交通事故やスポーツでの転倒など、強い衝撃で起こる「すねの骨折」。医学的には下腿骨骨幹部骨折と呼ばれますが、この骨折には、他の部位とは異なるいくつかの注意点があることをご存知でしょうか。
すねは皮膚のすぐ下に骨があるため、折れた骨が皮膚を突き破りやすく、細菌感染のリスクが高まります。また、血の巡りが乏しい部分でもあるため、骨が治るまでに時間がかかったり、神経や血管を傷つけて後遺症につながったりする危険も潜んでいます。
この記事では、そんな下腿骨骨幹部骨折の原因から症状、そして3Dプリンターの模型を使った手術計画といった最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の状態を正しく理解し、最適な治療を選択するための一助となれば幸いです。
下腿骨骨幹部骨折の概要
私たちの足の「すね」の部分を、医学的には下腿(かたい)と呼びます。 この部分には、脛骨(けいこつ)という太い骨と、 腓骨(ひこつ)という細い骨の2本が並んでいます。
下腿骨骨幹部骨折とは、この2本の骨の真ん中あたりが折れることです。 この骨折には、他の骨折とは違ういくつかの注意点があります。
- 開放骨折になりやすい すねの内側を触ると、すぐに硬い骨に触れられます。 ここは筋肉が少なく、皮膚のすぐ下に脛骨があるためです。 そのため、骨折すると鋭い骨の先が皮膚を突き破りやすく、 「開放骨折」という状態になることがあります。 傷口から細菌が入ると、骨が化膿する骨髄炎のリスクが高まります。
- 治りにくいことがある 骨がくっつくためには、たくさんの血液(栄養)が必要です。 しかし、脛骨の下の方は周りの筋肉が少なく、 血の巡りが比較的乏しい部分です。 このため、骨折が治るまでに時間がかかることがあります。
- 神経や血管を傷つける危険 骨のすぐそばには、足の感覚や動きを担う神経や、 栄養を送る大切な血管が通っています。 骨折によってこれらが傷つくと、足にしびれが出たり、 血流が悪くなったりする可能性があります。
交通事故などで骨が粉々になったり、一部が失われたりした場合は、 骨を補うための特別な手術が必要になることもあります。 近年では、失われた骨の部分を人工の骨で再建する、 「間挿入型人工骨置換術」という治療法も選択肢の一つです。
下腿骨骨幹部骨折の種類
「すねの骨折」と一言でいっても、実はさまざまな種類があります。 骨の折れ方や皮膚の状態によって分類され、 どのタイプかを見極めることが、治療法を決める上でとても重要です。
主な分類には、骨の折れ方と皮膚の状態によるものがあります。
骨の折れ方による分類 骨に加わった力の向きや強さによって、骨の折れ方は異なります。
- 横骨折 骨の長軸に対し、ほぼ垂直に「ポキッ」と折れるタイプです。
- 斜骨折 骨に対して、斜めに「スパン」と折れるタイプです。
- らせん骨折 ひねる力が加わることで、らせん状に折れるタイプです。
- 粉砕骨折 強い衝撃で、骨が複数の骨片に分かれてしまう状態です。
皮膚の状態による分類
- 閉鎖骨折(単純骨折) 骨折部分の皮膚に傷がなく、骨が外に出ていない状態です。
- 開放骨折(複雑骨折) 折れた骨が皮膚を突き破り、外に露出している状態です。 細菌感染のリスクが高く、治療が複雑になることがあります。
また、高齢化に伴い、人工関節の手術などを受けた方の、 金属(インプラント)周辺で骨折が起こることも増えています。 これを「インプラント周囲骨折」と呼び、特別な注意が必要です。
この場合、骨折の形だけでなく、入っている金属が安定しているか、 緩んでいないかが治療法を選ぶ上で極めて重要になります。 医師は「バンクーバー分類」などの専門的な分類法を用いて評価し、 一人ひとりに合った最適な治療法を慎重に検討します。
下腿骨骨幹部骨折の原因
すねの骨が折れる原因は、大きく2つに分けられます。 一つは非常に強い力が加わること、もう一つは骨がもろくなっていることです。
多くは、骨の強度をはるかに超える強い力が加わって発生します。 これを「高エネルギー外傷」と呼び、若い世代に比較的多いです。
- 交通事故 自動車やバイクの事故で、すねを直接ぶつけることで起こります。 歩行中に車と接触した場合も、骨折の大きな原因となります。
- スポーツ中のケガ サッカーやラグビーなど、選手同士が激しくぶつかり合う競技や、 スキーやスノーボードでの転倒によって、強い力がかかります。
- 高い場所からの転落 工事現場や、はしごなど高い場所から落ちた際に、 着地の衝撃で骨が耐えきれずに折れてしまいます。
これらの強い力で骨折すると、骨が大きくずれたり、 粉々に砕けたり(粉砕骨折)することが少なくありません。 そのため、骨の中に金属の棒を入れて固定する「髄内釘(ずいないてい)手術」が 必要になるケースがほとんどです。
一方で、高齢の方に多いのが、骨自体が弱くなる「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」が 背景にある骨折です。この場合、若い人なら何でもないような弱い力、 例えば「家の中でつまずいて転んだだけ」といったささいなきっかけで 骨折してしまうことがあります。
このように、骨折の原因はさまざまですが、 いずれもその後の生活に大きな影響を及ぼします。 特に手術が必要な場合、治療法によっては術後に膝の痛みや しびれ(感覚麻痺)が課題になることも研究で報告されています。
下腿骨骨幹部骨折の症状
すねの骨が折れると、折れた場所に強い症状が出ます。 けがの程度によっては、足全体に影響が及ぶこともあります。
骨折した場所にあらわれる主な症状 骨折した部分には、次のような特徴的なサインが見られます。
- 激しい痛みと腫れ 骨が折れると、周りの組織や血管も傷つきます。 そのため、立ったり歩いたりできないほどの激痛が生じ、 出血によってみるみるうちに足がパンパンに腫れあがります。
- 見た目の変化(変形) 足を支える太い骨が折れるため、見た目が変わります。 明らかに曲がったり、短くなったり、ねじれたりします。 特に「ねじれ」は、将来の歩き方に影響を与えかねません。 そのため、医師は手術でこのねじれを正確に治すことを重視します。 治療後の痛みを減らす工夫など、様々な研究が進められています。
- 骨が皮膚を突き破る(開放骨折) 折れた骨の鋭い先端が、皮膚を突き破って外に出ることがあります。 傷口から細菌が入る危険があり、緊急の処置が必要です。
神経や血管が傷ついたときのサイン 骨折と同時に、近くを走る大切な神経や血管が傷つくと、 足の先に次のような症状があらわれることがあります。
- 足の指や足の裏がしびれる
- 感覚がにぶくなる、触ってもよくわからない
- 足先が血の気を失い、青白く、冷たくなる
特に注意したい危険なサイン(コンパートメント症候群) けがの後、時間が経つにつれて痛みがどんどん強くなる。 すねがカチカチに硬く腫れてきた。 これは「コンパートメント症候群」という非常に危険な状態です。
筋肉は、筋膜という膜に包まれた部屋(コンパートメント)にあります。 骨折による内出血でこの部屋がパンパンに腫れあがると、 中の血管が押しつぶされ、血流が止まってしまいます。 放置すると筋肉や神経が死んでしまうため、緊急手術が必要です。
下腿骨骨幹部骨折の検査・診断
すねの骨折が疑われる場合、まずけがの状況を詳しくお聞きします。 その上で、足の状態を丁寧に見て、やさしく触れて確認します。 痛みや腫れ、変形の程度などを把握し、正確な診断へと進みます。
骨の状態を正確に知るために、次のような検査を行います。
- X線(レントゲン)検査 骨折の診断で、最も基本となる大切な検査です。 骨がどこで、どのように折れているのかをはっきりと確認できます。 骨折の場所や種類(横骨折、らせん骨折など)を特定します。
- CT検査 骨の状態を、輪切りにしたような画像で立体的に見る検査です。 X線検査だけではわかりにくい、複雑な骨折の診断に役立ちます。 骨の周りにある大切な血管や神経の損傷がないかも確認します。
- 血液検査 骨が皮膚を突き破った「開放骨折」の際に特に重要です。 傷口から細菌が入っていないか(感染の有無)を調べます。 また、出血による貧血の状態なども把握するために行います。
これらの基本的な検査に加え、より安全な手術のための技術も進歩しています。 CT検査のデータから、患者さん個人の骨を実物大の模型で再現します。 これが「3Dプリントモデル」です。
手術の前にこの模型を使い、どのネジでどう固定するかを計画します。 これを「術前シミュレーション」と呼び、次のような利点が報告されています。
- 手術時間が短くなる
- 手術中の出血量を減らせる
- 手術中にレントゲンを見る回数が減り、体への負担が軽くなる
これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりに合った治療法を決定します。
下腿骨骨幹部骨折の治療
すねの骨が折れてしまった場合の治療目標は、ただ一つです。 それは、骨を元の正しい位置に戻し、しっかりとくっつけること。 そして、再び元通りに歩けるようになることを目指します。
治療法は、骨のずれの大きさや折れ方、けがの状態などを考えて、 一人ひとりに合った方法を慎重に選んでいきます。 治療法は、大きく2つの方法に分けられます。
|
治療法
|
主な対象となる状態
|
|
手術しない方法<br>(保存療法)
|
・骨のずれがほとんどない場合<br>・手術が体に大きな負担となる場合
|
|
手術する方法<br>(手術療法)
|
・骨が大きくずれている場合<br>・骨が皮膚を突き破っている(開放骨折)<br>・早く元の生活に戻りたいと希望する場合
|
骨のずれが小さい場合は、ギプスで固定して骨がくっつくのを待ちます。 しかし、多くの場合、手術による治療が必要となります。
手術では、骨の中に金属の棒(髄内釘:ずいないてい)を入れて、 骨を内側からしっかりと固定する方法が一般的です。 この手術は、骨を強く固定できるため、早期のリハビリが可能です。
最新技術で、より安全で負担の少ない手術へ
近年、手術の技術は大きく進歩しています。 患者さんの体への負担をできるだけ少なくし、 より早く、より快適に回復するための工夫がされています。
- 3D模型で手術の練習(術前シミュレーション) CT検査のデータから、あなたの骨そっくりの模型を3Dプリンターで作ります。 手術の前にこの模型を使って、どのネジをどう使うか計画を立てます。 信頼性の高い研究では、この方法で手術時間や出血量が減ることが報告されています。
- 痛みを減らすための工夫 髄内釘を入れる方法はいくつかあります。 例えば、膝の上から釘を入れる方法と、下から入れる方法があります。 どちらも骨のねじれ(回転)の治り方に大きな差はありません。 しかし、膝の上から入れる方が、手術後の痛みが少ない傾向があります。
- しびれを少なくするための工夫 手術の際に皮膚を切る向き(縦か横か)によって、 術後のしびれ(感覚麻痺)の感じ方が変わることがあります。 横に切る方が、しびれが早く改善する傾向が報告されています。
特殊な骨折への対応
高齢化に伴い、以前に入れた人工関節の近くで骨折する方も増えています。 これを「インプラント周囲骨折」と呼び、特別な対応が必要です。 この場合、入っている金属が緩んでいないかが治療法を決める鍵となります。
また、事故などで骨の一部が粉々になって失われた場合でも、 特殊な人工の骨でその部分を補う「再建手術」という選択肢もあります。 このように、治療法は多岐にわたります。 医師とよく相談し、あなたに最適な治療法を選んでいきましょう。