膀胱がん
突然の血尿や健康診断での指摘を受け、不安を感じていませんか。膀胱がんは泌尿器にできるがんの中で2番目に多く、特に60代以上の男性に多く発症することが知られています。
この記事では、膀胱がんの主な原因や症状、がんの種類に応じた治療法までを詳しく解説します。患者さんの負担を減らす新しい検査法や、ロボット支援手術といった近年の治療の選択肢にも触れていきます。
病気について正しく理解することは、ご自身や大切な人を守り、最適な治療を選択するための第一歩です。まずはこの記事で、早期発見・早期治療につながる正確な知識を身につけましょう。
膀胱がんの概要
膀胱がんは、骨盤のなかで尿をためる袋状の臓器「膀胱」に発生するがんの総称です。
泌尿器にできるがんの中では前立腺がんに次いで2番目に多く、特に60〜70代の方に多く発症し、男女比は約3:1と男性に多い傾向があります。
診断や治療は、技術の進歩とともに日々変化しています。
これまでの診断では、尿道から内視鏡(膀胱鏡)を入れる検査が一般的でしたが、患者さんの身体的な負担が課題でした。
そこで現在、より負担の少ない検査法として、尿を用いてがんを検出する「尿中DNAメチル化バイオマーカー」という新しい検査法の研究開発が進められています。この方法は、従来の尿検査よりも高い精度でがんを見つけられる可能性があり、今後の実用化が期待されます。※
治療法においても、患者さんの体への負担をより少なくできる「ロボット支援手術」の有効性や安全性が多くの研究で報告されています。精密な操作により、合併症のリスクを抑えながら根治を目指せるようになってきました。※
このように診断から治療まで選択肢は広がっており、病気について正しく理解することが、早期発見・早期治療の第一歩となります。
膀胱がんの種類
膀胱がんは、主に「がん細胞の顔つき(組織型)」と「がんの根の深さ(深達度)」という2つの視点で分類されます。この分類は、今後の治療方針を決定し、病状の見通しを立てるうえで極めて重要です。
膀胱がんの9割以上は、膀胱の最も内側にある「尿路上皮」という粘膜から発生する「尿路上皮がん」です。ごくまれに、扁平上皮がんや腺がんといった異なる顔つきのがんが見つかることもあります。
治療方針を決めるうえで特に重要となるのが、がんの根の深さ(深達度)です。がんは、膀胱の壁にある筋肉の層(筋層)にまで達しているかどうかで、大きく2つのタイプに分けられます。
それぞれの特徴は以下のとおりです。
種類 | 特徴
筋層非浸潤性膀胱がん | ・がんが膀胱の表面(粘膜やその下の層)にとどまっている状態 ・「表在性膀胱がん」とも呼ばれる
筋層浸潤性膀胱がん | ・がんが膀胱の壁の深い部分にある筋肉の層(筋層)まで達している状態
筋層非浸潤性がんは比較的根が浅いものの再発しやすく、一方の筋層浸潤性がんは転移のリスクが高まるため、より強力な治療が必要になります。
このように、がんの種類を正確に見極めることが治療の第一歩です。標準的な治療法と並行して、近年ではさまざまな角度からの研究も進んでいます。例えば、動物を用いた研究段階ではありますが、古くから漢方で利用されてきた生薬の一種(Paeoniae Radix Rubra)が、膀胱がんの増殖を抑える可能性も報告されています※。
だからこそ、ご自身の膀胱がんがどの種類に当てはまるのかを正確に診断することが、最適な治療法を選択するための鍵となるのです。
膀胱がんの原因
膀胱がんを引き起こす最大の原因は喫煙です。その他にも、仕事で扱う化学物質や過去の治療歴など、複数の要因が関わっていることがわかっています。
なぜ喫煙が膀胱がんの引き金になるのでしょうか。
タバコの煙に含まれる有害な化学物質は、肺から吸収されて血液に溶け込み、全身を巡ります。最終的に腎臓でこし取られ、尿の中に濃縮された状態で膀胱へと送られます。
尿が膀胱にたまっている間、これらの発がん性物質は膀胱の粘膜(尿路上皮)に直接触れ続けます。この持続的な刺激が細胞の遺伝子を傷つけ、がんを発生させるきっかけになると考えられているのです。
喫煙以外に、膀胱がんのリスクを高める主な要因を以下に整理します。
・特定の化学物質への曝露
ナフチルアミンやベンジジンに代表される「芳香族アミン」という化学物質を扱う職業に従事していた方は注意が必要です。これらは主に染料、化学、ゴム、皮革産業などで使用されてきました。
・薬剤による治療歴
抗がん剤の一種であるシクロホスファミドなど、特定の薬剤による治療歴もリスク要因とされています。
・骨盤部への放射線治療
過去に子宮頸がんや前立腺がんなど、膀胱の近くにある臓器のがんに対して放射線治療を受けた経験がある場合、その影響で膀胱がんが発生しやすくなる可能性があります。
これらの環境的な要因に加えて、遺伝子の変化ががんの発生に関与することも明らかになっています。がん細胞の発生は、単一の原因ではなく、生活習慣や環境、遺伝的背景などが複雑に絡み合って起こるといえるでしょう。
膀胱がんの症状
膀胱がんの最も代表的なサインは、痛みを伴わない突然の血尿(肉眼的血尿)です。
がん組織は正常な粘膜よりもろく出血しやすいため、ある日突然、何の前触れもなく目で見てわかるほど赤い尿が出ることがあります。
この血尿は、数日で自然に止まるケースも少なくありません。
しかし、それはがんが治ったわけではなく、一時的に出血が止まったに過ぎないのです。「一度きりだったから大丈夫」という思い込みが、受診を遅らせてしまう最大の落とし穴といえます。
血尿以外にも、膀胱がんを疑うべき症状はいくつか存在します。
初期のサインから進行した場合の症状まで、以下に整理します。
・血尿(肉眼的・顕微鏡的)
最も頻度の高い初期症状です。排尿時の痛みや頻尿といった他の症状を伴わないことが多く、「無症候性肉眼的血尿」と呼ばれます。一度でも確認した場合は、放置せずに泌尿器科を受診してください。また、健康診断で指摘される「顕微鏡的血尿(尿潜血陽性)」も、がんを発見する重要な手がかりになることがあります。
・膀胱炎に似た排尿の症状
がんが膀胱の粘膜を刺激することで、まるで膀胱炎のような症状が現れる場合があります。抗生物質を飲んでも改善しない、または繰り返す場合は注意が必要です。
・頻尿(トイレの回数が異常に増える)
・排尿時の痛みや不快感
・残尿感(排尿後もスッキリしない)
・尿意切迫感(急に強い尿意を催し、我慢が難しい)
・がんが進行したときの症状
がんが膀胱の壁を越えて大きくなると、周囲の臓器にも影響を及ぼし、以下のような症状が出てくる可能性があります。
・背中やわき腹の痛み:がんが尿管の出口を塞ぎ、腎臓で作られた尿が膀胱へ流れにくくなる「水腎症」が原因で起こります。
・下腹部痛:がんが骨盤内へ広がることによって生じます。
・足のむくみ:骨盤内のリンパ管や血管が、がんによって圧迫されることで起こります。
これらのサインは、膀胱がんを見つけるための体からの重要なメッセージです。
「歳のせい」「疲れのせい」などと自己判断せず、気になる症状があれば速やかに専門医へ相談することが、早期発見・早期治療への第一歩となります。
現在は、尿を用いてより高い精度でがんを見つけようとする新しい検査法(尿中DNAメチル化バイオマーカー)の研究も進んでいます※。
膀胱がんの検査・診断
血尿などの症状で膀胱がんが疑われる場合、まず体への負担が少ない検査から始め、がんの有無や性質を段階的に絞り込んでいくのが基本的な流れです。
検査は、がんの「可能性」を探る段階から、がんを「確定」させ、その「広がり」を詳しく調べる段階へと進みます。
それぞれのステップで行われる主な検査は以下のとおりです。
1. がんの可能性を探る(スクリーミング)
・尿検査(尿潜血・尿細胞診)
尿に血液やがん細胞が混じっていないかを調べます。ただし、尿に剥がれ落ちたがん細胞を見つける「尿細胞診」は、がんを見つけ出す能力(感度)が約55%と、十分とはいえないのが現状でした※。
この課題を克服するため、現在、より精度の高い新しい尿検査の研究が進んでいます。
それが、尿に漏れ出たがん細胞由来のDNAの変化(メチル化)を捉える「尿中DNAメチル化バイオマーカー」検査です。ある研究では、この方法を用いることで感度が87%にまで向上したと報告されており、従来の膀胱鏡検査のような身体的負担を伴わずに、より正確にがんを発見できる未来が期待されています※。
・腹部超音波(エコー)検査
お腹の表面から超音波をあて、膀胱の内部に腫瘍のような「かたまり」ができていないかを画像で確認します。
2. がんの存在を確定させる(確定診断)
・膀胱鏡検査
尿道から細い内視鏡(カメラ)を挿入し、膀胱の内部を直接すみずみまで観察します。がんの有無を確認するための、最も確実な検査といえます。
この検査でがんを疑う異常な粘膜が見つかった場合は、その場で組織の一部を採取(生検)します。採取した組織を顕微鏡で詳しく調べることで、がん細胞の有無を最終的に判断します。
3. がんの性質と広がりを調べる(深達度・進行度診断)
・経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)
確定診断がついた後、あるいは膀胱鏡検査と同時に行われることが多い、診断と治療を兼ねた重要なステップです。
膀胱鏡と同じように尿道から内視鏡を挿入し、先端についた電気メスで腫瘍を削り取るように切除します。切除した組織を調べることで、がんの顔つきの悪さ(悪性度)や、膀胱の壁のどこまで根を張っているか(深達度)を正確に診断できます。
・画像検査(CT・MRIなど)
がんが膀胱の壁を越えて周囲に広がっていないか、あるいは肺や肝臓、リンパ節など他の臓器へ転移していないかを評価するために行います。これらの情報をもとに、最終的な治療方針が決定されます。
膀胱がんの治療
膀胱がんの治療方針は、がんの根の深さ(深達度)によって大きく二分されます。なぜなら、がんが膀胱の壁の表面にとどまっているか、筋肉の層まで深く侵入しているかで、再発や転移のリスク、そして治療の強度も全く異なるからです。
患者さんの年齢や全身の状態も考慮しながら、がんのタイプに合わせて最適な治療法を選択していきます。
筋層非浸潤性膀胱がん
がんが膀胱の表面(粘膜やその下の層)にとどまっている場合の第一選択は、尿道から内視鏡を入れてがんを削り取る「経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)」です。
しかし、このタイプのがんは治療後も再発しやすいという手ごわい特徴があり、1〜2年以内に60〜70%もの方が再発するといわれています。
そのため、再発のリスクが高いと判断された場合には、TURBTの後に膀胱内に抗がん剤やBCG(ウシ型結核菌を弱毒化した薬剤)を直接注入する「膀胱内注入療法」を追加で行い、がんの再発を徹底的に抑え込みます。
筋層浸潤性膀胱がん
がんが膀胱の壁の深い部分にある筋肉の層まで達している場合、リンパ管や血管を通じて全身へ転移するリスクが格段に高まります。そのため、がんを根こそぎ取り除く「膀胱全摘除術」が標準的な治療法と考えられています。
手術後は、尿の出口を新たにお腹に作る「尿路変向術」という処置が必要になります。また、手術の効果をさらに高める目的で、手術の前後に抗がん剤治療を組み合わせるのが一般的です。
近年では、患者さんの体への負担をできる限り少なくする「ロボット支援下手術」の導入が進んでいます。この手術法は、精密な操作によって合併症のリスクを抑えつつ、高い有効性と安全性が複数の研究報告を統合した分析によっても確認されています※。
ただし、ご高齢であったり他の病気を抱えていたりするなど、全身の状態から手術が難しいと判断されるケースもあります。その場合は、放射線治療と薬物療法などを組み合わせ、できる限り膀胱を残す治療法(膀胱温存療法)が検討されます。
転移のある膀胱がん
がんが膀胱から離れた肺や肝臓、骨などの他の臓器へ転移している場合、手術や放射線のような局所的な治療だけでは対応が難しくなります。
この場合は、全身に広がったがん細胞に働きかけるため、抗がん剤などを用いた薬物療法が治療の中心となります。










