リステリア症

食中毒の対策は万全だと思っていても、冷蔵庫で増殖する菌もあることをご存知でしょうか。リステリア症は、特に妊娠中の方や高齢者、持病がある方が重症化しやすい食中毒です。身近な食品に潜む危険に、不安を感じていませんか。

感染者の約2割が亡くなることもあるとされるリステリア症。この記事では、リステリア症の概要から原因、症状、検査・診断、治療方法まで解説します。重症化につながるリスク要因についても詳しく見ていきます。

正しい知識を身につけることで、リステリア症からご自身や大切な家族を守るための具体的な対策がわかるでしょう。日々の食生活における注意点を知り、安心して健康的な生活を送るための一歩を踏み出せるようになります。

リステリア症の概要

リステリア症は、リステリア菌という特定の細菌が原因で起こる食中毒です。一般的な食中毒と比べ、特に妊娠している方や高齢者、そして持病がある方は重症化しやすい特徴を持つ疾患です。

リステリア菌は、土や水など自然界のいたるところに存在する細菌です。汚染された食品を食べることで体内に取り込まれ、感染につながります。他の食中毒菌の多くは低温では活動が鈍るものの、リステリア菌は冷蔵庫のような低い温度でも増殖できる性質を持つため、冷蔵保存している食品でも油断はできません。

リステリア症は感染者の約2割が亡くなることもある、非常に注意が必要な感染症です。実際、複数の研究をまとめたメタアナリシスによると、リステリア症に感染した12,265人のうち、2,863人(23.3%)が亡くなっていると報告されています※。

特に死亡リスクが高まるのは、以下の要素が重なった場合と考えられています。

1. 年齢

60歳以上の方は、リステリア症が重症化し、死亡するリスクが高い傾向にあります※。これは、加齢により免疫力が低下していることが背景にあるとされます。

2. 臨床的な状態

・原発性菌血症(げんぱつせいきんけつしょう): 血液中にリステリア菌が直接侵入し、全身に広がる状態を指します。菌が全身を巡ることで、重篤な症状を引き起こす可能性が高まります※。

・中枢神経系への関与: 脳や脊髄(せきずい)といった中枢神経にリステリア菌が感染し、髄膜炎(ずいまくえん)や脳炎などを起こしている状態です。命に関わる危険性が高く、後遺症が残ることも少なくありません※。

3. 基礎疾患(持病)

もともと以下のような持病がある方も、リステリア症で死亡するリスクが高まることがわかっています※。

・非血液悪性腫瘍: 血液のがん以外の悪性腫瘍、つまり固形がんを指します。がん自体や治療によって免疫力が低下しているため、感染症への抵抗力が弱まっていることが関係します。

・アルコール依存症: 栄養状態の悪化や肝機能障害、免疫力の低下などが重なり、感染症のリスクが高まると考えられます。

・慢性腎臓病: 腎臓の機能が低下していると、体内の老廃物が適切に排出されず、免疫システムにも影響を及ぼすことがあります。

・心血管疾患: 心臓病や血管の病気があると、全身の血流が悪くなったり、免疫細胞の働きが低下したりすることがあります。

・肺疾患: 肺の病気があると、呼吸器系の防御機能が弱まり、感染症にかかりやすくなります。

これらのリスク要因に当てはまる方は、日頃から食品の取り扱いに特に注意し、リステリア症の感染予防に努めることが非常に大切です。もし体調に不安な症状が現れた場合は、迷わず早めに医療機関を受診してください。

リステリア症の種類

リステリア症は、感染した方の体の状態や、菌が体のどこに感染するかによって、大きく2つのタイプに分けられます。一つは比較的症状が軽い「非侵襲性(ひしんしゅうせい)リステリア症」、もう一つは重症化しやすい「侵襲性(しんしゅうせい)リステリア症」です。

非侵襲性リステリア症

非侵襲性リステリア症は、健康な方がリステリア菌に感染した場合に多く見られます。主な症状は、軽い発熱・下痢・頭痛・筋肉痛などで、風邪や一般的な胃腸炎に似ていることが特徴です。通常は数日から1週間程度で自然に回復することが多く、重症化することは稀だと考えられています。

侵襲性リステリア症

一方、侵襲性リステリア症は、免疫力が低下している方・高齢の方・妊婦さんなどで特に注意が必要です。菌が血液や脳、その他の臓器に広がり、重篤な症状を引き起こす可能性があります。特に、年齢が60歳以上の方は、リステリア症で死亡するリスクが高いことが、複数の研究をまとめた解析で示されています※。

侵襲性リステリア症は、菌が感染する部位によって以下のタイプに分類できます。

タイプ | 概要 | 死亡リスクとの関連

菌血症(原発性菌血症) | ・リステリア菌が血液中に入り込み、全身に広がる状態 ・発熱や悪寒(さむけ)などの全身症状が強く現れる | 菌血症は、リステリア症における死亡リスクを高める要因の一つです※。

中枢神経系感染症 | ・菌が脳や脊髄(せきずい)を覆う膜(髄膜)や脳そのものに感染することで発症 ・具体的には、髄膜炎や脳炎が代表的 ・激しい頭痛・発熱・首の硬直(こうちょく)・意識の変化・けいれんなどが現れる可能性があり、命に関わる危険性や後遺症が残ることも少なくありません | 中枢神経系への関与も、死亡リスクを高める重要な要因です※。

周産期リステリア症 | ・妊婦さんがリステリア菌に感染した場合に起こり、流産・早産・死産の原因となることがある ・おなかの赤ちゃんに感染し、新生児敗血症(しんせいじはいけつしょう)や新生児髄膜炎といった重い病気を引き起こす可能性もある | 妊娠中の方は、免疫システムが変化するため、感染に特に注意が必要です。

特に、もともと以下の基礎疾患(持病)がある方も、リステリア症の重症化や死亡リスクが高まる可能性があることが指摘されています※。

・非血液悪性腫瘍(ひけつえきあくせいしゅよう):血液のがん以外の固形がんを指します。がんやその治療によって免疫力が低下するため、感染症への抵抗力が弱まっていることが背景にあります。

・アルコール依存症:栄養状態の悪化や肝機能障害、免疫力の低下などが複合的に影響し、感染症のリスクを高めると考えられます。

・慢性腎臓病:腎臓の機能が低下すると、体内の老廃物が適切に排出されず、免疫システムにも影響を及ぼすことがあります。

・心血管疾患:心臓病や血管の病気があると、全身の血流が悪くなったり、免疫細胞の働きが低下したりする可能性があります。

・肺疾患:肺の病気があると、呼吸器系の防御機能が弱まり、感染症にかかりやすくなると考えられます。

これらの要因はリステリア症の死亡リスクを高める可能性があるため、当てはまる方は普段からより一層の注意が必要です。リステリア症は感染のタイプによって症状や重症度が大きく異なるため、ご自身の状況に合わせて適切な知識を持つことが大切だといえます。

リステリア症の原因

リステリア症は、土や水など自然界に広く存在する「リステリア菌」という細菌が体内に侵入することで引き起こされる感染症です。この菌は、冷蔵庫のような低温環境でも増殖できるという特徴を持つため、冷蔵保存している食品でも感染リスクがあります。

主な感染源となるのは、リステリア菌に汚染された食品です。具体的には、以下の食品が挙げられます。

・加熱が不十分な肉や魚

・非加熱のナチュラルチーズなどの乳製品

・生野菜

・スモークサーモン

・生ハム

これらの食品を食べることで、リステリア菌が口から体内に取り込まれ、感染につながります。

健康な成人の方がリステリア菌に感染した場合、多くは症状が出なかったり、軽い風邪のような症状(発熱、下痢、筋肉痛など)で自然に回復することがほとんどです。しかし、免疫力が低下している方や特定の持病がある方は、リステリア菌が血液や脳、髄膜(脳や脊髄を覆う膜)にまで広がり、重症化する可能性が高まります。

特に重症化しやすいとされる方は、以下のとおりです。

・高齢の方: 60歳以上の方は、加齢による免疫力の低下から、リステリア症が重症化し、死亡するリスクが高いと報告されています※。

・妊婦の方: 妊娠中は免疫システムが変化するため、リステリア菌に感染しやすくなります。感染した場合、菌がおなかの赤ちゃんにも影響を及ぼし、流産、早産、死産の原因となることがあります。生まれてきた赤ちゃんが新生児リステリア症を発症する可能性もあります。

・特定の持病がある方: がん(非血液悪性腫瘍)、アルコール依存症、慢性腎臓病、心血管疾患、肺疾患など、特定の基礎疾患(持病)をお持ちの方は、リステリア症で死亡するリスクが高まることが示されています※。これらの疾患は、体の抵抗力を弱めたり、免疫機能を低下させたりするため、菌が体内で増殖しやすくなると考えられます。

リステリア症の予防には、食品の適切な取り扱いや加熱が非常に重要です。特に上記のリスクが高いとされる方は、日頃から食品衛生に一層注意を払うことが求められます。

リステリア症の症状

リステリア症の症状は、感染したリステリア菌の量や、ご自身の免疫力によって多種多様です。一般的な食中毒と異なり、潜伏期間が数日〜数週間、平均3週間と非常に長いという特徴があります。この潜伏期間の長さが、「いつ、どこで感染したのか」を特定しにくく、初期対応を遅らせる一因となることもあります。

軽い症状の場合(非侵襲性リステリア症)

健康な方がリステリア菌に感染した場合、多くは軽い症状で済むか、まったく症状が出ないこともあります。もし症状が出たとしても、風邪や一般的な胃腸炎と区別がつきにくい場合がほとんどです。

具体的には、次のような症状が現れることがあります。

・発熱

・悪寒(寒気)

・筋肉痛

・吐き気、下痢

これらの症状は、通常であれば数日から1週間程度で自然に回復することが多いですが、「たかが風邪だろう」と見過ごしている間に、後述する重篤な状態へと進行してしまうケースも少なからず存在します。特に、重症化リスクの高い方は、軽症であっても安易に自己判断せず、医療機関を受診することが大切です。

重症化した場合の症状(侵襲性リステリア症)

リステリア症の大きな特徴であり、注意すべき点は、菌が血液や脳、その他の臓器にまで広がり、命に関わる重篤な状態を引き起こすことがある点です。これは「侵襲性リステリア症」と呼ばれ、特に免疫力が低下している方で発症しやすい傾向にあります。

重症化すると、以下のような病態とそれに伴う症状が現れます。

菌血症(原発性菌血症)

菌血症とは、リステリア菌が血液中に入り込み、全身を巡っている状態を指します。発熱や悪寒、倦怠感といった全身症状が強く現れるのが特徴です。血液中に菌が侵入した段階で、リステリア症による死亡リスクが高まることが示されています※。

中枢神経系感染症

リステリア菌が脳や脊髄(せきずい)を覆う膜(髄膜)や脳そのものに感染すると、髄膜炎や脳炎といった重篤な病気を引き起こします。中枢神経系への感染は、命に関わる危険性が高く、後遺症が残る可能性も少なくありません。

具体的な症状は以下のとおりです。

・激しい頭痛

・高熱

・首の硬直(こうちょく):首を前に曲げることが難しくなる状態です。

・意識の低下、昏睡

・けいれん

中枢神経系への関与は、リステリア症の死亡リスクを特に高める要因の一つとされています※。

周産期リステリア症(妊婦さん・赤ちゃんへの影響)

妊娠中の方がリステリア菌に感染した場合、インフルエンザのような軽い症状で済むこともあります。しかし、おなかの赤ちゃんに感染すると、流産や早産、死産といった深刻な結果につながることがあり、生まれた赤ちゃんに新生児敗血症(しんせいじはいけつしょう)や新生児髄膜炎などの重い感染症を引き起こす危険性もあります。新生児リステリア症では、発熱、活気がない、呼吸が速いといった症状が見られることがあります。

特に注意が必要な方々と症状

リステリア症は、感染者の約2割が亡くなることもある非常に注意が必要な感染症であり、特に以下の条件に当てはまる方は重症化し、死亡するリスクが高い傾向にあります※。

リスク要因 | どのような影響があるか

高齢者 | 60歳以上の方は、加齢による免疫力の低下から、リステリア菌への抵抗力が弱まります。菌が体内で増殖しやすく、重症化や死亡のリスクが高まると考えられています※。

基礎疾患(持病) | 特定の持病がある方も、免疫力が低下していることが多く、リステリア症が重症化しやすい傾向にあります。

・非血液悪性腫瘍 | 血液のがん以外の固形がんを指します。がん自体や治療によって免疫力が低下しているため、感染症に対する防御力が弱まります※。

・アルコール依存症 | 栄養状態の悪化や肝機能障害、免疫機能の低下などが複合的に影響し、感染症のリスクを高めると考えられます※。

・慢性腎臓病 | 腎臓の機能が低下すると、体内の老廃物が適切に排出されず、免疫システムの働きにも悪影響を及ぼすことがあります※。

・心血管疾患 | 心臓病や血管の病気があると、全身の血流が悪くなったり、免疫細胞の働きが低下したりする可能性があります※。

・肺疾患 | 肺の病気があると、呼吸器系の防御機能が弱まり、感染症にかかりやすくなると考えられています※。

妊婦さん | 妊娠中は免疫システムが変化するため、リステリア菌に感染しやすくなります。妊婦さん自身の症状は軽くても、胎児に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、特に注意が必要です。

新生児 | 母親から感染した新生児は、重篤な髄膜炎や敗血症などを引き起こし、生命に関わることもあります。

これらのリスク要因に当てはまる方は、少しでも体調に異変を感じたら、放置せずに早めに医療機関を受診することが非常に重要です。初期段階での適切な診断と治療が、重症化を防ぐ鍵となります。

リステリア症の検査・診断

リステリア症の検査と診断では、症状だけでは特定が難しいため、菌を確実に特定する作業が非常に重要になります。リステリア症は、発熱や倦怠感、筋肉痛といった、まるでインフルエンザや一般的な胃腸炎のような、特徴の少ない症状で始まることが多い病気です。加えて、感染から症状が出るまでの潜伏期間が数日〜数週間と長いため、「いつ、どこで感染したのか」がわかりにくく、症状だけを手がかりにリステリア症だと見抜くのは非常に困難といえます。

こうした背景から、医療機関では詳細な問診に加え、さまざまな検査を実施し、他の感染症と見分けた上で正確な診断を目指します。

どのような検査が行われるのか

リステリア菌感染を特定するには、患者さんの体から採取した検体を使って、菌の分離・同定(特定)を行う培養検査が中心となります。採取される検体は、感染が疑われる部位によって異なります。

・血液: 菌が全身に回っている可能性がある場合(菌血症が疑われるケースなど)

・髄液(ずいえき): 脳や脊髄の周りを満たす液体です。髄膜炎や脳炎といった中枢神経系への感染が疑われる場合に採取されます。

・便: 胃腸炎症状が主な場合

・感染が疑われる組織: 重症化し、特定の臓器に感染が広がっていると判断される場合

これらの検体を採取し、特別な培地で培養することで、リステリア菌がいるかどうかを顕微鏡などで確認します。

迅速な診断が命を守る鍵

特に、重症化する可能性のある方は、迅速な診断が命を救う鍵となります。メタアナリシス(複数の研究を統合分析する手法)によると、以下の因子がある場合、リステリア症で死亡するリスクが高いことが示されています ※。

・60歳以上の方: 加齢による免疫力の低下が関係しているとされます。

・原発性菌血症: 菌が血液中に直接侵入し、全身に広がる状態です。

・中枢神経系への関与: 脳や脊髄に感染している場合(髄膜炎や脳炎など)です。

・特定の基礎疾患: 以下の疾患をお持ちの方も、免疫力の低下などから死亡リスクが高まると考えられています。

・非血液悪性腫瘍(固形がん)

・アルコール依存症

・慢性腎臓病

・心血管疾患

・肺疾患

こうした高リスクの方々では、たとえ軽い風邪のような症状であっても、リステリア症を疑い、早期に適切な検査と診断に進むことが、重症化を防ぎ、命を守る上で極めて重要になります。

リステリア症の治療

リステリア症の治療は、主に抗菌薬を用いた薬物療法が基本です。この病気は、感染者の約2割(12,265人のうち2,863人、23.3%)が亡くなることもある、非常に注意が必要な感染症であり、適切な治療が命を救うことにつながります※。

病状の重さや菌が感染している部位によって、使用する抗菌薬の種類や治療期間は異なります。特に症状が重い場合は、入院して点滴で抗菌薬を投与する集中的な治療が必要です。

治療を進める上で、特に死亡リスクが高いとされる患者さんには細心の注意が必要です。2023年のメタアナリシス(複数の研究を統合して分析する手法)によると、リステリア症で死亡するリスクが高まる要因として、以下の点が挙げられています※。

死亡リスク要因 | 具体的な状況と背景

年齢 | 60歳以上の方は、加齢による免疫力の低下から、リステリア菌への抵抗力が弱まります。菌が体内で増殖しやすく、重症化や死亡のリスクが高まる傾向です※。

臨床的な状態 | ・原発性菌血症(げんぱつせいきんけつしょう):リステリア菌が血液中に直接侵入し、全身に広がる状態です。菌が全身を巡ることで、重篤な症状を引き起こす可能性が高まります※。 ・中枢神経系への関与:脳や脊髄といった中枢神経にリステリア菌が感染し、髄膜炎(ずいまくえん)や脳炎などを起こしている状態です。命に関わる危険性が高く、後遺症が残ることも少なくありません※。

基礎疾患(持病) | もともと以下の持病がある方も、リステリア症で死亡するリスクが高まることがわかっています。これらの疾患は、体の免疫力を低下させたり、臓器の機能を弱めたりするため、リステリア菌への抵抗力が落ちてしまうことが背景にあります※。 ・非血液悪性腫瘍(血液のがん以外の固形がん) ・アルコール依存症 ・慢性腎臓病 ・心血管疾患 ・肺疾患

これらのリスク要因に当てはまる方は、たとえ軽症に見えても迅速かつ集中的な治療が求められます。医師は、こうした患者さんの状態を特に注意深く見守りながら、治療を進めていきます。