急性外陰潰瘍

デリケートゾーンに突然現れた強い痛みを伴う潰瘍に、「もしかして性感染症では」と不安を感じていませんか。その症状は、主に思春期から20代の若い女性に見られる「急性外陰潰瘍(リプシュッツ潰瘍)」という、性交渉とは無関係の病気の可能性があります。

この記事では、急性外陰潰瘍の詳しい症状や原因、性感染症との違いを解説します。つらい痛みを和らげる治療法や、自然に治ることが多いとされる経過、似た症状を持つ他の病気との見分け方についても詳しく紹介します。

ご自身の症状について正しく理解することで、過度な不安を和らげ、適切な対処法を知ることができます。一人で悩まず、専門の医療機関を受診するきっかけとして、ぜひ最後までお読みください。

急性外陰潰瘍の概要

急性外陰潰瘍は、主に思春期から20代の若い女性の外陰部に、ある日突然、強い痛みを伴う潰瘍(かいよう)ができる病気です。

「リプシュッツ潰瘍」とも呼ばれ、デリケートゾーンに予期せぬ症状が現れるため、多くの方が性感染症ではないかと強い不安を感じて受診されますが、原因は全く異なります。

この病気の主な特徴は以下のとおりです。

・性交渉とは無関係

性交渉の経験がない方にも発症します。

・遺伝しない

ご家族に同じ病気の方がいなくても発症する可能性があります。

・自然に治りやすい

ほとんどの場合、2〜6週間ほどで自然に治癒し、傷跡も残りにくいとされています。

このように、急性外陰潰瘍は性行為によってうつしたり、うつされたりする病気ではありません。

英国の性感染症・HIV学会(BASHH)による2024年の診療ガイドラインでも、急性外陰潰瘍は適切な診断と管理が求められる「非感染性の外陰部疾患」として明確に位置づけられています※。

突然の強い痛みは大きなストレスとなりますが、まずは落ち着いて専門の医療機関で正確な診断を受けることが、不安を解消するための第一歩といえます。

急性外陰潰瘍の種類

急性外陰潰瘍は、症状の重さや潰瘍の状態に応じて、主に3つのタイプに分類されます。

外陰部には皮膚炎や感染症をはじめ、さまざまな病気が考えられるため、良性の潰瘍と他の病気を正確に見分ける鑑別診断が重要です※。

ご自身の症状がどのタイプにあたるか、以下の表で目安を確認してみましょう。

種類 | 主な特徴

壊疽(えそ)型 | ・最も重い症状が現れるタイプ ・潰瘍の表面に黄色〜灰黒色の壊死した組織(偽膜:ぎまく)が付着 ・組織が欠けてしまうこともある ・発熱や強いだるさといった全身症状を伴うことが多い

下疳(げかん)型 | ・最もよくみられる一般的なタイプ ・比較的浅い潰瘍が複数できる ・症状は壊疽型より軽い傾向 ・治っては新しい潰瘍ができることを繰り返す場合がある

粟粒(ぞくりゅう)型 | ・最も症状が軽いタイプ ・針の頭からお米の粒ほどの小さな潰瘍が多発する ・治りが早い傾向にあるのが特徴

タイプによって症状の現れ方は異なりますが、いずれの場合も専門家による診断が欠かせません。

外陰部の病変は、専門の医師でなければ良性か、あるいは他の皮膚疾患なのかを見分けるのが難しいことがあります※。つらい痛みを我慢せず、まずは医療機関で正確な診断を受けましょう。

急性外陰潰瘍の原因

急性外陰潰瘍のはっきりとした原因はまだ解明されていませんが、何らかの感染症をきっかけとした体の「免疫システムの過剰な反応」が深く関わっていると考えられています。

この病気は、多くの場合、先行するウイルス感染が引き金となります。特に、キスなどを介して感染し「伝染性単核球症」という風邪に似た症状を引き起こすEBウイルスとの関連が最も多く報告されています。

関連が指摘されている主なウイルスや細菌は、以下のとおりです。

・EBウイルス(伝染性単核球症の原因)

・サイトメガロウイルス

・インフルエンザウイルス

・マイコプラズマ

これらのウイルス感染は、外陰部の症状だけでなく、身体的・心理的な苦痛を伴うため、適切な診断とケアが求められます※。

感染症だけでなく、体の免疫反応そのものが潰瘍の直接的な原因になることもあります。

例えば、新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチン接種後に急性外陰潰瘍を発症したケースが世界保健機関(WHO)のデータベースにも複数報告されています。これは、ワクチンによって活性化された免疫システムが過剰に反応し、自分自身の体を攻撃してしまうことで潰瘍ができたという仮説が立てられています※。

専門的には、この現象を「III型過敏反応」と呼びます。異物(ウイルスやワクチン成分)と戦うために作られた抗体が、異物とくっついて「免疫複合体」という塊を作り、この塊が血管などに付着して炎症を引き起こす仕組みです※。

その他、まれにベーチェット病という全身性の炎症性疾患の一症状として、外陰部に潰瘍が現れることもあります。

最も重要な点は、急性外陰潰瘍は性感染症ではないということです。そのため、性的な接触でうつしたり、うつされたりする心配は一切ありません。

急性外陰潰瘍の症状

急性外陰潰瘍の症状は、外陰部に突然現れる激しい痛みを伴う潰瘍(かいよう)が中心で、多くの場合、発熱やだるさといった全身症状も伴います。

この痛みは非常に強く、特に性交渉の経験がない思春期前後の女性に多くみられるため、ご本人だけでなくご家族にも大きな不安を与えます※。

症状は、患部に直接現れる「局所症状」と、体全体に広がる「全身症状」の2つに分けられます。

局所症状:デリケートゾーンのつらい症状

生活に支障をきたすほどの強い痛みが、局所症状の最も大きな特徴です。

・突然の激しい痛み

何もしていなくてもズキズキと痛み、歩行や着席といった日常の動作さえ困難になることがあります。

・排尿時の痛み

潰瘍に尿が直接触れるため、排尿時にやけどのような、しみる激痛を感じます。

・外陰部の腫れ

患部全体が赤く腫れあがり、熱っぽさを感じることもあります。

中心となる潰瘍の症状には、以下のような特徴がみられます。

項目 | 特徴

できる場所 | ・小陰唇の内側が最も多い ・向かい合わせに左右対称にできる「対吻(たいふん)潰瘍」が特徴的

潰瘍の見た目 | ・大きさは直径1cm以上になることも ・潰瘍の底は、灰色の滲出液や黒いかさぶたで覆われる ・潰瘍の周りは赤紫色に腫れる

全身症状:体全体に現れる不調

外陰部の症状とほぼ同時に、風邪に似た以下のような不調が現れることがあります。

・発熱(38度以上になることも)

・体のだるさ(倦怠感)

・足の付け根(鼠径部)にあるリンパ節の腫れと痛み

これらの症状は、原因の項目で解説したウイルス感染など、体に起きていた不調が引き金となって現れると考えられています。

突然の激しい痛みと痛々しい見た目のため、多くの方が性感染症を心配されますが、急性外陰潰瘍は性交渉とは一切関係ありません。正しい診断のもとで適切なケアを行えば痛みは和らいでいきますので、一人で悩まずに婦人科や皮膚科を受診してください。

急性外陰潰瘍の検査・診断

急性外陰潰瘍の診断は、まず特徴的な症状を詳しく確認し、似た症状を持つ他の病気の可能性を慎重に除外していく「除外診断」という方法で行われます。

この病気だけを特定する確定的な検査法が存在しないため、問診と視診で得られる情報が診断の第一歩となります。

問診・視診で確認する主な項目

つらい症状の原因を正確に突き止めるため、医師は以下のような点を確認します。

確認項目 | 診察で見るポイントや質問内容

問診 | ・いつから、どのような症状があるか ・発熱やだるさといった全身症状の有無 ・性交渉の経験があるか(性感染症との見分けに重要です)

視診 | ・潰瘍の場所、大きさ、形、数 ・左右対称に潰瘍ができているか(特徴的な「対吻性潰瘍」の有無)

他の病気との見分け(鑑別診断)

外陰部には皮膚炎や感染症をはじめ、さまざまな病気が考えられます。そのため、良性の潰瘍と他の病気を正確に見分ける鑑別診断が何よりも重要です※。

突然の激しい痛みや痛々しい見た目から、多くの方が性感染症を心配されますが、それ以外の病気の可能性も考える必要があります。

鑑別のために、以下のような病気を調べる検査を追加することがあります。

鑑別が必要な主な病気 | 症状の違いや検査のポイント

性器ヘルペス | ・小さな水ぶくれが集まってでき、それが破れて潰瘍になることが多い ・血液検査や、潰瘍の部分を綿棒でこすってウイルスを調べる検査で確認

梅毒(第1期) | ・「初期硬結」と呼ばれる硬いしこりができ、その後できる潰瘍は痛みがほとんどないのが特徴 ・血液検査で感染の有無を確認

ベーチェット病 | ・外陰部だけでなく、口の中に繰り返し口内炎ができたり、皮膚や目に症状が現れたりする ・特徴的な症状の組み合わせや経過から総合的に診断

これらの診察や検査の結果を総合的に評価し、他の病気の可能性がすべて否定された時点で、初めて「急性外陰潰瘍」と診断が確定します。つらい症状に一人で悩まず、まずは専門の医療機関で正確な診断を受けることが、不安を和らげるための近道です。

急性外陰潰瘍の治療

急性外陰潰瘍の治療は、激しい痛みをはじめとした、つらい症状を和らげる「対症療法」が基本です。

この病気は2〜6週間ほどで自然に治癒へ向かうことが多いため、治療のゴールは病気そのものを根治させることではなく、治癒までの期間をいかに快適に乗り切るかに置かれます。

ただし、治療を始める前には、性器ヘルペスやベーチェット病といった他の病気ではないことを正確に診断することが不可欠です※。

具体的な治療法は、主に「患部のケア」と「痛みの管理」の2つのアプローチで行います。

ケアの種類 | 具体的な方法とポイント

患部の清潔保持 | ・温かいお湯での坐浴(お尻だけをお湯につける方法) ・シャワーで患部を優しく洗浄する 目的:二次的な細菌感染を防ぎ、清潔な状態を保つ

痛みの管理 | 【塗り薬】 ・リドカインなど局所麻酔成分を含むゼリーや軟膏を使用 ・特に痛みが強い排尿の前に塗布すると、しみる激痛を効果的に軽減できる 【飲み薬】 ・塗り薬だけでは痛みが治まらない場合、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)といった痛み止めを服用

潰瘍の部分から細菌感染を合併していると判断された場合は、抗生物質が処方されることもあります。

ほとんどの場合はご自宅での療養で改善に向かいますが、痛みが極めて強い、排尿が全くできないなど、症状が重い場合には入院治療が必要となるケースも考えられます。

英国の診療ガイドラインでも、症状に応じて専門施設へ紹介することが推奨されています。当院でも、必要に応じて連携する高次医療機関へ速やかにご紹介しますので、ご安心ください※。