腸管癒着症
お腹の痛みや便秘、原因不明の不調に悩まされていませんか?もし過去にお腹の手術を受けた経験があるなら、その原因の一つに「腸管癒着症」が隠れているかもしれません。
腸管癒着症とは、お腹の中で臓器同士が線維性の膜でくっついてしまう状態を指し、その多くは手術後の炎症がきっかけで起こると考えられています。実際、子宮の手術後には約16~17%もの割合で新たな癒着が見られるなど、外科的処置が癒着を引き起こしやすいことが研究でも示されています。
無症状で経過することもあれば、重症化すると激しい腹痛や便秘、吐き気、さらには緊急治療が必要な腸閉塞に至ることも。この記事では、腸管癒着症の概要から原因、具体的な症状、そして治療法までを詳しく解説します。あなたの不調の原因を理解し、適切なケアを考えるための一歩として、ぜひ最後までお読みください。
腸管癒着症の概要
お腹の中の臓器は、それぞれがスムーズに動けるように適切な距離を保っています。しかし、時に腸と腸、または腸と他の臓器、お腹の内壁がくっついてしまうことがあります。このような状態が「腸管癒着症(ちょうかんゆちゃくしょう)」です。本来、自由に動くべき臓器の動きが、線維性の膜によって妨げられてしまうのです。
この癒着の主な原因は、過去にお腹の手術を受けたことです。手術によって組織が傷つき、その傷が治る過程で炎症が起きると、隣り合う組織同士が線維性の組織でつながってしまうのです。私たち医師も、手術後の癒着が患者さんの生活に大きな影響を与える可能性があるため、常に細心の注意を払っています。
実際に、子宮の手術を例にとると、初期妊娠喪失後の妊娠産物除去手術後には約17%、子宮筋腫切除手術後には約16%の割合で、新たな癒着(子宮内癒着症)が発生することが研究で示されています。これらの数値は、外科的な処置がいかに癒着を引き起こしやすいかを示しており、腸管癒着症も例外ではありません。手術の種類によっては、このような癒着がかなりの割合で生じ得ることが分かっています。
さらに、癒着の予防策も非常に重要視されています。例えば、子宮手術の際に「アジュバント」と呼ばれるゲル状の薬剤を使うことで、癒着のリスクを約30〜55%減らせる可能性が報告されています。これは、腸管癒着症においても、手術時に何らかの予防的な対策が有効である可能性を示唆しています。私たちは、このような研究結果を参考に、日々の診療で患者さんの負担を減らす努力を続けています。
癒着の程度や場所によっては、特に症状が出ないこともあります。しかし、癒着がひどくなると腸の動きが悪くなり、お腹の痛みや便秘、吐き気などが現れることがあります。特に注意が必要なのは、腸が完全にふさがってしまう「腸閉塞(ちょうへいそく)」です。この状態になると、緊急で治療が必要になりますので、過去にお腹の手術を受けたことがある方で、お腹の不調が続く場合は、ぜひ医療機関を受診してください。
腸管癒着症の種類
お腹の中で腸がくっついてしまう「腸管癒着症」には、大きく分けて二つの種類があります。私たちは、患者さんの体の状態を理解するため、この違いを把握することが大切だと考えています。
一つ目は
・生まれつきの癒着(先天性癒着)
・赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる時に
・腸がうまく成長しないことで起こることがあります
二つ目は
・生まれた後に起こる癒着(後天性癒着)
・こちらが圧倒的に多く見られます
・後天性の癒着の多くは「お腹の手術の後」にできるものです
手術が原因の癒着(術後癒着)
過去にお腹の手術を受けた方は、癒着が起こる可能性があります。手術によってお腹の中の組織が傷つくと、その傷が治る過程で炎症が起きます。この炎症が原因で、本来は自由に動くべき腸と腸が、線維の膜でつながってしまうことがあるのです。
例えば、子宮の手術を例に見てみましょう。
・子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)を取り除く手術の後には
・約16%の方に新たな癒着が起こることが研究で分かっています
お腹の中の臓器は、手術によって傷つきやすい場所です。そのため、腸管癒着症も例外ではありません。私たち医師は、手術後に癒着が患者さんの生活に大きな影響を与えないよう、常に細心の注意を払っています。
手術以外の原因で起こる癒着
手術以外でも、腸管癒着症は起こることがあります。お腹の中で炎症が起こる病気がきっかけとなるケースです。
・虫垂炎(ちゅうすいえん)
・いわゆる「盲腸」と呼ばれます
・憩室炎(けいしつえん)
・腸の壁にできる小さな袋の炎症です
・女性の場合には子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)
・これらのお腹の病気による炎症が原因になることがあります
また、交通事故などによるお腹の大きなケガの後や、がんの治療で放射線治療を受けた後に癒着ができることもあります。
癒着を予防するための取り組み
私たちは、患者さんが手術後の生活を快適に送れるよう、癒着が起こるのをできるだけ防ぐために、さまざまな方法を試しています。
・手術の際に特別なゲル状の薬剤(アジュバントと呼びます)を使うことがあります
・この薬剤を使うことで癒着のリスクを約30%から55%ほど減らせる可能性が報告されています
・これは子宮の手術などでも、癒着の予防に効果があることが示されている予防策です
このような医療現場での継続的な努力によって、患者さんの体への負担を少しでも減らすよう努めています。過去にお腹の手術を受けた方は、お腹の不調を感じた際に、私たち医療従事者にご相談ください。
腸管癒着症の原因
お腹の中の臓器は、普段はそれぞれが自由に動いています。
しかし、何かのきっかけで隣り合う臓器や壁とくっついてしまうのが「腸管癒着症」です。
では、なぜこのような状態が起こってしまうのでしょうか。
私たちは、患者さんの体の中で何が起きているのかを、一つずつ丁寧に見ていきましょう。
最も大きな原因は、これまでに受けたお腹の手術です。
手術の時には、私たち医師が患部を見るために、お腹を切り開いたり、カメラを入れる小さな穴を開けたりします。
この時、お腹の中の組織が直接空気に触れたり、手術器具によってわずかに傷ついたりすることがあります。
すると、体は傷を治そうとして反応を起こします。
この治る過程で、炎症という体の防御反応が起こり、その炎症が原因で、本来はバラバラに動いているべき腸どうしや、腸と他のお腹の臓器がくっつきやすくなるのです。
この仕組みは、子宮の手術で子宮の内側に癒着が起こる場合と、基本的な部分は同じだと考えられています。
つまり、外科的な処置によって組織が傷つくことが、癒着の主な原因となるのです。
どんな手術の後にも、癒着が起こる可能性はあります。
例えば、虫垂炎(ちゅうすいえん)の手術や、胆のうの手術、女性であれば帝王切開などの経験がある方は、特に注意が必要です。
手術でできた傷が治る際に、お腹の中で薄い線維の膜ができて、それが原因で腸がくっついてしまうことがあります。
この「傷が治る過程での炎症」が、腸管癒着症の大きな引き金となることを、私たちは日々診療の中で実感しています。
手術の経験がなくても、お腹の中で炎症が起こる病気も、腸管癒着症の原因になります。
例えば、次のような病気が挙げられます。
・虫垂炎
・一般的に「盲腸」と呼ばれる病気です
・憩室炎(けいしつえん)
・腸の壁にできる小さな袋が炎症を起こす病気です
・腹膜炎(ふくまくえん)
・お腹の中の膜が炎症を起こす病気です
・子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)
・女性に特有の病気で、子宮以外の場所で子宮内膜のような組織が炎症を起こします
これらの病気によってお腹の中で炎症が起こると、組織が傷つき、その傷が治る過程で癒着が生じることがあります。
炎症が長く続いたり、範囲が広かったりすると、より癒着が起こりやすくなります。
ごくまれなケースですが、お腹に強い衝撃を受けるなどの大きなケガ(外傷)も、腸管癒着症の原因となることがあります。
また、がんの治療で行う放射線治療も、お腹の中の組織に影響を与え、癒着を引き起こす原因となる場合があります。
これらの原因を理解することは、腸管癒着症を予防したり、もしお腹の不調を感じた時に「もしかしたら」と考えるきっかけになったりします。
私たちは、皆さんが安心して日常生活を送れるよう、この病気について詳しく知っていただくことが大切だと考えています。
腸管癒着症の症状
お腹の中で腸がくっついてしまう「腸管癒着症」は、体の中でさまざまな不調を引き起こすことがあります。
私たち医師も、この病気の症状が人によって大きく異なることを日々実感しています。
「もしかして自分も?」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。
症状が出ないこともあります
腸管癒着症は、体の内側で静かに進むことがあります。
特に病気の初期や、癒着がまだ軽い場合は、特別な症状をほとんど感じないことも少なくありません。
ご自身では気づかないうちに、お腹の中で癒着が進んでいる可能性もあるのです。
例えば、同じ「お腹の中の癒着」でも、女性の子宮の内側に癒着が起きた場合を考えてみましょう。
・無症状で経過することがあります
・月経(生理)の量が減ったり、月経がなくなったりすることがあります
・赤ちゃんができにくくなる不妊の原因となることもあります
さらに、この子宮内癒着症が進むと、将来の妊娠や出産に深刻な影響を与えることも報告されています。
・早産(赤ちゃんが早く生まれてしまうこと)のリスクが高まることがあります
・分娩時(赤ちゃんが生まれる時)の出血が多くなることにもつながることが報告されています
腸管癒着症も、体の表面からは見えない部分で起こるため、ご自身で初期に気づくのは難しいことが多いです。
癒着が進んだ場合の具体的な症状
しかし、癒着が進んだり、腸の動きが悪くなったりすると、以下のような具体的な症状が現れることがあります。
これらの症状は、皆さんの日常生活に大きな影響を与える可能性があります。
・お腹の痛み(腹痛)
・鈍い痛みが続いたり、急に「キューッ」と締め付けられるような激しい痛みが起こったりします
・食後に痛みが強くなることもよくあります
・腸が癒着している部分で、食べ物の通りが悪くなることで痛みが生じるためです
・お腹が張る感じ(腹部膨満感)
・お腹の中にガスがたまって、まるで風船のようにパンパンに張って苦しく感じることがあります
・本来ならスムーズに動くはずの腸の動きが妨げられるため、ガスがたまりやすくなります
・吐き気や嘔吐
・食べ物や消化液が腸の中でうまく流れないために、吐き気を感じたり、実際に食べたものを吐いてしまったりすることがあります
・これは腸が完全にふさがってしまう「腸閉塞(ちょうへいそく)」の一歩手前の状態でも起こりえます
・便秘
・癒着によって腸の通り道が狭くなったり、動きが悪くなったりすると、便が滞りやすくなります
・ひどい便秘が長く続くこともあり、排便が困難になることがあります
・おならが出にくい、お腹がゴロゴロ鳴る
・腸の中でガスがうまく排出されず、お腹の中でガスが移動する音が聞こえたり、おならが出にくくなったりします
・これは腸の動きが妨げられているサインの一つです
これらの症状は、胃腸炎や一般的な便秘など、他の身近な病気と間違われやすい特徴があります。
そのため、自己判断せずに、お腹の不調が続いたり、いつもと違う強い症状が出たりした場合は、早めに医療機関を受診してください。
私たち医師は、皆さんの体の状態を詳しく調べ、適切な診断とアドバイスを提供いたします。
腸管癒着症の検査・診断
お腹の中で腸がくっついてしまう「腸管癒着症」は、体の内側で静かに進むことがあります。特に病気の初期や、癒着がまだ軽い場合は、特別な症状をほとんど感じないことも少なくありません。ご自身では気づかないうちに、お腹の中で癒着が進んでいる可能性もあるのです。
例えば、女性の子宮の手術の後にも、同じように癒着が起こることがあります。この子宮の癒着も、症状が出ないまま進むことがあるのです。そのため、腸の癒着も、見つけるのが少し難しい病気と言えます。私たち医師は、皆さんの体の中で何が起こっているのかを、さまざまな方法で探っていきます。
診察室での確認
まず、診察室で皆さんとお話しすることから始まります。
・問診
・これまでに、お腹の手術を受けたことがあるかをお聞きします
・お腹の痛みや便秘など、気になる症状がないか詳しく伺います
・身体診察
・お腹を優しく触って、痛みがないか、どこが張っているかなどを確認します
これらの情報が、診断の大きなヒントになります。特に過去の手術歴は、癒着症のリスクを考える上でとても大切な情報です。
お腹の中を「見る」検査
次に、目には見えないお腹の中を詳しく見ていくための検査を行います。まるで写真のように撮影して、体の状態を確認するイメージです。
・X線(レントゲン)検査
・お腹全体を一枚の写真のように写し取ります
・腸にガスがたまっていないか、食べ物の通り道が詰まっていないかなどを確認します
・CT検査
・コンピューターを使って、体の中を輪切りにしたような詳しい画像をたくさん撮る検査です
・腸がどこで、どのくらいくっついているのかを立体的に見ることができます
・炎症があるかどうかも、この検査でよく分かります
・超音波(エコー)検査
・体に負担が少ない、音波を使った検査です
・お腹の上から機械を当てて、腸の動きや、余分な水がたまっていないかを確認します
・MRI検査
・強力な磁石の力を使って、さらに詳しくお腹の中の状態を見る検査です
・CT検査と同じように、癒着の範囲や他の病気がないかを確認するのに役立ちます
これらの検査結果は、一つだけでなく、全体を組み合わせて判断することが大切です。様々な情報を組み合わせて、全体像を明らかにするのです。
さらに詳しく見る検査(腹腔鏡検査)
もし、上記のような検査をしても診断が難しいと感じた場合や、同時に治療も行う必要があると判断された場合。
・腹腔鏡検査
・お腹に小さな穴を開けて、カメラ(内視鏡)を入れて直接お腹の中を見る検査です
・この検査は、癒着の場所や状態をはっきりと確認できるため、最も正確な方法の一つと言えます
・必要であれば、その場で癒着をはがす治療も同時に行うことができます
腸管癒着症の診断は、患者さんのこれまでの体のこと、お話しいただいた症状、そしてたくさんの検査の結果を、私たち医師が一つ一つ丁寧に確認し、総合的に判断して行います。もし、過去にお腹の手術を受けたことがあり、お腹の調子が気になる場合は、遠慮なくクリニックに相談してくださいね。早めに相談することで、安心して日常生活を送るための一歩につながります。
腸管癒着症の治療
お腹の中で腸がくっついてしまう腸管癒着症の治療は、症状の重さによって大きく二つの方法があります。私たち医師は、患者さんの体の状態を詳しく見て、どの治療が一番良いかを一緒に考えていきます。
1. お薬や食事で腸を休ませる治療(保存的治療)
お腹の痛みがまだ軽かったり、腸の詰まりがあまりひどくない場合は、まず手術ではない方法で症状を和らげます。この治療は「保存的治療」と呼ばれ、腸に負担をかけないようにすることが大切です。
・点滴
・体に必要な水分や栄養を直接補給します
・体の回復を助ける大切な方法です
・食事の制限
・腸に負担がかからないように、一時的に食事をお休みすることもあります
・固形物を避け、流動食から始めることもあります
・お薬
・腸の動きを助けるお薬を使うこともあります
・お腹の痛みや吐き気を抑える薬を使うこともあります
この治療は、腸をゆっくり休ませて、自然に症状が落ち着くのを待つ方法です。多くの患者さんが、この方法で元気を取り戻し、日常生活に戻れるようになります。
2. 手術で癒着をはがす治療
もし、お腹の痛みがだんだんひどくなったり、腸が完全に詰まってしまったりして、お薬や食事の治療だけでは良くならない場合は、手術が必要になることがあります。
手術では、お腹の中でくっついてしまった腸を、私たち医師が慎重にはがしていきます。これは「剥離術(はくりじゅつ)」と呼ばれています。この手術によって、腸がスムーズに動けるようになり、食べ物の通り道も良くなります。
しかし、手術には一つ大切な注意点があります。
・再癒着のリスク
・残念ながら、癒着をはがす手術をした後でも、また新しく癒着ができてしまうことがあります
・ある研究では、手術で癒着をはがしても、約35%の方に再び癒着が起こることが報告されています
・この数字は、私たち医師も常に意識している課題です
そこで、再癒着を防ぐために、私たちはさまざまな工夫をしています。
・癒着防止材
・手術のときに、特別なシートやゲル状の薬を使うことがあります
・これは、腸同士が再びくっついてしまうのを防ぐための大切な材料です
・例えば、女性の子宮の手術でゲル状の薬剤を使うと、癒着が起こるリスクを約30%から55%減らせる可能性が報告されています
・腸管癒着症の手術でも、このような工夫を取り入れることで再癒着のリスクを減らすよう努めています
私たち医師は、患者さんの体の負担をできるだけ減らし、安心して毎日を過ごせるように、最適な治療法を一緒に探していきます。お腹の不調を感じたら、一人で悩まずに、いつでもご相談ください。










