房室ブロック
健康診断で「房室ブロック」の疑いを指摘されたものの、自覚症状がなくどう対応すべきか迷っていませんか。心臓の電気信号が滞るこの状態は、ときにめまいや息切れの原因となり、重症度によっては注意が必要です。
この記事では、房室ブロックの基本的な知識から、重症度による3つの分類、原因、治療法までを詳しく解説します。特に、先天性心疾患の方は不整脈のリスクが約16倍に上るという報告もあり、その関連性にも触れていきます。
ご自身の状態を客観的に把握し、必要な検査や今後の見通しを理解することで、適切な対応を考えるための第一歩となります。
房室ブロックの概要
房室ブロックは、心臓の拍動をコントロールする電気信号が、心臓の上側(心房)から下側(心室)へスムーズに伝わらなくなった状態です。
心臓には「刺激伝導系」という、電気信号が通る専用のルートがあります。
このルートを電気が流れることで、心臓は規則正しいポンプ活動を維持していますが、房室ブロックではこの電気の通り道で信号の伝達が遅れたり、時には完全に途絶えたりします。
信号の伝わり方が少し遅れるだけの軽症なものから、信号が完全に途切れてしまう重症なものまで、その程度はさまざまです。
そのため、健康診断で偶然見つかるような無症状のケースもあれば、めまいや失神といった危険な症状を引きおこすこともあります。
主な原因は加齢に伴う心臓の変化や心筋梗塞などですが、生まれつき心臓に構造的な異常を持つ「先天性心疾患」の方は、そうでない方と比べて不整脈を発症するリスクが約16倍も高いことがわかっています。※
実際に、先天性心疾患の患者さんにおいて最も頻繁に見られる不整脈の一つが、この房室ブロック(特に重症度が高い高度房室ブロック)であると報告されています。※
そのため、健康診断の心電図検査で「房室ブロック」の疑いを指摘されたら、たとえ自覚症状がなくても、一度は循環器内科で詳しい検査を受け、ご自身の心臓の状態を正確に把握しておくことが重要です。
房室ブロックの種類
房室ブロックは、心房から心室への電気信号がどの程度伝わりにくいかによって、重症度が3つの段階に分類されます。
心電図で「心房の興奮」を示すP波と、「心室の興奮」を示すQRS波の関係性から診断され、それぞれ症状の現れ方や治療方針が大きく異なります。
I度房室ブロック
心房から心室へ電気信号が伝わるのに、正常(0.20秒未満)よりも少し時間がかかっているだけの状態です。
信号そのものは毎回きちんと心室へ届くため、心臓のポンプ機能にはほとんど影響しません。
そのため自覚症状はなく、多くの場合で治療も不要とされています。健康診断の心電図検査などで偶然見つかることがほとんどです。
II度房室ブロック
心房からの電気信号が、ときどき心室まで届かなくなる状態です。
これにより「脈が抜ける」現象が起こり、信号の途絶え方によって2つのタイプに分けられます。
・Mobitz(モビッツ)I型(Wenckebach型)
電気信号が伝わる時間が少しずつ長くなっていき、ついに信号が1回分、心室へ届かなくなるタイプです。比較的危険性は低いと考えられています。
・Mobitz(モビッツ)II型
時間の間隔は一定のまま、何の前触れもなく突然、心室への信号が途絶えてしまうタイプです。より重症な「完全房室ブロック」へ移行するリスクがあり、めまいや失神の原因になるため、注意が必要です。
III度(完全)房室ブロック
心房からの電気信号が、完全に心室へ届かなくなった最も重症な状態です。
この状態になると、心室は心房からの指令なしで、自らのバックアップ機能として非常にゆっくりとしたペース(毎分30〜50回程度)で拍動します。
しかし、このペースでは全身に十分な血液を送ることができず、強い息切れやめまい、意識を失う発作(失神)などを引きおこしやすくなります。
一般的に、II度房室ブロックのMobitz II型とIII度房室ブロックは、合わせて「高度房室ブロック」と呼ばれ、突然死のリスクを避けるためにペースメーカー治療が検討されます。
特に、生まれつき心臓に構造的な特徴を持つ先天性心疾患の患者さんは、そうでない方と比べて不整脈を発症するリスクが約16倍と非常に高く、その中でも最も頻繁に見られる不整脈がこの高度房室ブロックであることが報告されています。※
房室ブロックの種類ごとの特徴を、下表に整理します。
種類 | 電気信号の伝わり方 | 主な特徴
I度房室ブロック | 伝わるのが少し遅れるだけ | ・自覚症状はほとんどない ・多くは治療不要
II度房室ブロック | ときどき伝わらなくなる | ・脈が抜ける感覚やめまいを感じることがある ・Mobitz II型は注意が必要
III度(完全)房室ブロック | まったく伝わらない | ・強い息切れや失神を起こしやすい ・原則としてペースメーカー治療を検討
房室ブロックの原因
房室ブロックの原因は、心臓の電気信号を伝える「刺激伝導系」に何らかのトラブルが起きることにあります。
実は、原因として最も多いのは、加齢などにより刺激伝導系の組織が古くなって硬くなったり(線維化)、傷んだりするもので、特に明確な病気が見当たらない「特発性」と呼ばれるタイプです。
その他、房室ブロックを引き起こす主な原因には、以下のようなものがあります。
・心臓の病気
・虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)
心臓を養う血管が詰まったり狭くなったりして、刺激伝導系へ十分な血液が届かなくなり、組織がダメージを受けることで発症します。
・心筋症、心筋炎、弁膜症など
心臓の筋肉や弁に起きた異常が、電気信号の通り道に影響を及ぼすことがあります。
・先天性心疾患
生まれつき心臓の構造に特徴がある場合も、房室ブロックの重要な原因です。実際、デンマークで行われた大規模な研究では、先天性心疾患を持つ方において最も頻繁に見られる不整脈の一つが、重症度の高い「高度房室ブロック」であることが報告されています。※
・お薬の影響(薬剤性)
血圧や他の不整脈の治療で使われるお薬が原因となることもあります。例えば、心臓の働きを穏やかにするβ遮断薬や一部のカルシウム拮抗薬は、その作用が電気信号の伝達を遅らせすぎてしまい、結果として房室ブロックを引き起こすことがあります。
・その他の原因
・自律神経の影響
迷走神経という神経の働きが活発になることで、一時的に脈が遅くなることがあります。特に若い方やスポーツ選手では、病的な意味のない「生理的なもの」として見られる場合があります。
・電解質の異常
血液中のカリウムなどのミネラルバランスが崩れると、心臓の正常な電気活動に影響が出ます。
・甲状腺機能の異常
心臓の働きを調節する甲状腺ホルモンの分泌に異常がある場合も、原因となることがあります。
このように原因はさまざまであり、一つだけでなく複数が関係しているケースも少なくありません。まずは詳しい検査を受け、ご自身の心臓の状態を正確に把握することが、適切な対応への第一歩となります。
房室ブロックの症状
房室ブロックで現れる症状は、電気信号の滞り具合(重症度)によって全く異なります。
I度房室ブロックのように、信号が少し遅れるだけの場合は、心臓のポンプ機能にほとんど影響がないため、自覚症状はまずありません。そのため、多くは健康診断の心電図検査で偶然見つかります。
一方、II度やIII度(完全)房室ブロックへと進行し、心房からの信号が心室へ届かなくなると、脈が極端に遅くなる「徐脈(じょみゃく)」という状態になります。
この徐脈が、房室ブロックのさまざまな症状を引きおこす根本的な原因です。
心臓のポンプ機能が低下し、脳をはじめとする全身へ十分な血液を送り届けられなくなることで、以下のような症状が現れ始めます。
・めまい、ふらつき、目の前が暗くなる感じ
脳への血流が一時的に不足することで起こります。
・体を動かした時の息切れ、疲れやすさ
運動時に必要な血液を心臓が十分に送り出せないために生じます。
・失神、けいれん(アダムス・ストークス発作)
心臓が数秒間停止し、脳への血流が完全に途絶えることで意識を失う、最も危険な症状の一つです。
特に、生まれつき心臓に構造的な特徴を持つ「先天性心疾患」の患者さんでは、そうでない方と比べて不整脈を発症するリスクが約16倍にも上り、その中でも特に頻度が高い不整脈の一つが、重症度の高い「高度房室ブロック」であることがわかっています。※
さらに、先天性心疾患を持つ方において不整脈が発症すると、その後の生命予後にも影響を及ぼす可能性が指摘されています。※
これらの症状は、日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、失神による転倒・骨折といった二次的な事故につながる危険もあります。
気になるサインがあれば、決して放置せず、お早めに循環器内科へご相談ください。
房室ブロックの検査・診断
房室ブロックの診断では、心臓内の電気信号がどのように伝わっているかを正確に捉えることが全ての基本となります。健康診断などで指摘された場合でも、症状の有無や重症度を正しく評価するために、心電図を中心とした複数の検査を組み合わせて詳しく調べていきます。
まず行われるのが、健康診断でもおなじみの12誘導心電図です。
この検査では、心房から心室へ電気が伝わる時間(PQ時間)が基準値(0.20秒)を超えて遅れていないか、また、信号が途中で途切れていないかをチェックします。これにより、房室ブロックの有無や重症度の大まかな分類が可能です。
ただし、房室ブロックは一日の中で現れたり消えたりすることもあり、短い時間の心電図検査だけでは見つけられない場合があります。
そのため、日常生活の中での心臓の状態を長時間記録し、隠れた異常を見つけ出す検査が必要になります。
以下に代表的な検査を整理します。
検査方法 | 目的と特徴
ホルター心電図(24時間心電図) | ・小型の装置を身につけて24時間心電図を記録する ・仕事中や睡眠中など、日常生活でブロックが起きていないかを確認できる ・動悸やめまいといった症状と、心電図の異常が関連しているかを調べるのに役立つ
植込型ループレコーダー | ・失神など、症状の頻度が極めて低い場合に行われる ・胸の皮膚の下に小さな記録装置を植え込み、数年間にわたって心電図を監視する
房室ブロックそのものの診断と並行して、「なぜブロックが起きているのか」という原因を探ることも非常に重要です。
心エコー図検査(心臓超音波検査)では、心臓の動きや形、弁の状態などをリアルタイムで観察し、心筋梗塞や心筋症、弁膜症といった、房室ブロックを引きおこす可能性のある心臓の病気が隠れていないかを評価します。
また、他の病気の治療が、房室ブロックと関わることもあります。
例えば、心臓弁の手術を受けた後に、新たな房室ブロックが発生し、ペースメーカー治療が必要になるケースも報告されています。そのため、手術後の定期的な心電図検査による経過観察は、術後の安全を確保する上で欠かせません。※
同様に、他の不整脈に対するカテーテル治療(アブレーション)の際に、ごくまれな合併症として房室ブロックが起こることも知られており、治療後の心電図評価が重要になります。※
これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりの状態に合わせた治療方針を決定していきます。
房室ブロックの治療
房室ブロックの治療は、ブロックの重症度や症状の有無に応じて、大きく3つの選択肢から検討します。
残念ながら、房室ブロックそのものを飲み薬で治す方法はまだ確立されていません。
そのため、治療のゴールは、めまいや失神といったつらい症状を取り除き、心停止などの危険な事態を未然に防ぐことに置かれます。
治療方針は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて慎重に決定され、主な選択肢は以下のとおりです。
治療法 | 主な対象となる方 | 目的・内容
経過観察 | ・症状のないI度房室ブロック ・II度房室ブロックの一部(Mobitz I型) | ・特別な治療はせず、定期的な心電図検査でブロックが進行しないか慎重に見守ります。
原因薬剤の調整 | ・特定の薬(降圧薬など)が原因と疑われる場合 | ・医師の判断で原因薬剤を中止、または変更することで、ブロックの改善を目指します。
ペースメーカー治療 | ・失神や強いめまいなどの症状がある場合 ・心停止リスクが高いタイプ(III度、II度Mobitz II型など) | ・心臓の拍動を補助する小さな装置を植え込み、脈が極端に遅くなるのを防ぎます。
また、房室ブロックは加齢や心臓の病気だけでなく、心臓弁膜症など、他の心臓病の手術がきっかけで起こることもあります。
実際に、心臓弁の手術後に新たな房室ブロックが発生し、ペースメーカー治療が必要になることは、以前から医療現場での課題として認識されていました。
しかし近年では、体への負担がより少ないカテーテルを用いた弁の治療法が登場しています。
従来の手術と比べて、術後に新たな房室ブロックが発生するリスクや、ペースメーカーが必要になる割合を減らせる可能性が報告されており、治療の選択肢は常に進歩しています。※
どの治療法が最適かは、専門医による正確な診断が不可欠です。
気になる症状がある場合や健康診断で指摘された場合は、ご自身の状態に合った治療法を見つけるためにも、まずは循環器内科へご相談ください。









