血栓性静脈炎

足が急にパンパンに腫れる、腕に痛みを伴う硬いしこりができる。そんな症状を、単なるむくみや疲れだと思って見過ごしていませんか? そのサインは、静脈に血のかたまり(血栓)ができて炎症を起こす「血栓性静脈炎」かもしれません。

この病気は、点滴や長時間のフライト、病気での寝たきりなど、身近なきっかけで誰にでも起こりうるものです。例えば、下肢静脈瘤のレーザー治療後に約0.6%の確率で起こるという報告もあり、決して他人事ではありません。

そして最も注意すべきは、この病気には大きく2つのタイプがあり、片方は血栓が肺に飛んで命を脅かす「肺塞栓症」につながる危険性があるという事実です。本記事では、2つのタイプの違いから原因、治療法までを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、正しい知識を身につけましょう。

血栓性静脈炎の概要

血栓性静脈炎は、血液が通る管である「静脈」に、 血のかたまり(血栓)ができてしまう病気です。 血栓ができた場所では、血管の壁に炎症が起きます。 炎症によって、痛みや腫れ、赤みなどの症状が出ます。

この病気は、特に足の静脈で起こることが多いです。 原因は主に次の3つが関係していると考えられています。

  • 血管の壁に傷がつく
    点滴の針を刺したり、ケガをしたりすることが きっかけで、血管の内部に傷がついてしまいます。
  • 血液の流れが滞る
    長時間同じ姿勢でいることや、病気で寝たきりの 状態が続くと、血液の流れが悪くなります。
  • 血液が固まりやすい
    脱水の状態や、ある種の病気、お薬の影響などで 血液が通常よりも固まりやすくなることがあります。

また、他の病気の治療が原因で起こる場合もあります。 例えば、足の血管が浮き出る「下肢静脈瘤」の治療です。 この治療ではレーザーを用いることがありますが、 ある研究では、合併症としてごくまれに(約0.6%) 血栓性静脈炎が起こると報告されています。

このように、血栓性静脈炎は様々な原因によって 引き起こされる、誰にでも起こりうる病気なのです。

血栓性静脈炎の種類

血栓性静脈炎は、血のかたまり(血栓)ができる血管の 場所によって、大きく2つの種類に分けられます。

どちらのタイプかによって、症状のあらわれ方や 危険性が大きく異なるため、見分けることが重要です。

1. 浅表(せんひょう)血栓性静脈炎

皮膚のすぐ下にある「浅い静脈」に血栓ができるタイプです。 点滴や採血の後に腕の血管が硬く痛むことがありますが、 これもこの病気の一種です。

  • 特徴 腕や足の皮膚の表面に、赤く硬いしこりのような ものができ、熱っぽく感じます。
  • 危険性 症状はつらいですが、命に関わるような重い状態に なることは比較的少ないとされています。

2. 深部(しんぶ)静脈血栓症

体の奥深く、筋肉の中にある「深い静脈」に血栓ができます。 主に足の静脈で起こることが多いです。

  • 特徴 外見からは分かりにくいですが、片方の足だけが 急にパンパンに腫れるのが特徴的なサインです。
  • 危険性 このタイプで最も注意が必要なのは、血栓がはがれて 血流に乗り、肺の血管を詰まらせてしまうことです。 これは「肺塞栓症」と呼ばれ、命を脅かす危険な状態です。

項目

浅表血栓性静脈炎

深部静脈血栓症

できる場所

皮膚のすぐ下にある浅い静脈

体の奥深くにある太い静脈

主な症状

皮膚の赤み、硬いしこり、痛み

片足全体の急な腫れ、痛み

危険な合併症

まれ

肺塞栓症のリスクがある

また、まれなケースですが、歯や首の周りの感染症が原因で 近くの静脈に血栓ができることも報告されています。

ご自身の症状がどちらか分からなくても、気になることがあれば 自己判断せず、早めに医療機関を受診してください。

血栓性静脈炎の原因

血栓性静脈炎は、なぜ起きてしまうのでしょうか。 原因は一つではなく、いくつかの理由が重なることで 血のかたまり(血栓)ができやすくなると考えられています。

主な原因は、大きく分けて次の3つです。

  • 血管の壁にキズがつくこと 点滴や注射の針、手術で体に入れる細い管(カテーテル) などが、血管の内側を傷つけることがきっかけです。 キズを治そうとする体の働きで、血栓ができやすくなります。 最近の研究では、超音波で血管を見ながら慎重に管を 入れることで、この病気のリスクを下げられることや、 管の種類によってもリスクが変わることがわかっています。 また、意外かもしれませんが、歯の周りの感染症が 血管を通じて広がり、血栓性静脈炎を起こすこともあります。
  • 血液の流れが悪くなること 飛行機での長時間の移動や、病気やケガで長く寝たきりの 状態が続くと、足の血液の流れが滞りやすくなります。 血の流れが遅い川に泥がたまるように、血流が悪いと 血液の成分が固まり、血栓ができる原因となります。
  • 血液が固まりやすい状態になること 体の水分が不足する脱水状態や、妊娠中、 経口避妊薬(ピル)の服用、がんなどの病気、 大きな手術の後などは、血液が普段よりも 固まりやすい状態になることがあります。

これらの主な原因の他に、ご高齢の方、肥満気味の方、 タバコを吸う習慣がある方は、より注意が必要です。 生活の中のささいなことが、原因になる場合もあります。

血栓性静脈炎の症状

血栓性静脈炎の症状は、血のかたまり(血栓)ができた 血管の場所によって、あらわれ方が大きく異なります。 主に2つのタイプがあり、それぞれに特徴的なサインが出ます。

皮膚の表面近くにできる場合(浅表血栓性静脈炎)

皮膚のすぐ下にある、浅い静脈に血栓ができた場合、 次のような症状が腕や足にあらわれます。 見た目にも変化が分かりやすいのが特徴です。

  • 血管にそった赤み
    血栓ができた血管にそって、皮膚が赤くなります。
  • 硬いしこり
    赤くなった部分をさわると、コリコリと硬く感じます。
  • 熱っぽさと腫れ
    炎症が起きているため、その部分が熱っぽく腫れます。
  • 痛み
    押すとズキッとした痛みを感じることがあります。

また、首の周りにうみがたまる病気が原因で、 このタイプの血栓性静脈炎が起こることもあります。 その場合は首の腫れや痛みに加えて、熱が出ることもあります。

体の深い部分にできる場合(深部静脈血栓症)

体の奥深く、筋肉の中にある太い静脈に血栓ができます。 浅いタイプと違い、症状が分かりにくいことがあるため注意が必要です。

  • 片方の足の急な腫れ
    特にふくらはぎなど、片方の足だけがパンパンに腫れます。
  • 鈍い痛みや重だるさ
    足全体が重く、鈍い痛みを感じることがあります。
  • 皮膚の色の変化
    皮膚が赤紫色っぽく変色することもあります。

重い感染症(敗血症)などで入院しているお子さんの場合、 点滴がきっかけで血栓性静脈炎が起こることもあります。 もとの病気に加え、点滴中の腕や足の腫れ・痛みがないか、 注意深く観察することがとても大切です。

これらのサインに気づいたら、自己判断はせず、 できるだけ早く医療機関に相談してください。

血栓性静脈炎の検査・診断

血栓性静脈炎が疑われるとき、医師はまず患者さんの お話をじっくりと伺い、診断のヒントを探します。 次に、腫れや赤みのある部分を直接見て、触って、 血管の状態を丁寧に確かめます(問診・視診・触診)。

その上で、診断を確定させるために、 次のような詳しい検査を行っていきます。

診断の主役は超音波(エコー)検査

この病気の診断で、最も大切で中心となるのが 超音波(エコー)検査です。 体にゼリーを塗り、機械をあてるだけの検査です。 痛みはなく、体の内部をリアルタイムで見られます。

  • この検査でわかること ・血のかたまり(血栓)がどこにあるか ・血栓が血管をふさいでいないか ・血液がスムーズに流れているか ・病気が皮膚の浅い場所か、体の深い場所か

最近の研究では、点滴の管を入れるときに超音波で 血管を見ながら行うと、血栓性静脈炎が起こる 危険性を大きく減らせることがわかっています。 それだけ血管の状態を正確に把握できる検査なのです。

診断を助ける血液検査

血液検査で「D-ダイマー」という数値を調べます。 これは、体の中で血栓ができると増える物質です。 数値が高いと、血栓がある可能性が考えられます。

ただし、この数値はケガや他の病気でも上がります。 そのため、あくまで診断を助けるための参考情報です。 超音波検査の結果とあわせて、総合的に判断します。

検査の種類

この検査でわかること

問診・視診・触診

症状や患部の状態を詳しく確認する

超音波検査

血栓の有無や場所、深さなどを正確に調べる

血液検査

血栓がある可能性を間接的に確認する

これらの検査で病気の種類を正確に見極めることが、 一人ひとりに合った適切な治療への第一歩となります。

血栓性静脈炎の治療

血栓性静脈炎の治療は、病気の種類によって大きく異なります。 なぜなら、血のかたまり(血栓)ができた場所によって、 危険性がまったく違うからです。 医師は検査の結果をもとに、最適な治療法を慎重に選びます。

皮膚の表面近くにできた場合(浅表血栓性静脈炎)

このタイプの治療目標は、痛みや腫れを和らげることです。 多くの場合、次のような治療を組み合わせて行います。

  • 安静と挙上(きょじょう) 痛む腕や足を安静にし、クッションなどを使って 心臓より高い位置に保ちます。 血液が心臓に戻りやすくなり、腫れを軽くします。
  • 温めること 蒸しタオルなどで患部を優しく温めます。 血のめぐりを良くして、痛みを和らげる効果があります。
  • お薬による治療 痛みや炎症を抑えるための飲み薬や塗り薬を使います。
  • 弾性ストッキングの着用 足を適度な強さでしめつける特別なストッキングです。 足に血液がたまるのを防ぎ、症状の悪化を防ぎます。

体の深い部分にできた場合(深部静脈血栓症)

この場合、治療の目的は「命を守ること」が最優先です。 血栓が肺に飛んで血管を詰まらせる「肺塞栓症」という、 命に関わる合併症を防ぐための治療が中心になります。 主に「抗凝固薬」というお薬を使います。 これは血液を固まりにくくするお薬で、血栓がこれ以上 大きくならないようにしたり、溶かしたりするのを助けます。

原因に合わせた治療

また、血栓ができた原因を取り除く治療も大切です。 例えば、足の血管がこぶのように浮き出る「下肢静脈瘤」が 原因の場合、その静脈瘤自体の治療が必要になります。

最近では、新しい世代のレーザーを使った治療法もあります。 ある研究のまとめでは、この治療で血栓性静脈炎が起こる 確率は約0.6%と、とても低いことが報告されています。

点滴が原因の場合、治療に点滴が欠かせないこともあります。 ある研究では、重い感染症にかかったお子さんの治療で 点滴の液体の種類を変えても、血栓性静脈炎の起こりやすさに 大きな違いはなかったという結果も出ています。

どの治療法を選ぶかは、患者さん一人ひとりの状態によって 大きく異なります。自己判断はせず、必ず医師に相談し、 適切な治療を受けるようにしてください。