好酸球性消化管疾患(EGIDs)
原因不明の腹痛や飲み込みにくさが続き、不安を感じていませんか。その症状は、2000年頃から世界的に患者数が増加しているアレルギー性の病気「好酸球性消化管疾患(EGIDs)」の可能性があります。
この記事では、好酸球性消化管疾患の概要や種類、原因である「2型炎症」について詳しく解説します。診断に不可欠な検査から、食事療法や薬物療法といった治療の選択肢まで網羅的に紹介します。
ご自身の状況と照らし合わせることで病気への理解が深まり、今後の見通しを立てる一助となるはずです。
好酸球性消化管疾患(EGIDs)の概要
好酸球性消化管疾患(EGIDs)とは、本来体を守るはずの免疫細胞「好酸球」が、食道や胃、腸といった消化管の壁に過剰に集まってしまい、慢性的な炎症を引き起こすアレルギー性の病気です。
炎症が起きる場所によって、飲み込みにくさや腹痛、下痢など、多彩な症状が現れます。2000年頃から世界的に患者数が増えており、慢性的な経過をたどるため、長期にわたる治療や生活管理が必要になる場合があります。
なぜこのような反応が起きるのか、その全貌はまだわかっていません。しかし、近年の研究でアレルギー反応の中心的な役割を担う「2型炎症」という免疫の異常が、病気の発生に深く関与していることが明らかになってきました。
実際に、この2型炎症を抑える「デュピルマブ」という薬を使った海外の臨床試験では、好酸球性胃炎の患者さんの胃の組織で好酸球の数が著しく減少し、内視鏡で確認できる炎症所見も改善したと報告されています※。この結果は、EGIDsの病態形成において2型炎症が重要な鍵を握っていることを強く裏付けるものといえます。
好酸球性消化管疾患(EGIDs)の種類
好酸球性消化管疾患(EGIDs)は、どの消化管に好酸球が集まるか、そしてどの年齢で発症しやすいかによって、主に3つのタイプに分類されます。
炎症が起きる場所が違えば、現れる症状も大きく異なります。まずは、3つの疾患の主な違いを下表で確認してみましょう。
疾患名 | 主な炎症部位 | 発症しやすい年齢層 | 主な症状
好酸球性食道炎 (EoE) | 食道 | 幼児〜成人 | ・食べ物が飲み込みにくい(嚥下困難) ・胸のつかえ感、胸焼け ・食事が詰まる
好酸球性胃腸炎 (EGE) | 胃・小腸・大腸 | 幼児〜成人 | ・腹痛、嘔吐、下痢 ・食欲不振、体重減少 ・血便、腹水
食物蛋白誘発胃腸炎 (N-FPIES) | 胃・小腸・大腸 | 新生児〜乳児 | ・特定の食物を食べた後の反復性嘔吐 ・下痢、血便 ・体重が増えない
好酸球性食道炎(EoE)
食べ物の通り道である「食道」に炎症が集中するタイプです。炎症によって食道の壁が硬くなり、食べ物が飲み込みにくくなったり、胸につかえたりします。放置すると食道が狭くなる「食道狭窄」に至ることもあります。
好酸球性胃腸炎(EGE)
「胃」や「小腸・大腸」など、より広い範囲で炎症が起こるタイプです。炎症の場所によって腹痛や下痢、嘔吐など症状は多彩で、食欲不振や体重減少につながることも少なくありません。重症化すると、お腹に水が溜まる「腹水」や、腸が詰まる「消化管閉塞」を引き起こす可能性も考えられます。
食物蛋白誘発胃腸炎(N-FPIES)
主に新生児から乳児期にみられるタイプで、特定の食物を食べた数時間後に、激しい嘔吐や下痢を繰り返すのが特徴です。アレルギー反応が胃や腸で起こるため、体重がなかなか増えない(体重増加不良)といった、成長への影響が心配されることもあります。
好酸球性消化管疾患(EGIDs)の原因
好酸球性消化管疾患(EGIDs)は、本来体を守るはずの免疫システムが、特定の食べ物などを「敵」と誤認し、過剰に攻撃してしまうことで発症します。
この反応は「2型炎症」と呼ばれており、気管支ぜんそくやアトピー性皮膚炎でみられるアレルギー反応と根本は同じです。そのアレルギー反応が、食道や胃、腸といった消化管を舞台に繰り広げられている状態と考えると、イメージしやすいかもしれません。
その詳しいメカニズムを、順を追って見ていきましょう。
1. 免疫の誤作動
特定の食べ物(アレルゲン)が体内に入ると、免疫システムがそれを異物と判断し、過剰な防衛反応を開始します。
2. サイトカインによる指令
防衛反応の過程で、「サイトカイン」という情報伝達物質が過剰に放出されます。このサイトカインが、「好酸球、消化管へ集まれ!」という指令を出します。
> サイトカインとは?
> 細胞から放出されるタンパク質の一種で、細胞間の情報伝達を担います。免疫システムにおいて、どの細胞がどこで働くべきかを指示する司令塔のような役割を果たします。
3. 好酸球の集結と炎症
指令を受けた好酸球が消化管の壁に大量に集まり(浸潤し)、炎症を引き起こします。この慢性的な炎症こそが、腹痛や飲み込みにくさといったEGIDs特有の症状の正体です。
なぜ、このような免疫の異常反応が起きてしまうのか、その根本的な引き金はまだ完全には解明されていません。しかし、現在の研究では、以下のような要因が複雑に絡み合って発症に関わっていると考えられています。
・遺伝的な要因(アレルギー素因)
ご自身やご家族に、気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患がある場合、EGIDsを発症しやすい傾向があることがわかっています。
・環境要因
衛生的な環境で育つことで免疫系が十分に鍛えられなかったり、食生活が変化したりしたことなどが、免疫バランスに影響を与えている可能性も指摘されています。
このようにEGIDsは、単一の原因ではなく、個人の体質とさまざまな環境要因が組み合わさって発症する「多因子疾患」として捉えられています。
好酸球性消化管疾患(EGIDs)の症状
好酸球性消化管疾患(EGIDs)は、好酸球による炎症がどの消化管で起きるかによって、現れる症状が全く異なります。
食事のたびに不快な症状に悩まされたり、お子さまの体重が増えなかったりと、その悩みはさまざまです。ここでは、疾患のタイプ別に、どのような症状がなぜ現れるのかを詳しく解説します。
好酸球性食道炎(EoE)
食べ物の通り道である「食道」に炎症が集中するタイプです。炎症によって食道の壁が硬く、狭くなることで、次のような症状が現れます。
・食べ物が飲み込みにくい(嚥下困難)
・胸のつかえ感、胸焼け、胸の痛み
・食事がのどに詰まる感じがする
特に、パンやお肉などの固形物が詰まりやすくなります。放置すると、炎症で硬くなった食道がさらに狭まる「食道狭窄」に至り、食事が完全に詰まってしまう「食道インパクション」という状態を引き起こす危険性もあります。
好酸球性胃腸炎(EGE)
「胃」や「小腸・大腸」といった、より広い範囲に炎症が及ぶタイプです。炎症が起きる場所によって、実に多彩な消化器症状を引き起こします。
・原因不明の腹痛
・吐き気、嘔吐、下痢
・食欲不振、体重減少
・血液が混じった便(血便)
・お腹に水がたまる(腹水)
これらの症状は、他の消化器疾患と見分けるのが難しい場合も少なくありません。重症化すると、腸が詰まる「消化管閉塞」や、まれに腸に穴が開く「腸破裂」といった、緊急手術が必要になるケースも考えられます。
新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸炎(N-FPIES)
主に新生児から乳児期に発症し、特定の食べ物(主にミルクや卵、大豆など)を摂取した数時間後に、アレルギー反応として胃腸に強い症状が現れるのが特徴です。
・特定の食物を食べた後の、繰り返し起こる激しい嘔吐
・水のような下痢や血便
・体重がなかなか増えない(体重増加不良)
特に注意が必要なのは、嘔吐や下痢が激しい場合に脱水が進み、血圧が低下してぐったりする「ショック(循環不全)」状態に陥ることです。これは命に関わることもあるため、迅速な対応が求められます。
好酸球性消化管疾患(EGIDs)の検査・診断
好酸球性消化管疾患(EGIDs)の診断では、消化管の組織にアレルギー細胞である「好酸球」が異常に集まっていることを直接証明するため、内視鏡検査と生検(組織を採取して調べる検査)が不可欠です。
腹痛や下痢、飲み込みにくさといった症状は他の多くの消化器疾患でもみられるため、症状や血液検査だけでは診断を確定できません。診断のプロセスは、主に以下の流れで進められます。
1. 問診・血液検査
まずは、どのような症状がいつからあるのか、アレルギーの既往歴(気管支ぜんそくやアトピー性皮膚炎など)があるかなどを詳しくお伺いします。
血液検査では、アレルギー反応の指標となる血中の好酸球数などを調べますが、これはあくまで診断の補助的な情報として扱われます。
2. 内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)
診断の要となるのが、口や肛門からカメラを挿入し、食道・胃・腸の粘膜を直接観察する内視鏡検査です。
疾患のタイプによって、下表のような特徴的な所見がみられることがあります。
疾患名 | 主な内視鏡所見
好酸球性食道炎 (EoE) | ・縦方向の溝(縦走溝) ・輪っか状の溝(輪状溝) ・白い苔のような付着物(白苔)
好酸球性胃腸炎 (EGE) | ・粘膜の赤みやむくみ(浮腫)、ただれ ※他の胃腸炎でもみられる所見のため、見た目だけでの判断は難しい
3. 生検(病理診断)
内視鏡で観察しながら、炎症が疑われる部分の組織を米粒ほどの大きさで数カ所採取します。これが「生検」です。
この組織を顕微鏡で詳しく調べ、アレルギー反応の主役である「好酸球」がどのくらい集まっているかを数えます。この数が診断の決め手です。
顕微鏡で強拡大した1つの視野(HPF)に、以下の基準を超える好酸球が確認された場合に、EGIDsと確定診断されます。
・好酸球性食道炎(EoE): 1視野あたり15個以上
・好酸球性胃腸炎(EGE): 1視野あたり20個以上
これらの検査は、診断時だけでなく、治療の効果を客観的に評価する上でも非常に重要です。実際に、2型炎症を抑える薬を使った海外の臨床試験では、治療によって組織中の好酸球数が著しく減少し、内視鏡で確認できる炎症所見も改善したと報告されています※。
このほか、必要に応じてCTや超音波検査を行い、消化管の壁の厚みなどを評価することもあります。これらの検査結果を総合的に判断し、他の病気の可能性を除外したうえで、最終的な診断が下されます。
好酸球性消化管疾患(EGIDs)の治療
好酸球性消化管疾患(EGIDs)の治療は、アレルギー反応の引き金となる食物を避ける「食事療法」と、消化管の炎症を直接抑える「薬物療法」を軸に進めます。炎症が長く続く慢性的な疾患のため、症状をコントロールしながら上手に付き合っていくことが治療のゴールです。
治療方針は、炎症の起きている場所(食道、胃、腸など)や重症度によって異なり、主に以下の3つのアプローチを組み合わせて決定します。
・食事療法:アレルギー反応の原因を取り除く
・薬物療法:起きてしまった炎症を抑える
・内視鏡的治療:炎症の結果生じた物理的な問題を解決する
食事療法
アレルギー反応の原因となる食物(アレルゲン)を特定し、食事から取り除く治療法です。特に、新生児や乳児に多い食物蛋白誘発胃腸炎(N-FPIES)では、原因食物の除去が治療の基本となります。
薬物療法
食事療法だけでは症状のコントロールが難しい場合や、炎症が強い場合に薬物療法を行います。
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
主に胃酸の分泌を抑える薬ですが、好酸球性食道炎(EoE)の患者さんの約3〜5割で、食道の好酸球を減らす効果が認められています。これは、胃酸を抑える作用とは別に、薬そのものが持つ抗炎症作用や、傷ついた食道粘膜のバリア機能を改善する働きによるものと考えられています。
ステロイド薬
炎症を強力に抑える作用を持つ薬で、EGIDs治療の重要な選択肢の一つです。
・局所ステロイド薬:主に好酸球性食道炎(EoE)で用いられます。気管支ぜんそくで使う吸入薬を、あえて吸い込まずに飲み込むことで、薬を食道の粘膜に直接届け、全身への副作用を最小限に抑えながら炎症を鎮めます。
・全身性ステロイド薬:胃や腸など広範囲に炎症が及ぶ好酸球性胃腸炎(EGE)で、症状が重い場合に内服で用います。高い効果が期待できる一方、長期間の使用はさまざまな副作用につながる可能性があるため、医師の管理のもとで慎重に使用されます。
新しい治療の選択肢:生物学的製剤
現在、日本国内でEGIDsに対して保険適用が認められた薬はありません。しかし、海外では病気の根本原因である「2型炎症」に直接働きかける新しいタイプの薬(生物学的製剤)の開発が進んでいます。
特に、2型炎症を引き起こす指令役の働きをブロックする「デュピルマブ」という薬は、その有効性が注目されています。好酸球性胃炎の患者さんを対象とした海外の臨床試験では、この薬を12週間使ったところ、胃の組織に集まっていた好酸球の数が、偽薬(プラセボ)を使った患者さんでは4%の減少にとどまったのに対し、デュピルマブを使った患者さんでは50%も減少しました※。
さらに、内視鏡で確認できる胃の炎症所見も明らかに改善したことが報告されており、EGIDsの新たな治療の柱となることが期待されています※。
内視鏡的治療
好酸球性食道炎(EoE)が進行し、慢性的な炎症によって食道が硬く狭くなってしまった場合(食道狭窄)に行われる治療です。内視鏡の先端に取り付けた風船(バルーン)を狭くなった場所で膨らませ、物理的に押し広げることで、食べ物の通りを良くします。










