インプラント

歯を失った際の選択肢として、ご自身の歯のように噛める「インプラント」。周りの健康な歯を削らない魅力的な治療法ですが、その一方で、手術方法によって結果が大きく変わることはご存知でしょうか。最新の研究では、骨や歯ぐきの状態に合わせた最適な手術法を選ぶことの重要性が示されています。

実は、インプラントは歯だけの治療ではありません。全身の関節治療にも用いられており、ある調査では治療後に22%の方が再手術を必要としたという報告もあります。せっかくの治療で後悔しないためには、正しい知識が不可欠です。

この記事では、インプラントの基本から、ご自身に合った種類の選び方、そして安全な治療に欠かせない検査のポイントまでを詳しく解説します。最適な選択をするための第一歩として、ぜひご一読ください。

インプラントの概要

インプラントとは、失われた歯を補うための治療法です。 歯が抜けてしまった部分のあごの骨に、人工の歯根を埋め込みます。 その上に人工の歯を取りつけることで、機能と見た目を回復させます。

インプラントは、主に以下の3つのパーツから成り立っています。

  • インプラント体(人工歯根) あごの骨の中に直接埋め込む、ネジのような形をした部分です。 骨とよくなじむ性質を持つチタンなどで作られています。
  • アバットメント(支台) 骨に埋めたインプラント体と、外から見える人工の歯をつなぎます。 いわば、歯の土台となる部分です。
  • 上部構造物(人工歯) 歯の形をした被せ物で、見た目や噛む機能を取り戻します。 周りの歯と自然になじむように作られます。

この治療の大きな利点は、ブリッジのように周りの健康な歯を削る必要がない点です。 また、ご自身の歯に近い感覚で、食事や会話を楽しめるようになります。

近年、治療後の見た目や長期的な安定性を高める研究が進んでいます。 例えば、複数の研究結果を分析した報告があります。 それによると、手術の方法によって治療後の結果が変わることが示されました。

歯の表側にある骨の厚みを保つためには、歯ぐきを大きく切開せず、 骨を補強する手術(硬組織増強)が有効だとされています。 また、歯ぐきが下がるのを防ぐには、骨と歯ぐきの両方を補強する方法が、 より良い結果につながると考えられています。 このように、患者さん一人ひとりの状態に合わせた手術法を選ぶことが大切です。

インプラントの種類

インプラント治療には、お口の状態や治療計画にあわせて、いくつかの種類があります。主に「部品の構造」と「手術の方法」によって分けられます。

構造による違い

インプラントは、部品の構成によって2つのタイプに分けられます。

タイプ

構造

特徴

ワンピースタイプ

人工の歯根(インプラント体)と、土台(アバットメント)が一体になっている。

構造がシンプルで、手術が1回で済むことが多いです。

ツーピースタイプ

人工の歯根と土台が別々の部品になっている。

お口の状態にあわせて土台を選べるため、多くのケースで使われています。

現在、人工の歯根はネジのような形をした「スクリュータイプ」が主流です。 骨としっかり結合しやすく、噛む力を周りの骨にうまく分散できるためです。

手術の方法による違い

手術の方法は、主に歯ぐきを切開するかどうかで分けられます。 患者さんの体の負担や、治療後の見た目の安定性に影響します。

  • 1回法・2回法 歯ぐきを切開して、あごの骨にインプラントを埋め込む方法です。 2回法は、一度歯ぐきを閉じて骨と結合するのを待つため、より確実性が高いとされます。
  • フラップレス法 歯ぐきを切らずに小さな穴を開け、そこからインプラントを埋め込みます。 手術による体への負担が少ないのが特徴です。

近年の研究では、手術方法が治療結果に与える影響が注目されています。 例えば、フラップレス法と骨を補強する処置(硬組織増強)を組み合わせることで、インプラント周囲の骨をより良く保てることが報告されています。 さらに、歯ぐきが下がるのを防ぐために、歯ぐき自体を補強する処置(軟組織増強)を加えることもあります。 このように、インプラントの設計や手術の方法は、長期的な安定性や見た目に大きく関わってくるため、ご自身の状態に合った種類を選ぶことがとても大切です。

インプラントの原因

インプラント治療が必要になるのは、ご自身の歯を失ってしまった時です。 歯を失う原因は一つではなく、主に以下の3つが挙げられます。

  • むし歯 むし歯が深くまで進み、歯の神経を越えて根っこまで悪化すると、 治療が難しくなり、歯を残せなくなることがあります。
  • 歯周病 歯を支えるあごの骨が、細菌によって静かに溶かされてしまう病気です。 自覚症状がないまま進行し、気づいた時には歯が支えを失い抜け落ちます。
  • 外傷 スポーツや転倒などの事故で歯が折れたり、抜けたりしてしまうことです。 強い衝撃が加わることで、歯の根がダメージを受けることもあります。

実は、インプラントは歯の治療だけに使われるものではありません。 例えば、ひざの軟骨がすり減る「変形性関節症」という病気があります。 この病気が進むと、痛みを和らげるために人工関節を入れる手術が行われます。 これもインプラントの一種で、ある研究報告によると、 インプラントの種類によって、他の部分の関節症が進みやすくなる可能性も示唆されています。

また、「若年性特発性関節炎」という病気で股関節の機能が損なわれると、 人工股関節を入れることがあります。 この治療は痛みを和らげますが、ある調査では治療後に再手術が必要になる割合が22%にのぼり、 特に骨盤側の部品で多く見られると報告されています。

このように、インプラント治療の背景には、お口のトラブルから全身の病気まで、 さまざまな原因が考えられるのです。

インプラントの症状

インプラント治療は失った歯の機能を取り戻すために行われます。 しかし、手術にともなう一時的な症状や、長期的に注意が必要なサインが出ることがあります。

手術のあとに見られることのある症状 手術の直後から数日間は、体が正常に回復しようとする過程で、 以下のような症状が起こる可能性があります。 これらは多くの場合、時間が経つにつれておさまります。

  • 痛みや腫れ 手術した部分やその周りの頬が痛んだり腫れたりします。 手術による体への刺激に対する自然な反応です。
  • 内出血 手術で皮膚の下の細い血管が傷つくことで起こります。 あざのように皮膚の色が変わることがあります。
  • しびれ 特に下のあごの手術では、神経の近くを操作します。 そのため、唇や舌にしびれを感じることがあります。

長期的に注意したい症状 インプラントを長く使い続ける中で、以下のような問題が起こることもあります。

  • インプラント周囲炎 インプラントの周りの歯ぐきが炎症を起こす病気です。 天然の歯でいう歯周病のような状態で、気づかないうちに進行します。 歯ぐきからの出血や腫れ、膿が出るなどのサインがあります。
  • かみ合わせの違和感や痛み 体の他の部分に入れるインプラントでは、そのデザインによって、 周りの組織への影響が違うという研究結果があります。 歯科インプラントも同様に、かみ合わせに違和感が出た場合は注意が必要です。
  • インプラントのぐらつき インプラントは人工物であり、体の他の部分に入れるインプラントでは、 将来的に再手術が必要になるケースも報告されています。 例えば、股関節の病気で人工関節を入れた場合、 ある調査では22%の方に再手術が必要になったと報告されています。 インプラントがぐらつくなどの異常は、放置せずに早めに受診しましょう。

インプラントの検査・診断

インプラント治療を安全に、そして長持ちさせるには事前の検査が重要です。 口の中や体全体の状態を詳しく調べることで、最適な治療計画を立てます。

主に行われる検査は、以下の3つです。

  • お口の中の検査 虫歯や歯周病の有無を確認します。 口の中が清潔でないと、手術後にインプラントの周りが病気になりやすいため、 先にこれらの治療を済ませることが大切です。
  • CT検査 あごの骨の状態を3D画像で立体的に調べます。 骨の量や厚みだけでなく、骨の硬さも正確に把握できます。 骨の硬さに合わせ、手術で骨に穴を開けるドリルの速さを調整します。 ある研究では、この調整がインプラントと骨の結合に重要と報告されています。 骨の量が足りない場合は、骨を増やす手術(骨移植)を検討します。 ご自身の腰の骨などを移植することもあり、どの場所から骨をとるかで、 手術後の生活への影響が変わるという研究結果もあります。
  • 全身状態の確認 問診や血液検査で、持病がないかなどを調べます。 糖尿病や高血圧などの病気は、傷の治りや手術の結果に影響します。 そのため、体全体の健康状態を事前に把握しておくことがとても大切です。

これらの検査結果をもとに、一人ひとりに合った安全な治療計画をご提案します。

インプラントの治療

インプラント治療には、お口の状態や骨の量に応じて、 いくつかの手術方法があり、治療の流れや期間が変わります。 ご自身の状態に合った最適な方法を選ぶことが大切です。

手術の回数で選ぶ方法

インプラント治療は、主に手術の回数によって分けられます。

  • 1回法 手術を1回で済ませる方法です。 インプラントをあごの骨に埋め込むと同時に、 歯の土台の一部を歯ぐきの上に出しておきます。
  • 2回法 手術を2回に分けて行う、より一般的な方法です。 まずインプラントを歯ぐきの中に完全に埋め込みます。 骨としっかり結合するのを数ヶ月待った後、 2回目の手術で歯の土台を取り付けます。

体への負担を考えた手術

歯ぐきを切る範囲をできるだけ小さくする方法もあります。

  • フラップレス手術 歯ぐきを大きく切らず、小さな穴からインプラントを埋めます。 手術後の腫れや痛みを抑えやすいのが特徴です。 ある研究では、この方法に骨を補う処置を組み合わせることで、 インプラント周りの骨の厚みを保ちやすくなると報告されています。

治療の質を高める大切な技術

安全で長持ちする結果を得るために、様々な技術が用いられます。

  • 骨を増やす処置(骨造成) あごの骨が足りない場合、骨を移植して土台を作ります。 ご自身の腰の骨などから移植することもありますが、 その場合、術後に一時的な歩行障害が起こりやすいとの報告もあります。
  • インプラントを埋める穴あけ(ドリリング) インプラントと骨の結合には、穴のあけ方が重要です。 ある研究では、ドリルの速度や、摩擦熱で骨が傷つかないよう 注水で十分に冷やすことが、骨との結合に影響するとされています。
  • 治療の安全性 歯科だけでなく、他の医療分野のインプラント手術でも、 有害な事象が起こる割合は低いことが多くの研究で示されています。 歯科インプラントも、事前の精密な検査と計画のもとで 安全に行われる治療法です。