小腸内細菌異常増殖症(SIBO)
過敏性腸症候群(IBS)の治療を続けても、お腹の張りや便通異常が改善しないと感じていませんか。IBSと診断された方の約4割がSIBOを合併しているというデータもあり、その不調は小腸内細菌異常増殖症(SIBO)が原因かもしれません。
SIBOは、本来は清潔な小腸で細菌が異常に増え、ガスを発生させることでさまざまな不調を引き起こす病気です。この記事では、SIBOの詳しい症状や原因、そして具体的な検査から治療法までをわかりやすく解説します。
ご自身の状態と照らし合わせながら読み進めることで、長引く不調の根本原因を理解し、次にとるべき適切な行動が見えてきます。
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の概要
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)は、本来ほとんど細菌がいないはずの小腸内で、細菌が異常に増殖してしまう病気です。
健康な人の小腸は、胃酸による殺菌作用や、腸が常に動いていることで、細菌が住み着きにくい清潔な環境が保たれています。
しかし、何らかの原因でこの仕組みがうまく働かなくなると、小腸に細菌がすみ着いて過剰に増殖。私たちが食べたもの、特に糖質などをエサにして異常な発酵を起こし、水素やメタンといったガスを大量に発生させます。
このガスこそが、
・お腹の張り(腹部膨満感)
・頻繁なげっぷやおなら
・下痢や便秘などの便通異常
といった、つらいお腹の不調を引き起こす直接の原因です。
これらの症状は、過敏性腸症候群(IBS)と非常によく似ています。それもそのはずで、機能性消化管疾患(IBSなど)の患者さんにおけるSIBOの有病率は39.0%にのぼり、健常者の11.5%と比べてSIBOを発症するリスクが約5.27倍も高いことが研究で明らかになっています※。
「IBSと診断されたけれど、治療してもなかなか良くならない」という方の背景には、SIBOが隠れているケースが少なくありません。
放置すると、腸での栄養吸収が妨げられたり、腸のバリア機能が壊れて全身の不調(リーキーガット症候群)につながったりする可能性もあるため、見過ごすことのできない病気といえます。
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の種類
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)には、それ自体を医学的に分類する確立された定義はありません。
しかし、ご自身の症状を理解する上で、「どのような不調が起きているか」という視点からパターン分けして考えることが、診断や治療への大きな一歩となります。
SIBOは、原因がはっきりしないお腹の不調、いわゆる機能性消化管疾患と合併することが非常に多いのが特徴です。実際に、どのような疾患と関連が深いのか、具体的な合併率を見ていきましょう。
関連する疾患 | SIBOの合併率
過敏性腸症候群(IBS) | 40.4%
(うち下痢型:IBS-D) | 41.3%
機能性便秘(FC) | 37.9%
機能性ディスペプシア(FD) | 30.1%
このように、長引く下痢や便秘、胃のもたれといった症状の背景には、SIBOが隠れている可能性が十分に考えられます※。
過敏性腸症候群(IBS)とSIBO
「IBSと診断されたけど、治療しても一向に良くならない」という方の約4割にSIBOが合併しているというデータは、両者の深い関係性を示唆しています。
特に、急な下痢を繰り返す「下痢型IBS(IBS-D)」では合併率が最も高く、SIBOによって発生するガスが腸の動きを過剰に刺激している可能性が指摘されています。
機能性便秘(FC)とSIBO
一方で、「原因不明の頑固な便秘」に悩む方の背景にも、SIBOが潜んでいるケースは少なくありません。
この場合、腸の動きを鈍らせる作用のある「メタンガス」が小腸内で過剰に産生されていることが、便秘の一因となっている可能性があります。
機能性ディスペプシア(FD)とSIBO
胃カメラでは異常がないのに、胃もたれや早期満腹感(すぐに満腹になる感覚)に悩まされる機能性ディスペプシア。
この症状も、小腸の上部で発生したガスが胃を物理的に圧迫し、不快感を引き起こしていることが考えられます。
ご自身の症状がどのパターンに近いかを把握することは、根本的な原因を探るための重要な手がかりといえます。
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の原因
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)は、小腸を清潔に保つための「防御システム」が、何らかの理由で崩れてしまうことで発症します。
私たちの小腸には、もともと細菌の侵入や増殖を防ぐ、巧妙な仕組みがいくつも備わっています。しかし、その防御力が弱まると、細菌が住み着きやすい環境が生まれてしまうのです。
特に、原因不明のお腹の不調を抱える機能性消化管疾患の患者さんがSIBOを発症するリスクは、健康な人と比べて約5.27倍も高いことが研究で明らかになっています※。
SIBOを引き起こす代表的な要因と、そのメカニズムを下表に整理します。
主な要因 | なぜSIBOにつながるのか?(メカニズム)
① 胃酸の分泌低下 | ・胃酸は、食べ物と一緒に口から入る細菌を殺菌する「最初の関門」です。 ・加齢やピロリ菌感染、胃酸を抑える薬(PPI:プロトンポンプ阻害薬など)の長期使用で胃酸が減ると、細菌が生き残りやすくなります。
② 小腸の動きの低下 | ・小腸には、空腹時に腸内を掃除する「MMC(伝播性消化管収縮運動)」という強い収縮運動があります。 ・ストレスや自律神経の乱れ、糖尿病、甲状腺機能低下症などの影響でこのお掃除機能が弱まると、食べ物の残りカスや細菌が小腸に停滞し、増殖の温床となります。
③ 腸内フローラの乱れ | ・抗生物質の使用や偏った食生活によって腸内細菌のバランスが崩れる(ディスバイオシス)と、大腸にいるべき菌が小腸へ逆流しやすくなることがあります。
④ 胆汁・消化酵素の不足 | ・胆汁には細菌の増殖を抑える「天然の抗菌作用」があります。 ・また、消化酵素が不足して食べ物が未消化のままだと、それが細菌のエサになってしまいます。
⑤ 消化管の構造的な問題 | ・過去の腹部の手術(虫垂炎など)による癒着(ゆちゃく)が、腸の動きを物理的に妨げることがあります。 ・大腸から小腸への逆流を防ぐ「回盲弁」という弁の機能不全も、原因の一つと考えられています。
これらの要因は一つだけでなく、複数が複雑に絡み合ってSIBOの発症につながるケースが少なくありません。
また、一部の研究ではアジア圏の患者において、非アジア圏よりもSIBOのリスクが高い可能性も示唆されています※。つまり、私たち日本人にとっても決して他人事ではない病気といえるのです。
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の症状
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の症状は、小腸で発生した「ガス」が直接引き起こすお腹の不調と、栄養吸収の妨げなどが間接的に招く「全身の不調」の2つに大別されます。
小腸で異常増殖した細菌は、私たちが食べたもの、特に糖質をエサにして発酵し、水素やメタンといったガスを大量に産生します。このガスこそが、お腹の不快な症状の正体です。
お腹の主な症状
・食後、特にお腹がぽっこりと苦しく張る(腹部膨満感)
・意図せずげっぷやおならが頻繁に出る
・慢性的な下痢、または頑固な便秘(あるいは両方を繰り返す)
・お腹がゴロゴロと鳴り続ける
・原因のはっきりしない腹痛
さらに、SIBOの影響は消化管だけにとどまりません。栄養素の吸収が妨げられたり、腸のバリア機能が壊れたりすることで、一見するとお腹とは関係なさそうな全身の不調が広がることがあります。
全身に現れる主な症状
症状のタイプ | なぜ起こるのか?(メカニズム) | 具体的な症状の例
栄養吸収の乱れ | 小腸の細菌が、本来からだが吸収すべきビタミンB12や鉄分といった大切な栄養素を横取りしてしまうために起こります。 | ・貧血(めまい、立ちくらみ) ・原因不明の体重減少 ・十分寝ても取れない慢性的なだるさ・倦怠感
腸のバリア機能低下 (リーキーガット) | 細菌が出す毒素で小腸の粘膜が傷つき、腸壁にすき間ができてしまう状態です。このすき間から、未消化物や毒素が血中に漏れ出し、全身に軽微な炎症を引き起こします。 | ・集中できない、頭に霧がかかったような感覚(ブレインフォグ) ・ニキビや湿疹といった治りにくい肌荒れ ・頭痛や関節痛 ・不眠や気分の落ち込み
これらの症状は、過敏性腸症候群(IBS)と非常によく似ています。実際、IBSと診断されている方の約4割がSIBOを合併していたというデータもあり、「IBSの治療を続けているのに一向に良くならない」という場合は、SIBOが隠れている可能性を考える必要があります※。
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の検査・診断
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の診断は、不調の直接原因である「ガス」の量を吐く息で測定する「呼気検査」が基本となり、症状が似ている他の病気との鑑別(見極め)が極めて重要です。
SIBOの診断で中心となるのは「呼気検査」です。
これは、小腸内の細菌の活動状況を「見える化」する、とても合理的な検査方法といえます。
検査の仕組みはシンプルです。
1. 検査薬の服用: ラクツロースといった検査用の糖液を飲みます。
2. ガスの発生: 小腸で細菌が異常に増えていると、この糖をエサにして水素ガスやメタンガスが大量に発生します。
3. 呼気の採取: 発生したガスは血液に吸収されて肺に運ばれ、吐く息(呼気)として体の外に出てきます。
4. 濃度の測定: 検査薬を飲んだ後、時間をあけて複数回呼気を採取し、ガス濃度の変化を分析して診断します。
このとき、どの検査薬を使うかによって診断の精度が変わることがあります。例えば、グルコースを用いた検査よりも、ラクツロースを用いた呼気検査の方がSIBOを見つけ出す陽性率が高い傾向にある、という研究報告がなされています※。
また、SIBOの診断で何より大切なのは、症状が酷似している「過敏性腸症候群(IBS)」などの他の病気ではないか、あるいは合併していないかを見極めることです。
実際に、原因不明のお腹の不調を抱える機能性消化管疾患の患者さんのうち39%がSIBOを合併しており、特にIBSと診断された方では、その割合が約40.4%にのぼるというデータもあります※。
「IBSの治療を続けても一向に良くならない」という方の背景には、SIBOが隠れている可能性が十分に考えられるのです。
正確な診断のためには、専門医による詳細な問診に加え、呼気検査という客観的なデータを総合的に解釈する必要があります。長引くお腹の不調でお悩みなら、自己判断で食事制限などを行う前に、まずは検査でご自身の状態を正確に把握することが、根本的な改善への近道です。
小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の治療
小腸内細菌異常増GLISH(SIBO)の治療は、「①除菌」「②食事療法」「③再発予防」の3つの柱で進めるのが基本です。まずは抗菌薬で増えすぎた細菌を減らし、同時進行で食事を見直して細菌のエサを断ちます。そして、腸内環境を整えて再発しにくい体づくりを目指します。
これらの治療は、どの細菌が、なぜ増えているのかを考えながら、一人ひとりの状態に合わせて組み合わせていくことが重要です。
① 除菌療法(抗菌薬)
SIBO治療の第一歩は、小腸で異常に増殖してしまった細菌を直接叩く「除菌療法」です。この治療には、腸管内で作用する特殊な抗菌薬が使われます。
代表的な抗菌薬
薬剤名 | 特徴
リファキシミン | ・SIBO治療で最も研究が進んでいる抗菌薬です。 ・腸からほとんど吸収されず、小腸内で効率よく作用するため、全身への副作用が少ないとされています。 ・ただし、その効果についてはまだ研究結果にばらつきがあり、今後のさらなる検証が待たれています※。
ネオマイシンなど | ・メタンガスを産生するタイプのSIBO(便秘型に多い)に対して、リファキシミンと併用されることがあります。 ・その他、ノルフロキサシンといった抗菌薬も、SIBOの改善に一定の効果を示すことが報告されています※。
また、胃酸の分泌低下が原因でSIBOを発症している場合、その背景にピロリ菌感染が隠れていることも少なくありません。この場合、ピロリ菌の除菌療法がSIBOの改善につながる可能性があります※。
② 食事療法(低FODMAP食)
抗菌薬で菌を減らすのと並行して、細菌のエサとなる特定の食事成分を制限する「食事療法」を行います。これが、SIBO治療におけるもう一つの重要な柱です。
代表的な食事法が「低FODMAP(フォドマップ)食」です。
FODMAPとは、小腸で吸収されにくい特定の糖質の総称で、腸内細菌のエサになりやすい性質があります。
FODMAPの頭文字 | 糖質の種類 | 多く含まれる食品の例
Fermentable | 発酵性の | –
Oligosaccharides | オリゴ糖 | ・玉ねぎ、にんにく、ねぎ ・小麦、大麦 ・豆類
Disaccharides | 二糖類 | ・牛乳、ヨーグルト(乳糖)
Monosaccharides | 単糖類 | ・はちみつ、果物(果糖)
And | and | –
Polyols | ポリオール | ・マッシュルーム、カリフラワー ・キシリトールなどの人工甘味料
低FODMAP食は、まずこれらの食品を一時的に厳しく制限し、症状が改善したのを確認してから、少しずつ食べられるものを増やしていく、という段階的なアプローチをとります。
ただし、FODMAPは体に良い栄養素も多く含んでいるため、自己判断で極端な制限を続けるのは危険です。必ず専門医や管理栄養士の指導のもとで行うようにしてください。
③ 再発予防(腸内環境の正常化)
除菌と食事療法で症状が落ち着いても、SIBOは再発しやすい病気です。根本的な原因(胃酸の低下や腸の動きの悪さなど)が残っている限り、再び細菌が増殖するリスクがあるためです。
そこで重要になるのが、再発を防ぐためのアプローチです。
・プロバイオティクス(善玉菌)の活用
特定のプロバイオティクス(体に良い影響を与える生きた菌)を摂取することで、腸内フローラのバランスを整える方法です。いくつかの研究では、特定の菌株(例:VSL#3、サッカロマイセス・ブーラディ)がSIBOの症状改善に有効である可能性が示唆されていますが、まだエビデンスは十分とはいえず、どの菌が最適かについては研究段階です※。
・消化機能のサポート
胆汁の分泌不足が疑われる場合には、その流れを助けるウルソデオキシコール酸という薬剤が有効なことがあります※。また、消化酵素サプリメントで食べ物の消化を助け、細菌のエサを減らすことも有効な場合があります。
・漢方薬
お腹の張り、便通異常、腹痛といった個々の症状を和らげる目的で、漢方薬が処方されることもあります。体全体のバランスを整え、腸が正常に働く力をサポートします。
SIBOの治療は、単に菌を殺すだけでは終わりません。ご自身の体の状態を正確に把握し、原因に合わせた多角的なアプローチを根気強く続けることが、根本的な改善への鍵となります。










