量が少なく、術後の傷跡が目立ちにくいといった美容面での利点がある可能性が示唆されています※。膀胱憩室の切除においても、その実現可能性や安全性が報告されており、患者さんの体への負担をより少なくできる治療法として期待されています※。

どの治療法が最適かは、憩室の大きさや場所、数、そして原因となっている病気の状態によって一人ひとり異なります。ご自身の状態に合った最善の治療法を見つけるために、まずは専門の医師とじっくり相談することが大切です。