がん

「日本人の2人に1人が、生涯で一度はがんにかかる」―この数字を聞いて、あなたは何を感じますか?がんは、もはや誰にとっても無関係ではいられない、非常に身近な病気です。実は、私たちの体内では健康であっても毎日数千個ものがん細胞が生まれていると考えられています。

では、なぜ多くの人はすぐにがんにならないのでしょうか。そして、どのような時にがん細胞は免疫の監視をすり抜け、恐ろしい病へと姿を変えるのでしょう。本記事では、がんの正体からその原因、そして私たちにできることまで、基本的な知識を分かりやすく解説します。あなたと大切な人を守るための第一歩を、ここから始めましょう。

がんの概要

私たちの体は、約37兆個もの「細胞」という、とても小さな命の単位が集まってできています。 これらの細胞は、体のルールに従って分裂し、古くなると自然に消えていくというサイクルを繰り返しています。

しかし、何らかの原因で細胞の設計図である遺伝子に傷がつくと、このルールを無視して勝手に増え続ける異常な細胞が生まれることがあります。 この異常な細胞が「がん細胞」の始まりです。

健康な体でも、実は毎日数千個のがん細胞が生まれていると考えられています。 それでも私たちが病気にならないのは、体を守る「免疫」という優れたシステムが、これらの異常な細胞を見つけ出し、取り除いてくれているためです。

しかし、加齢や生活習慣の乱れなどで免疫の働きが弱まったり、がん細胞の増える力が強かったりすると、免疫の監視をすり抜けて増殖してしまいます。

がん細胞には、正常な細胞にはない、次の3つの特徴があります。

  • 無秩序な増殖
  • 正常な細胞と違い、増殖を止める命令がきかず、無限に増え続けます。
  • 浸潤(しんじゅん)
  • 周りの正常な組織や臓器の中に、染み込むようにじわじわと広がっていきます。
  • 転移(てんい)
  • 血液やリンパの流れに乗り、最初にできた場所から遠く離れた臓器へ移動し、そこでまた新しいかたまりを作ります。

この増え続けたがん細胞のかたまりを「悪性腫瘍」と呼び、一般的に「がん」と言われます。 一方で、転移などをしない比較的おとなしいかたまりは「良性腫瘍」と呼ばれ、がんと明確に区別されます。

悪性腫瘍(がん)

良性腫瘍

増える速さ

速いことが多い

ゆっくり

周りへの広がり

あり(浸潤する)

なし(周りを押しのける)

転移

あり

なし

体への影響

命に関わることがある

ほとんどない(発生場所による)

統計上、日本人の2人に1人が生涯で何らかのがんにかかると推計されており、誰にとっても決して他人事ではない、身近な病気といえます。 正しい知識を持つことが、ご自身の体を守るための大切な第一歩となります。

がんの種類

「がん」と一言でいっても、実は200以上の種類があります。 がんは、体のどの場所の、どの細胞から生まれたかで分類されます。 発生した場所や細胞が違うと、がんの性質や治療法も変わります。

がんの種類は、大きく次のタイプに分けられます。

  • 固形がん 特定の場所に細胞のかたまり(腫瘍)を作るタイプのがんです。 さらに「がん腫」と「肉腫」に分けられます。
  • 血液のがん 血液やリンパを作る細胞ががん化するタイプです。 決まった場所にかたまりを作らないことが多いのが特徴です。

固形がんの種類

  • がん腫(がんしゅ) 胃や肺、大腸といった臓器の表面をおおう細胞から発生します。 一般的に「がん」と呼ばれるものの多くが、このがん腫にあたります。
  • 肉腫(にくしゅ) 骨や筋肉、脂肪など、体を支える組織から発生するがんです。 がん全体から見ると数が少なく、「希少がん」とも呼ばれます。

血液のがんの種類

  • 白血病や悪性リンパ腫など 血液の元となる細胞ががん化するもので、かたまりを作らずに、 血液の流れに乗って全身に影響を及ぼすことがあります。

分類

がんができる場所のもとになる細胞

具体的ながんの例

がん腫

体の表面や内臓の粘膜などをおおう細胞

胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん

肉腫

骨、筋肉、脂肪、血管などの細胞

骨肉腫、軟部肉腫

血液のがん

血液やリンパをつくる細胞

白血病、悪性リンパ腫

このように、がんの種類によって治療法は異なります。 しかし、どの種類のがんであっても、治療中の生活の質も大切です。

近年の複数の研究をまとめた報告では、特に子どもや若い世代の患者さんが、 治療中に適度な運動をすることで、つらい気持ちが和らぐ可能性も示されています。 ただし、この効果の強さについてはまだ研究が続けられており、 さらなる検証が待たれる段階です。

がんの原因

がんの直接的な原因は、細胞の設計図である遺伝子に傷がつくことです。 では、なぜ大切な遺伝子に傷がついてしまうのでしょうか。

そのきっかけは、私たちの日常生活の中に潜んでいることが少なくありません。 原因は一つではなく、複数の要因が長い時間をかけて重なり、 がんの発生リスクを高めていくと考えられています。

国立がん研究センターの報告によると、 日本人の場合、がんの原因として生活習慣や感染症が占める割合は、 男性で約50%、女性で約30%にのぼると推計されています。 つまり、がんの一部は、ご自身の行動でリスクを下げられる可能性があるのです。

がんの発生に関わる主な原因には、次のようなものがあります。

  • 生活習慣
  • 喫煙 たばこの煙に含まれる多くの化学物質が、 肺などの細胞の遺伝子を直接傷つけます。
  • 過度な飲酒 アルコールが体内で分解されるときにできる 「アセトアルデヒド」という物質には発がん性があります。
  • 食生活の偏り 塩分の多い食品や熱すぎる飲食物は、 食道や胃の粘膜を傷つけ、細胞が修復される過程で、 遺伝子のコピーミスが起こりやすくなります。
  • 運動不足 運動不足は肥満につながりやすく、 また体の免疫力を低下させる一因にもなります。
  • ウイルスや細菌への感染
  • 特定のウイルスや細菌に感染すると、 体内で慢性的な炎症が続きます。 すると、細胞が絶えず修復と分裂を繰り返すため、 その過程で遺伝子の傷が生まれやすくなります。 胃がんの原因となるピロリ菌などが代表例です。
  • その他の要因
  • 紫外線 太陽光に含まれる紫外線は、 皮膚の細胞の遺伝子に直接ダメージを与えます。
  • 遺伝的な要因 親から子へ「がんになりやすい体質」が 受け継がれることがあります。 ただし、がんそのものが遺伝するわけではありません。

これらの原因を知り、避けられるリスクを一つでも減らしていくことが、 ご自身の体を守るための大切な一歩となります。

がんの症状

がんの症状は、できた場所や大きさによって様々です。 初期の段階では自覚できる症状がほとんどないことも多く、 静かに進行していく特徴があります。

がんが進行すると、全身に共通する症状が現れることがあります。 これらは、がん細胞が体の栄養を消費したり、 正常な機能を妨げたりすることで起こります。

  • 原因不明の体重減少
  • ダイエットをしていないのに、半年で5%以上減るなど、 意図しない体重減少は注意が必要なサインです。
  • 慢性の倦怠感や疲労感
  • 十分に休んでも回復しない、だるさが続く状態です。 がんによる炎症や貧血が原因のことがあります。
  • 理由のわからない発熱
  • 風邪などの感染症ではないのに、微熱が続くことがあります。
  • 食欲の低下
  • 食べ物がおいしく感じられなくなったり、 すぐに満腹になったりします。

また、がんができた臓器やその周りに特有の症状も現れます。 これを「局所症状」と呼びます。

がんの種類

考えられる症状の例

肺がん

長引くせき、血のまじった痰、胸の痛み、声がれ

胃がん

胃の不快感や痛み、胸やけ、吐き気、黒い便

大腸がん

便に血がまじる、便秘と下痢をくり返す、お腹の張り

乳がん

胸のしこり、皮膚のひきつれ、乳首からの分泌物

皮膚がん

ほくろの形や大きさが急に変わる、出血やかさぶた

さらに、がんという病気は体だけでなく心にも影響を与えます。 診断や治療への不安、気分の落ち込みも症状の一つです。 近年の研究報告では、無理のない運動が心理的なつらさを 和らげる可能性が示唆されています。 ただし、その関連性の強さはまだ弱いと評価されており、 さらなる検証が待たれる段階です。

ここに挙げた症状は、がん以外の病気でも起こります。 しかし、「いつもと違う」「症状が長引く」と感じたら、 自己判断せず早めに医療機関へ相談することが大切です。

がんの検査・診断

がんの疑いがある場合、まずその正体を突き止めます。 どのような種類で、どのくらい進行しているのかを調べます。 そのために、いくつかの詳しい検査を組み合わせて行います。

正確な診断は、最適な治療法を選ぶための設計図です。 一人ひとりに合った治療計画を立てるためにとても重要です。

検査には、それぞれ違う役割があります。

  • 画像検査 体の中の様子を、まるで地図のように詳しく写し出します。 がんの正確な場所や大きさ、形を確認するための検査です。 CT検査やMRI検査、超音波(エコー)検査などがあります。
  • 内視鏡検査 先端に小さなカメラが付いた細い管を体の中に入れます。 胃や大腸などの内側を、医師が直接目で見て観察します。 がんの表面の様子や、どのくらい広がっているかを見ます。
  • 血液検査(腫瘍マーカー) 血液中に、がん細胞が作り出す特殊な物質がないか調べます。 この検査は、がんの勢いをみたり治療効果の判断に使います。 ただし、この数値だけではがんの診断は確定できません。
  • 病理診断(生検) がんが疑われる場所の組織を、ごくわずかに採取します。 その組織を顕微鏡で詳しく観察する、最も重要な検査です。 がん細胞の顔つきを直接確認し、診断を確定させます。

これらの検査結果を総合的に判断して、診断を確定します。 さらに、がんの広がり具合を示す「病期(ステージ)」も決定します。 病期は、治療法を選ぶための大切な指標となります。

がんの治療

がんの治療法は、決して一つだけではありません。 がんの種類や体のどこまで広がっているか(病期)、 そして患者さんご自身の体の状態や希望も大切です。 これらを総合的に考えて、最適な方法を選びます。

治療の基本となるのは「標準治療」です。 これは科学的な証拠に基づき、現時点で最も効果が 期待できると推奨されている治療法のことです。 標準治療には、主に次の3つの方法があります。

  • 手術療法
  • がん細胞のかたまりを、周りの正常な組織も 含めて外科的に切り取る方法です。
  • 放射線治療
  • 高いエネルギーを持つ放射線をピンポイントで当て、 がん細胞を小さくしたり、なくしたりします。
  • 薬物療法(化学療法)
  • 抗がん剤などの薬を使い、血液の流れに乗せて 全身のがん細胞の増殖をおさえる方法です。

これらの治療法は、一つだけを行うこともあります。 また、複数を組み合わせて、より高い効果を 目指すことも珍しくありません。

新しい治療法は、すぐに誰もが受けられるわけではなく、 その効果や安全性を確かめる研究が必要です。 これを「臨床試験(りんしょうしけん)」と呼びます。

例えば、新しい薬の効果を調べる研究では、 まず科学的に信頼性の高い方法で検証します。 その結果、わずかな効果の傾向が見られることがあります。 しかし、普段の診療に近い環境での研究では、 はっきりした効果が確認できない場合もあります。

このように、治療法の有効性は時間をかけて検証されます。 多くの研究データが集まり、本当に有効だと確かめられて、 初めて「標準治療」として認められていくのです。 どの治療法を選ぶかは、担当の医師と十分に相談し、 納得して決めることが何よりも大切です。