およそ5,000人の赤ちゃんに1人の割合でみられる「鎖肛」。これは、生まれつきおしりの穴がない、または本来あるべき場所とは違う位置にある病気です。大切な便の出口がないこの状態は、聞くだけでご家族の心に大きな不安がよぎるかもしれません。もちろん、治療には手術が不可欠です。
しかし、本当に知っておくべきなのは、その先のことではないでしょうか。研究報告からも、手術で見た目の形を整えることができても、便をためたりスムーズに出したりする機能が完全に回復するとは限らない、という事実がわかっています。だからこそ、この病気には生涯にわたるケアと支援が何よりも大切なのです。
この記事では、鎖肛の原因から種類別の治療法、そしてお子さんが成長した後の生活まで、長期的な視点で詳しく解説します。正しい知識が、未来への確かな一歩につながります。
鎖肛の概要
鎖肛(さこう)は、生まれつき肛門の穴がない、 または肛門が本来あるべき場所とは違う位置にある病気です。 おしりの穴は、便を体の外に出すための大切な出口です。
この病気は、およそ5,000人の赤ちゃんに1人の割合でみられます。 まれな病気ではありますが、消化管の生まれつきの病気の中では、 比較的多いものとして知られています。
肛門が正常に機能しないため、鎖肛の赤ちゃんは 便をうまく体の外に出すことができません。 この状態を解決するためには、手術による治療が必要です。
手術で肛門の形を整えることはできますが、 それで治療が終わりというわけではありません。 研究でも、手術で見た目の形を治すことができても、 機能が完全に回復するとは限らないことがわかっています。
そのため、便をためたりスムーズに出したりする機能には 課題が残ることが多く、生涯にわたる支援が重要になります。 治療の目標は単に形を治すことだけでなく、 お子さんが成長した後も快適な社会生活を送れるように、 長期的にサポートしていくことなのです。
鎖肛の種類
鎖肛とひとことで言っても、いくつかの種類(タイプ)に分けられます。 どのタイプかによって、手術の方法やその後の生活の見通しが変わります。 そのため、最初に種類を正確に診断することが、治療の第一歩です。
分類のポイントは、主に次の2つです。
- 直腸の終わりの位置(高さ)
- 瘻孔(ろうこう)という異常な通り道の有無と場所
1. 直腸の終わりの位置(高さ)による分類 うんちが最後に溜まる「直腸」という部分が、本来おしりの穴があるべき場所から、どれくらい離れているかで3つのタイプに分かれます。
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タイプ
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直腸の終わりの位置
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高位型
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本来の肛門の位置から遠い
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中間位型
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高位型と低位型の中間の高さ
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低位型
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本来の肛門の位置から近い
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2. 瘻孔(ろうこう)の有無と場所による分類 瘻孔とは、直腸が本来とは違う場所につながってしまう異常な通り道です。 研究報告によると、男の子ではおしっこの通り道である尿道や膀胱に、女の子では膣などにつながるタイプがみられます。
これらの「高さ」と「瘻孔」の情報を組み合わせ、国際的な分類(Krickenbeck分類)などを用いて、赤ちゃんの状態を正確に診断します。 この分類は手術方法を決めるだけでなく、将来の排便機能を見通すためにも非常に重要です。
手術で見た目の形を整えることができても、完全に機能が回復するとは限らないという報告もあります。 だからこそ、この最初の分類に基づいて、一人ひとりに合った長期的な治療計画を立てていくことが大切なのです。
鎖肛の原因
鎖肛がなぜ起こるのか、その原因はまだ完全には解明されていません。 しかし、お母さんのお腹の中で赤ちゃんが作られる、 妊娠初期の体の成り立ちが関係していると考えられています。
赤ちゃんの体ができる最初の頃、うんちとおしっこの通り道は、 「総排泄腔(そうはいせつこう)」という一つの袋になっています。 それが成長とともに分かれ、直腸や肛門、膀胱が作られます。 この分かれる過程がうまくいかないと、鎖肛が起こるとされます。
近年の研究では、いくつかの要因が関わっていると分かってきました。
- 体の設計図(遺伝子)の働き 体の各部分を正しく作るための命令系統に、 何らかの変化が起きることが原因の一つと考えられています。 特に、体の形作りに関わる重要な遺伝子群の働きが、 関係している可能性が研究で指摘されています。
- 他の病気との関連 鎖肛は、心臓や背骨、腎臓、手足などの病気と、 一緒に見つかることがあります(VACTERL連合)。 このことから、体の広い範囲の成長に関わる、 共通の原因があるのではないかとも考えられています。
原因は一つではなく、これらの要因が複雑に絡み合っているようです。 大切なのは、これはお父さんやお母さんのせいではないということです。 また、妊娠中に何かをすることで防げる病気でもありません。
鎖肛の症状
鎖肛の症状は、おしりの見た目の異常だけではありません。 便を体の外に出せないことで、様々なサインとして現れます。 多くは生まれてすぐの診察で見つかりますが、 症状の出かたはお子さんによって少しずつ違います。
生まれてすぐの赤ちゃんにみられる主な症状は次の通りです。
- 胎便(たいべん)が出ない 健康な赤ちゃんは、通常24時間以内に お腹の中にいた時の便(胎便)をします。 しかし、鎖肛の場合は便の出口がないため出ません。
- お腹がパンパンに張る 便やガスが体の中にたまってしまい、 お腹が風船のように張って苦しそうに見えます。
- ミルクを吐いてしまう 飲んだミルクが腸で詰まってしまい、 逆流して吐き戻してしまうことがあります。
また、「瘻孔(ろうこう)」という異常な通り道が あるかどうかで、症状の現れ方が変わります。 瘻孔とは、うんちの通り道(直腸)が、 おしっこや膣など本来と違う場所につながるトンネルです。
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性別
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瘻孔がある場合の症状の例
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男の子
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おしっこの通り道とつながり、尿に便が混じったり、おしっこから便のにおいがしたりします。
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女の子
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膣(ちつ)とつながり、膣から便が漏れ出てくることがあります。
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この瘻孔が小さいと、少しずつ便が出ているため、 すぐには病気に気づかれないこともあります。 その場合、幼児期に「ひどい便秘」として見つかることも珍しくありません。
便がたまり続けると、まれに腸が破れてしまうこともあります。 これはお腹の中で重い炎症(腹膜炎)を起こす危険な状態です。 研究でも、手術で形を整えた後も、便秘や便もれといった 胃腸の症状が長く続くことが報告されています。 そのため、生涯にわたるケアが大切になるのです。
鎖肛の検査・診断
鎖肛は、多くの場合、赤ちゃんが生まれてすぐの診察でわかります。 おしりの見た目に異常があることや、お尻から体温を測る際に 体温計がうまく入らないことが、発見のきっかけになります。
病気を見つけたら、より詳しく状態を調べる検査に進みます。 これらの検査は、手術の方法を決め、その後の生活を見通すための 非常に大切な情報を集めることが目的です。
- レントゲン検査・超音波(エコー)検査 お腹のレントゲンやエコーを使って、 うんちが最後にたまる場所(直腸)がどこで終わっているか、 その「高さ」を調べます。この高さによって、 鎖肛のタイプ(高位型・中間位型・低位型)が決まります。
- 瘻孔(ろうこう)造影検査 うんちの通り道が、おしっこや膣など、 本来とは違う場所につながっていないかを調べます。 この異常なトンネル(瘻孔)の場所を正確に知ることは、 手術の方法を決める上でとても重要です。
また、鎖肛の赤ちゃんは、体の他の部分にも生まれつきの病気を 持っていることがあるため、全身のチェックも欠かせません。 特に「VACTERL(バクテル)連合」と呼ばれる状態がないかを確認します。
研究報告によると、鎖肛のお子さんには、 次のような体の異常が一緒に見られることがあります。
- V:背骨の異常
- A:鎖肛
- C:心臓の異常
- TE:気管や食道の異常
- R:腎臓の異常
- L:手足の異常
これらの病気がないか、胸のレントゲン検査や、 心臓・お腹の超音波検査で詳しく調べていきます。 似たような症状を示す他の病気としっかり見分けるためにも、 これらの検査は非常に大切です。 正確な診断こそが、その子に合った治療への第一歩となるのです。
鎖肛の治療
鎖肛の治療は、手術でおしりに新しい肛MONSTERをつくることが基本です。 治療の目標は、単に形を整えることだけではありません。 お子さんが成長した後も、排便のことで困らない生活を送れるよう、 長期的な視点でサポートしていくことが最も重要になります。
手術の方法はタイプで決まる
手術の方法は、うんちの通り道の終わりの位置で決まる 鎖肛のタイプによって、大きく異なります。
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タイプ
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主な手術の流れ
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低位型
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生まれてすぐの時期に、1回の手術で肛門をつくることが多いです。術後のうんちの状態も、比較的良好な場合が多いとされています。
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中間型・高位型
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体への負担を考え、多くは手術を2回に分けて行います。
1. 人工肛門をつくる手術:まず、お腹に一時的にうんちの出口(人工肛門)をつくります。これにより、赤ちゃんは安全にミルクを飲んで成長できます。
2. 肛門をつくる手術:体が大きくなってから、おしりに新しい肛門をつくります。その後、お腹の人工肛門を閉じます。
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最近の研究では、より精密な手術を行うため、 ロボットの支援を得て手術を行うことも増えてきました。 ロボット支援手術は、体の働きに大切な神経を守りながら、 安全に手術を行える可能性があると期待されています。
手術後のケアと生活
手術が終わった後も、大切なケアが続きます。 ご家族と医療スタッフがチームとなって、長い目で支えることが重要です。
- 術後のケア 手術でつくった肛門が狭くならないように、 特別な器具で広げるケア(肛門拡張)を行うことがあります。 しかし、近年の研究では、このケアが全てのお子さんに 必ずしも必要ではない可能性も指摘されています。 そのため、一人ひとりの状態に合わせて慎重に判断します。
- 排便トレーニング 手術をしても、すぐには自分でうまく排便できません。 お薬を使ったり、決まった時間にトイレに座る練習をしたりして、 排便のリズムを整えるトレーニングを根気強く行います。
- 長期的なフォロー 大人になってから、おしりから腸が出てしまう「直腸脱」が 起こることもあります。その場合も、患者さんごとの 体の状態に合わせた手術で治療が可能です。 治療は乳幼児期で終わりではなく、生涯にわたる見守りが必要です。