抗がんIVR

「手術は難しい」「高齢で体力に自信がない」といった理由で、がん治療に不安を抱えていませんか。がん治療には、体を大きく切らずに、がん細胞だけをピンポイントで攻撃する方法があります。それが「抗がんIVR(画像下治療)」です。

この治療法は、カテーテルという直径数ミリの細い管や特殊な針を用い、がんの栄養補給路を断つ「兵糧攻め」にしたり、内側から熱で焼き固めたりします。体を大きく傷つけないため負担が少なく、回復が早いという大きな利点があります。

本記事では、この抗がんIVRの具体的な種類や、どのような場合に選択肢となるのかを詳しく解説します。ご自身や大切な方にとって、新しい治療の可能性を知るきっかけにしてください。

抗がんIVRの概要

抗がんIVR(アイブイアール)という治療法をご存知ですか。 「画像下治療(がぞうかちりょう)」とも呼ばれる、 がんに対する治療法の一つです。

この治療の大きな特徴は、手術のように体を大きく切らない点です。 その代わりに、X線やCT、超音波(エコー)といった機械で 体の中の様子をリアルタイムに確認しながら治療を進めます。 そのため、がん細胞に対して的確に攻撃できるのです。

具体的には、以下のような道具や方法で治療を行います。

  • カテーテル 直径が数ミリほどの、細くて柔らかい管のことです。 血管からこの管を入れ、がんの近くまで進めます。 そして、がんに栄養を送る血管を塞いだり、 高濃度の抗がん薬を直接届けたりします。
  • 特殊な針 体の外からがんに向かって刺す、特別な針です。 この針の先からラジオ波などの熱を発生させ、 がん細胞を内側から焼き固めて死滅させます。

このように、抗がんIVRは体を大きく傷つけずに済みます。 そのため、体への負担が少なく、回復が早い傾向にあります。 ご高齢の方や、他の病気で手術が難しい方にとっても、 大切な治療の選択肢となる場合があります。

抗がんIVRの種類

抗がんIVRには、がんの種類や体の状態に合わせて、 様々な治療法があります。 どの治療法を選ぶかは、がんの場所、大きさ、性質などを 医師が総合的にみて慎重に判断します。

代表的な治療法は、主に次の3つです。

1. 動脈塞栓術(どうみゃくそくせんじゅつ)

  • どのような治療か がんに栄養を送る血管を、カテーテルという細い管を使って 人工的に詰まらせる方法です。

がんも生きるためには、血液から栄養や酸素をもらう必要があります。 この栄養補給ルートを断つことで、がんを「兵糧攻め」にするのです。 栄養が来なくなったがんは、増えるのをやめたり、 壊れてしまったりします。

  • 対象となるがんの例
  • 肝臓がん 特に「肝動脈化学塞栓療法(TACE)」という方法が よく行われます。
  • 腎臓がん
  • 骨にできたがん(悪性骨腫瘍)
  • 肺がんや膀胱がん(出血を止める目的で行うこともあります)

2. 動注化学療法(どうちゅうかがくりょうほう)

  • どのような治療か カテーテルを使い、がんのすぐ近くにある動脈から 直接、高濃度の抗がん薬を注入する治療法です。

腕などから点滴する全身への抗がん薬治療と比べて、 がんに対してピンポイントで薬を作用させられます。 そのため、より高い治療効果が期待できます。 また、全身に流れる薬の量を減らせるため、 副作用を軽くできる可能性があります。

  • 対象となるがんの例
  • 肝臓がん
  • すい臓がん
  • 頭や首にできるがん(頭頸部がん)
  • 肺がん
  • 膀胱がん

3. ラジオ波焼灼療法(ラジオはしょうしゃくりょうほう:RFA)

  • どのような治療か 体の外からがんに向かって特殊な針を刺します。 その針の先からラジオ波という電流を流して熱を発生させ、 がん細胞を直接焼き固めて死滅させる治療法です。

電子レンジが食べ物を温める仕組みに少し似ています。 内側から熱を発生させることで、がんを正確に治療します。

  • 対象となるがんの例
  • 肝臓がん
  • 腎臓がん
  • 肺がん
  • 骨にできたがん(悪性骨腫瘍)

これらの治療法を分かりやすくまとめると、以下のようになります。

治療法の種類

どのような治療か

動脈塞栓術

がんの栄養血管を詰まらせ、がんを弱らせる

動注化学療法

がんの近くに直接、高濃度の抗がん薬を届ける

ラジオ波焼灼療法

特殊な針を刺し、熱でがん細胞を焼き固める

この他にも、がんを凍らせて壊す「凍結療法」など、 新しい治療法も登場しています。 どの治療が最適かは人それぞれですので、 担当の医師とよく相談することが大切です。

抗がんIVRの原因

「抗がんIVRの原因」と聞くと、少し不思議に思うかもしれません。 この治療法は病気ではないため、直接的な原因というものはありません。 では、なぜ数あるがん治療の中から抗がんIVRが選ばれるのでしょうか。 それは患者さんのがんや体の状態を考えた結果、 他の治療法よりも適していると医師が判断するためです。

主に、以下のような理由で抗がんIVRが検討されます。

  • 手術でがんを取り除くことが難しい場合 がんが肝臓や肺の奥深く、あるいは太い血管の近くにあり、 手術で傷つけるリスクが高いケースで選ばれます。 また、ご高齢の方や心臓・肺に持病がある方など、 全身麻酔や大きな手術に体が耐えられないと判断された場合も、 体への負担が少ないこの治療が有力な選択肢となります。
  • 他の治療をより安全で効果的に行うため 手術の前にがんを小さくし、より安全に、 そして確実に取りきれるようにする目的で行われます。 また、がんから出血している場合に、まずその出血を止めるなど、 他の治療を安全に進めるための土台作りとしても重要です。
  • がんによるつらい症状を和らげるため がんを治すことが難しい状況でも、痛みや出血、 息苦しさなどの症状を軽くする目的で実施されます。 これは生活の質(QOL)をできるだけ高く保つための、 非常に大切な「緩和ケア」の一つです。

このように、抗がんIVRはがんを治す目的だけでなく、 様々な目的で選択される治療法です。 どの治療法が最適かは、がんの種類や場所、患者さんの体力など、 多くの情報を基に医師が総合的に判断します。

抗がんIVRの症状

抗がんIVRは体に優しい治療ですが、副作用が全くないわけではありません。 治療によって起こる体の変化は、薬が効いているサインでもあります。 どのような症状がなぜ起こるのかを知り、落ち着いて対処しましょう。

治療後によくみられる症状

治療によってがん細胞が壊れると、体がそれに反応します。 その反応として、風邪のような症状が出ることがあります。 これは「塞栓後症候群(そくせんごしょうこうぐん)」と呼ばれます。 治療が効いている証拠の一つで、通常は数日で落ち着きます。

  • 発熱 壊れたがん細胞を体が異物とみなし、熱を出して戦うために起こります。
  • お腹の痛み 治療した部分で炎症が起きることで、痛みを感じることがあります。
  • 吐き気や食欲不振 壊れたがん細胞から出る物質や、使った薬の影響で起こります。

まれに起こる可能性のある症状

頻度は低いですが、注意が必要な症状(合併症)もあります。 医師はこれらのリスクを避けるため、慎重に治療を進めます。

症状の種類

具体的な内容

出血・血腫

カテーテルを入れた足の付け根などから出血したり、

皮膚の下に血の塊(血腫)ができたりします。

アレルギー反応

血管を写す造影剤という薬で、じんましんが出ることがあります。

臓器や神経の損傷

ごくまれに、カテーテルや針が目的以外の場所を

傷つけてしまう可能性があります。

血栓症

治療した血管に、血のかたまり(血栓)ができてしまうことです。

これらの症状の出方や程度は、治療法や体の状態によって様々です。 「いつもと違うな」と感じたら、どんな小さなことでも我慢せず、 すぐに医師や看護師に伝えてください。

抗がんIVRの検査・診断

抗がんIVRという治療が、あなたのがんにとって本当に良い選択肢なのか。 これを確かめるため、治療の前にいくつかの詳しい検査を行います。 いわば、がんと戦うための「作戦会議」のようなものです。 安全で効果的な治療の地図を作る、とても大切なステップになります。

検査の目的は、主に次の3つです。

  • がんの正確な情報を集める がんが体のどこにあり、どのくらいの大きさで、いくつあるのか。 こういった基本情報を、ミリ単位の精度で把握します。
  • 周りへの影響を調べる がんの近くにある大切な血管や、他の臓器との位置関係を調べます。 治療で周りを傷つけないように、安全なルートを確認するためです。
  • がんの「顔つき」を確定する がん細胞の一部を採って、どのような種類のがん細胞なのかを調べます。 これにより、最も効果が期待できる治療法を選ぶことができます。

これらの目的を達成するため、以下のような検査を組み合わせて行います。

  • CT検査・MRI検査 体の内部を輪切りにしたような、とても詳しい画像を撮影する検査です。 がんの3Dマップを作り、大きさや周りの臓器との関係を立体的に見ます。
  • 超音波(エコー)検査 体に音波をあてて、その跳ね返りを画像にする検査です。 リアルタイムで体の中の様子を確認でき、特に肝臓などの臓器に有効です。
  • 血管造影検査 カテーテルという細い管を使い、血管の様子を詳しく見る検査です。 がんに栄養を送る「栄養血管」を特定し、治療の標的を正確に定めます。 IVR治療の、まさにリハーサルのような重要な検査といえます。
  • 画像ガイド下生検 がんの確定診断のために、がん組織の一部を採取する検査です。 CTや超音波でがんの位置を確認しながら、体の外から細い針を刺します。 この検査でがんの種類を特定し、治療の精度をさらに高めます。

これらの検査から得られた情報を、専門の医師たちが総合的に判断します。 放射線科医や外科医、内科医などがチームとなり、最適な治療方針を検討します。 こうして、あなたにとって最善のオーダーメイド治療計画が完成するのです。

抗がんIVRの治療

抗がんIVRの治療は、大きく2つの目的で行われます。 一つは、がん細胞を直接攻撃してやっつけること。 もう一つは、がんによる痛みや苦しさを和らげることです。 患者さんのがんの種類や体の状態に合わせて治療法を選びます。

治療の進め方と入院について

抗がんIVRは体に優しい治療ですが、安全に進めるため入院が必要です。 治療内容によって変わりますが、入院期間は1〜2週間が目安です。

治療が終わった後は、ベッドの上で安静に過ごす時間があります。 これは、カテーテルを入れた足の付け根などからの出血を防ぐためです。 治療が無事に終わっても、体の中では大切な変化が起きています。 体をしっかり休ませることが、回復への近道になります。

治療にかかる費用

治療費は、どの治療を行うかによって大きく変わってきます。 健康保険が使える治療と、使えない「自由診療」の治療があるためです。 費用は数万円から数十万円まで、幅広い可能性があります。 詳しい金額については、治療を受ける前に病院へ確認しましょう。

様々な治療の選択肢

抗がんIVRには、がんへのアプローチが異なる多くの選択肢があります。 患者さん一人ひとりの状態に合わせ、最適な方法を選びます。

治療の目的

治療法の例

どのような治療か

がんを直接攻撃する

ラジオ波焼灼療法

特殊な針を刺し、熱でがんを焼いて壊します。

凍結療法

がんをマイナス数十度の氷で凍らせて壊します。

つらい症状を和らげる

動脈塞栓術

がんによる痛みや出血を止めるために行います。

ドレナージ

体にたまった余分な液体を、細い管で外に出します。

ステント留置

狭くなった血管や胆管を、金属の筒で広げます。

これらの治療法の中から、がんの状態や症状に合わせて、 最も良いと考えられる方法を医師が提案します。 わからないことや不安なことは、遠慮なく質問してください。