人工流産

予期せぬ妊娠に直面し、誰にも相談できずに一人で悩んでいませんか。人工流産は、母体保護法に基づき妊娠22週未満までと定められた医療行為ですが、その内容について正確に知る機会は少ないかもしれません。

実は、妊娠の「初期」と「中期」では、手術の方法から入院の有無、法的な手続き、そして心身への負担が大きく異なります。この違いを知らないまま時間が過ぎてしまうと、選択肢が限られてしまう可能性もあります。この記事では、人工流産の正しい知識をわかりやすく解説します。ご自身の状況を客観的に理解し、最善の選択をするためにお役立てください。

人工流産の概要

人工流産とは、お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんが、体の外ではまだ生きていけない時期に、人の手によって妊娠を終えることです。 一般的には「中絶」とも呼ばれ、「人工妊娠中絶」というのが正式な医学用語になります。

日本では、「母体保護法」というお母さんの体を守るための大切な法律で、人工流産について次のように定められています。

  • 対象となる時期 妊娠22週未満(妊娠21週6日まで)と決められています。
  • 内容 お腹の中の赤ちゃんと、胎盤などの組織を、人工的に体の外に出すことです。

この手術は特別な理由がある場合にのみ行われます。 また、都道府県から指定された特別な資格を持つ医師(母体保護法指定医)だけが行える医療行為です。

妊娠が終わってしまうことを「流産」といいますが、その原因によって大きく2つに分けられます。

種類の名前

内容

自然流産

何らかのトラブルで、自然に妊娠が終わってしまうこと

人工流産

人の意思によって、意図的に妊娠を終わらせること

実は、自然流産は決して珍しいことではありません。 全ての妊娠のうち約15%は自然流産になるといわれ、誰にでも起こりうるものです。

自然流産が何度も繰り返される「習慣性流産」という状態もあります。 これには、体を守る仕組み(免疫)のバランスが関係している場合があり、そのバランスを整えることで出産率を高める治療法の研究も進められています。 このように、人工流産は法律にもとづいて行われ、自然に起こる流産とは区別される医療行為なのです。

人工流産の種類

人工流産は、妊娠している期間によって方法が大きく変わります。 これは、お腹の中にいる赤ちゃんの大きさが関係しているためです。 主に「初期中絶」と「中期中絶」の2つに分けられます。

初期中絶(妊娠12週未満)

妊娠12週(妊娠11週6日まで)より前に行われる手術です。 一般的に「子宮内容除去術」という方法がとられます。

  • 吸引法 細い管を子宮の中に入れ、掃除機のように内容物を吸い出す方法です。 体の負担が比較的少ないとされています。
  • 掻爬(そうは)法 特別な器具を使って、子宮の中を丁寧にかき出す方法です。

どちらの方法も手術は1日で終わり、入院の必要がない場合がほとんどです。

中期中絶(妊娠12週〜22週未満)

妊娠12週から22週未満(妊娠21週6日まで)に行われます。 この時期になると、赤ちゃんが大きくなるため、出産と同じような方法をとります。 お薬で人工的に陣痛を起こし、赤ちゃんを体の外に出します。

そのため、数日間入院する必要があり、体への負担も大きくなります。 また、法律上の手続きとして、役所に「死産届」を提出しなければなりません。

初期中絶

中期中絶

時期

妊娠12週未満

妊娠12週〜22週未満

方法

子宮の中をきれいにする手術

(吸引法・掻爬法)

陣痛を起こすお薬を使う

(分娩形式)

入院

日帰りがほとんど

数日間の入院が必要

手続き

特に必要なし

死産届の提出が必要

人の意思で妊娠を終える人工流産とは別に、望んでいるのに何度も流産を繰り返してしまう「習慣性流産」という状態もあります。

習慣性流産の原因の一つに、体を守る仕組み(免疫)のバランスが乱れている可能性が考えられています。 最近では、この免疫のバランスを整えるお薬を組み合わせることで、無事に出産できる確率を高める治療法の研究が進んでいます。

人工流産の原因

人工流産は、自然に起こる流産とは違い、ご本人の意思で妊娠を終えることです。 そのため、原因は病気などではなく、その方自身のさまざまな事情が関係します。

日本では、「母体保護法」という法律で、人工流産を行える条件が決められています。 主な理由は、以下の2つです。

  • 身体的・経済的な理由 妊娠を続けることや出産することが、お母さんの体に大きな負担をかける場合です。 また、経済的な事情で赤ちゃんを育てることがとても難しい場合も含まれます。
  • 望まない妊娠 性的な被害など、つらい出来事が原因で妊娠してしまった場合です。

これらは、自然に起こる流産とは原因がまったく異なります。 自然流産のほとんどは、お腹の赤ちゃん自身の染色体の問題で起こるものです。

また、何度も流産を繰り返してしまう「習慣性流産」という状態もあります。 この原因の一つに、体を守る仕組みである「免疫」のバランスの乱れが考えられています。 妊娠中は、赤ちゃんを異物とみなして攻撃しないよう免疫の働きが調整されます。 しかし、このバランスが崩れると、流産につながることがあるのです。 最近では、この免疫バランスを整えることで出産率を高める治療の研究も進んでいます。 このように、人工流産を選択する背景には、法律で定められたやむを得ない事情があるのです。

人工流産の症状

人工流産は病気ではないため、風邪のような症状が自然に出ることはありません。 ここでは手術の後に、体にどのような変化が起こるのか、また注意すべき点について解説します。

手術の後には、多くの場合で次のような体の変化が見られます。

  • 出血 手術の後、数日から2週間ほど、生理のような出血が続くことがあります。 出血の量は、時間が経つにつれて少しずつ減っていくのが一般的です。
  • お腹の痛み 子宮が妊娠前の大きさに戻ろうとして縮むため、生理痛に似た痛みを感じます。 この痛みも、通常は数日で自然に落ち着いていきます。
  • 熱 手術の後に、少し熱が出ることがあります。 しかし、もし高い熱が続くようなら、感染症のサインかもしれません。

これらの変化は一時的なものがほとんどですが、まれに合併症というトラブルが起こる可能性もあります。

注意すべき合併症の種類

どんなことが起こるか

子宮内容物遺残

子宮の中に組織の一部が残ってしまう状態です。

出血が長く続いたり、お腹の痛みの原因になったりします。

感染症

手術の際に細菌が入り、子宮の中で炎症を起こすことです。

高い熱が出たり、強い腹痛を感じたりします。

子宮穿孔(しきゅうせんこう)

手術に使う器具で、子宮の壁に小さな穴が開いてしまうことです。

通常、一度の人工流産手術が、その後の妊娠に大きく影響することはほとんどありません。 しかし、何度も流産を繰り返してしまう「習慣性流産」という状態では、体を守る「免疫」のバランスが関係している可能性が指摘されています。

妊娠中は、お腹の赤ちゃんを異物とみなして攻撃しないよう、免疫の働きが自然に調整されます。 この大切なバランスが崩れると、流産につながることがあるのです。 最近の研究では、この免疫のバランスを整えることで、無事に出産できる確率を高める治療法も進められています。 何か気になる体の変化があれば、遠慮せずに手術を受けた病院へ相談しましょう。

人工流産の検査・診断

人工流産の手術を安全に進めるためには、事前の検査が欠かせません。 お母さんの体の状態を正確に知ることで、負担を最小限に抑えるためです。 まず、問診で最終月経日やこれまでの病気、アレルギーの有無を伺います。

次に、とても大切なのが超音波(エコー)検査です。 お腹や腟(ちつ)から器具をあてて、子宮の中の様子を映像で確認します。 この検査で、手術に必要な以下の情報を正確に把握します。

  • 妊娠週数の確定 手術の方法は妊娠週数によって大きく変わるため、最も重要な情報です。
  • 正常な妊娠かの確認 まれに子宮の外で妊娠する「子宮外妊娠」という危険な状態でないか確認します。
  • 胎児の大きさや心拍の有無 子宮の中の状態を詳しく見て、手術計画を立てます。

手術をより安全に行うため、血液検査で貧血や感染症の有無も調べます。

もし、何度も流産を繰り返す「習慣性流産」の経験がある場合は、さらに詳しい検査を行うことがあります。 私たちの体には、細菌などから身を守る「免疫」という仕組みがあります。 妊娠中は、赤ちゃんを異物と間違えて攻撃しないよう、この免疫のバランスが絶妙に調整されています。 このバランスは「Th1/Th2バランス」と呼ばれ、崩れると流産の原因になることがあります。 近年の研究では、この免疫バランスを整えることで、無事に出産できる確率が高まることが報告されています。 特別な血液検査でこのバランスを調べることは、原因を探り、次の妊娠につなげるための大切な一歩となります。

人工流産の治療

人工流産の治療法は、妊娠の時期によって方法が大きく異なります。 これは、お腹の中の赤ちゃんの大きさに合わせて、お母さんの体への負担をできるだけ少なくするためです。 主に「初期」と「中期」の2つに分けられます。

妊娠初期(妊娠12週未満)の手術

この時期は「子宮内容除去術」という、子宮の中をきれいにする手術が行われます。 多くの場合、手術はその日のうちに終わり、入院の必要はありません。

  • 吸引法 細い管を子宮に入れ、掃除機のように内容物を優しく吸い出す方法です。 手術時間が短く、体へのダメージが少ないため、現在よく選ばれています。
  • 掻爬(そうは)法 スプーンのような特別な器具を使い、子宮の中を丁寧にかき出す方法です。

妊娠中期(妊娠12週〜22週未満)の手術

この時期になると赤ちゃんが大きくなるため、お産と同じような方法をとります。 お薬を使って人工的に陣痛を起こし、出産と同じ形で赤ちゃんを体の外に出します。 そのため数日間の入院が必要で、体や心、費用面での負担も大きくなります。

時期

主な方法

特徴

妊娠初期

(〜11週6日)

子宮の中をきれいにする手術

(吸引法など)

・日帰り手術がほとんど

・体への負担が比較的少ない

妊娠中期

(12週0日~21週6日)

お薬で陣痛を起こす方法

・数日間の入院が必要

・体や心への負担が大きい

妊娠を続けたい場合の治療

一方で、ご自身の意思とは関係なく、何度も流産を繰り返してしまう「習慣性流産」という状態もあります。 この原因の一つに、体をバイ菌などから守る「免疫」という仕組みのバランスの乱れが考えられています。 最近の研究では、この免疫のバランスを整える治療法が進んでいます。 例えば、免疫の働きを調整するお薬と、体を整える漢方薬を一緒に使うことで、無事に出産できる確率が高まったという報告もあるのです。 どのような状況であっても、まずは信頼できる医師に相談することが大切です。