術後肛門障害
痔や直腸がんの手術が無事に終わり安心したのも束の間、痛みや便のもれといった不快な症状に一人で悩んでいませんか?「手術は成功したはずなのに、なぜ?」と不安を感じている方もいるかもしれません。
そのお悩みは、決してあなただけのものではありません。海外の報告では、手術を受けた方の最大18%が予定外の入院や再入院を経験するとされています。特に直腸がんの手術後には、約8割の方が排便に関する何らかのトラブルを経験するともいわれています。
この記事では、術後肛門障害のさまざまな症状や原因、そして最新の治療法までを詳しく解説します。つらい症状をあきらめる必要はありません。ご自身の状態を知り、快適な毎日を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。
術後肛門障害の概要
術後肛門障害とは、痔や直腸がんなどの手術後に起こる、肛門まわりのさまざまな不快な症状や合併症のことです。
近年の手術技術は進歩しており、日帰り手術も増えました。フランスではおしりの手術の半数以上が日帰りで行われています。しかし、どのような手術でもトラブルの可能性はゼロではありません。
海外の報告によると、手術を受けた方の最大18%が、予定外の入院や再入院を経験するとされています。術後肛門障害には、時期によって起こりやすい症状があります。
<手術のすぐあとに起こりやすい症状>
- 強い痛み
- 出血
- おしっこが出にくくなる 急に尿が出せなくなる状態で、急性尿閉と呼びます。
- 便秘
- 傷口からの感染
<しばらくたってから起こる症状>
- 肛門がせまくなる 肛門狭窄(こうもんきょうさく)と呼ばれます。
- 便やガスがもれてしまう 便失禁(べんしっきん)と呼ばれます。
- 傷の治りがおそい
事前に症状を知ることは、心の準備だけでなく、異常が起きた際の早期対処につながります。再入院を防ぐには、緊急時に受診すべきサインを知っておくなどの術前教育が重要です。
術後肛門障害の種類
おしりの手術の後に起こるトラブルは、いつ起こるかによって大きく2つに分けられます。手術直後から数週間のうちに出やすい「早期合併症」と、数ヶ月から数年たってから出る「遅発性合併症」です。
早期合併症
手術が終わって比較的すぐにあらわれる可能性のあるトラブルです。
- 出血 手術した場所から血が出ることです。多くは自然に止まります。
- 感染 傷口に細菌が入り、腫れたり熱が出たりします。
- 吻合部漏出(ふんごうぶろうしゅつ) 直腸がんの手術などで腸をつなぎ合わせた部分が、うまくくっつかずにすき間ができてしまう状態です。ある研究では、この吻合部漏出が起こると、後で説明する便のトラブル(LARS)になる危険性が高まると報告されています。
- 尿閉(にょうへい) おしっこを出したくても出せなくなる状態です。
遅発性合併症
手術から時間がたってからあらわれるもので、生活に長く影響することがあります。
- 肛門狭窄(こうもんきょうさく) 肛門が狭くなり、便が出にくくなったり細くなったりします。
- 便失禁 自分の意思とは関係なく、便やガスが漏れてしまいます。
- 低位前方切除症候群(LARS) 特に直腸がんの手術後に起こりやすい症状の集まりです。ある調査では、手術を受けた方の約8割が経験するともいわれています。何度もトイレに行きたくなる、便が漏れる、便を出しきれない感覚などが主な症状です。
術後肛門障害の原因
術後肛門障害が起こる原因は、ひとつだけではありません。手術による直接的な影響と、手術後に起こる体の変化が複雑に関係しています。
原因は、主に以下の2つのパターンに分けられます。
1. 手術による直接的な影響
手術で肛門の機能に関わる部分に変化が起きることが原因です。どのような手術を受けたかによって、起こりうる症状は異なります。
- 筋肉や神経へのダメージ おしりをキュッとしめる筋肉「括約筋(かつやくきん)」や、その周りの神経が手術によって傷つくと、便やガスが漏れやすくなります。特に、がんを完全に取り除く手術では、周りの組織も一緒に切除するため、機能に影響が出ることがあります。
- 肛門の皮膚の取りすぎによる変化 いぼ痔(痔核)の手術などで肛門の皮膚を取りすぎると、傷が治る過程で硬く縮んでしまうことがあります。これにより肛門が狭くなる「肛門狭窄(こうもんきょうさく)」という状態になり、便が出にくくなる、排便時に痛むなどの症状が出ます。
2. 手術後の合併症による影響
手術自体はうまくいっても、その後の経過で起こる合併症が原因となるケースです。特に、直腸がんなどの手術で腸をつなぎ合わせた場合に注意が必要です。
- 腸のつなぎ目のトラブル(吻合部漏出) 手術でつなぎ合わせた腸の部分がうまくくっつかず、すき間から便が漏れてしまう状態です。この吻合部漏出が起こると、お腹の中で感染したり、慢性的な膿のトンネル(瘻孔)ができてしまったりすることがあります。海外のある研究では、この慢性的な瘻孔や感染が、再手術の主な原因になると報告されています。
- その後の生活への影響 吻合部漏出を経験すると、その後の生活に長く影響することがあります。ある研究では、吻合部漏出を経験した方は、そうでない方と比べて、便が漏れる、急にトイレに行きたくなるといった「低位前方切除症候群(LARS)」という便のトラブルが起こりやすくなることがわかっています。特に、生活に支障が出るほどの重い症状になるリスクが高まることも指摘されています。
術後肛門障害の症状
おしりの手術後にあらわれる症状は、人によってさまざまです。手術のすぐ後に出るものもあれば、数ヶ月たってから気づくものもあります。
ご自身の状態と比べられるように、代表的な症状をまとめました。当てはまるものがないか、確認してみましょう。
【うんちの出方に関するお悩み】 □ トイレに行く回数が1日に5〜6回以上に増えた □ 一度に少しずつしかうんちが出ない □ うんちを出し切れていない感じがする(残便感) □ 突然、我慢できないほどトイレに行きたくなる □ 自分の意思と関係なく、うんちやガスがもれる
特に直腸がんの手術後には、このような排便のトラブルが起こりやすいです。「低位前方切除症候群(LARS)」と呼ばれ、ある調査では手術を受けた方の約8割が経験すると報告されています。
また、腸をつなぎ合わせた部分がうまくくっつかない「吻合部漏出(ふんごうぶろうしゅつ)」という合併症が起こると、特に重い便のトラブルにつながりやすいことがわかっています。
【おしりの痛みや形に関するお悩み】
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症状の種類 |
具体的な内容 |
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出血 |
手術後の少しの出血はよくありますが、だらだらと続くときは注意が必要です。 |
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おしりの穴がせまくなる |
・うんちが鉛筆のように細くなる ・うんちを出すときに痛みを感じる |
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バイ菌が入ったサイン |
・おしりの周りが赤く腫れて、熱っぽい ・ズキズキとした痛みがだんだん強くなる |
これらの症状は、生活の質を大きく下げてしまうことがあります。我慢せずに、まずは手術を受けた病院や専門のクリニックに相談することが大切です。
術後肛門障害の検査・診断
「手術のあと、おしりの調子が悪いな」と感じたら、まずは医師に相談することが大切です。どのような検査で原因を調べるのか、不安に思う方もいるかもしれません。ここでは、検査の流れをわかりやすく解説します。
診断は、まず患者さんからのお話を聞く「問診」から始まります。いつからどのような症状があるか、トイレの回数や便の状態、生活への影響などを丁寧にお伺いします。
次に、医師が直接おしりの状態を診察します。目で見て傷あとや腫れがないかを確認したり、優しく触れて状態を確かめたりします。少し恥ずかしいかもしれませんが、正確な診断には欠かせません。
必要に応じて、さらに詳しい検査に進みます。
- おしりの力のテスト (肛門機能検査) 機械を使い、おしりをキュッとしめる筋肉の力を測ります。便やガスを我慢する力が、正常に働いているかを確認するための検査です。
- お腹の中の写真撮影 (CT検査・MRI検査) CTやMRIという機械で、お腹の中を詳しく調べます。腸の形や、手術した場所の周りに異常がないかを確認できます。
- 血液チェック (血液検査) 採血をして、体の中で炎症が起きていないかなどを調べます。手術した場所から出血して貧血になっていないか、バイ菌が入っていないかなどを確認します。
これらの検査結果を総合的に判断し、症状の本当の原因を見つけ出します。そして、一人ひとりに合った治療法を一緒に考えていきます。
術後肛門障害の治療
おしりの手術の後のつらい症状は、あきらめる必要はありません。症状や原因に合わせて、さまざまな治療法があります。治療は大きく分けて、体にメスを入れない「保存的治療」と、手術で治す「外科的治療」の2つです。
1. 保存的治療(手術をしない方法)
まずは、体への負担が少ない治療から始めるのが基本です。
- 骨盤底筋(こつばんていきん)トレーニング おしりをキュッとしめる筋肉をきたえる運動です。このトレーニングで、便やガスがもれにくくなる効果が期待できます。
- お薬での治療 うんちの状態をコントロールするためにお薬を使います。下痢を止めたり、うんちの形を整えたり、軟らかくしたりします。
- 経肛灌腸(けいこうかんちょう) おしりからぬるま湯などを入れて腸の中をきれいにします。計画的にうんちを出せるので、急な便意や便もれの不安を減らせます。ある研究では、特に直腸がんの手術後に起こる排便トラブルに対し、治療後3ヶ月から1年ほど症状を和らげる効果が報告されました。
2. 外科的治療(手術をする方法)
保存的治療で良くならない場合や、症状が重い場合に考えます。
- 肛門を広げる手術 手術の傷あとが硬くなり、肛門が狭くなってしまった時に行います。
- 肛門の筋肉を直す手術 便もれがひどい場合に、おしりをしめる筋肉の働きを助けます。
- 人工肛門(ストーマ)を避けるための再手術 腸のつなぎ目にトラブルが起きた場合でも、すぐに諦める必要はありません。海外の研究では、専門的な再手術(遅延性結腸肛門吻合術)によって、約8割の方が永久的な人工肛門を避けられたと報告されています。
- 人工肛門(ストーマ)をつくる手術 他の治療ではどうしても良くならない、とても重い症状の場合の選択肢です。
どの治療法があなたに合っているかは、一人ひとりの状態によって大きく異なります。つらい症状を抱え込まず、まずは専門の医師に相談することが、快適な生活を取り戻すための第一歩です。










