肺結核

肺結核は「昔の病気」――。そんなイメージをお持ちではないでしょうか。しかし、日本では今なお毎年約1万人が新たに発症し、1,400人以上が命を落としている、決して過去のものではない感染症です。

さらに最近の研究では、激しい咳などの自覚症状がないまま、静かに進行するケースも少なくないことがわかってきました。「ただの長引く風邪だろう」と見過ごしているうちに、知らず知らず病状が悪化している可能性も否定できません。

この記事では、現代における肺結核の意外な実態から、最新の検査・治療法まで詳しく解説します。自分や大切な人を守るための正しい知識を、ぜひここで手に入れてください。

肺結核の概要

肺結核は、「結核菌」という細菌が体の中に入り込み、主に肺の中で増えて炎症などを起こす感染症です。

かつては「国民病」と呼ばれ、多くの人が命を落としました。しかし現在では、効果的な薬が開発されています。そのため、きちんと治療すれば治る病気になりました。

ですが、「昔の病気」と油断してはいけません。今でも注意が必要な、日本の主要な感染症の一つです。

  • 日本の現状
  • 新しい患者さんの数:毎年 約10,000人
  • 亡くなる方の数:毎年 1,400人以上
  • 世界の現状
  • エイズやマラリアと並ぶ「世界の3大感染症」の一つです。

肺結核と聞くと、激しい咳や熱を想像するかもしれません。しかし最近の研究では、咳が出ないなど症状がほとんどないまま、静かに進行するケースもあるとわかってきました。知らないうちに病気が進んでしまうこともあるため、注意が必要です。

また、結核菌は肺だけでなく他の場所でも病気を起こします。リンパ節や骨、腎臓などに起こるものは「肺外結核」と呼ばれています。

肺結核の種類

肺結核は、症状のあらわれ方によって、主に2つのタイプに分けられます。 病気の進み方や周りの人へうつしてしまう可能性が違うため、それぞれの特徴を知っておくことが大切です。

活動性肺結核

一般的に「結核」と聞いて、多くの人が想像するタイプです。 咳やたん、微熱といった風邪に似た症状がはっきりとあらわれます。 体の中で結核菌が活発に増えているため、周りの人に感染させてしまう可能性があります。

潜在性(せんざいせい)肺結核

最近の研究で注目されているのが、この「潜在性肺結核」です。 咳などの自覚症状がほとんどないか、あっても非常に軽いのが特徴です。

症状がないため自分では病気に気づきにくく、健康診断のレントゲン検査でも異常が見つかりにくいことがあります。 しかし、研究によると結核と診断される人のかなりの割合を、この症状の軽いタイプが占めていることがわかってきました。

症状がはっきりしている肺結核に比べ、治療の成功率が高い傾向にあることも報告されています。

種類

主な特徴

活動性肺結核

・咳、たん、発熱などの症状がはっきりとあらわれる。

・他の人に感染させてしまう可能性がある。

・比較的ご自身で気づきやすい。

潜在性肺結核

・咳などの自覚症状がほとんどないか、非常に軽い。

・自分では気づきにくく、レントゲンでも異常が見つかりにくいことがある。

・治療による成功率が高い傾向にある。

肺結核の原因

肺結核の直接の原因は、「結核菌」という細菌です。 この目には見えない小さな菌が、どのように体の中に入り、病気を引き起こすのかを解説します。

結核を発症した人の咳やくしゃみには、結核菌が含まれています。 この菌を含んだ細かいしぶきが空気中を漂い、周りの人が吸い込むことで感染します。 これを「空気感染」と呼び、主な感染経路となっています。

ただし、結核菌を吸い込んでも、すぐに病気になるわけではありません。 多くの場合、体の免疫機能が菌の活動を抑え込み、眠ったような状態で体内に留まります。 これを「潜在性結核」といい、咳などの症状はほとんどありません。 最近の研究では、結核と診断される人のかなりの割合が、この症状の軽いタイプであることがわかってきました。

しかし、何らかの理由で免疫力が下がると、眠っていた結核菌が再び活動を始めます。 活動を始めた結核菌は肺の中で増殖し、炎症を引き起こします。 その結果、肺の一部が硬くなったり、肺の表面近くに小さなかたまりができたりすることがあります。

発症のリスクを高める、免疫力が低下する要因には以下のようなものがあります。

  • 加齢 年齢とともに体の抵抗力が自然と下がります。
  • 生活習慣の乱れ 栄養不足、過労、強いストレスは免疫力を低下させます。
  • 持病や治療 コントロールが不十分な糖尿病や腎不全(血液透析中の方) ステロイド剤や免疫抑制剤など、免疫の働きを抑える薬の使用
  • その他 喫煙、胃の切除、HIV感染症など

このように、肺結核は結核菌という原因菌への感染に加え、免疫力の低下という要因が重なることで発症に至ります。

肺結核の症状

肺結核のサインは、はじめはカゼの症状とよく似ています。 そのため、多くの方が「ただのカゼだろう」と見過ごしがちです。 しかし、カゼと違う大きな特徴は、症状が「2週間以上」と長く続く点にあります。

次のような症状が続く場合は、肺結…

肺結核の検査・診断

「ただのカゼだろう」と思っていても、咳やたんが2週間以上続く。 そんな時は、肺結核の可能性も考え、医療機関を受診することが大切です。 肺結核の診断は、1つの検査だけで決めるのではなく、いくつかの検査を組み合わせて総合的に判断します。

検査は、大きく分けて2つのステップで行われます。 まず「体の中に結核菌がいるか(感染)」を調べ、次に「菌が肺で悪さをしていないか(発病)」を確かめます。

1. 結核菌に「感染」しているかを調べる検査 体の中に結核菌が潜んでいるかどうかを確認します。

  • インターフェロンガンマ遊離試験(IGRA) 血液を採取して調べる検査です。 赤ちゃんの頃に打つBCGワクチン(ハンコ注射)の影響を受けないため、より正確な判定ができます。
  • ツベルクリン反応検査 腕の皮膚に薬液を注射し、48時間後の赤みや腫れの大きさで判定します。

2. 肺結核を「発病」しているかを調べる検査 感染した結核菌が、肺の中で増えて病気を起こしているかを確認します。

  • 画像検査
  • 胸部X線(レントゲン)検査 肺に結核特有の影がないかを見る、基本となる検査です。
  • 肺超音波(エコー)検査 最近の研究では、超音波を使って肺の状態を見ることもあります。 結核に特徴的な、肺の一部が硬くなった影(consolidation)などが見つかることがあり、ベッドサイドで手軽に行える検査として役立ちます。
  • 喀痰(かくたん)検査 痰(たん)の中にいる結核菌を直接見つけるための、最も確実な検査です。 痰を顕微鏡で観察したり、菌を育てたり(培養検査)、菌の遺伝子を調べたりする方法があります。

特に小さなお子さんの場合、症状がはっきりしないため診断が難しいことがあります。 そのため、咳などの症状や検査結果を総合的に評価し、治療が必要かを慎重に判断するための手順も活用されています。

肺結核の治療

肺結核と診断されても、心配しすぎる必要はありません。 現在では効果的な薬があり、きちんと治療すれば治る病気です。 治療の基本は「薬を正しく飲むこと」と「栄養をしっかり摂ること」です。

治療の中心は、抗結核薬という種類の薬を飲むことです。 一般的には3〜4種類の薬を組み合わせ、6ヶ月間ほど毎日飲み続けます。 病状によっては、治療期間が長くなることもあります。

治療で最も大切なことは、次の2つです。

  • 医師の指示通りに薬を飲む 症状が良くなっても、自己判断で薬をやめてはいけません。 体の中に生き残った菌が、薬の効かない菌(薬剤耐性結核)に変化する恐れがあります。
  • 治療を最後までやり遂げる 薬剤耐性結核になると治療はさらに難しくなります。 より多くの薬を、さらに長い期間飲む必要が出てきます。

薬と同じくらい大切なのが、十分な栄養を摂ることです。 ある研究では、治療の初めに体重が増えることが、治療の成功率を高め、死亡リスクを下げると報告されています。 特に治療開始から2ヶ月で体重が5%以上増えると、死亡リスクが大幅に下がることがわかっています。

小さなお子さんの場合、診断が難しいことがあります。 そのため、咳などの症状や検査結果を点数化する方法も開発されました。 この方法で治療が必要かを慎重に判断し、早く治療を始められるようになっています。

治療について不安なことや気になる症状があれば、いつでも医師や看護師に相談してください。