多臓器不全

救急医療の進歩が多くの命を救うようになった現代、皮肉にも「多臓器不全」という新たな課題が深刻化しています。これは肺や腎臓、肝臓といった生命維持に不可欠な臓器が、まるでドミノ倒しのように次々と機能不全に陥る、極めて危険な状態を指します。

その最大の原因の一つが、重い感染症である「敗血症」です。体を守るはずの免疫が暴走し、自らの臓器を攻撃してしまうのです。近年の研究では、この状態に対する治療法が死亡率を低下させる可能性も示されていますが、その選択は非常に慎重な判断を要します。

この記事では、多臓器不全がなぜ起こるのか、その種類や原因、そして時間との戦いとなる集中治療室での最新の治療法について、詳しく解説していきます。

多臓器不全の概要

多臓器不全とは、命を支える複数の臓器の働きが、同時に悪くなる深刻な状態です。肺や腎臓、肝臓といった大切な臓器が、ドミノ倒しのように次々と動かなくなります。

昔は大きなケガや重い病気で、すぐに命を落とすことが少なくありませんでした。しかし救急医療の進歩で、多くの命を救えるようになったのです。その結果、複数の臓器がゆっくり悪化する多臓器不全が、現代医療の大きな課題となりました。

日本では、主に以下の臓器や体の仕組みのうち、2つ以上が機能しなくなった際に多臓器不全と診断されます。

  • 呼吸器(肺) 酸素を取り込み、二酸化炭素を出す働きです。
  • 肝臓 栄養を蓄えたり、毒素を分解したりします。
  • 腎臓 血液をきれいにし、おしっこを作る働きです。
  • 循環器(心臓や血管) 全身に血液を送り届けます。
  • 血液凝固系 出血した際に血を固めて止める仕組みです。
  • 中枢神経系(脳) 体の全ての命令を出す司令塔です。

原因は重いやけどや大ケガ、特に重い感染症である「敗血症」が多いです。このとき、体を守る免疫の働きが暴走し、かえって自分の臓器を攻撃してしまうのです。

このような状態では集中治療室での専門的な管理が必須です。例えば、敗血症が原因の場合、血液から有害物質を除く血漿交換という治療法があります。近年の研究では、この治療が大人の重症敗血症の死亡率を下げる可能性が示されました。しかし、お子さんの場合は逆に経過を悪くする可能性も報告されており、慎重な判断が求められます。

多臓器不全の種類

多臓器不全は、原因や体の反応の仕方によって、大きく2つのタイプに分けられます。きっかけが体の外か中か、という点で違いを理解することが大切です。

1. 一次性多臓器不全

大きなケガや手術で、臓器が直接傷つくことで起こります。 交通事故や広範囲のやけどなど、体の外からの強い衝撃が原因です。原因がはっきりしており、比較的早い段階で臓器の働きが悪くなり始めます。

2. 二次性多臓器不全

臓器への直接の攻撃ではなく、体の中で起こる異常事態が原因です。 代表的な原因は、重い感染症が全身に広がる「敗血症」です。体を守るはずの免疫が暴走し、時間をかけて自分の臓器を攻撃してしまいます。

この敗血症が原因の場合、血液から有害物質を除く「治療的血漿交換」という治療法があります。ある研究では、この治療を大人が受けると死亡率が下がる可能性が示されました。

しかし、同じ治療でもお子さんの場合は、逆に経過を悪くする可能性も報告されています。そのため、治療法の選択は年齢や状態をみて、非常に慎重な判断が求められるのです。

種類

きっかけとなる出来事の例

体の中で起こること

一次性

・大きなケガ

・広い範囲のやけど

・大きな手術

臓器が直接ダメージを受け、比較的早く働きが低下する

二次性

・重い感染症(敗血症)

・重いすい炎

全身の過剰な炎症反応で、時間をかけて臓器の障害が広がる

どちらのタイプも命に関わる深刻な状態です。そのため、集中治療室での専門的な管理が不可欠となります。

多臓器不全の原因

多臓器不全は、何かひとつの深刻な出来事をきっかけに、体の機能が連鎖的に悪化することで起こります。その引き金となる、主な原因について解説します。

  • 重症な感染症(敗血症) 細菌やウイルスが血液に入り込み、全身に広がった状態です。 体を守る免疫が過剰に反応し、自分の臓器を攻撃してしまいます。 この敗血症は、多臓器不全の非常に多い原因です。 ある研究では、敗血症の大人に対し、血液の有害物質を除く治療(治療的血漿交換)をすると、死亡率が下がる可能性が示されました。 しかし、お子さんの場合は逆に経過を悪くする可能性も報告されており、原因に対する治療法の選択は、非常に慎重な判断が求められます。
  • 大きなけが(重度の外傷)やひどいやけど 交通事故や広い範囲のやけどで体が大きなダメージを受けると、全身で強い炎症反応が起こり、様々な臓器の機能を低下させます。
  • 手術や事故による大量の出血 急激に多くの血液が失われると、臓器に十分な酸素や栄養が届きません。 その結果、臓器が正常に働くためのエネルギーが不足し、機能が低下します。
  • その他の重い病気 重い膵炎(すいえん)や、がんなどの病気も体のバランスを崩します。 その結果、全身の調整機能が乱れ、多臓器不全の原因となることがあります。

多臓器不全の症状

多臓器不全は、体の様々な場所でSOSサインが現れます。 どの臓器の働きが悪くなるかによって、出てくる症状が変わります。 それぞれの臓器で起こる代表的な症状を見ていきましょう。

  • 肺(呼吸器) 酸素を取り込む働きが弱まり、息苦しさを感じます。 呼吸の回数が異常に増えたり、肩を上下させて必死に息をしたりします。
  • 腎臓 おしっこを作る機能が落ち、量が極端に減るか、全く出なくなります。 体内の水分が排出できず、顔や手足がパンパンにむくみます。 老廃物が体にたまり、意識がぼんやりすることもあります。
  • 肝臓や血液を固める仕組み 出血を止める成分が作れなくなり、血が止まりにくくなります。 ぶつけた記憶がないのに青あざができたり、鼻血が出やすくなったりします。

特に重い感染症である敗血症が原因の場合、注意が必要です。 血液の中で血を固める役割を持つ「血小板」が急激に減ることがあります。 研究でも、血小板が減るタイプの多臓器不全が報告されています。 このような状態では、体の中で見えない出血が起こる危険性が高まります。

これらの症状は一つだけでなく、複数が同時に現れることも少なくありません。 心臓の力が弱まって血圧が急に下がったり、脳の働きが悪くなったりもします。

多臓器不全の検査・診断

多臓器不全が疑われるとき、まず体の状態を正確に知る検査が必要です。 どの臓器が、どれくらいSOSを出しているのかを詳しく調べるためです。 この検査結果が、命を救うための治療方針を決める道しるべになります。

具体的には、以下のような検査を組み合わせて、全身の状態を評価します。

  • 血液検査 血液中の成分を分析し、目に見えない体の中の変化を読み取ります。 肝臓や腎臓の働きを示す数値や、炎症の強さなどを確認します。 また、血を固める力が弱まっていないかも大切なチェック項目です。
  • 尿検査 おしっこの量や成分を調べ、腎臓が老廃物をきちんと体の外に出せているかを確認します。
  • 画像検査 レントゲンやCT検査で、肺などの臓器の形に異常がないかを直接目で見て確認します。 体の内部を写真に撮るような検査と考えるとわかりやすいでしょう。

これらの検査と同時に、多臓器不全を引き起こした原因を探します。 例えば、重い感染症「敗血症」が疑われる場合は、血液の中にいる悪い菌を見つけ出すための検査が行われます。

正確な診断は、その後の治療を選ぶために何よりも重要です。 研究によると、重い敗血症が原因の大人には有効な治療法でも、お子さんには逆に経過を悪くする可能性があると報告されています。 そのため、年齢や体の状態を正しく見極めることが命を救う鍵となるのです。

多臓器不全の治療

多臓器不全の治療は、まさに時間との戦いです。 治療は主に、集中治療室(ICU)という専門の部屋で行われます。 「弱った臓器を守る治療」と「原因をたたく治療」の二本立てで進めます。

弱った臓器を守り、時間をかせぐ治療

まず、動けなくなった臓器の働きを機械や薬で助けます。 これは、おおもとの原因が治るまでの大切な「時間かせぎ」の治療です。

弱っている臓器

行われる治療の例

肺(呼吸が苦しい)

人工呼吸器という機械で、呼吸のお手伝いをします。

腎臓(おしっこが出ない)

人工透析という方法で、機械が腎臓の代わりに血液をきれいにします。

心臓や血管(血圧が低い)

血圧を上げるお薬を使い、全身に血液が届くようにサポートします。

血液(血が止まりにくい)

血を固める成分を点滴で補い、危険な出血を防ぎます。

病気のおおもとをたたく治療

臓器を守るのと同時に、多臓器不全を引き起こした原因そのものを治療します。 例えば、重い感染症である「敗血症」が原因の場合は、菌を倒す抗生物質を使います。

その補助として、血液から悪い物質を除く「治療的血漿交換」という方法もあります。 研究では、この治療が重症な敗血症の大人の死亡率を下げる可能性が示されました。 しかし、お子さんの場合は特に慎重な判断が必要です。

血小板の数が減っていないお子さんでは、同じ治療が逆に経過を悪くする可能性も報告されています。 そのため、年齢や状態に合わせて、治療法を慎重に選ぶことが非常に重要です。 このように、患者さん一人ひとりの状態を細かく見ながら、最適な治療法を組み合わせていきます。