乳酸菌

薬

私たちの身近にある「乳酸菌」は、腸の健康を整えるだけでなく、体全体、さらには脳にまで影響を与える驚くべき力を持っていることをご存知でしょうか。

近年、乳酸菌は腸内環境の改善に加え、脳機能の維持、免疫力向上、アレルギー症状の緩和にも寄与する可能性が多くの研究で示唆されています。ストレスや食生活の乱れ、抗生物質の影響などで乳酸菌のバランスが崩れると、便秘や肌荒れ、さらには女性特有の健康問題にまで影響を及ぼす可能性があります。

この記事では、乳酸菌の多様な働きや、バランスの乱れが引き起こす原因と症状、そして健康な生活に活かす方法を解説。あなたの健康を支える乳酸菌の真の力を探ります。

乳酸菌の概要

皆さんの体の中には、とても小さな微生物の仲間が住んでいることを知っていますか。それが乳酸菌です。乳酸菌は、特に腸の中にたくさんいます。私たちが食べた物を消化するのを助けます。また、体に悪い菌が増えすぎないように抑える大切な働きもしています。腸の健康を守る役割があるのです。腸が元気だと、体全体の調子も良くなることが分かっています。

私たち医師も、乳酸菌が持つ可能性に注目しています。最近の研究では、乳酸菌が腸の健康だけでなく、皆さんの「脳」にも良い影響を与えるかもしれないという報告が増えてきました。例えば、アルツハイマー病やパーキンソン病といった脳の病気(記憶力や体の動きに影響が出ることがあります)から脳を守る力(神経保護特性)がある可能性が指摘されているのです。

さらに、乳酸菌を毎日摂ることで、物事を覚えたり、考えたりする力(記憶力や認知能力)が良くなる可能性があることが、これまでの多くの研究で示されています。これは、乳酸菌が体の中で、細胞を傷つける「酸化」という働きを防ぐためです。また、体の「炎症」(体の防御反応の一つです)を鎮める力(抗酸化作用や抗炎症作用)も持っているためだと考えられています。

このように、乳酸菌は、腸を健康にするだけでなく、脳の健康にも深く関わる、私たちの体にとって非常に重要な役割を担っています。毎日の食事に乳酸菌を上手に取り入れることで、体の内側から皆さんの健康をサポートできます。ただし、今後の研究で、乳酸菌が脳に与える効果について、さらに詳しいことが分かってくることが期待されています。

乳酸菌の種類

皆さんの体の中にいる乳酸菌には、非常にたくさんの種類がいます。まるで一人ひとりに「得意なこと」があるように、それぞれの乳酸菌が異なる働きを持っています。大きく分けると、おなかの健康に深く関わる「ビフィズス菌」の仲間と、食べ物を発酵させる「乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)」の仲間が有名です。

私たち医師も、乳酸菌の多様な力に日々驚いています。最近の研究では、乳酸菌の種類によって、脳の健康にも良い影響を与える可能性があることがわかってきました。例えば、ある種類の乳酸菌は、皆さんが物事を覚えたり、考えたりする力を良くするかもしれません。

これは、乳酸菌が体の中で細胞を傷つける「酸化」という働きを防ぐためです。また、体の「炎症」(体の防御反応の一つです)を鎮める力も持っているためだと考えられています。アルツハイマー病やパーキンソン病といった、記憶力や体の動きに影響が出る脳の病気から脳を守る力がある可能性も指摘されています。

さらに、乳酸菌は体を病気から守る力も持っています。乳酸菌がしっかり入ったヨーグルトや飲み物は、風邪などの一般的な病気にかかるリスクを減らす可能性があると研究で示されています。これは、乳酸菌の仲間(プロバイオティクスと呼ばれます)が、体の中の「ナチュラルキラー細胞」という、悪いものをやっつける免疫細胞を元気にする傾向があるためです。

このように、乳酸菌は腸だけでなく、脳や体の免疫力にも関わる多様な力を持っています。どんな乳酸菌を選べば良いか迷うときは、体のどんなことに役立てたいかを考えてみてください。

乳酸菌の原因

皆さんの体に良い働きをしてくれる乳酸菌ですが、残念ながらその大切なバランスが崩れてしまうことがあります。乳酸菌のバランスが崩れると、体のあちこちに不調が起きやすくなります。

私たち医師も、日々の診療で、乳酸菌のバランスが整っていることが、健康にとってどれほど大切かを感じています。乳酸菌のバランスが乱れてしまう主な原因はいくつかあります。

例えば、

  • ストレスが多い生活を送っている場合
  • 脳と腸は密接につながっており、ストレスは腸の動きや乳酸菌のバランスに影響を与えます。
  • 食事が偏っている場合
  • 栄養バランスの悪い食事は、乳酸菌が元気に働くためのエサが不足し、数が減ってしまうことがあります。
  • 抗生物質などの薬を飲んでいる場合
  • 抗生物質は、病気の原因となる悪い菌だけでなく、体に良い働きをする乳酸菌も減らしてしまうことがあります。

このようなことが続くと、乳酸菌が減ってしまったり、良い乳酸菌と悪い乳酸菌の割合が変わってしまったりするのです。

乳酸菌のバランスが崩れると、まずお腹の調子が悪くなることがあります。具体的には、便秘になったり、反対にお腹を下したりすることが多くなります。お腹の不調は、学校生活や遊びにも影響が出ることがあるので、とてもつらいですよね。

さらに、私たち医師が注目しているのは、女性の体と乳酸菌の深い関係です。特に女性の場合、腟(ちつ)というデリケートな部分にいる乳酸菌が減ってしまうと、体の不調につながることがわかってきました。

最近の研究では、中国の多くの女性を対象とした調査で、腟内の乳酸菌の数が少ないことや、腟内の環境が悪いことと、お腹の下のほうにある「骨盤底(こつばんてい)」という部分の調子が悪くなること(骨盤底機能不全といいます)には関係があることが示されています。骨盤底は、おしっこや便をコントロールしたり、体の中の大切な臓器を支えたりする、とても重要な役割を持つ部分です。この部分の調子が悪くなると、日常生活で困ることが出てくる可能性があります。

このように、乳酸菌のバランスの乱れは、お腹の調子だけでなく、体の他の部分にも影響を与えることがあるのです。日頃から乳酸菌を良い状態で保つように意識することは、皆さんの健康を守る上でとても大切だと言えるでしょう。

乳酸菌の症状

乳酸菌は、皆さんの体の中で大切な役割を果たしています。健康な状態では、お腹の調子を整えたり、体全体を守る力を助けたりします。しかし、乳酸菌のバランスが崩れてしまうと、体には様々な困った症状が現れることがあります。

お腹の調子が悪くなるのは、代表的な症状の一つです。例えば、

  • 便秘になる
  • お腹が張って苦しいと感じることがあります
  • 下痢になる
  • 急にお腹が痛くなり、学校や遊びに集中できなくなることもあります

これらの症状は、お腹の中にいる良い乳酸菌が減って、悪い菌が増えてしまうことで起こりやすくなります。私たち医師も、日々の診療でこのようなお腹の不調で悩む患者さんを多く診ています。

また、お腹の不調だけでなく、肌のトラブルも乳酸菌のバランスの乱れと関係することがあります。特に、肌がかゆくなったり、赤くなったりする「アトピー性皮膚炎」という病気と乳酸菌の関係には、私たち医師も注目しています。

最近の多くの研究をまとめた報告(メタアナリシス)では、興味深い結果が示されています。ある特定の乳酸菌(ラクトバチルス菌)が作り出す体に良い成分(ポストバイオティクス)を口から摂ることが、アトピー性皮膚炎の症状の程度を測る「SCORADスコア」という点数を減らす可能性があることが分かりました。

これは、乳酸菌の成分がアトピー性皮膚炎に伴う、かゆみなどのつらい症状を和らげる手助けになるかもしれない、という希望を与えてくれます。しかし、この研究では、アトピー性皮膚炎の症状が出ている範囲や、病気の重症度そのものには、はっきりとした違いが見られなかったことも分かっています。

そのため、乳酸菌を摂ればアトピー性皮膚炎が必ず治るとは、まだ断言できません。乳酸菌の力はとても多様で、体の様々な症状に関わっていると考えられています。もし、体の不調で困っている場合は、我慢せずに私たち専門の医師に相談してくださいね。

乳酸菌の検査・診断

皆さんの体の中にいる乳酸菌のことが、もっと知りたくなった人もいるかもしれませんね。乳酸菌そのものを直接「診断」するというよりも、私たち医師は、皆さんの「お腹の中の環境」を調べることで、乳酸菌をはじめとする腸内細菌全体のバランスを知る手がかりを得ています。

お腹の環境を調べる主な方法として、「便検査」があります。この検査では、皆さんのうんちに含まれるたくさんの菌の種類や数を調べます。

  • 善玉菌
  • 体に良い働きをする菌の仲間です
  • 悪玉菌
  • 体に悪い影響を与えることがある菌の仲間です
  • 日和見菌(ひよりみきん)
  • どちらにもなりうる菌の仲間です

これらの菌の割合を詳しく見て、お腹の中の環境が良い状態か、それともバランスが崩れているかを判断する参考にするのです。

しかし、現在の研究では、乳酸菌など体に良い菌(プロバイオティクス)やそのエサになるもの(シンバイオティクス)を、すべての人に毎日積極的に摂ることをすすめるほど、十分な証拠はまだないということが分かっています。そのため、お腹の調子を見るための検査として、乳酸菌を摂っているかどうかを詳しく調べることは、今のところ多くありません。

もし、お腹の調子が悪いなど、気になる症状がある場合は、自己判断せずに、必ず私たち専門の医師に相談することが大切です。特に、お腹の病気(例えば、消化器系の自己免疫疾患という、体の防御機能が自分の体を攻撃してしまう病気)がある場合は注意が必要です。このような場合、お腹の環境をより詳しく調べたり、食事との関係で、体に大切な栄養(ビタミンなど)が足りているかを確認する特別な検査が必要になることもあります。

このような検査は、皆さんの腸の健康状態を正しく理解し、一人ひとりに合った適切な方法を見つけるための、とても大切な一歩になります。

乳酸菌の治療

乳酸菌は、皆さんの体の健康を守る大切な力を持っています。体本来の力を引き出すことで、皆さんの健康を助ける存在です。そのため、薬のように病気を直接治すものではありません。しかし、病気の症状を軽くしたり、体を良い状態に保ったりする可能性について、たくさんの研究が今も進められています。

私たち医師も、乳酸菌が持つ可能性に注目しています。

例えば、かゆみや炎症でつらい「アトピー性皮膚炎」について考えてみましょう。最近の研究では、乳酸菌の一種であるLactobacillusから作られた特別な成分(ポストバイオティクス)を口から摂ることが、症状のつらさを示す点数(SCORADスコア)を減らすかもしれないと報告されています。これは、かゆみなどのつらい症状が少しでも和らぐかもしれない、という希望につながるものです。ただし、この研究では、病気の範囲や重症度そのものには、はっきりとした変化が見られなかったことも分かっています。そのため、乳酸菌を摂れば必ずアトピー性皮膚炎が治るとは、まだ言えません。

また、皆さんの体の中では、お腹と「甲状腺(こうじょうせん)」という大切な部分が、お互いに影響し合っていることがわかってきました。この関係を「腸-甲状腺軸」と呼んでいます。甲状腺の病気と、お腹の中の菌の環境が関係しているのではないか、という研究も進んでいます。しかし、現時点では、乳酸菌などを毎日積極的に摂ることを、甲状腺の病気の治療としておすすめするほどの十分な証拠はまだありません。もし、体が自分の体を攻撃してしまうような、特別な病気(消化器系の自己免疫疾患)がある場合は、注意が必要です。このような時は、お医者さんに相談して、体に大切な栄養(ビタミンなど)が足りているかを確認する検査が必要になることもあります。

乳酸菌は、あくまで皆さんの健康を助けるサポート役です。もし、特定の病気の治療として乳酸菌の摂取を考えている場合は、必ず私たち医師や専門家とよく相談してください。ご自身の体の状態に合った、適切な方法で乳酸菌を取り入れることがとても大切です。