無気肺

息苦しさや咳が続き、肺の調子が悪いと感じていませんか。無気肺は、肺の一部がしぼみ、空気をうまく取り込めなくなる病態です。例えば、腹部大手術後に40.7%の患者に発生するとも報告されており、決して珍しい病気ではありません。

この記事では、無気肺の基本的な知識から、閉塞性、圧迫性、吸収性、収縮性といった主要な種類、そしてそれぞれの原因について詳しく解説します。

無気肺に関する理解を深めることで、ご自身の症状や予防策への意識が高まり、早期の発見と適切な対処につながるでしょう。

無気肺の概要

無気肺は、肺の一部または全体がしぼみ、空気をうまく取り込めなくなった状態を指します。呼吸に不可欠な肺の機能が十分に働かなくなる病態です。

私たちの肺は、小さな風船のような「肺胞(はいほう)」が無数に集まってできています。この肺胞は通常、空気で満たされ膨らんでいますが、なんらかの原因でつぶれてしまうと、空気が入らなくなり、酸素と二酸化炭素の交換が滞ってしまいます。これにより、本来の呼吸機能が十分に果たせなくなるのが無気肺です。

肺がしぼむと、体に必要な酸素を取り込む効率が低下します。具体的には、肺胞がつぶれた部分では酸素と二酸化炭素のガス交換ができなくなるため、血液中の酸素が不足しやすくなることがあります。この状態が、息苦しさや咳といった症状につながる可能性を指摘できます。

無気肺は、肺そのものの病気だけでなく、さまざまな病気や治療の合併症としても発生する病態です。たとえば、進行した肺がんの一種である「転移性非小細胞肺がん」の治療において、特定の薬剤(エパカドスタットとペムブロリズマブ)を併用した際に、重篤な有害事象の一つとして無気肺が報告されたケースもあります※。これは、特定の治療薬が肺に影響を及ぼし、肺胞のしぼみを引き起こす可能性を示唆しています。このように、無気肺は多岐にわたる状況で起こりうる病態であり、早期発見と適切な対処が重要です。

無気肺の種類

無気肺は、肺の一部または全体がしぼんでしまい、空気がうまく入らなくなる状態を指します。この状態は、原因や肺の状況によって主に4つのタイプに分けられ、それぞれに特徴があります。これらの種類を理解することは、適切な診断と治療に繋がると考えられます。

閉塞性無気肺

このタイプの無気肺は、肺へ空気を運ぶ通り道である気管や気管支が、何らかの理由で塞がれることで発生します。気道が詰まると、それより先の肺胞に空気が届かなくなり、肺胞が徐々につぶれてしまうのが特徴です。具体的には、次の状況で起こることが多くあります。

・痰(たん)の詰まり: 気管支に痰が大量に溜まり、空気の通り道を完全に塞いでしまうことがあります。特に、咳をする力が弱い高齢者や、気管に挿管チューブが入っている患者さんに起こりやすいと考えられています。

・吸い込んだ異物: 小さな子どもがピーナッツやおもちゃの部品などを誤って気管に吸い込んでしまうと、それが栓となって閉塞性無気肺を引き起こす可能性があります。

・腫瘍(しゅよう): 気管支の内側にできた腫瘍や、気管支を外から圧迫する腫瘍が空気の通り道を狭め、最終的に閉塞させることがあります。

圧迫性無気肺

圧迫性無気肺は、肺が外部から強く押されることで十分に膨らめなくなり、その結果としてしぼんでしまう状態です。肺の外側からの物理的な圧力が原因となるため、肺胞自体に問題がなくても発生します。

具体的な原因としては、以下のものが挙げられます。

・胸水(きょうすい): 肺を包む胸腔(きょうくう)という空間に水が溜まると、その重みで肺が押しつぶされてしまいます。

・気胸(ききょう): 肺の外側と胸壁の内側の間に空気が溜まることで、肺が空気の圧力によって圧迫され、しぼんでしまう状態です。

・大きな腫瘍: 肺の近くにできた大きな腫瘍が肺を物理的に圧迫し、膨らむのを妨げることがあります。

・横隔膜(おうかくまく)の動きの制限: 腹部大手術後など、横隔膜の動きが制限されると、肺が下から十分に広げられなくなります。実際、腹部大手術を受けた患者さんでは、術後合併症として無気肺の発生が報告されています※。これは、術後の痛みや安静によって、深呼吸がしづらくなることも影響していると考えられます。

吸収性無気肺

吸収性無気肺は、肺胞内の空気が血液中に吸収されることで、肺胞がしぼんでしまう現象を指します。このタイプの無気肺は、主に高濃度の酸素を吸入しているときに発生しやすい特徴があります。

・高濃度酸素吸入のメカニズム:

・通常の空気は、約80%の窒素と約20%の酸素で構成されています。窒素は血液に溶けにくい性質があるため、肺胞の形を保つ役割を果たしています。

・しかし、麻酔中や手術後などに高濃度の酸素を吸入すると、肺胞内の窒素の割合が相対的に少なくなります。

・肺胞内の酸素は血液中に速やかに吸収されますが、その際、代わりに残る窒素が少ないと、肺胞が形を保てなくなり、つぶれやすくなると考えられています。

・外傷患者における発生: 外傷患者に早期から高濃度の酸素療法を行った場合にも、呼吸器合併症の一つとして吸収性無気肺が見られることがあります※。これは、過剰な酸素投与が、かえって肺の保護機能に影響を与える可能性を示唆しています。

収縮性無気肺

収縮性無気肺は、肺の組織自体が硬くなり、本来のしなやかさを失ってしまうことで肺が広がれなくなり、しぼんでしまう状態です。肺の「実質的な病変」が原因となることが特徴です。

・肺線維症(はいせんいしょう): 肺の組織が硬く厚くなる病気です。この病気になると、肺胞の壁が線維化し、風船のように膨らむ弾力性が失われます。その結果、肺が十分に拡張できなくなり、無気肺を引き起こす可能性があります。

・その他の慢性炎症性疾患: 慢性的な肺の炎症や損傷が長期にわたって続くと、肺組織が変化し、収縮性の無気肺に繋がる場合もあると考えられています。

これらの無気肺の種類を知ることは、ご自身の症状や治療の理解を深める上でも役立ちます。気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。

無気肺の原因

無気肺は、肺がしぼむ原因となる多様な因子によって引き起こされます。この状態を引き起こす主な要因は、次の4つが挙げられます。

・気道の物理的な閉塞

体の防御反応として分泌される痰(たん)は、病気や体力低下で十分に排出されないと、気管支を塞いでしまいます。特に高齢の方や寝たきりの方、手術後の痛みで咳を我慢しがちな方は、痰が気道に留まりやすく、閉塞のリスクが高まるでしょう。また、小さな異物の誤嚥(ごえん)や、気管支内や周囲にできた腫瘍(しゅよう)が空気の通り道を塞ぐことも、無気肺の原因となります。

・肺外部からの圧迫

肺の周囲に異常な液体(胸水)や空気(気胸)が溜まると、風船のように膨らむはずの肺が外側から物理的に押し潰されます。例えば、胸水が肺を包む胸腔(きょうくう)に溜まると、その重みで肺が押し潰され、十分に膨らめなくなるのです。また、肺の近くにできた大きな腫瘍も同様に肺を圧迫し、一部がしぼんでしまう原因となることがあります。

・呼吸運動の障害

肺炎や喘息などの肺疾患、心不全、神経や筋肉の病気、あるいは術後の痛み止めによる呼吸抑制などによって、呼吸が浅くなったり、咳をする力が弱まると、肺の隅々まで空気が届かなくなります。これにより、肺胞が十分に膨らむ機会を失い、しぼんでしまうことがあります。深呼吸ができない状態が続くと、肺胞は虚脱(きょだつ)しやすくなると考えられています。

・肺胞の表面張力維持機能の低下(肺サーファクタントの不足)

肺胞の内部には、表面張力を低下させて肺胞がしぼまないようにする「肺サーファクタント」という物質が存在します。このサーファクタントが不足すると、肺胞は簡単に虚脱しやすくなります。特に早産で生まれた赤ちゃんは、肺が未熟なためサーファクタントの産生が十分でなく、無気肺を起こしやすい傾向が見られます。

これらの原因の中でも、手術後や外傷後の患者さんの管理においては、酸素療法の方法が無気肺の発生に影響を与える可能性があります。外傷患者を対象としたある研究では、酸素飽和度をやや低めに保つ「制限的酸素療法」を受けたグループは、より多くの酸素を供給する「寛容的酸素療法」を受けたグループと比較して、無気肺の発生率が有意に低かったと報告されています。具体的には、制限的酸素療法群で27.6%、寛容的酸素療法群で34.7%の無気肺発生率でした※。これは、過剰な酸素供給が肺胞のガス組成に影響を与え、吸収性無気肺を引き起こしやすくする可能性を示唆しています。術後や外傷後の集中治療においては、酸素療法の管理方法が、無気肺を含む呼吸器合併症のリスクに大きく影響すると考えられます。

無気肺の原因は多岐にわたるため、ご自身の状況や症状に合わせた適切な診断と対応が、重症化を防ぐために重要です。気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

無気肺の症状は、しぼんでいる肺の範囲や進行の速さによって、自覚症状がほとんどない軽度なものから、命に関わる重篤なものまで多岐にわたります。肺の空気がうまく入れ替わらず、体に必要な酸素が不足することで、さまざまな症状が現れます。

たとえば、大きな腹部手術後には、無気肺が呼吸器合併症の一つとして発生しやすいとされています。ある研究では、腹部大手術時に胸腔神経ブロック(TEA)を併用した全身麻酔を用いると、無気肺の発生率が有意に低くなる可能性が示されました(TEA併用群16.7%に対し、全身麻酔のみの群では40.7%)※。また、外傷を負った患者さんでは、酸素療法の管理方法によっても無気肺の発生率が変わる場合があります。制限的な酸素療法(動脈血酸素飽和度94%目標)を行ったグループでは、寛容的な酸素療法よりも無気肺の発生が少ないことが報告されています(それぞれ27.6%と34.7%)※。

無気肺によって現れる主な症状は以下のとおりです。

・息苦しさ、呼吸困難

肺がしぼむことで、空気を十分に取り込めなくなり、息苦しさや呼吸困難を感じることがあります。特に体を動かした時に強く感じる傾向が見られます。

・咳

気道に溜まった痰や分泌物を外に出そうとする体の防御反応として、咳が出ます。痰を伴う場合と伴わない場合があります。

・胸の痛みや不快感

無気肺の部位や原因によっては、胸部に鈍い痛みや圧迫感を覚えることがあります。これは、肺がしぼむことによる周囲組織への影響や炎症が関係する可能性を指摘できます。

・発熱

肺のしぼんだ部分に細菌が感染して肺炎を合併すると、発熱が見られることがあります。酸素が届きにくい環境では、細菌が増殖しやすいためと考えられます。

・頻脈(脈が速くなる)

体内の酸素が不足すると、心臓は不足した酸素を補うために、より速く血液を送り出そうとします。その結果、脈拍が速くなる頻脈になることがあります。

・酸素飽和度の低下

体内の酸素が不足している状態は、パルスオキシメーターで測定する酸素飽和度の数値に現れます。無気肺で肺の機能が低下すると、この数値が低くなる傾向があります。

・チアノーゼ

重度の酸素不足が起こると、唇や指先、爪などが青紫色に変色することがあります。これはチアノーゼと呼ばれ、体からの緊急性の高いサインです。

これらの症状は、急に現れることもあれば、ゆっくりと進行することもあります。特に、高齢の方や体の抵抗力が落ちている方、あるいはもともと肺に持病がある方は、体の回復力が低下しているため、無気肺が重症化しやすい傾向が見られます。気になる症状があれば、放置せずに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。

無気肺の検査・診断

無気肺の検査と診断は、肺がしぼむ原因を特定し、最適な治療方針を決定するために不可欠です。適切な診断は、患者さん一人ひとりに合わせた治療を速やかに開始することにつながります。

無気肺の診断では、患者さんの症状や全身状態を確認する問診や身体診察のほか、複数の検査を組み合わせて総合的に評価が進められます。

問診と身体診察

医師が患者さんの症状や病歴、生活習慣などを詳しく聞き取り、呼吸の音などを確認します。

胸部X線検査

肺がしぼんでいるかどうかを最初に確認する、もっとも一般的な検査です。X線画像から、肺のどの部分がどの程度しぼんでいるか、その範囲を大まかに把握できるため、まずはじめに実施されるケースが多いと考えられます。

CT検査(コンピュータ断層撮影)

胸部X線検査よりも詳細に、肺の状態を三次元的に確認できる精密検査です。肺がしぼんでいる具体的な場所や範囲はもちろん、その原因となっている腫瘍や異物なども特定できる可能性があります。

気管支鏡検査

口や鼻から細い管(気管支鏡)を挿入し、気管支の内部を直接観察する検査です。これにより、異物が詰まっている、あるいは腫瘍が気管支を塞いでいるなど、無気肺の直接的な原因を目で確認できることがあります。必要に応じて、病変の一部を採取し、詳しい病理検査を行うことも可能です。

これらの検査結果を総合的に評価することで、無気肺の正確な診断につながります。診断後は、その原因に応じた治療計画が立てられますが、特に手術を受ける患者さんにとっては、術後の無気肺を予防する対策も重要です。

例えば、腹部の大手術を受ける成人患者さんを対象とした研究では、胸部に局所麻酔薬を注入する胸腔神経ブロック(TEA:Thoracic Epidural Anesthesia)を全身麻酔と併用することで、術後の無気肺の発生率が有意に低くなることが報告されています。具体的には、全身麻酔のみの場合の発生率が40.7%であったのに対し、胸腔神経ブロックを併用した場合は16.7%に減少したとされています※。

この胸腔神経ブロックを併用した麻酔法(TEA-GA)は、腹部大手術、特に腹腔鏡手術において、術中の「駆動圧(ΔP:Driving Pressure)」と呼ばれる肺にかかる圧力を低下させる効果があることも示されています※。駆動圧とは、肺が呼吸によってどの程度の力で膨らまされているかを示す指標であり、これが高いと肺に過度な負担がかかると考えられています。この駆動圧が術後肺合併症(PPCs)の発生と関連している可能性も指摘されており、駆動圧を適切に管理することは、肺への負担軽減につながるといえるでしょう※。

このように、診断後の治療計画では、無気肺そのものの治療だけでなく、術後の予防策まで含めた多角的なアプローチが、患者さんの回復を支える上で非常に重要であると考えられます。

無気肺の治療

無気肺の治療は、しぼんでしまった肺を再び膨らませ、肺の機能を回復させることを目指します。治療法は、無気肺の原因や患者さんの全体的な状態によって、さまざまな方法が組み合わされて行われます。

無気肺の改善や予防のために、患者さんご自身で取り組めることも多くあります。

・深呼吸や意図的な咳: 意識的に深い呼吸をしたり、咳をしたりすることは、気道に溜まった痰などの分泌物を排出し、肺を広げやすくするのに役立ちます。手術後の痛みで咳を我慢しがちな場合は、痛み止めを適切に使いながら取り組むことが大切です。

・体位変換: 寝ている時間が長い場合、同じ体位でいると特定の部位に空気が貯留しやすくなります。定期的に体の向きを変えることで、肺のあらゆる部分に空気が届きやすくなり、無気肺を防ぐことにつながるでしょう。

医療機関では、セルフケアに加えて、専門的な治療や管理が行われます。

・薬物療法: 痰を出しやすくする薬(去痰剤)が処方されることがあります。痰がスムーズに排出されることで、気道閉塞による無気肺の改善が期待できます。

・吸入療法: 加湿された空気を吸入することで、気道の乾燥を防ぎ、痰を柔らかくして排出しやすくする効果があります。

・呼吸リハビリテーション: 専門家による指導のもと、呼吸筋を強化したり、効果的な呼吸法を習得したりすることで、肺の機能を改善し、無気肺の再発を防ぐことを目指します。

・原因疾患の治療: 無気肺が肺炎や喘息、心不全などの基礎疾患によって引き起こされている場合は、その病気に対する治療も同時に進めることが不可欠です。

特に、手術後の患者さんや重症外傷患者さんにおいては、無気肺の予防と管理が重要視されます。

・術後の無気肺予防と胸腔神経ブロック: 腹部の大きな手術を受ける成人患者さんでは、術後の無気肺発生リスクが高いとされています。しかし、全身麻酔に加えて胸部に局所麻酔薬を注入する胸腔神経ブロック(TEA: Thoracic Epidural Anesthesia)を併用することで、無気肺の発生率が有意に低下する可能性が示されました。ある研究では、全身麻酔のみの場合の無気肺発生率が40.7%であったのに対し、胸腔神経ブロックを併用した場合は16.7%に減少したと報告されています※。この胸腔神経ブロックは、手術中の肺にかかる圧力を示す「駆動圧(ΔP: Driving Pressure)」を低下させる効果も確認されており、駆動圧の適切な管理は肺への負担軽減につながると考えられています※。

・外傷患者における酸素療法の工夫: 重症の外傷患者さんでは、早期の酸素投与が必要ですが、過度な高濃度酸素療法には注意が必要です。動脈血酸素飽和度を目標値(例えば94%)に調整する「早期制限的酸素療法」が、寛容的酸素療法(高濃度酸素療法)と比較して無気肺の発生を抑制することが示されています。具体的には、早期制限的酸素療法を受けたグループでは無気肺の発生率が27.6%であったのに対し、寛容的酸素療法を受けたグループでは34.7%であったと報告されています※。これは、高濃度酸素が肺胞のガス組成に影響を与え、吸収性無気肺を引き起こしやすくする可能性があるためと考えられます。

無気肺の治療は、患者さん一人ひとりの状況に合わせた個別のアプローチが求められます。担当の医師や医療スタッフとよく相談し、適切な治療計画を立てて、早期の回復を目指しましょう。