心房中隔欠損症
「最近、階段を上るだけで息が切れる」「なんだか疲れやすい」…その不調、年齢のせいだと諦めていませんか?実は、生まれつき心臓に開いている“小さな穴”が原因かもしれません。
心房中隔欠損症は、約1500人に1人の割合で見つかる先天性の心臓病です。子どもの頃は無症状なことが多く、大人になってからの動悸や息切れで初めて気づくケースも少なくありません。実際、成人で見つかる先天性心疾患では最も多いとされています。
この記事では、気づかれにくいこの病気の原因から症状、そしてカテーテル治療などの最新の治療法までを詳しく解説します。心臓からのサインを見逃していないか、ご自身の体調と照らし合わせてみましょう。
心房中隔欠損症の概要
心房中隔欠損症は、生まれつき心臓の壁に穴が開いている病気です。
心臓には血液を全身に送り出すポンプの役目があり、4つの部屋に分かれています。
このうち、上の2つの部屋(右心房と左心房)を仕切る壁に穴が開いている状態を指します。
この病気は、生まれつきの心臓の病気(先天性心疾患)の中では比較的多く見られます。
・頻度
全ての生まれつきの心臓病の、約6〜10%を占めます。
・割合
赤ちゃんが生まれる時点で、約1500人に1人の割合で見つかるといわれています。
・特徴
大人になってから見つかる心臓病の中では最も多く、男性よりも女性に多い傾向があります。
お母さんのお腹の中で赤ちゃんの心臓が作られるとき、この壁の穴は成長とともに自然に閉じていきます。
しかし、生まれた後も穴がふさがらずに残ってしまうことで、この病気が起こります。
なぜ穴が残ってしまうのか、その原因はまだ完全には解明されていません。
しかし、最近の研究で遺伝子の働きを調整する「非コードRNA」という物質が関係している可能性がわかってきました。
私たちの体の設計図である遺伝子の働きを調節するこの物質がうまく機能しないことが、穴が閉じない原因の一つではないかと考えられています。
子どもの頃は症状がほとんどなく、本人も気づかないまま過ごすことが多いです。
そのため、学校の健康診断で心臓の雑音を指摘されたり、大人になってから動悸や息切れなどの症状で受診したりして、初めて見つかるケースも少なくありません。
心房中隔欠損症の種類
心房中隔欠損症は、穴が開いている場所によって、主に4つのタイプに分けられます。
どのタイプかによって、症状の現れ方や治療法が変わることがあります。
種類 | 特徴
二次孔開存型 | 心房の壁の真ん中あたりに穴が開いている、最も一般的なタイプです。 心房中隔欠損症全体の約70%を占めています。
一次孔欠損型 | 心房の壁の下の方に穴が開いているタイプです。 心臓の部屋の仕切りである弁の形に異常を伴うことがあります。
静脈洞型 | 心房の壁の上の方に穴が開いているタイプです。 肺からの血液が戻る血管(肺静脈)とのつながりに異常を伴うことが多いのが特徴です。 このタイプは手術が必要になることが多いですが、多くの研究報告から手術の安全性は高いとわかっています。 ある大規模な研究では、手術による院内死亡率は0.24%と非常に低く、長期的な経過も良好であることが示されています。
冠静脈洞型 | 心臓の筋肉に血液を送った後の静脈が集まる部分の壁が欠けている、非常にまれなタイプです。
これらの種類がなぜ発生するのか、その詳しい仕組みはまだ研究の途中です。
しかし最近の研究では、遺伝子の働きを調整する「非コードRNA」という物質が関係している可能性が指摘されています。
この物質がうまく働かないことが、心臓の壁が作られる過程に影響するのではないかと考えられています。
こうした研究は、将来の新しい診断や治療法の開発につながると期待されています。
心房中隔欠損症の原因
心臓の壁に穴が開いてしまう原因は、お母さんのお腹の中で心臓が作られる過程にあります。
お腹の中の赤ちゃんは、誰でも心臓の壁に「卵円孔(らんえんこう)」というすき間が空いています。
これはお母さんから酸素や栄養をもらうために必要な、血液の通り道です。
そして通常、生まれた後には自然に閉じていきます。
しかし、この壁が作られる過程で何らかの異常が起こると、穴が残ってしまうのです。
なぜ壁がうまく作られないのか、そのはっきりとした原因はまだ完全には解明されていません。
しかし、最近の研究では遺伝子の働きを調整する物質が関係している可能性がわかってきました。
特に「非コードRNA」という物質が注目されています。
私たちの体の設計図である遺伝子の働きをオンにしたりオフにしたりする、スイッチのような役割を持つ物質です。
ある研究では、この病気を持つ患者さんの血液を調べたところ、特定の非コードRNAの働きに異常が見られることが報告されました。
このスイッチがうまく機能しないことで、心臓の壁が正しく作られないのかもしれません。
こうした研究は、将来の新しい診断や治療法の開発につながると期待されています。
心房中隔欠損症の症状
心臓の壁にあいている穴の大きさや、患者さんの年齢によって症状は大きく異なります。
穴がとても小さい場合は、生涯にわたって特に症状が出ずに過ごす人もいます。
赤ちゃんや子どものころの症状
生まれつき穴が大きいと、赤ちゃんの頃から心臓や肺に負担がかかり始めます。
これは、穴を通って血液が余分に肺へ流れてしまうためです。
その結果、肺や心臓が通常よりも多く働かなければならず、次のような症状が出ます。
・体重が増えにくい
ミルクを飲むのにも体力を使うため、たくさん飲めずに体重が増えにくくなります。
・呼吸が速く、苦しそうに見える
肺に血液が多く流れ込む負担から、呼吸が速くなったり息が苦しくなったりします。
・風邪をひきやすく、肺炎をおこしやすい
肺の血流が多いため、感染に弱くなり、風邪から肺炎へと重くなることがあります。
・活気がなく、疲れやすい
心臓が常にたくさんの血液を送り出そうと頑張っているため、疲れやすくなります。
大人の症状
子どもの頃は症状がなくても、年齢とともに心臓への負担は少しずつ積み重なります。
そのため、30代を過ぎた頃から、動悸や息切れなどの症状に気づくことが多くなります。
・動悸や息切れ
階段の上り下りなど、少し動いただけでも心臓がドキドキしたり息が切れたりします。
・疲れやすさ、だるさ
心臓の負担が大きくなり、全身に十分な血液を送るのが大変になるためです。
・顔や足のむくみ
心臓のポンプ機能が弱まると、体の中の水分がうまく流れなくなり、むくみが出ます。
・不整脈(心房細動など)
長年負担がかかった心臓は、リズムが乱れて不規則に拍動することがあります。
高齢になってから症状が出た場合でも、適切な治療で改善が期待できます。
複数の研究を分析した報告では、60歳以上で治療を受けた場合でも、
息切れなどの症状が改善し、生活の質が向上することがわかっています。
治療後に起こることがある症状
カテーテルという細い管を使った治療の後に、新たな症状として
「偏頭痛」が起こることがあると、複数の研究で報告されています。
この頭痛は、治療後1日から1年以内と、現れる時期に幅があるのが特徴です。
特に女性に多く見られる傾向がありますが、お薬で症状を和らげることが可能です。
治療後に気になる症状があれば、どんな小さなことでも遠慮なく医師に相談しましょう。
心房中隔欠損症の検査・診断
子どもの頃は症状がほとんどないため、学校の健康診断で初めて異常を指摘されることが少なくありません。
「心臓に雑音が聞こえる」「レントゲンで心臓の影が大きい」などが、病気が見つかるきっかけになります。
心房中隔欠損症を正確に診断するため、いくつかの検査を組み合わせて総合的に判断します。
主な検査方法は以下のとおりです。
・聴診
医師が聴診器を使い、心臓の音を聞く検査です。
穴を血液が通るときの「シュー」というような特徴的な音(心雑音)がないかを確認します。
・胸部レントゲン写真
心臓の大きさや形、肺の血管の状態を調べます。
心臓に負担がかかっていると、心臓の影が大きく写ることがあります。
・心電図
心臓が動くときの微弱な電気信号を記録する検査です。
不整脈の有無や、心臓の右側(右心房・右心室)への負担の大きさがわかります。
・心臓超音波検査(心エコー)
診断において中心的な役割を果たす、とても大切な検査です。
超音波で心臓の動きや血液の流れをリアルタイムに観察できます。
これにより、穴の場所や大きさ、血液がもれている量を正確に評価します。
これらの検査は診断を確定させるだけでなく、治療方針を決める上でも欠かせません。
例えば、右心室の大きさや肺動脈の圧力、心臓の負担を示す血液検査の数値(BNP)などを詳しく評価します。
ある研究では、これらの数値を調べることで、高齢の患者さんでも治療によって息切れなどの症状が改善するかどうかを予測できると報告されています。
より詳しく調べる必要がある場合は、胃カメラのように細い管を使う「経食道心臓超音波検査」を行うこともあります。
心房中隔欠損症の治療
心房中隔欠損症の治療は、穴の大きさや場所、年齢、症状などから総合的に判断します。
治療の目的は、心臓への負担を軽くし、将来起こりうる心不全や不整脈を防ぐことです。
治療法には、穴を直接ふさぐ根本的な治療と、症状を和らげるお薬の治療があります。
穴を直接ふさぐ治療
病気の原因である心臓の穴そのものを、ふさいでしまう治療法です。
主に「カテーテル治療」と「外科的治療」の2種類があります。
・カテーテル治療
足の付け根の血管からカテーテルという細い管を入れます。
そして、特殊な栓(閉鎖栓)を心臓まで運び、穴を内側からふさぎます。
体の負担が比較的少なく、60歳以上の方でも心臓の機能や体力が改善することが研究で示されています。
ただし、穴の形や場所によっては、この治療ができないこともあります。
また、治療後に一時的な偏頭痛が起こることがありますが、お薬で症状を和らげることが可能です。
・外科的治療
胸を開いて心臓の穴を直接縫い合わせるか、パッチという当て布でふさぐ手術です。
カテーテル治療が難しい場合に選ばれます。
特に「静脈洞型」というタイプでは、手術が標準的な治療法です。
大規模な研究報告から手術の安全性は高く、院内死亡率は0.24%と非常に低いことがわかっています。
症状を和らげる薬物治療
お薬の治療は、穴をふさぐものではありません。
息切れやむくみといった心不全の症状を軽くするための利尿薬などが使われます。
また、不整脈を抑える薬や、血の塊ができるのを防ぐお薬(抗凝固薬)を使うこともあります。
どの治療法が最も適しているかは、専門の医師が慎重に判断します。
治療について不安な点があれば、どんなことでも主治医とよく相談することが大切です。









