臍帯ヘルニア

お腹の赤ちゃんの健やかな成長は、すべての親御さんが抱く切なる願いです。しかし、約8,500人に1人の割合で、お腹の壁がうまく閉じずに腸や肝臓といった臓器が外に出てしまう「臍帯ヘルニア」という生まれつきの病気をもって生まれてくる赤ちゃんがいます。

「臓器が体の外に」と聞くと、大きな不安を感じるかもしれません。しかし、この病気は妊娠初期のエコー検査で95%以上発見できるため、事前に心の準備と治療の計画を立てることが可能です。一体なぜこの病気は起こるのでしょうか?そして、赤ちゃんにとって最適な治療法とはどのようなものでしょうか。

この記事では、臍帯ヘルニアの原因から種類、具体的な治療法までを詳しく解説します。生まれる前に病気を正しく理解することは、不安を和らげ、赤ちゃんの未来のために最善の選択をするための第一歩です。万全の体制で赤ちゃんを迎える準備を始めましょう。

臍帯ヘルニアの概要

赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる時に起こる、生まれつきの病気です。 本来はお腹の中に収まっているはずの腸や肝臓といった臓器が、へその緒(臍帯)の中に飛び出してしまっている状態を指します。

この病気のポイントは以下のとおりです。

  • 起こる時期 赤ちゃんがお腹の中で成長するごく初期の段階で、お腹の壁がうまく作られないことが原因です。
  • 発生する割合 約8,500人から10,000人の赤ちゃんに1人ほどの割合でみられ、男の子のほうが少し多いといわれています。
  • みつかる時期 現在では、ほとんどの場合、生まれる前の超音波検査(エコー検査)で診断されます。

「ヘルニア」とは、体の壁にできたすき間から臓器などが飛び出す状態のことです。 そのため、治療ではこのすき間をふさぐ手術が行われます。 大人の「臍(へそ)ヘルニア」という似た病気の治療では、手術後の再発を防ぐために、メッシュという人工の膜ですき間を補強する方法があります。 実際に、メッシュを使った方が再発は少ないという研究結果も報告されています。

赤ちゃんの治療では、体の成長も考えながら最適な方法が選ばれます。 生まれる前に病気がわかることで、専門の病院で出産準備を整え、すぐに適切な治療を開始できるという利点があります。

臍帯ヘルニアの種類

臍帯ヘルニアは、お腹の壁にできた穴の大きさや場所によって、いくつかの種類に分けられます。 赤ちゃんの状態を正しく理解し、最適な治療法を選ぶためにとても重要です。

主な分類は、以下の2つのポイントで行われます。

  • 穴の大きさによる分類
  • お腹の壁にあいた穴の大きさです。
  • 穴の場所による分類
  • おへそのどの位置に穴があるかです。

穴の大きさによる分類

穴の大きさで、飛び出す臓器の量や種類が変わり、治療の難しさも異なります。

  • 臍帯内ヘルニア
  • 穴が比較的小さく、腸の一部だけがわずかに飛び出している状態です。
  • 巨大臍帯ヘルニア
  • 穴が5cm以上と大きく、腸だけでなく肝臓など多くの臓器がお腹の外に出てしまっている状態です。

巨大臍帯ヘルニアの場合、赤ちゃんの小さなお腹では、一度に臓器を戻すのが難しいことがあります。 そのため、治療が複雑になる傾向があります。

どのような状態を「巨大」と呼ぶか、その定義は専門家の間でも様々です。 治療法も多くの方法が検討されており、確立された一つの方法があるわけではありません。

穴の場所による分類

おへそのどの位置に穴があるかによって、以下の3つのタイプに分けられます。

種類

特徴

臍上部型

おへその上の方に穴があるタイプです。

臍部型

おへその真ん中に穴があるタイプで、最も多くみられます。

臍下部型

おへその下の方に穴があるタイプです。

このように、臍帯ヘルニアと診断されても、その状態は一人ひとり大きく異なります。 どの種類のヘルニアかによって、手術の方針や合併症のリスクも変わってきます。

臍帯ヘルニアの原因

赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる、とても早い時期に、 お腹の壁がうまく作られなかったことが原因で起こります。 しかし、なぜ壁がうまく作られないのか、その詳しい原因は まだはっきりとわかっていません。

現在、原因として考えられているものをいくつかご紹介します。

  • 遺伝子の変化との関係
    臍帯ヘルニアの赤ちゃんのうち10~40%に、 ダウン症候群などの染色体の変化がみられます。 このことから、遺伝子の何らかの変化が、 病気の発症に関係している可能性が指摘されています。
  • お母さんの体の状態
    妊娠中のお母さんの健康状態も、影響する可能性があります。 臍帯ヘルニアと似た、お腹の壁に穴が開く「胃軸症」という病気があります。 この病気について、多くの研究結果を分析した信頼性の高い報告があります。
    その報告によると、妊娠の前後や妊娠中にお母さんが 尿路感染症にかかった場合、赤ちゃんがこの病気になるリスクが 約1.5倍高くなることが示されています。
    このことから、妊娠を考える女性が感染症を予防し、 かかった場合は早めに治療することが大切だといえるでしょう。
  • その他の要因
    お母さんの喫煙やアルコール摂取なども、 リスクを高める可能性が考えられています。 しかし、これらと臍帯ヘルニアとの直接の関係は、 まだはっきりと証明されてはいません。

このように、原因は一つではなく、いくつかの要因が 複雑にからみあって起こると考えられています。

臍帯ヘルニアの症状

臍帯ヘルニアの赤ちゃんは、おへその部分に特徴的な見た目があります。 本来はお腹の中に収まっている腸や肝臓といった臓器が、 半透明のうすい膜に包まれて、外に飛び出した状態で生まれてきます。

飛び出している臓器は、赤ちゃんによって種類や量が異なります。 臓器が体の外にあるため、赤ちゃんには次のようなリスクが伴います。

  • 低体温と脱水
    体の外に出た臓器の表面からは、水分がどんどん逃げてしまいます。 そのため、体の中の水分が不足し(脱水)、体温も奪われやすくなります。
  • 感染症のリスク
    臓器を包むうすい膜は、とてもデリケートで破れやすいです。 もし膜が破れると、細菌が直接臓器に入り込み、 重い感染症を起こす危険性が高まります。
  • 呼吸の問題
    たくさんの臓器が外に出ていると、お腹の中のスペースが小さくなります。 その結果、肺が十分に大きく成長できず、 呼吸が苦しくなってしまうことがあります。

特に、臍帯ヘルニアは他の病気を一緒に持っていることが少なくありません。 中でも「新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)」という、 呼吸がとても苦しくなる重い病気を合併することがあります。

ある研究報告によると、このPPHNの治療でECMOという 特別な機械(心臓と肺の働きを助ける装置)が必要になった 赤ちゃんのデータを分析したところ、亡くなってしまったグループでは 臍帯ヘルニアを合併している割合が高かったことが示されています。

このことからも、臍帯ヘルニアは臓器が外に出ているという見た目だけでなく、 赤ちゃんの命に関わる呼吸の問題を引き起こす可能性がある、 注意深い管理が必要な病気であることがわかります。

臍帯ヘルニアの検査・診断

臍帯ヘルニアは、ほとんどの場合、赤ちゃんがお母さんのお腹にいる間に、「胎児超音波検査(エコー検査)」によって見つかります。

妊娠11週から14週という比較的早い時期に行われる検査で、その多くが発見されます。 複数の研究結果をまとめて分析した信頼性の高い報告があります。 その報告によると、この時期の超音波検査で臍帯ヘルニアが見つかる確率は、約95%と非常に高いことがわかっています。

また、この検査は精度が高く、健康な赤ちゃんを間違って「病気かもしれない」と診断してしまう可能性は1%未満です。 ただし、正確な診断のためには、決められた手順に沿って丁寧に観察することがとても重要であることも示されています。

もし、お腹の中にいる間に診断がつかなかった場合でも、生まれてきた赤ちゃんのへその緒を見れば、すぐに診断がつきます。

診断がついた後は、他の病気を合併していないかを確認します。 そして、赤ちゃんにとって安全な治療計画を立てるために、さらに詳しい検査を行うことがあります。

【診断後に行うことがある検査の例】

  • 詳しい超音波検査
  • 心臓や腎臓といった、他の大切な臓器の形に異常がないかを、より詳しく調べます。
  • 血液検査や羊水検査
  • 体の設計図ともいえる染色体の数や形に、何か変化がないかを調べます。

これらの検査結果を総合的にみて、赤ちゃん一人ひとりの状態に合わせた、最も良い治療の方針を慎重に考えていきます。

臍帯ヘルニアの治療

臍帯ヘルニアの治療は、手術が基本となります。 お腹の外に出てしまった臓器を優しく中に戻し、 開いているお腹の壁をしっかりと閉じるのが目的です。

赤ちゃんの体への負担をできるだけ軽くするため、 生まれてからすぐ、状態が安定し次第行われます。 手術の方法は、主に次の3つから選ばれます。

赤ちゃんのヘルニアの大きさや全身の状態をみて、 最も安全な方法を慎重に選択します。

手術の種類

どのようなときに行うか

どんな手術か

一期的修復術

(1回で終わる手術)

ヘルニアの穴が小さく、出ている臓器が少ない場合。

1回の手術で臓器をお腹に戻し、お腹の壁を閉じます。

多期的修復術

(何回かにわける手術)

ヘルニアの穴が大きく、肝臓など多くの臓器が出ている場合。

特殊な袋で臓器を保護し、1~2週間かけて少しずつお腹に戻します。その後、壁を閉じます。

保存的療法

(手術を待つ治療)

赤ちゃんの状態が不安定ですぐに手術ができない場合。または、ヘルニアが非常に大きい場合。

特殊なシートなどで臓器を保護します。赤ちゃんの成長を待ち、安全に手術できる時期に行います。

多くの臓器が出ている場合に1回で手術をしないのは、 赤ちゃんの小さなお腹に無理に臓器を戻すと、 お腹の中の圧力が高くなりすぎるためです。 すると、呼吸が苦しくなるなどの危険があるのです。

また、医療の世界では、さらに良い治療法を探す研究も進んでいます。 お腹の外に出た臓器は、時に傷ついたりねじれたりして、 状態が悪化(複雑化)することがあります。

なぜこのような「複雑化」が起こるのか、その仕組みを解明するため、 ヒツジの赤ちゃんを使った研究などが行われています。 ある研究では、複雑な状態を人工的に作る方法も検討されました。 こうした基礎的な研究は、非常に重要です。

いつ、どのように複雑化するかがわかれば、 将来、お腹の中にいるうちから治療を始める、 「胎児治療」という新しい道が開けるかもしれません。 どの治療法を選ぶかは、赤ちゃんの未来を考え、 医師が丁寧に見極めますので、よく相談しましょう。