胃腸炎

急な吐き気や下痢、腹痛など、つらい症状を引き起こす胃腸炎。多くの方が経験する身近な病気ですが、その影響は一時的なものだけではないことをご存知でしょうか。

実は、胃腸炎にかかった後、おなかの不調が長く続く「過敏性腸症候群」を発症するリスクは、かからなかった人に比べて4倍以上も高くなるという研究報告があります。中には5年以上も症状に悩まされるケースも。

この記事では、胃腸炎が体に及ぼす意外な影響と、後々の不調に悩まされないための正しい知識について詳しく解説します。一時的な症状で終わらせるために、ご自身の体で何が起きているのかを知りましょう。

胃腸炎の概要

胃腸炎とは、おなかの中にある胃や腸の壁が荒れてしまう病気です。 多くの方が一度は経験したことがあるかもしれません。

胃腸炎になると、主に次のようなつらい症状が現れます。

  • 吐き気や嘔吐
  • 下痢
  • おなかの痛み
  • 熱が出る

身近な病気ですが、世界では年間で多くの方が亡くなるなど、注意が必要な病気の一つです。

また、胃腸炎が治った後も、不快な症状が長く続くことがあります。 ある研究によると、胃腸炎を経験した人は、その後におなかの不調が起こりやすくなることがわかっています。

胃腸炎の後に起こりやすいおなかの不調

過敏性腸症候群(IBS)<br>(おなかの痛みや下痢、便秘を繰り返す状態)

機能性ディスペプシア(FD)<br>(胃もたれや胃の痛みを感じる状態)

胃腸炎にかかった人のうち、約14.5%がIBSを、約12.7%がFDを発症すると報告されています。 これは、胃腸炎にかからなかった人と比べて、IBSになる可能性が4倍以上、FDになる可能性が3倍も高くなることを意味します。

さらに、この不調が長引くケースも少なくありません。 胃腸炎の後にIBSになった人のうち、約4割は5年以上も症状が続いたという研究結果もあります。

このように、胃腸炎はかかっている間だけでなく、治った後にも影響を及ぼす可能性があるため、正しい知識を持つことが大切です。

胃腸炎の種類

ひとくちに胃腸炎といっても、原因は一つではありません。 病気を引き起こす「病原体」によって、いくつかの種類に分けられます。

主に、ウイルスが原因の「ウイルス性胃腸炎」と、細菌が原因の「細菌性胃腸炎」があります。 この2つの違いを知ることが、適切な対応への第一歩です。

ウイルス性胃腸炎

人から人へうつりやすいのが特徴で、「おなかの風邪」とも呼ばれます。 特に空気が乾燥する冬場に流行しやすくなります。

  • ノロウイルス 感染力が非常に強く、学校などで集団感染の原因になりやすいです。 ごく少量のウイルスでも感染してしまうため、注意が必要です。
  • ロタウイルス 乳幼児に多くみられる胃腸炎の原因です。 下痢や嘔吐だけでなく、まれに脳の炎症やけいれんといった、神経の合併症を引き起こすことが研究で報告されています。 多くは後遺症なく回復しますが、重い症状につながることもあるため、注意深く様子を見ることが大切です。

細菌性胃腸炎

いわゆる「食中毒」の多くがこのタイプにあたります。 細菌に汚染された食べ物や水を口にすることで感染します。 湿度や気温が高くなる夏場に発生しやすい傾向があります。

  • カンピロバクター 加熱が不十分な鶏肉などが主な原因です。 ある研究では、カンピロバクターによる胃腸炎の後、おなかの不調が続く「過敏性腸症候群」を発症するリスクが、他の原因よりも高くなることが示されています。
  • サルモネラ菌 生の卵や加熱が不十分な肉などが原因となることがあります。
  • 腸管出血性大腸菌(O157など) 十分に加熱されていない牛肉などが原因で、重症化すると命に関わることもあるため特に注意が必要です。

種類

代表的な原因

主な特徴

特に注意したいこと

ウイルス性胃腸炎

ノロウイルス<br>ロタウイルス

・人から人へうつりやすい<br>・冬に流行しやすい

ロタウイルスは、まれに脳の炎症などの神経の病気を起こすことがあります。

細菌性胃腸炎<br>(食中毒)

カンピロバクター<br>サルモネラ菌

・汚染された食品が原因<br>・夏に発生しやすい

カンピロバクターは、治った後もおなかの不調が残りやすいと報告されています。

胃腸炎の原因

胃腸炎は、目に見えない小さな病原体が体の中に入ることで起こります。 主な原因は「ウイルス」と「細菌」の2種類です。

これらがどのようにしてつらい症状を引き起こすのか、詳しく見ていきましょう。

ウイルスが原因の場合

ウイルスによる胃腸炎は、人から人へうつりやすく「おなかの風邪」とも呼ばれます。 特にノロウイルスやロタウイルスが有名です。

  • ロタウイルス 乳幼児がかかりやすいウイルスとして知られています。 下痢や嘔吐だけでなく、注意すべき点があります。 ある研究では、ロタウイルスが原因で、まれに脳の炎症やけいれんなどの神経の病気を引き起こす可能性が報告されています。 多くは後遺症なく回復しますが、重い症状につながることもあるため、慎重な経過観察が大切です。

細菌が原因の場合

細菌による胃腸炎は、いわゆる「食中毒」の多くがこれにあたります。 加熱が不十分な食べ物などを介して感染します。

  • カンピロバクター 加熱が足りない鶏肉などが主な原因です。 この菌による胃腸炎は、治った後もおなかの不調が続きやすいことがわかっています。 胃腸炎になった人の約14.5%が、その後「過敏性腸症候群」というおなかの不調を繰り返す状態になると報告されています。

原因の種類

代表的な病原体

特に注意したいこと

ウイルス

ロタウイルス

まれに脳の炎症やけいれんなど、神経の病気を引き起こすことがあります。

細菌

カンピロバクター

治った後も、おなかの痛みや下痢などを繰り返す「過敏性腸症候群」に移行しやすいことが報告されています。

体の状態も発症に関係します

胃腸炎は、外からの病原体だけでなく、ご自身の体の状態も関係します。 例えば、妊娠中にお母さんが魚などに含まれる栄養素をしっかり摂ることで、生まれてくる赤ちゃんの胃腸炎リスクを減らせる可能性を示した研究もあります。 日頃から体の調子を整えておくことも、予防の一つと言えるでしょう。

胃腸炎の症状

胃腸炎になると、おなかの中だけでなく全身につらい症状が現れます。 どのような症状が出るかを知っておくことで、早めに対処できます。

主な症状には、以下のようなものがあります。

  • 吐き気や嘔吐
  • 下痢(水のような便や、時には血が混じることもあります)
  • おなかの痛み(キリキリとした痛みや、しぶるような痛み)
  • 発熱
  • 食欲がなくなる
  • 全身のだるさや筋肉の痛み

特に注意が必要なのは「脱水症状」です。 嘔吐や下痢によって体の水分と塩分が急激に失われるためです。

【脱水のサイン】

  • 口の中や唇が乾く
  • おしっこの回数や量が減る
  • ぐったりして元気がない
  • 泣いても涙が出ない(特に小さなお子さんの場合)

また、原因によっては特有の症状が出ることがあります。 例えば、ロタウイルス胃腸炎では、まれにけいれんといった神経の症状がみられることが研究で報告されています。

さらに、急な症状がおさまった後も安心はできません。 ある研究によると、胃腸炎にかかった人は、その後におなかの不調が続く「過敏性腸症候群」などを発症するリスクが4倍以上高くなることがわかっています。

長引く不調に対し、ウコン(ターメリック)の成分が持つ効果も研究されています。 しかし、その有効性はまだはっきりとはわかっていません。 気になる症状が続く場合は自己判断せず、必ず医療機関に相談しましょう。

胃腸炎の検査・診断

胃腸炎のつらい症状の原因を突き止め、適切な治療につなげるため、医師はまず丁寧にお話を聞くことから始めます。

お話を聞くこと(問診)

医師がする質問には、病気の原因を探るためのヒントがたくさん隠されています。 そのため、次のようなことを詳しくお伺いします。

  • いつからどんな症状がありますか? 症状の種類や始まった時期は、原因を推測する大切な手がかりです。
  • 周りに同じ症状の人はいますか? ご家族や職場に同じ症状の方がいれば、人からうつるウイルス性の可能性を考えます。
  • 最近、加熱が不十分なものを食べませんでしたか? 食中毒の原因となる細菌などを特定するために重要な質問です。

体の状態を調べる検査

お話の内容から原因を推測し、さらに詳しく調べるために検査を行います。

  • 便検査 便の中に隠れている原因ウイルスや細菌がいないかを確認します。 原因によって治療法が異なるため、とても大切な検査です。
  • 血液検査 嘔吐や下痢で失われた水分や塩分の量(電解質)を調べます。 体へのダメージや脱水の程度を把握し、点滴が必要かを判断します。

合併症を見逃さないための診断

胃腸炎の診断は、ただおなかの症状を治すだけが目的ではありません。 特に、ロタウイルスが原因の場合、まれに脳の炎症やけいれんといった神経の合併症が起こることが研究で報告されています。

また、胃腸炎が治った後も注意が必要です。 ある研究では、胃腸炎にかかった人は、おなかの不調が長く続く「過敏性腸症候群」になる可能性が、かからなかった人に比べて4倍以上も高くなることがわかっています。

このような後々の不調を防ぐためにも、症状や状況を正確に伝え、必要な検査を受けることがとても大切なのです。

胃腸炎の治療

胃腸炎の治療で最も大切なのは、体をしっかり休ませることです。 そして、下痢や嘔吐で失われた水分と塩分を補うことが重要になります。

治療の基本は「失ったものを補い、休む」こと

胃腸炎の治療は、主にご家庭でのセルフケアが中心となります。 つらい症状を和らげ、体が自分で治そうとする力を助けることが目的です。

  • 水分補給 嘔吐や下痢で体から水分と塩分(電解質)が大量に失われます。 これらを補うため、経口補水液を少しずつこまめに飲みましょう。 スポーツドリンクは糖分が多いため、胃腸炎の時には向きません。
  • 食事 症状が落ち着いたら、胃腸に優しいものから食べ始めましょう。 おかゆやうどん、すりおろしたりんごなどがおすすめです。 脂肪の多い食事や、香辛料などの刺激物は避けるようにしてください。

病院で行う治療

ご家庭でのケアで改善しない場合や、症状が重い場合は病院を受診してください。 特に、水分が全く摂れない時や、ぐったりしている時は注意が必要です。

治療法

内容

お薬による治療

吐き気を抑える薬や、腸の調子を整える整腸剤を使います。<br>下痢止めは、原因のウイルスや細菌を体外に出すのを妨げるため、自己判断での使用は危険です。<br>細菌が原因の場合のみ、ばいきん(細菌)をやっつける抗菌薬を使いますが、ウイルス性の胃腸炎には効果がありません。

点滴

口から水分を摂れないほど脱水がひどい場合に、点滴で直接水分や栄養を補給します。

治療中と治療後の注意点

胃腸炎は、治った後にも影響が残ることがあるため注意が必要です。

  • お子さんの場合 特にロタウイルスが原因の場合、まれにけいやれん脳の炎症など、神経の病気を起こすことが研究で報告されています。 おなかの症状以外にも変わった様子がないか、注意深く見てあげてください。
  • 治った後も不調が続くときは? 胃腸炎の後、おなかの不調が長く続くことがあります。 ある研究では、胃腸炎になった人の約14.5%が、その後「過敏性腸症候群」というおなかの不調を繰り返す状態になると報告されています。
  • サプリメントについて ウコンやビタミンDなどが体に良いという情報もあります。 しかし、胃腸炎そのものへの効果は、科学的にはっきりとわかっていません。 自己判断で試す前に、必ず医師に相談しましょう。